起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第149回・上手な値上げ
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
SNSが普及し人気になり始めた頃から、「バイトテロ」のニュースを見ることが増えましたよね。アルバイトが撮影した迷惑動画が拡散することで炎上し、その企業や店舗の信用にダメージを与えることです。
これをお読みの経営者の中にも、ひどい目にあったことがある人はいるかもしれません。事業を行ううえでは命取りになるものであり、何より避けたいものですよね。
しかし、もしかしたらその心配をする必要がなくなるかもしれないのです。
この1年くらいで起こり得る「ある変化」により、「バイトテロ」が起こりにくくなる、と考えられるからです。厳密にいうと、バイトテロを引き起こしている動画の世界に、大きな変化が起こり得るのです。
それでは解説します!
「法律が変わる」と思った人もいるかもしれません。しかし残念ながら、まだその兆しはないですよね。
実は、この変化についての話は、先日行われたG7広島サミット2023でも議題としてあがったことなのです。
分かりましたでしょうか?
答えは「フェイク動画」です。そう、フェイク(偽物)の動画がこれからの1年くらいでものすごく増えるといわれているのです。
記憶に新しいところだと、アメリカ国防総省の近くで爆発が起きたとする動画がネットで拡散されましたが、すぐにそれが生成AIで作られた偽物だと明らかになりましたよね。
今の時代、こうしたフェイク動画は生成AIを使えば簡単に作ることができるようになりました。しかも、かなりクオリティの高い、本物のような動画を作れます。すでにアメリカの大統領選挙でも、フェイク動画がどう選挙戦に影響するかが大きな話題になっているほどで、日本においてもすぐに同じ状況になるのは間違いありません。
そうなると、ちまたには本物なのか偽物なのか見分けがつかないような動画や写真が溢れることになるでしょう。1年もしないうちに、写真や動画を見ても平然とするような時代が来ることは、容易に想像ができるわけですね。
経営者が考えてなくてはいけない4つのこと
先日、世界的なフォトコンテストで1位となった作品が、実は生成AIが作ったものだったということがありました。
この作品を作ったのは、フェイクに対してすごく問題意識を持っている、あるプロの写真家でした。受賞後に告白したのですが、その写真家が本当にやりたかったのは、「これから我々はこういう問題について考えていかないといけない」という問題提起でした。
こうした問題は、一部の人たちだけのものではありません。AIというものが世の中をあっという間に変えてしまうのは間違いなく、それは経営者にとっても同じです。フェイク動画が増えることによる影響もその1つの現象だと捉えて、ぜひ自分ごととして考えてみてください。
例えば、経営に関しては4つの問題が考えられます。
1つ目が情報漏洩。2つ目が詐欺。3つ目が偽情報による混乱。そして4つ目が、配置転換や失業です。
よく「AIに人の仕事が奪われる」といった話がありますが、実はそれだけではないのです。例えば、「こんな商品がありますよ」とか「現在、海外で工場を建設中なんです」みたいな偽の動画や画像は簡単に作れるわけで、それを信じて取り引きを決断してしまったり、投資してしまったりすれば、大変なことになりますよね。
もしくは、誰かを蹴落とそうとして、偽の動画を社内にばらまくなんてこともやろうと思えば簡単にできるかもしれません。
そうしたことに向き合っていかなくてはいけなくなる時が来るかもしれないのです。
AIの進化で「新たな時代」に突入
生成AIで簡単に精巧なフェイク動画が作れるようになると、今は想像もできないようなことも含め、我々の周りでいろんなことが起こり得るのは間違いありません。
1つ言えるのは、AIの進化によって、そういう時代に入っていくんだということです。経営者にとっては、バイトテロは確かに厄介なものですが、それ以上のことが起こり得るとも考えられるわけで、いろいろな面で注意が必要になってくるでしょうね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「フェイク動画が急激に増える」でした。本物か偽物か分からないものが増えることで、関心が薄れるという一方で、何が本物なのかを見抜く力は間違いなく必要になるでしょう。まさしく、ものを見る目や洞察力がこれまで以上に必要になっていくのだろうな…と、つくづく思ってしまいます。
構成:志村 江