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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第147回・鉄道計画の是非

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第147回・鉄道計画の是非

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

ある会合に呼ばれ、未来の沖縄について議論する機会がありました。沖縄では渋滞が大きな問題となっており、それによって生産性が阻害されているというのです。そこで私は「沖縄にはもっと鉄道があってもいいのではないか」と意見したところ、その鉄道案については現地のシンクタンクの人に見事に論破されてしまいました。この時に、沖縄に限った話ではなく、今後のあらゆる鉄道計画が無駄になるかもしれないと考えさせられたのですが、さて、私を論破した人の説とはどういうものでしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

先日、未来の沖縄を考えるための会合で意見交換をしてきました。そこで私は「沖縄にはもっと鉄道が必要ではないか」と意見をしたのです。

沖縄といえば、那覇空港から首里城のある首里駅までを結んでいる沖縄都市モノレール、通称「ゆいレール」が有名ですが、それ以外に鉄道は走っていません。そのため、例えば美ら海水族館などの市街地から少し離れた場所に行こうと思うと、どうしても車が必要になってしまいます。

そんな沖縄も、かつては「ケービン」と呼ばれる鉄道が走っていました。しかしそれも沖縄戦による空襲によって被害を受け、戦後は道路整備を優先する方針で進めたことから、鉄道は復旧されませんでした。

ゆいレールが非常に便利なだけに、延伸させることも含めて新たな鉄道網があってもいいのではないかと思ったのですが、最終的には見事に論破されてしまいました。

それでは解説します!

2022年には、小池百合子東京都知事が都心部と臨海副都心をつなぐ「臨海地下鉄」を2040年までに新設する構想を発表しました。

直近では、今年3月に東急新横浜線が開業し、東京都心部と神奈川県央部および横浜市西部が直結。都心へのアクセスが便利になったのはいうまでもなく、都心とつながった相鉄線沿線の土地の価格も大きく上がったそうです。

新線や新駅の開業は、人々の生活とも直結する重要なことで間違いありません。

しかし、私も言われてからあらためてそうだなと思ったのですが、鉄道計画というのは時間もお金もエネルギーもものすごくかかります。となると、実現する数十年後に世界がどうなっているのかを考えたうえで決断していかないといけないわけです。

私が論破された一番のポイントが、「鉄道ができる頃にはロボタクシーが公共交通機関になっている」ということでした。確かにそうかもしれません。

そもそもの成り立ちとして、鉄道というものは道路が平らではなかった時代に、きれいに舗装するよりも鉄(レール)を通した方がコストを抑えられるだろうということで始まっています。だから本来は鉄道の方がコストはかからないはずなのです。

ところがその後、これは日本に限った話ではないのですが、税金が投入されて道路が次々に整備されていくと、道路を使って輸送業や運送業を始めた方がコストがかからなくなっていきました。つまり、鉄道にコストをかけるよりも、道路の上での輸送・運送を考えた方が、税金の部分にタダ乗りできる分だけコスト優位性が高いわけです。

ところが、時間の問題や大量輸送などを考えていくと、どうしても鉄道の方が有利であり、公共交通機関としては鉄道に重点が置かれていった…というのが現状だと考えられます。

ただし、それはあくまで自動車による輸送が不便な状況にあるからです。例えば、自動運転が当たり前になったり、AIによって信号が切り替わるようになったりして渋滞が極限まで減るような「次世代のトランスポーテーション」が進むことで、この先はどんどん便利になっていくのは間違いありません。

そのうえ、ロボタクシーのような運転弱者でも簡単に移動できるツールが整備されれば、鉄道は「過去の遺物」になってしまうと考えられなくもないのです。

30年後、私たちはどんなふうに暮らしているのか想像してみる

とはいっても、時間軸の話は無視できません。ロボタクシーの実現にはもう少し時間がかかりそうなので、2040年くらいまでに開業するような新しい鉄道計画は当然ながら意味を持つでしょう。

また、リニア中央新幹線や整備新幹線のような「車よりも遠くに行くようなもの」も優位性は残ります。

一方で、都市部のような地権者がいるところで膨大なお金やエネルギーをかけ、2070年に向けて開業させる」みたいな計画は、どうしても無駄になる可能性が高いと言わざるを得ません。

現在ある地下鉄などの輸送網は、使い続ける方が便利に決まっていますから、当然残るでしょう。今は交通の便が悪い空白地域であっても、ロボタクシーができれば最寄り駅まで気軽に行くことができます。場所によっては、電車を使わずにロボタクシーで直接、目的地まで移動するようになるかもしれません。

先々を想像してみると、我々の生活はそういうものに変わっていくはずです。空白地帯だから鉄道を通せば便利になると考えるのは、これからはさすがに限界だといっていいのかもしれませんね。

投資しようとしているものは未来にも通用するものか?

今の我々にとって大事なことは、「時代は変わる」ということをちゃんと意識することです。鉄道のように数十年先のものを計画する人たちはもちろんですが、未来の世界がどうなっているのかをちゃんとイメージできなければ、今の判断が間違ったものになってしまう可能性があるということです。

ロボタクシーは、なかなか実用化しなかったこともあり、今までは夢のものだと思われていました。しかし、自動運転の実現が進んでいく中、ロボタクシーの実現可能性は同等に高くなっていて、それができることで我々の生活は今と変わっていくはずです。

時代は変わることを意識したうえで、自分が投資しようとしているものが未来にも通用するものなのかをしっかり考えてみてください。それがビジネスプランであれば、なおさらです。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「いずれ、ロボタクシーが公共交通機関になるから」でした。ちなみに、その会合では、沖縄を自動車特区のようにして、AIを駆使しながら渋滞をなくして便利な街にするといった話も出ました。海外でも既にそういう事例があるので、実現したら面白いかもしれませんね。


PROFILE
プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

構成:志村 江

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