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ひとつの仕事だけで1位を獲らなくてもいい。原作者に訊く『いきのこれ! 社畜ちゃん』ができるまで

ひとつの仕事だけで1位を獲らなくてもいい。原作者に訊く『いきのこれ! 社畜ちゃん』ができるまで

マンガや音楽などといったクリエイティブの発信は、今やSNSや動画サイトを通じて盛んに行われています。

中には本業として仕事をしながらも、クリエイターとして活動して人気を博している方も多くいらっしゃいます。

『いきのこれ! 社畜ちゃん』の原作者、ビタワンさんもそのうちの1人です。

同作は、ちょっとブラックな会社で働くプログラマ・『社畜ちゃん』の毎日を描いた4コママンガ。Twitterでの連載が人気を博して書籍化され、クラウドファンディングによってさらにコンテンツが展開されています。

そんな人気マンガ家のビタワンさんですが、実は自身もプログラマとしてお仕事をされています。今回のインタビューではオリジナルキャラクター『社畜ちゃん』が生まれた経緯や、2つのキャリアを同時に歩むに至った彼の行動力に迫りました。

表紙画像:社畜ちゃんBlogより
https://syachiku-chan.com/?page_id=228

プロフィール:ビタワン

大学時代より同人誌を書きはじめる。東方ProjectのZUNに憧れてゲーム等のプログラミングを学び、プログラマとしてIT系の会社に就職。一度転職を経験した後、フリーランスとして独立。

会社員プログラマとしてアプリを開発する傍ら、創作活動も行う。オリジナルキャラクター『社畜ちゃん』を生み出し、作画を担当する「結うき。」とともに『社畜ちゃん』マンガをTwitterで連載。ネット上で話題となり、KADOKAWAから書籍化の話が舞い込む。

コミック『いきのこれ! 社畜ちゃん』発売後もTwitter連載を継続。マストドンやクラウドファンディングを開始し、『社畜ちゃん』ファンとともに、働く人を元気にするコンテンツ制作に取り組んでいる。

仕事の息抜きとしての”マンガ家”。原作者が語る『社畜ちゃん』のルーツ

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——現在、ビタワンさんはプログラマとして働きながら、一方ではマンガ家として『社畜ちゃん』マンガの原作を担当されています。どんな経緯で2足のわらじを履くようになったのでしょうか?

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ビタワンさん
元々マンガが好きで、大学時代に同人誌を書いたりして、コミケにも出していました。とはいえ趣味程度のものだったので、特に「マンガ家になってやる!」みたいな感じではなく、大学卒業後は普通に就職しました。

社会人になってプログラマとして働く傍ら、仕事の息抜きに『社畜ちゃん』というキャラクターを作って、社畜ネタのツイートを始めてみたんです。

そのうちに大学時代から付き合いのある「結うき。」さんに作画をお願いして、マンガを連載するようになった、という形です。

だから最初は「リツイートが増えたら楽しいな」というテンションだったのですが、投稿を重ねるうちにおかげさまで話題になっていって、気づいたらKADOKAWAから書籍化のお誘いが来るまでに至りました。

オファーが来たときは「このKADOKAWAは偽物じゃないか?」と疑ったくらいですからね(笑)。

——それは本当に驚きだったと思います。新卒でプログラマになったとのことですが、もともとはなぜその道に進もうと思ったのでしょうか?

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ビタワンさん
東方Project(同人サークルの上海アリス幻樂団によって製作されている著作物)のZUNさんの影響でゲームプログラミングに憧れていました。新卒でプログラマになれたらと思い、就活をして晴れてプログラマになったのですが、最初の会社の仕事が想像以上にきつかったんです。

ちなみに『社畜ちゃん』のネタの多くは、私の新卒時代の経験を反映しています(笑)。

その後、転職をして別の会社に移ったんですが、今度はずっと同じようなシステムばかりを作り続ける、といった業務内容で……。

私自身が新しいもの好きなこともあるのですが、流れの速いIT業界で、最新技術とは無縁な環境にいることに焦りみたいなものを感じていました。

そんな中でとにかくおもしろいことや新しいことをやってみたい、という気持ちがわいてきて。私はプログラミングが好きなので、その仕事だけができる環境を求めて独立をしようと決めました。

