SDGs。
「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で、国連加盟国193カ国が2016年から2030年までの15年で達成するために掲げた、目標のことです。
貧困、飢餓、健康、福祉、ジェンダー……。こうした課題はもちろん日本も例外でなく、国が一丸となって挑まなければなりません。
そのためには民間企業の協力も不可欠ですが、こうした課題を企業が取り組むためには、人、物、金そして持続性など、さまざまな問題が立ちはだかります。
今回お話を伺ったのは、澤田真賢さん。澤田さんが代表を務めるCo-Studio株式会社では、今までにはないやり方で、こうしたSDGsに挙げられている社会課題の解決に挑んでいます。
今回は澤田さんのキャリアを振り返りつつ、こうした課題に対してどのように解決へ向けて取り組んでいるのかを伺いました。
澤田真賢さん
Co-Studio株式会社代表取締役CEO
国内の大手IT企業や損害保険会社、電気機器メーカーなどで経営企画、イノベーション事業開発などを歴任。会社全体の中長期経営戦略などを担当する。しかし「社会課題の解決」と「大企業として行うべき事業」の間に、ジレンマを感じ始める。
そして2019年にCo-Studio株式会社を立ち上げる。企業、NPO、行政等が事業提携を通じて互いの経営資源を持ち寄り、社会課題の解決につながる革新的な事業モデルの開発に取り組む。
“営利”と“非営利”の限界を超えるために。澤田さんがCo-Studioを立ち上げた理由
――現在、Co-Studio株式会社(以下、Co-Studio)の代表を務められている澤田さん。まずは起業の経緯から伺ってもよろしいでしょうか?
はい。2019年末に今の会社、Co-Studioを起業したのですが、それまではずっと会社員でした。国内大手のIT企業や損害保険会社、電気機器メーカーで働いていたんです。
いずれの会社でも、経営企画などを中心に業務を行ってきました。会社や社会のこれからを考え、未来を作っていくような仕事をしていたんです。
しかし長い会社員生活の中で、ある種の限界のようなものを感じてしまって。
――限界、ですか?
ええ。会社員としてこれからの未来を作っていく上でまず第一に考えなければならないのは「会社に利益があるかどうか」ということ。
もちろん、会社というものは商売をするところですから、利益を追求するのは当然です。
ゆえに「儲かるかどうか」という視点ばかりが、どうしても重要視されがちになってしまいます。
例えば私が保険会社に勤めていた時に、ある新規事業を計画していたことがありました。
端的に言えば、保険会社の役割とは「日頃、自社のサービス(保険)に入っていた人が事故を起こした場合、対人や対物、車などの損害を保険金として一定額お支払いいたします」というもの。
ですが本当に社会に貢献するなら「そもそも車による事故が起こらないためには、どうするべきか?」を考えた方がいいと思うんです。本来誰も、事故なんて起こしたくありませんから。
そこで私はAIを使った新しい車の安全サービスを新規事業として提案したことがあったのですが……。
――保険会社でその内容の新規事業の提案は……どうなのでしょう?
ええ、その通り反対の意見がとても多かったですね(笑)。
つまり会社の事業とは、社会のため、人のために行う側面もあるとはいえ、そもそもは「自社が儲かる」ことが大前提です。
だから保険会社が儲からない、もしくは儲かりそうもない(=サービスが無事開発されて、保険に入る人が少なくなってしまう)ことには、なかなか手が出せない。
加えて当時は僕自身、その問題に対してオーナーシップ(権限)を持って、社会課題の解決を進めることができませんでした。
――それが澤田さんの感じた、限界だったと。
はい。自社への利益を確保しながら、社会課題の解決するのは容易ではありません。
それに、社会のためにも自社の利益にもなることはもう、大抵やり尽くされてしまっています。
とはいえNPOやCSRのような非営利での活動となると、今度は持続性の担保が難しくなってしまう……。
そんな“営利”と“非営利”の限界を乗り越えて、どうにか社会課題を解決できないかと、試行錯誤の末に立ち上げたのが、Co-Studioだったんです。
儲かるかどうかではなく「意義があるかどうか」で事業を判断する。営利と非営利を超えた、Co-Studioの取り組み
――Co-Studioとは、一体どのような活動をされているのでしょう?
一言で表すと「社会課題の解決に向け、営利と非営利のいいところを組み合わせた、“ソーシャルグッド”(※)の実現」を目指しています。
ソーシャルグッドの実現に向け、活動は多岐にわたるのですが、1つ例を挙げるなら「連続起業」でしょうか。
Co-Studioでは、社会課題の解決に一歩を踏み出せるよう、出資を始め、起業のお手伝いをしています。
※地球環境や地域コミュニティなどの「社会」に対して、良いインパクトを与える活動や製品、サービスの総称のこと
――ベンチャーキャピタル(ベンチャー企業やスタートアップ企業など、高い成長が予想される未上場企業に対して出資を行う投資会社のこと。以下、VC)のような?
