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悩みが“解決”に向かう、その前に。清水舞子さんがお悩み共有コミュニティを運営する理由

悩みが“解決”に向かう、その前に。清水舞子さんがお悩み共有コミュニティを運営する理由

あなたは、人には言えない悩みを抱えたことはありますか?

悩みというのは家族、職場や友人といった自分を含めた「半径数メートル」の人の間で起こりうるもの。

そして悩みの“タネ”である当事者は、得てして「半径数メートル」内におり、ゆえになかなか周りに相談しづらい状況になっている、という人も多いのではないでしょうか。

今回お話を伺ったのは、清水舞子さん。

清水さんが代表を務める株式会社祭では、そんな悩みや問題を匿名で共有できるコミュニティ「いつでもおかえり」を運営しています。

「身近に言えない悩みだからこそ、オンラインで自分の思いを打ち明けて欲しい」。そして「悩みを解決に導くためには、あるステップが重要だ」と、語る清水さん。

“問題”を“解決”するための商品やサービスは数あれど、「いつでもおかえり」は自分の悩みを“打ち明ける”ことに特化したサービス。

悩みや問題が“解決”に向かう、その前に必要なこととは、一体なんでしょうか。

<プロフィール>
清水舞子さん
株式会社祭代表取締役

多摩美術大学に入学するも、金銭的な家庭の事情により中退。その後は新宿・歌舞伎町でキャバクラの店長として働く。
社会課題を解決するため、ビジネスの世界に進むことを決意。Webサイト制作やアプリ開発のスキルを独学で身につけ、フリーランスとして仕事を請け負うようになる。

2015年に株式会社祭を起業。外出自粛×家族のお悩み共有コミュニティ「いつでもおかえり」 / 継続支援プラットフォーム「ビスケット」などを運営する。

まるでスマホゲームの“ガチャ”のような、この世界の格差を是正したい。フリーランスを経て、株式会社祭を起業するまで

――まずは起業に至るまでの経緯から伺いたいのですが、もともとは水商売を経て、フリーランスだったそうですね。

清水さん
はい。私は母子家庭で育ったので、経済的に裕福とは言えない環境で幼少期を過ごしてきました。高校卒業後は美大に進学したのですが、学費が払えず中退してしまって……。

大学中退後は新宿・歌舞伎町のキャバクラで働いていました。私はそこで店長まで勤めたんですが、フリーランスとしてWeb制作の仕事に携わることになったんです。

――なぜWeb制作の仕事を?

清水さん
当時交流があった友人がWeb制作の仕事をしていたので、その影響で。中古のパソコンを買って、インターネット上にあった教材で、自分なりに勉強を始めてみました。

勉強を始めたタイミングで、キャバクラも退職して。以降はWeb制作の世界で仕事を始めたんです。

クラウドソーシングサービスの黎明期だったこともあり、そこから受注した仕事でWebサイトを作ったり、アプリを開発したり……。

もちろん最初は大変でしたが、場数を踏んだ分、だんだんと仕事ができるようになっていって。起業を決意したのは、フリーランスとして数年活動した後でしたね。

――なぜフリーランスから起業を?

清水さん
それもその友人の影響でした(笑)。友人もフリーランスから法人化して事業を行うようになって、私は1年くらいその会社の創業のお手伝いをさせてもらったんです。

創業期の会社のお手伝いを通じて、資金調達であったりゼロから事業を作っていく様子を目の当たりにしていました。

それがとても楽しかったのと同時に「自分が会社を経営するなら……」と、いろいろな想像を広げてしまって……!

何より私が大学を中退した時、まるでスマホゲームの“ガチャ”のような生まれや環境による「機会や選択肢」の格差を、少しでも是正したいと思っていたことを思い出したんです。

それなら会社を起業して、たくさんの人の役に立てるよう、より大きなスケール感を持ったビジネスを作りたいなと。そして起業を決意しました。

人は機械のようにはできていない。問題の“解決”より先に必要な、あること

――そうして生まれたのが、株式会社祭だったと。現在の事業について教えてください。

清水さん
「いつでもおかえり」というオンラインプラットフォームの運営、及びそのアプリ開発を行っています。

「いつでもおかえり」というのは、家族や会社といった自分の周りには言えない悩みを抱える人が、同じ悩みを抱える人に相談したり話し合ったりできる、オンライン上のコミュニティです。

「自助グループ(※)のオンラインバージョン」というと分かりやすいかと思います。

※アルコールやギャンブル、薬物依存、不登校、障害、セクシャルマイノリティなど、さまざまな悩みや問題、困難を抱える人が、同じような問題を抱える人と自発的につながって生まれる集団。問題の当事者同士だからこそ、共感しあえることがあるという。

――なぜ「いつでもおかえり」のようなサービスを作ろうと思ったのでしょう?

