独立・起業をする際に、よく検討されるのが法人化について。
個人事業主として開業するのか、はたまた会社を設立して法人として事業を行っていくか、迷う人も多いのではないでしょうか。
今回、やさしいお金の専門家・横川楓先生に伺ったテーマは、法人化を検討するべきタイミングについて。
個人か法人か。選ぶ基準はズバリ「事業の規模感」にあると語る横川さん。今回は法人化のメリットと注意点を踏まえつつ、そう語る理由について伺いました。
横川楓さん
やさしいお金の専門家・金融教育活動家
一般社団法人日本金融教育推進協会 代表理事
明治大学法学部卒、その後同大学院へ進学。
24歳で経営学修士(MBA)を取得。
実家は会計事務所を経営。
同年代の友人たちのお金に対する意識と、将来の資産形成、所得格差、年金問題、増税など、これからの日本を担う世代に振りかかるさまざまなお金の問題との乖離に疑問を持ち、お金の知識の啓蒙活動を開始。
ファイナンシャルプランナー(AFP)や、SDGs検定、マネーマネジメント検定等の資格を取得し、2022年1月に一般社団法人日本金融教育推進協会を設立。
同法人の代表理事を務める。
横川さんのインタビュー記事はこちらから!
「収入=給与」に縛られない。経済評論家・横川楓さんに聞く、独立・起業に必要な2つの条件
庵(いおり)
イラストレーター
都内に住む27歳のフリーランスイラストレーター。
学生時代から絵を描くことが好きで、数年前から副業としてイラストレーターの仕事を受けるようになった。
近年は副業での収入が本業の稼ぎより多くなったことから、満を辞して独立を決意する。
個人事業主よりも「事業規模」が大きくなる? 法人化することのメリット

横川先生、本日もよろしくお願いいたします! 最近、先輩のイラストレーターさんが株式会社を設立しました。
そこでふと思ったんですが、私や先輩のような個人のイラストレーターが法人化をして得られるメリットってなんですか?

庵ちゃん、今日もよろしくね。
法人化のメリット、これはいくつかあるから順番にお話しするね。
まず法人は、個人事業主と比べて、社会的信用度が高いと思われることが多い
個人事業主は開業届を税務署に出せば公的にも事業を始めたことになるけど、法人となるとそう簡単にはいかない。個人事業主以上に書類もたくさん書かなければならないし、設立にお金もかかる。
その分、個人事業主よりさらに公的な立場が保証されて、取引や融資を受ける時にも、法人の方が有利に働くことがあるよ。

他にはありますか?

あとよく聞くのは、消費税対策。
基本的には年間の売上が1,000万円を超えてくると、その2年後から消費税を支払わなければならないんだけど、その間に法人を設立すれば、また法人として売上が1,000万円を超えるまでは、消費税がかからない仕組み。
(※ただし2023年から施行予定のインボイス制度により、この方法でのメリットを享受できなくなる可能性が高い)
だから消費税が課税される売上になったら、法人化を検討する人も多かったんだ。
いずれにしても、法人化をする最大のメリットは、個人事業主よりも事業を大きくできるというところにあるよ。
その先輩さんも、事業を大きくしたくて、ないしは大きくなっていったから、法人化を決意したんじゃないかな?
経費にできる種類の幅が広い! ちょっとメンドくさいけど見返りも大きい法人化

そういえば、先輩は「ある会社から大きな受注があって〜」と言っていました! 法人化していないと、大きな企業と取引すらできないんですね……!

昨今では独立や副業がどんどん増えてきたから「法人じゃないと取り引きしません」という会社は、昔と比べてだいぶ減ってきている気がするけどね。
庵ちゃんのようなイラストレーターの場合だと、比較的個人事業主でも仕事がもらえやすい職業かもしれないけど、業界や業種によってもその状況は全然違ったりするんだ。
だから業界・業種によっては最初から、法人設立を考えた方がいい人もいるかもしれないよね。

先ほど横川先生は、法人は手続きが難しくてお金もかかるとおっしゃっていました。具体的に法人と個人で変わることってどんなことがあるんですか?

代表的な例を、いくつか紹介するね。
まずは設立からなんだけど、さっきも話した通り、これは全然違う。
法人を設立することを「登記」というんだけど、この登記にはたくさんの種類の書類を書かないといけないんだ。
やろうと思えば全て自分でできなくもないけど、もうすでに個人事業主として仕事をしていて忙しい人は、行政書士さんに依頼してもいいと思う。
さらに登記に必要な書類は、役場に直接出向いて、チェックを受けてOKをもらわないといけないこともあるから、どうしても手続きに時間を取られてしまうんだ。
ちなみに登記に必要なお金は25万円前後ほどだよ。

この時点で、もうすでに結構大変な感じがしますね……。

その分、得られるメリットも大きいよ。
さっきも話した通り社会的信用度は、個人事業主よりも高いし、何より経費にできるものの種類の幅が広がる(=経費にしやすい)というメリットは、とても強力。
自分(代表)や社員の給与を経費にできるのはもちろん、自分が退職した時のもらえるお金(退職金)も経費にできるんだよ。

退職金を積み立てられるんですね!

あとは決算の申告のタイミングを自由に決められることも、法人の大きなメリットの1つだね。
個人事業主だと確定申告という形で、1年分の所得税の申告を、翌年の3月15日までに行うことが一律で決められているよね。
でも法人なら、自分の事業(会社)の繁忙期じゃないタイミングだったり、好きなタイミングを決算のタイミングに設定することもできるよ。
「個人」と「法人」の間に優劣はない。自分の事業の規模感に合った方法で、独立・起業を考えよう!

逆に法人化する上で、注意した方がいいことはありますか?

社会保険への加入は、注意が必要。
1人会社でも社会保険への加入は必須だし、そのための書類とかは自分で作るか、お金を払って社労士さんにお願いしないといけないからもし法人化を考えているのなら留意しておこう。
また自分1人で、法人決算を申告するのは相当厳しいよ。
「確定申告は税理士に頼まず、自分1人でやっている」という方も、法人の決算は確定申告よりもさらに複雑で難解。税理士さんに任せられるところはお願いしてみよう。

そういう意味でも法人化するとなると「事業が大きくなってる感」がありますね。

そうだね。結局は、自分の事業をどうしたいのかという点で、法人化するかどうかを決めた方がいいのかなと、私は思うんだ。
「事業を大きくして会社を上場させたい」「有名企業との取引に法人化が必要になった」「個人で仕事が捌けなくなったから、同業の仲間に仕事を仲介したい」「想像以上に売り上げたから税金対策をしたい」など、法人化の動機は千差万別。
法人だからいいとか、個人だからダメってわけではなくて、大切なのは、その事業を通して自分が何をしたいかだと思うよ。
自分の事業の規模感に合った方法を、選んでみたらいいんじゃないのかな。

横川先生、今回もありがとうございました!
構成・文・撮影=内藤 祐介
イラスト=ram