——会社員からフリーランスに移行した、というわけですね。

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ビタワンさん
はい。フリーランス向けのエージェントにアプリ開発の会社を紹介してもらって、業務委託としてジョインしたのですが、その会社がとても居心地よくて、今現在もお世話になっています。

フリーランスといってもその会社の仕事がメインなので、あまりフリーランスという自覚はないんですけどね(笑)。プログラミング専門のアルバイトみたいな感じです。

基本的にその会社で働いていますが、フリーランスの業務委託なので社員よりは自由が利きます。それで、余暇を使ってマンガを描いています。

プログラマ×マンガ家の相乗効果。ふたつのプロジェクトを同時にこなすことのメリット

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画像:社畜ちゃん in ENTYより
https://enty.jp/syckchan?widget_src=true&widget_eid=325

——ビタワンさんにとってマンガは趣味に近いものなのですね。ですが、人気になってマンガ家とプログラマの立場が逆転するということはないのでしょうか?

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ビタワンさん
元々マンガは趣味として始めたものなので、あくまで本業はプログラマです。

Twitterでたまに「印税結構もらってるんでしょ?」みたいなことを聞かれるんですが、私は原作者であり作画を担当しているわけではないので、もらえるお金は微々たるものなんですよ(笑)。

私の中では、マンガは副業というより“娯楽”です。好きだから始めたことだし、楽しいから続けられるんです。

——ビタワンさんの場合、プログラマの仕事とマンガ家としての活動とできっちり役割が分かれているんですね。

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ビタワンさん
はい。マンガの活動ばかりが表に出がちなんですが、先程も言ったように私としては、プログラマは学生時代から目指していた目標なんです。

会社員を辞めてフリーランスになったので、自分で自由に案件を選んで仕事に参加できます。

プログラマにしてもマンガにしても行き当たりばったりで「やりたいことだけをやっていたら結果としてこうなった」という感じだと思います。

だからこそフリーランスという働き方は、プログラマとマンガ家を両立させるのに適した環境だなと思います。

——素敵な働き方だと思います。ビタワンさんの中で、プログラマとマンガ家の役割はそれぞれ明確に分けられているとのことでしたが、逆に2つのプロジェクトを同時に進めることのメリットはありますか?

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ビタワンさん
ありますね。まさに『社畜ちゃん』はプログラマの日常やあるあるを描いている作品ですし(笑)。また、マンガ原作者でITの知識がある人はそう多くありません。だからプログラマとして働いていることがマンガ家としてのアドバンテージになっていると思います。

本業の仕事でも、普通に個人でアプリを公開しただけではダウンロード数を伸ばすのは難しいです。ですが『社畜ちゃん』のキャラクターを使ってアプリやゲームを作ると、マンガを知っている人が喜んでくれてダウンロード数が伸びるんです。

本業の経験をマンガに活かしたり、マンガのキャラを本業に持ち込んだり。そういったプログラマとマンガ家で相乗効果が生まれているんですよね。

私はプログラマとしても、マンガ家としても三流以下です。だからこそできることがあると思っています。

——2つのプロジェクトが、まったく新しい価値を生み出しているんですね。

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ビタワンさん
はい。同時に2つのプロジェクトを進めるのは大変じゃないか、と言われることがありますが、やっている側としては楽なんですよ。

言ってしまえば、ひとつの仕事で1位になる必要がないので。

1本の仕事で勝負する自信がない人は、こうした働き方が向いているのかもしれないですね。実際私はどちらも自信がなく、プログラムかマンガのどちらか1本で勝負していたら、絶対負けていたと思うので。

——ビタワンさんのやりたいことやってしまう、その行動力は本当にすごいです。

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ビタワンさん
新しもの好きで興味のあるものはやってみたくなる、ただの“やりたがり”なんですよ。

勝手に自腹で『社畜ちゃん』のMMDモデル(『MikuMikuDance』の略で、3DCGムービー製作ツール)を作ってみたり、クラウドファンディングやマストドン(ミニブログ)を始めてみたり。

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ビタワンさん
幸い、KADOKAWAの担当編集者からは、「ビタワンさんのセルフプロデュースは、もはや個人メディアミックスですね」と言ってもらえているらしいですけど。

