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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第149回・上手な値上げ

独立ノウハウ・お役立ち

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

ここしばらく、飲食店の値上げがニュースになっています。そんな中、ちょっと面白いのが宅配ピザ業界です。ファミリーレストランやファストフード店のような飲食店とはちょっと違い、値上げをしてもなかなか気づきにくい構造だといわれているのです。それは2つの点で構造が違うからなのですが、その2つとは何でしょうか?考えてみてください。

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

先日、車で出かけた帰りに、よく行くロードサイドのレストランに寄りました。お昼過ぎの時間帯で、以前なら10組くらいの客がいてにぎやかなはずなのに、たった1組しかおらず、お店がガラガラでした。

理由ははっきりしています。値上げです。1000円ほどで食べられたランチが、値上げに値上げを重ね、今や1400円ほどになってしまったのです。

お店からすれば、諸物価が上がっているため値上げは仕方がないことです。しかし、二度の値上げで4割も上がってしまえば、以前のような客入りは期待しにくくなります。

これはこのお店だけの話ではなく、実際にいろんなところで起こっている事実です。値上げは本当に怖いですね。

それでは解説します!

そのような状況をあちこちで見ていることもあり、経済評論家の私としては「上手な値上げ」の事例を集めることにしています。それで最近気付いたのが、宅配ピザ店の値上げがとてもうまい、ということです。

少し前に、宅配ピザ大手のピザハットが、配達料として250円の値上げを発表しました。

また、同じく大手のドミノピザは、昨年10月からサービス料を導入しています。サービス料は代金の6%ですが、上限は299円で、宅配の場合でも店頭受け取りの場合でもかかるそうです。

このサービス料はレシートなどの明細を見ればちゃんと載っていますが、おそらく多くの利用者はそれに気付いていないと思うのです。

これらは一例ですが、こうした値上げがうまくできている理由をもうちょっと踏み込んで考えてみると、宅配ピザ業界は、ユーザーがその値上げに気づきにくい構造があるといえます。商品の値上げについてはもちろんちゃんと告知はしていますが、特殊な構造により、ユーザーはその実感が湧きにくいわけですね。

1つ目が、「定価で買う人がほぼいない」ということ。

宅配ピザ店は、いつも「お得なキャンペーン」をやっていると思いませんか?その一方で、キャンペーンを気にせず選ぼうとすると、ものすごく割高になってしまうことがあります。下手したら、キャンペーン商品は他のものの半額くらいで買えるのです。

つまり、通常のメニューとキャンペーン商品の価格差がありすぎるため、ほとんどの人が割引キャンペーンやクーポン割引を活用してキャンペーンメニューを買っているのです。その結果、定価で購入する人が非常に少ないという特殊な業態となっています。

「常連客がメニューを見ないで注文する」ことの強さ

2つ目が、「基本的に1割のお客様で7割の売り上げを稼いでいる」という特殊な構造です。

これは利用者の特徴という話で、要は固定客がやたらと多いのです。ファミリーレストランやファストフード店、あるいはコンビニエンスストアといったお店は、いろいろな層の人が何度も利用することで成り立っています。しかし、宅配ピザ店はどちらかというとそうではなく、特定のヘビーユーザーの存在によって成り立つビジネスだといえるのです。

そういう人たちが、キャンペーンを見て毎回違うメニューを頼む場合が多いため、結果的にその商品がいくらなのかがよく分からなくなっているわけです。「お得だといわれているからお得だろう」というような感覚に近いかもしれません。

こうした宅配ピザ店を一言で表現するなら、「基本的に常連客しかいなくて、その常連客がメニューを見ないで注文する飲食店」といえると思います。

よく考えると、居酒屋や小料理店、一流のレストランなどでそういうお店ってありますよね。実際にそうしたお店は値上げには強い、ということがいえるでしょう。

かたや、そうでない通常の飲食店だと、メニューをながめながら「あれ、これは前よりもちょっと高くなったな」などと思いながら注文するため、どうしても値上げの印象が強くなってしまいます。そうなるとお店が苦戦するのは当たり前なのです。

値上げが上手なお店からいろんなことを学んでみよう

値上げをしないと生き残れない中、値上げをしたことで客足が減ってしまったお店はたくさんあります。残念ながら、それが今の多くの飲食店が直面している状況です。

もし値上げが成功しているお店の話を聞いたら、何で成功しているのか、その秘密をしっかり学んでみてください。そしてまずは自分のビジネスで生かしてみるといいと思います。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「定価で買う人がほぼいない」「基本的に1割のお客様で7割の売り上げを稼いでいる」の2つでした。ちなみに、最近はいろいろなデリバリーサービスも増えており、「どのサービスで、どうやって買うと最安値なのか」もよく分かりにくくなっています。どこまでが戦略なのかは正直分かりませんが、1ついえるのは、ピザを買うのも一苦労で、それでも買ってしまう固定客が業界を支えている、ということでしょうね。

構成:志村 江

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PROFILE
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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