誰かの困り事を解決する、それがビジネスの基本です。
「誰の」「どんな」困り事を解決するのかが、事業を考える上では必要不可欠です。
しかしいざ、誰のどんな困り事を解決するのかを考えると、途端に難しく捉えてしまう……そんな方も少なくないのではないでしょうか?
そういう時は「誰か」ではなく「私」の困り事で考えてみる、というのも1つの手段と言えます。そう語るのは、今回お話を伺ったジヴェルニーエプロンの代表・勝田亜純さん。
勝田さんは子育て中「もっとスタイリッシュでおしゃれなエプロンが欲しい」と思い、作ってみたことから、現在の事業を立ち上げました。
今回はそんな勝田さんの展開する事業とともに、独立に役立つヒントについてお話を伺いました。
勝田亜純さん
ウィンフィールド合同会社 ジヴェルニーエプロン 代表
実家は、岡山県でデニム生地などを取り扱う会社を営む。
イギリスの大学院を卒業した後、大手商社に入社。
その後アパレルメーカーを経て、実家の会社に勤務。
結婚出産の後、2011年にジヴェルニーエプロンを創業する。
私が求めて自作した「スタイリッシュなエプロン」に需要があった。勝田さんが独立した理由
――ジヴェルニーエプロンを運営する勝田さん。まずは現在の事業ついて、教えてください。

エプロンの企画、販売を行っています。
上質な素材、美しいパターンやディテール、色にこだわり「洋服のように選べるエプロン」をコンセプトとした、大人の女性のためのエプロンブランドです。
流通は、ネットショップでの販売を中心としていますが、百貨店のポップアップショップなどオフラインでの販売も一部させていただいております。
――おっしゃる通り、とても素敵なデザインのエプロンばかりですね。なぜ勝田さんはジヴェルニーエプロンを立ち上げようと思ったのでしょうか?

きっかけは、こどもができてからですね。
子育てをする上で、エプロンが必要だなと思って調べてみたのですが、正直あまり自分の中でしっくりくるデザインがなかったんです。
とはいえエプロンがないと不便なので、仕方なく選んだエプロンをつけていたある日、夫から「今日はお母さんの日なんだね」と言われたことがありました。
夫は悪気があって、そう言ったわけではないことは百も承知なのですが……。
なんというか「エプロンが人に抱かせる印象」というものを実感してしまったんです。
――要するに、ステレオタイプ的な“お母さん”のイメージと言いますか、良くも悪くも家庭的な印象を与えてしまう、ということですよね?

まぁそんなところですね。
もちろんお母さんであることは事実ですし、別にそこに違和感はありません。
ただエプロンをつけただけで、自分の属性を「お母さん」と決めつけられてしまうような、そんな人からの印象の変化に、なんだかモヤモヤしてしまって。

そこでもっとスタイリッシュでおしゃれなエプロンを作ろう、と思い立ち、自分で作ってみたことが最初のきっかけでした。
その後、そんな話を妹にする機会があったんです。すると妹から「友達にあげたいから、お姉ちゃんまたエプロン作ってよ」と言われて。
その時にふと、私と同じように「もっとスタイリッシュでおしゃれなエプロンが欲しい」という人がいるんじゃないかと思いました。
――自作のエプロンから始まった事業だったと。

はい。加えて、同時期に「そろそろ社会復帰しようかな」と考え始めていたんです。
実は出産までは普通に会社員として働いていました。商社に就職した後、アパレルメーカーに転職しました。その会社を退職後、父親が岡山で経営しているデニム生地の会社に転職して働いていたんです。
いずれの仕事も国内外問わず、移動が多かったこともあり、子育てしながらの両立は難しそうだなと思っていて。
一方でエプロンを作ってオンラインで販売する、という事業なら、家にいてこどもの面倒を見ながらできるなと思い、一念発起して立ち上げました。
2011年のことでした。
毎日使うからこそ、おしゃれで素敵なものを。勝田さんが目指す、エプロンの価値向上
――創業以来12年、個人事業として(※)ジヴェルニーエプロンを運営されてきたんですね。法人化をされることは考えなかったのでしょうか?

そうですね。なるべく1人でできる範囲の事業に留めようと思ってきました。
理由は2つあります。
1つは、あくまで子育てが第一という意識があったので、片手間と見られても仕方のないうちは、自分のできる範囲で仕事をしようと思っていたんです。
もう1つは、実家の影響ですね。デニムの企画会社をしていたので、会社を作って人を増やして……となると規模が大きくなる分、やはり大変そうだなと父を見ていて思っていました(笑)。
ですが、こどももある程度大きくなってきたことや、ここ最近で自分の心境の変化もあり、実はこれから法人化をする予定なんですよ。
※取材は2023年8月に実施。2023年9月から法人化し、ウィンフィールド合同会社を設立。
――心境の変化というと?

もっとエプロンの価値向上に向けて頑張ろう、という使命感が強くなってきたんです。
使っていただくと分かる通り、エプロンってとても機能的なんですよ。だからこそ廃れることなくずっと使われてきたのですが、それ故にデザインがどうしても二の次にされてしまってきました。
「もっとスタイリッシュなエプロンが欲しい」という私の個人的な感情から始まったのがジヴェルニーエプロンの事業でしたが、客観的に見ても、エプロンってデザインを含め、まだまだ進化の余地を残していると思うんです。
毎日使うからこそ、おしゃれで素敵なものを使いたいと思う。
そう思った12年前の自分の気持ちは間違っていなかったですし、実際製品を手に取ってくださった方から「こういうおしゃれなエプロンがなかったので、ありがたいです」というお声を数多くいただいてきました。
背筋が伸びる思いになりますし、もっと頑張らなきゃなと。そこで法人化をしようとあらためて覚悟を決めたんです。
「誰か」の困り事にピンとこないなら、「私」の困り事に焦点を当ててみる。小さな起業のススメ
――勝田さんのお話を伺っていると、「こうだったらいいのに」「こんな商品(サービス)があったらいいな」という思いは、事業を作る上でとても大切なことだなと思いました。

そうですね。事業のヒントは、意外と身近にあったりするんですよね。
お話ししてきたとおりですが、私は別に特別大きな事業を作りたかったわけでもなくて。
ただ「もっとスタイリッシュなエプロンがあったらいいのに」と思っていたことと、子育てをしながら仕事がしたいなと思っていたこと、この2つが重なって生まれたのがジヴェルニーエプロンでした。
もちろん、父の経営する前職の会社をはじめとする仕事での経歴が、事業の役に立ったことはありますが「起業をするために会社員をしていた」というわけでは決してありません。
あくまで自分が漠然と思っていたこと(願望)を叶えるために、1番良さそうな方法が独立だったんです。
――最後に読者の方へメッセージをお願いします。

転職にしても独立にしても、特に何がしたいか決まっていない方は、自分の身近で「こうだったらいいのに」と思えるものから拾っていくと、事業に発展できることがあるんじゃないかなと思います。
ビジネスの本質は、困っている誰かの問題解決です。
ポイントは、自分の身の回りから小さく始めてみることでしょうか。思い起こせば、私も自分のエプロンを作った後、妹の友人のエプロンを作ったことが事業のスタートでした。
困っている「誰か」がいきなり最初からピンとこないのなら、その「誰か」を「私」に置き換えてしまってもいいんじゃないかと思います。
「私」の困り事を解決することが、意外と他の「誰か」の困り事を解決することにもつながったりするものですからね。ぜひ皆さん自身の困り事に、目を向けてみてください。
取材・文・撮影=内藤 祐介