私の活動動機は基本的には「おもしろいことをいろいろやってみたい」というだけなんですが、いろいろなことをやってみたからこそ、こうして今を楽しく生きていけるのかなと思いますね。

普通にプログラマの仕事だけやっていたら、KADOKAWAのビルに出入りしたり、自分の本が書店に積まれているのを見ることもなかったわけですから。

つらいはずの現実が、楽しい物語に。『社畜ちゃん』に込めた想い

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——『社畜ちゃん』では、“ブラック企業”や“社畜”といった、何かとネガティブな話題にされやすいワードが多用されている一方で、作風はむしろ明るくて、キャラクターもかわいいですよね。その辺りは何か意識されているのでしょうか?

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ビタワンさん
こういうタイトルからか、『社畜ちゃん』に対してかなりネガティブな印象を受けていらっしゃる方も多いかと思います。でも作品自体はあるあるネタでくすっと笑えるような、明るい内容にしています。

その理由は、『社畜ちゃん』1巻のあとがきにも書きましたが、私が夏海公司さんのライトノベル『なれる!SE』という作品に影響を受けているからなんです。

『なれる!SE』は『社畜ちゃん』と同じくIT業界の話で、私自身仕事がキツかったときにこの作品に出合いました。

私が今、味わっているつらい現実が、作品の中では物語としてちゃんとエンターテイメントになっていたんです。そこに感銘を覚えたんですよね。

現実はつらいはずなのに、物語になった瞬間に気分が軽くなった。そんな経験をしたんです。

——その経験が、明るい『社畜ちゃん』のキャラクター作りにも表れているということですね。

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ビタワンさん
はい。私も『社畜ちゃん』を作るとき、誰かの救いになればと思って書き始めました。

よく言われることですが、鬱などになってしまう人は、のめり込みすぎて周りが見えなくなっている場合があります。“会社”という組織に居すぎて、その世界観に染まりきってしまう。

そういう状況を創作を通してメタ的に見ると、視界が広がるのではないかと思うんです。以前の私のように。だから、『社畜ちゃん』の内容は明るく笑えるような内容にしています。

——ビタワンさんならではの作風ですね。

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ビタワンさん
よく『社畜ちゃん』に対して「必死に働いている人を嘲笑しているのでは?」という意見をもらうこともあるのですが、そんなつもりはまったくありません。

むしろその逆で「読んでくれた人を応援したい。癒したい。少しでも心が軽くなれば」と思って『社畜ちゃん』のお話を作っています。

実際に「『社畜ちゃん』を読んで元気が出ました!」という感想をもらえると、本当に嬉しいですね。

——今後、『社畜ちゃん』はどんな進化を遂げていくのでしょうか?

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ビタワンさん
元々会社員向けに書いているつもりでしたが、最近では学生や就活生にもたくさん読んでもらえているみたいで、この作品からSEやIT業界に興味を持ってくれる人もいるそうです。

最初は私の楽しみとして始めたことですが、たくさんの人に読んでもらえるようになって、書いていて本当に良かったと感じています。

『社畜ちゃん』が今後どうなっていくか、そして『社畜ちゃん』の連載が終わった後の自分の行く先がどうなっていくのか、今はわかりません。

ですが、私と「結うき。」さんが作るものを読みたいという人がいるのであれば、もっともっと書いていきたいと思っています。

取材・文=内藤 祐介

■コミックス①~②巻発売中!
書名:いきのこれ! 社畜ちゃん①~②
原作:ビタワン 作画:結うき。
判型:B6判
定価:各本体570円+税
発行:株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス
レーベル:電撃コミックスNEXT
コミックス情報はこちら:http://dc.dengeki.com/newreleases/978-4-04-865907-9/
■デジタルコミック@vitamin(アット ビタミン)で連載中!
媒体名:@vitamin (アット ビタミン)
配信媒体:ComicWalker、ニコニコ静画、pixivコミック 
更新日:毎月「3」がつく、3日・13日・23日頃  
価格:無料
公式サイト:http://dc.dengeki.com/vitamin/
公式Twitter:@vitamin_amw

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