起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第91回・お客さんを途切れさせない工夫
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
私は経営戦略コンサルタントであり経済評論家ですが、同時に中小企業の社長でもあります。
2000年に自分の会社を立ち上げて以来、コンサルタントという職種柄もあって、いろいろな消耗品の購入コストについては厳しくチェックしてきました。いかに無駄を省くかを徹底してきたのです。
それでは解説します!
例えば、多くの会社は社名ロゴ入りの封筒や便箋を業者に発注して用意するものですが、当社は創業時から廃止していました。
中に入れるレターを印刷するように、プリンターの機能を使って、必要な時に無地の封筒に印刷すればいいからです。
社名や住所が入ったハンコを用意しておく方法もありますが、印刷した方がきれいに出せます。しかも仕事をするうえでプリンターは間違いなく必要なものですから、その中にある機能を使えば余計なコストもかかりません。
年賀状も10年ほど前に廃止しています。それまでは、年に1回の貴重なマーケティングの機会だからと、広告宣伝費のつもりでしっかり投資していたのです。しかし、12月の忙しい時期に一枚一枚に手書きで一言を添えるコストは結構なものであり、社員共々その時間をコンサルティングに使った方が効率がいいと考えて、思い切って廃止したのです。
紙のもの以外だと、携帯電話やスマホの料金にはものすごく注意を払っており、少しでも安いプランが出たら効率を落とさない範囲でプラン変更しています。最近だと、楽天モバイルが出たタイミングで真っ先に申し込み、今では主力で使用しています。
その他、細かいことまで気にして、どちらかというと楽しみながらいろいろな削減に取り組んでいる私ですが、最近、見落としに気づいて愕然としてしまったものがあります。
それは「名刺」です。
気がついたらどんどん安くなっている
名刺については、創業当時からずっと100枚4000円程度で同じ業者に発注していました。
しかし、数年前に業者側から2000円ほどに割引の打診があり、「安くなってよかったな」と思っていました。でもなんでこんなに安くなったのだろうと思い調べてみると、何のことはない、ただ単純に相場が安くなっていただけでした。
それに気づいてからはいろいろと調べるようにし、もっと安いところはあるでしょうが、現在では100枚1300円ほどで発注しています。思わぬかたちでコスト削減ができ、名刺がこんなに安いのだと気づくことができたわけです。
最近事業を始めた人からしたら、「そんな当たり前のことを、なんで今さらいっているのか」と思うかもしれませんね。
物を選ばなければ、100枚あたり1000円を切る価格で発注できるのは当たり前ですし、そこに対して4000円も払う必要など全くないでしょう。
しかも、以前はカラーや両面で印刷しようとすると値段が倍近くなるのが当たり前でしたが、今はそうでもなく、値段に差があったとしてもほんの数百円程度。いってみれば、名刺はそれほどコストをかけずに済むものになっているわけです。
だからこそ、私のように10年以上前に起業した人にとっては、意外と落とし穴かもしれません。
というのも、名刺というものはそもそも「リピート発注」するものであり、あまり考えずに同じところに同じものを発注しやすいのです。頻度の割に、購入のたびに細かく値段を見直す人は少ないでしょう。
そんな思い込みの中にこそ、実はコスト削減の芽があるということかもしれません。
「当たり前」と思っている部分にこそ新たな発見がある
今回は、私の失敗談(ちょっと大げさでしょうか)から思わぬ経費削減ができるかもしれないという話をしてみました。
世の中では数年前から「紙を廃止してデジタルに」という流れがあるため、その文脈で考えることは多いと思います。一方で、毎月当たり前のように払っているものの中にも、意外と見直せるものがあると思います。新年を迎えた今のタイミングで、一度見直してみると新たな発見があるかもしれませんね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「名刺」でした。月換算で数百円と、大した額の削減ではありませんが、長く事業を続けるうえでは、こうした積み重ねが非常に大事になってきます。一緒に頑張りましょう!
構成:志村 江