フリーランスになったら提出する人もいる「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」(開業届)。事業を個人で行っていることを申告するための開業届は、フリーランスになったら必ず提出が必要なものなのでしょうか。開業届とはそもそもどのようなもので、どのようなときに提出が必要なのか、提出する際に持っていくべきものや提出の前後でするべきことを、まとめてお伝えしていきます。
開業届とは
一般的に開業届と呼ばれている書類の正式名称は、「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」と言います。
開業届とは、税務署に「この住所で、このような事業を始めます」と、個人事業を始めたことを知らせるための届け出です。国税庁のサイト上では、開業届はフリーランスとして事業を始めてから1ヵ月以内に提出するよう記載があります。
開業届は提出をしなくても罰則があるわけではありません。しかし、本格的にフリーランスとして活動をするのであれば、開業届を提出しておいた方が良いでしょう。
フリーランスとして事業を始めるとき以外にも、事務所を新設・複数個所に増設した際や、事業そのものを廃止する際には変更内容記載して届け出を提出しなくてはいけません。
開業届に記載する内容
開業届に記入が必要な内容は以下です。
1.開業届を提出する税務署と提出日を記入
2.納税地の住所と電話番号を記入
住所地:自宅住所。自宅兼事務所の場合に選択
居所地:日本国内に住所はないが、事業は日本で行っている場合に選択
事業所等:自宅とは別の事業所。自宅住所を納税地に選ぶことも可能
3.氏名と青年がっぷを記入
印鑑は個人のものでも、個人事業主としての屋号印でも可能
4.個人番号(マイナンバー)を記入
5.個人事業主としての業種を記入
6.個人事業主としての社名のようなものとなる屋号を記入。なければ空白でもOK
7.新しく開業する場合、開業を選択。住所や氏名は空欄でOK
※家業など、事業を引き継いだ場合は住所と氏名を記入
8.所得の種類欄に該当する事業を選択
9.実際に事業を始めた日付を記入
10.開業届と同時に「青色申告承認申請書」、「消費税に関する『課税事業者選択届出書』」を提出する場合は該当する書類を選択
11.「5.職業」の記載を基に、具体的な業務内容を記入
12.従業員を雇用する場合には給与などの支払い状況を記入
専従者:家族関係にある従業員
使用人:家族以外の従業員
13.「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出する場合は「有」を選択
14.従業員に給与を支払い始めた、または払い始める予定日
なお、フリーランスであっても、開業届を提出するタイミングで従業員の雇用が決まっている場合には、上記に加え、以下のような内容も記入しなくてはいけません。
・給与などの支払いの状況
・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出の有無
・給与支払を開始する年月日
フリーランスが開業届を提出するメリット
開業届の提出は、義務ではないものの、フリーランスが開業届を提出することに、どのようなメリットがあるのでしょうか。開業届を提出する5つのメリットをお伝えします。
1. フリーランスとしての自覚が芽生える
メリットの1つ目は、開業届を提出することで、「自分はこれからフリーランスとして事業を始める」という覚悟や自覚が芽生えます。何か節目があった方が、気が引き締まる人は、開業届を提出するのが良いかもしれません。
2. 青色申告で確定申告ができる
フリーランスになると、毎年の確定申告が必要になります。確定申告には白色申告と青色申告がありますが、青色申告をするためには開業届を提出しているのが絶対条件になります。青色申告は白色申告に比べて申請方法は複雑ではあるものの、最大65万円の節税ができるのでフリーランスとして本格的に活動するのであれば、開業届を出して青色申告をすることをおすすめします。
3. 小規模企業共済に加入できる
確定申告書か開業届を提出するなど一定の条件を満たすと小規模企業共済に加入できます。小規模企業共済に加入していたら、廃業時に給付金が受け取れるようになります。
フリーランスになると退職金というものがなくなるため、個人で事業をしている多くの人が小規模企業共済に加入しています。
4. 屋号付きの事業用銀行口座が作れるようになる
屋号付きの事業用銀行口座を作りたいのであれば、開業届の提出をしておきましょう。銀行によっては事業用口座を開設する時に開業届の控えが必要になるので、選択肢を狭めないためにも開業届は提出しておきましょう。
5. 証明書として使える