そうですね。資金面を始め、新しいイノベーションを起こそうとしている起業家へ、さまざまなサポートをしています。
ですがVCやコンサルタント会社とは違うのは、資金援助や経営のコンサルティングだけでなく、起業家のビジョンを実現させるべく、“私たちも一緒に”手を動かすこと。
その事業におけるビジネスのフォローはもちろん、補助金、助成金や融資、クラウドファンディングなど、その世界を実現させるために必要なお金、人、物を中心とした包括的なサポートをしています。
もう1つ。これはVCと大きく異なるのですが、お手伝いした会社の売却、もしくは株式上場だけをゴールとはしていません。
なのでたとえ出資していたとしても、経営について細かく私から指示をするようなことはありません。
Co-Studioの目的は、あくまで社会課題の解決です。
現在、法人格として「Co-Studio株式会社」というスタイルを取っていますが、実際は「社会課題を解決するためのコミュニティ・Co-Studio」に近いかもしれませんね。
――起業を支援する上で、何か大切にしていることはありますか?
先ほどもお話しした通り、Co-Studioは営利と非営利、2つの要素を組み合わせて運営しています。
本来、投資やコンサルが目的であれば「どれくらい儲かるか」を前提に話をしますが、Co-Studioでは儲けが前提ではなく、社会的な意義が第一。
言ってしまえば“損得”ではなく、“善悪”で起業を支援するかどうかを判断しています。
――しかし支援する事業が“善”だったとしても、儲けることができなければ続かないのでは……?
ええ、そうかもしれません。ですがたとえ最初は儲からなかったとしても、社会課題の解決になるような先進的な取り組みをしていれば話題になります。
そしてその取り組みの社会的意義に共感してくださる個人・法人がいらっしゃれば、そこから新たなビジネスが生まれるかもしれません。
しかし社会的意義があるのにも関わらず「儲からないから」もしくは「儲かりそうにないから」という理由だけで、可能性に蓋をしてしまうのはあまりに、もったいないことです。
少し極端な言い方になりますが、まず事業が社会的に意義があるかどうかで判断する。その上で「今のゼロイチの段階で儲かるかどうかはグレーだけれど、その事業が“善”」であるならば、走り出してしまおうというジャッジをくだすことだってあり得るわけです。
――なるほど。それが営利と非営利の限界を超える、という言葉の意味だったのですね。となると、事業を運営される方に相当な熱量がないと難しいのではないか、と思うのですが?
ええ、まさにおっしゃる通りです。
2021年3月現在(取材時)Co-Studioから生まれた会社は6社あるのですが、その全ての起業家は「事業を通して社会課題を解決したい」という強いオーナーシップ(当事者意識)を持ち合わせています。
そうした方の活動や強い思いには、必ず共感が生まれる。そして共感が生まれれば、たくさんの人が集まります。
それが応援してくださる方だったり、事業に参画してくださる方だったり。宣伝してくださる方もいれば、出資をしてくださる方もいる。
そんな共感の塊が、1つのコミュニティになり、やがては新たなイノベーションを作り出すんです。
この共感は「ただ理想を口にするだけ」だと、集めるのは難しい……。やはり声を上げて、実際に動いてみないと共感は生まれません。
営利と非営利の良いところを持ち寄り、これからの時代・人に求められる事業や会社をこれからも作っていきたいですね。
「自分がやるからこそ、価値がある」と思えるのなら――。独立・起業をする上で大切にするべき指針
――澤田さんの今後の展望を教えてください。
社会課題の解決に向けたさまざまな取り組みを、Co-Studioを通して実現させたいですね。
コロナ禍しかり、世の中の解決されていない問題って無数にあると思うんですよ。貧困、飢餓、福祉、教育、ジェンダー……。SDGsで挙げられているような問題は、この日本でも大なり小なり無数に存在します。
そういった問題の解決に向けて、オーナーシップを持って取り組める人と一緒に仕事ができたら。
その願いを叶えるためにも、まずは今ある6社をしっかりと大きくしていきたいですね。たくさんの成功例、時に失敗例があれば、将来的にはより確度の高いやり方で事業を一緒に作ることができます。
少しでもCo-Studioが、そしてCo-Studioが生み出した事業が、誰かの役に立ってくれたら。それ以上に嬉しいことはありませんね。
――最後に読者の方へメッセージをお願いします。
自分が起こす事業に対して「自分がやるからこそ、価値がある」と思えるのであれば、迷わずに一歩踏み出してみると良いんじゃないでしょうか。
「本当はこうした方がみんな幸せになるのに……」。私はそう思っていても、会社員時代にはさまざまな“しがらみ”があり、立場上諦めざるを得なかった場面が何度もありました。
営利と非営利を超えてゼロからイチを生み出すのは、決して簡単ではありません。
ですがそれ以上に、会社員時代に実現できなかったことを、今の自分や自分の仲間たちと一緒に少しずつ形にできている嬉しさは何物にも変えがたいです。
独立・起業には、そんなオーナーシップが持てるかどうかが1つの指針となりえると思います。そしてその指針こそ、辛い時でもあなたの道を照らしてくれるのではないでしょうか。
取材・文・撮影=内藤 祐介