起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第126回・怒る株主
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
今回のクイズのような万引きによる被害は、どんな商売でも死活問題ですよね。実際の店舗を持って商売をしていたら、その対策は欠かせないでしょう。
「プロ野球チップス」はおまけのカードほしさに買う人が多く、そのカードだけ取られてしまったら、お店としてもダメージは相当に大きいはずです。
しかし、ちょっとした発想でこの被害を劇的に減らすことに成功したというのが今回のお話です。
それでは解説します!
かつて、「プロ野球チップス」のおまけのカードは、商品レイアウトをじゃましないようにパッケージの後ろ側にのり付けされていました。よって、スーパーなどで陳列されていると、カードがちゃんと付いているかどうかがパッと見で分かりにくかったのです。
そうなると、カードを破り取って商品をそのまま棚に戻しても、カードがなくなっていることは一見分からないわけです。
そこで考えたのが、カードをパッケージの「表面」にのり付けするという方法です。それによって、カードが破り取られていると逆に目立つようになります。実に簡単なことではありますが、この対策は思った以上の効果を発揮し、被害が大幅に減ったのだそうです。
確かに万引き犯の心理を考えても、表面の目立つ部分に付いているものは手を出しづらいのかもしれませんね。
ちなみに聞いた話だと、対策を考えるにあたっては、カードをパッケージにのり付けせずに「レジで渡す」方法も検討されたのだそうです。しかし、それだと販売店側のオペレーションを変えなくてはなりませんし、非常に面倒です。渡し忘れたりすればクレームになる可能性だってあります。
だからこそ、付ける位置をちょっと変えるという簡単な方法だけで全てを解決したこの事例は、着眼点を鍛えるという意味ではもってこいの話かもしれませんね。
「見られている」という心理が働けば犯罪は減る
さて、防犯という話の流れで、1つ面白い話があります。
中国では国内に監視カメラが2000万台ほど置かれているといわれており、しかも中国当局はその全てのカメラの画像にAIを搭載した顔認識システムを連動させ、全画像をチェックしているとアナウンスしているのです。
日本でも監視カメラはいろんな場所に設置されていますが、実際にそこで撮られている画像がどうチェックされているかは、防犯上の理由から明らかにされていません。
しかし、中国では当局がチェックして画像解析まで行っていると発表されているわけです。その結果、びっくりすることに、中国では殺人事件を含む凶悪犯罪の数が先進国並みの数字にまで減ったのだそうです。
確かに「誰かに見られている」と思うと犯罪は減るのでしょう。こうした監視社会がいいか悪いかの議論は、実際のところ、世界中でなされています。反対派も賛成派も両方にいろんな人たちがいて、いろんな考えがありますが、1つの結論として共有されているのは、「とはいえ、この流れは止められないよね」ということなんだとか。監視社会の流れはどうやっても加速することを、多くの人が納得しているわけです。
確かに、最近は車にドライブレコーダーを設置するのは当たり前になりつつあります。あれも社会にとっては1つの「目」ですよね。実際、ドライブレコーダーの普及により、あおり運転も飲酒運転も減少傾向にあります。
抑止効果という点でいえば、お店に「目を書いたポスター」を貼っただけで万引きが減ったという事例もあります。中国のようにカメラをたくさん設置してチェックしなくても、「見られている」という心理が働くだけで犯罪は減るわけですね。そして、実際はそっちの方がコストがかからないため、誰でもできる方法としては非常に賢いやり方かもしれませんね。
ちょっとしたひらめきで被害をなくすことができる
今回は、防犯というテーマで、ちょっとした発想で被害をなくすことができる事例を紹介しました。コストをかけなくてもできる方法がありそうですから、実際の被害を減らすためにも、できることを考えてみるといいかもしれませんね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「おまけのカードを袋の正面につけた」でした。ちなみに、愛知県の常滑署が署員の似顔絵を使い、見た人の方向に目が動く万引き防止ポスターを製作したそうです。これもなかなかインパクトのある面白い発想ですね。
構成:志村 江