開業届は事業主であることを証明してくれます。保育園、学童保育、事務所の契約の他に融資の申し込みをする際にも証明書として使えるので、開業届を提出することをおすすめします。
フリーランスが開業届を提出するデメリット
開業届を提出する唯一のデメリットが、失業手当がもらえなくなる点です。失業保険は、月に11日以上、社員やパートとして会社や個人事業主に雇用されていた人が、定年、倒産、契約満了、自己都合で離職したときに、再就職先が決まるまでの一定期間、お金を受け取ることができる制度です。開業届を提出すると事業主になるため、失業手当の対象外になってしまいます。
1.開業届を出す際には本人確認書が必要
開業届を税務署に提出しに行く際には、なりすまし防止のために本人確認が行われます。そのため、提出時はマイナンバーカードを持っていきましょう。
マイナンバーカードは個人番号と身元確認ができるので、それだけで本人確認ができます。マイナンバーカードを持っていない場合には、マイナンバーの記載がある住民票などの書類と運転免許証もしくはパスポートなど別の身元が確認できる書類の用意が必要になります。
「番号制度に係る税務署への申請書等の提出に当たってのお願い」(国税庁)
2.開業届とは別に都道府県にも開業の申告が必要
フリーランスとして事業を開始する際には、開業届とは別に都道府県税事務所にも事業開始の旨を申告しなくてはいけません。
東京都では「事業開始(廃止)等申告書(個人事業税)」、大阪府では「事業開始・変更・廃止申告書(個人事業税)」と、各自治体によって名称が異なるので注意しましょう。申告書類の様式、提出窓口、提出期限などの確認事項については各自治体のWebサイトまたは窓口にて確認してみてください。
【東京都の場合】
「事業を始めたとき・廃止したとき」(東京都主税局)
【大阪府の場合】
「個人の事業開始等の申告[開業、変更、廃止]」(大阪府)
フリーランスが開業届提出後にするべきこととは
フリーランスが開業届を提出する前後にやるべきことは、どのようなものがあるのでしょうか。忘れずに手続きをしておきたいことを3つ紹介します。
国民健康保険への加入
元々、会社員だったけれどフリーランスになるという場合には、勤め先で加入していた健康保険から別の保険へ加入し直す必要があります。健康保険については3つの選択肢からどのような保険に切り替えるのかを決められます。
1. 国民健康保険への加入
2. 会社の健康保険を任意継続
3. 国民健康保険組合への加入
原則として、国民健康保険は退職日の翌日から14日以内に加入手続きを行わなくてはいけません。その際、離職票、身分証明書、マイナンバー、印鑑が必要になるので、準備してお住まいの市区町村の役所にて手続きしてください。このとき、あわせて国民年金への加入もしておくのがおすすめです。
扶養家族がいる場合には、勤め先の健康保険を任意継続するのがおすすめです。任意継続をするためには退職後20日以内に手続きを行わなければいけないので、各保険会社に条件や手続き方法を確認しておきましょう。
同種の事業・業務の従事者により組織されている国民健康保険組合というものあります。国民健康保険組合の保険は収入に関わらず保険料が定額です。
どの保険に加入する場合でも、フリーランスは身体を壊しては仕事にならないので、早めの手続きをしましょう。
国民年金への加入
会社員の場合には厚生年金に加入でき、退職の際に会社側が脱退手続きをします。フリーランスになると厚生年金ではなく、国民年金に加入する必要があります。会社を退職したら退職証明書を持ってお住まいの市区町村の役所へ行き、加入手続きを行いましょう。
フリーランスは会社員と比べて、老後に受け取れる年金額が大幅に少なくなります。年金に頼らずに生活するためにも、早くから将来の資産設計をしておくことをおすすめします。
資金繰りと資金調達
行う事業によっては、まとまった資金が必要な場合もあります。資金調達の方法はさまざまですが、特におすすめなのが日本政策金融公庫の新創業融資制度の活用です。
日本政策金融公庫の新創業融資制度は不動産のような担保となるものが不要であり、さらには金利も銀行などに比べると低めに設定されています。利用用途の自由度も高いので、資金調達をどこでするか迷っている方は一度チェックしてみても良いかもしれません。
フリーランスになると、資金管理もすべて自分でしなくてはいけません。売り上げがいつどうなるかわからないため、いざというときのために資金繰りは常にしておくべきでしょう。
フリーランスになったらまずは開業届を出そう
フリーランスとして事業を開始する際、提出しておくとさまざまなメリットが得られる開業届。提出は法律上、義務付けられてはいないものの、失業手当を受け取れない以外にデメリットはないので、提出しておいて損はないでしょう。
開業届以外にも国民年金の手続きなど、やるべきことは沢山あるので忘れず手続きするようにしましょう。
ちはる