清水さん
鬱や自殺、DV、虐待、パワハラ、依存症といった、多くの社会問題。その背景には「自分の気持ちを押し殺す」ことが要因の1つなんじゃないかと思ったからです。

インターネットやSNSが発達し他者とつながりやすくなってきたとはいえ、人は良くも悪くも自分から「半径数メートル」の環境や人間関係に、大きな影響を受けます。

家族や職場の人が悩みの“タネ”(当事者)だったり、同じ悩みを抱える人が周りにいなかったり……。

すると、人は誰にも悩みを明かせず、必然的に「我慢」を強いられてしまいます。

その「我慢」が限界を迎えた時、自ら死を選んでしまうこともあれば、一転して自分が誰かの「加害者」になってしまうことだってある……。

そんな負の連鎖を断ち切るため、同じ悩みを持つ「誰か」に、自分の気持ちを打ち明けられる場所を作ろうと。それで立ち上げたのが「いつでもおかえり」だったんです。

――「問題」の「解決」を目指すサービスや商品は数多く存在しますが、「いつでもおかえり」は、悩みを“打ち明ける”ことに意味があるサービスなんですね。

清水さん
まさにその通りです。人が抱える悩みって「解決」の前に「共感」が先に来るべきだと思うんですよ。

――なぜでしょう?

清水さん
私は起業する前「機会や選択肢の創出」を軸にしていました。

私は母子家庭出身で、経済的な理由から大学で学ぶ「機会」を失い、歌舞伎町で働いていた頃も、生まれや環境、機会の不平等さによって苦しんでいる人がたくさんいた……。

ですがWeb制作の仕事を始めてからも、歌舞伎町から環境が変わっただけで、結局大なり小なり、人はそれぞれの悩みを抱えていたことに気がついたんです。

そしてその中でも特に苦しんでいたのは、誰にも相談できずに、1人でずっと悩みを抱え続けていた人でした。

人は機械のようにはできていません。だから問題を解決へ向けるためにも、まずは誰かに「共感」してもらうことが、時には必要だと。だから「共感」を軸にしたサービスを作ろうと思ったんです。

「共感」こそが、何よりの薬になることだってある。“あと一歩の勇気”が足りない人へ

――自分の思いを言葉にして打ち明けて、共感してもらう。たしかに人間にとって必要なことだと思います。

清水さん
自分の気持ちを言葉にするメリットは他にもあります。例えば、自分の中にある感情や思いを客観視できるようになること。

「ナラティブセラピー」(※)という心理療法があるように、人は自分の感情を客観視できると、ラクになれるのかもしれません。

今まではただ「辛い思い出」でしかなかった出来事も、口に出すことで悪い側面だけでないことに気がついたり、場合によっては前向きに解釈できたりもする。

そしてその人生(物語)が「いま、同じような何かで苦しんでいる誰か」の助けになったりもするんです。

自分の気持ちを外に出して客観視できると、嫌で嫌で仕方なかった過去も、自分で自分の気持ち許すことができるかもしれません。自分で自分に「共感」できるんですよね。

※これまでの自分の人生を物語のように他者へ話すことで、自分自身の人生への解釈を再構築し、問題の解決を目指す心理療法

――自分の思いを口に出すことで得られるメリットは、メンタルヘルスの問題だけにとどまらないように思います。

清水さん
そうですね。

「いつでもおかえり」では、悩みや問題といった、どちらかといえばネガティブなテーマへの「共感」を目的としたものが多いですが、本来的にはポジティブな夢や目標も、どんどん口に出した方がいいんじゃないかなって思います。

「ドリームキラー」という心理学の言葉がありますが、身近な人の「あなたには無理だよ」という何気ない一言で、可能性を潰してしまうこともあります。

しかし同じ境遇、問題、そして志を持った人には「共感」してもらえるかもしれません。

その「共感」に背中を押してもらえたり、気がついたらものすごいエネルギーになっていたりする。問題の解決以上に、人によっては「共感」こそが、何よりの薬になるかもしれませんね。

――最後に読者の方へ、メッセージをお願いします。

清水さん
独立・起業に興味がある方がこの記事をご覧になっているなら、とにかく一歩を踏み出してみるといいと思います。

もしその“一歩”がどうしても踏み出せないなら、まずは自分と同じような事業で生計立てている先輩を見つけて、話を聞いてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。

さまざまな失敗も成功も乗り越えた先輩たちは、きっと今のあなたの立場に「共感」をした上でアドバイスをくれるんじゃないかなって思います。

もちろん独立・起業を成功に導くためには、あなた自身の努力が何より不可欠です。

ですがそんな人からの「共感」や「応援」こそが、あなたの背中を押して、“あと一歩の勇気”を与えてくれるかもしれません。

取材・文・撮影=内藤 祐介

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