日本の中小企業は、実子が家業を継ぐケースが大半を占めていました。しかし、近年は少子化や「職業選択の自由」が重視されるようになり、そうした風習は薄れつつあります。
その中で、後継者として事業承継の道を選んだ方は、並々ならぬ志とやる気があるかと思います。意気込みや未来への期待の一方で抱える不安やリスクなど、後継者が知っておくべきことをまとめました。
事業承継の意思を伝えるタイミング
自営業の家に生まれた子どもの場合、商売を身近に見ながら育つため、なんとなく「将来は自分が家業を継ぐのだろう」という意識を持ちながら過ごす人も少なくないでしょう。それでも学校を卒業後、そのまま家業を継ぐために親の会社に入る人、よそに修行に行く人、もしくは別の仕事に就く人と、進路はさまざまです。「いつかは継ぐのだ」という意識があっても、なかなか自分からは切り出せないということはありませんか。
親や家業、長年勤めてくれた従業員のことを考えて事業承継の意思を伝えても、「元気なうちからそんなことを言うな」「継がせるつもりはない」と断られてしまいそうで不安に思うかもしれません。
少子高齢化の中で、全国の経営者の年齢も平均60歳代へと引き上がっています。60代はまだまだ若々しい人も多いのですが、それでも事業の引き継ぎに10年近くかかることを考慮すると、後継者として今の経営者が元気なうちに色々なことを学んでおかなくてはなりません。そのため、事業承継の意思を伝えるタイミングが大切になるのです。
したがって、「家業を継ごう」という意思が固まったら、なるべく早く伝えることをおすすめします。口先では厳しいことを言われるかもしれませんが、あなたの気持ちはきっと伝わるはずです。
(参照:東京商工リサーチ「2017年 全国社長の年齢調査」 )
まずは現場で自社の基幹業務を知ろう
では、実際に家業を継ぐことが決まったら、後継者はどういう心構えでいるべきなのでしょうか。
もしかしたら、いまの経営に不満を抱いていて、事業の多角化やIT化などを推し進めて、「第二創業」を目指そうという人もいるかもしれません。しかし、「急いてはことをし損じる」とも言います。後継者に決まったからといって性急に改革を求めると反発を呼ぶことも考えられるのです。
また、後継者が入社して、いきなり高いポジションに就くのは得策ではありません。当然、後継者としての育成過程の一環で、一般社員よりは役職に就くスピードは速くなるはずです。しかし、「将来はマネジメントをするのだから」と、いきなり管理職や役員になってしまうと、中小企業の経営において大切な「現場感覚」が身に付かなくなってしまいます。
現場の基幹業務を学ぶためにも、まずは一般社員として業務に従事することが大切です。
加えて、謙虚に学ぶ姿勢をもち、その姿をみてもらうことで現場の社員たちからの心理的な反発も抑えることができます。営業、製造、技術など、会社のコアとなる部分を理解し、見極めてから事業の多角化やIT化の改革に乗り出しても遅くはありません。
外部に学びを得て「井の中の蛙」を防ぐ
後継者になったばかりの頃は、現場を知ることで精いっぱいという方も多いでしょう。しかし、自分は一生懸命やっているつもりでも、実は自社では後継者として特別待遇を受けることも多いはずです。忙しいからといって会社と自宅の往復ばかりしていると、そのうち「井の中の蛙」になってしまいます。人として、経営者としての成長を図るためにも、積極的に外部に学びの場を求めましょう。
では、どこで学びを得るか。例えば、MBAなどで経営理論を身に付けるのは素晴らしいことですが、現場を重視する中小企業の場合、経営理論ばかりを口にしていると「頭でっかちだ」「現場を無視している」などと反発を招く可能性があります。
また、地元の経営者団体や業界の経営者団体には、後継者の会や青年部があるでしょう。そうした場では、同じ立場の人たちと交流し、悩みを分かち合うことができるはずです。ただ、懇親会や飲み会で愚痴を言い合うばかりだと、悩みを分かち合うのではなく、傷のなめ合いになってしまうこともあります。愚痴や不満をこぼす人ばかりでなく、地に足をつけて行動に移している人を選んで付き合うようにすべきです。
さらに、地元の商工会などは力強いサポートが期待できる反面、コミュニティーが狭いため、悪いうわさや評判が広まるスピードが速いものです。こうした場では、あまり深刻な悩みや愚痴を大っぴらにしないほうが良いでしょう。
右腕となる「参謀」を得る
「知将」と知られた戦国武将には必ず優秀な「参謀」がいたように、優秀な経営者には右腕となる補佐役の存在がありました。例えば、ホンダの創業者、本田宗一郎氏のビジネスパートナーとして知られた藤沢武夫氏などが有名です。
経営者は孤独なものです。しかし、経営者1人で成し遂げられることは限られています。
後継者として自社に入社したとしても、古参の社員や役員に気兼ねして、なかなかリーダーシップが発揮できないということも多いでしょう。そんなときに、自分の思いや考え方、アイデアを理解してくれる年の近いブレーンがいてくれたら、どんなに心強いでしょう。
もし社内を見回してみて、補佐役候補となりそうな人材がいない場合は、外部から採用することも検討してみましょう。
事業承継に有用な税制や補助金
少子高齢化の中で、中小企業の競争力を高めるために、国も事業承継への支援を本格化させています。事業を継ぐには、思いのほかお金がかかるものです。少しでも負担を減らせるように事業承継を支援するための税制や補助金について調べておきましょう。
例えば、事業承継を機に、事業の多角化や業態の転換、事業所の集約など、経営革新を行う場合は「事業承継補助金」を受給できる可能性があります。補助額は最大200万円で、事業所の集約や廃業を伴う場合は300万円が追加されます。
事業承継の最大のネックは、相続税や贈与税などの税金とも言われます。中小企業であっても、業績が好調な優良企業は思ったよりも自社株の評価額が高く、株式の相続にかかる税金が高くなる可能性があります。
また、事業承継税制では、後継者が非上場企業の株式を相続した場合、一定の要件のもとで納税が猶予・免除されます。平成30年度税制改正では、さらに優遇の範囲が広がっており、後継者に優しい制度になっています。こうした補助金や税制の活用には、税理士や会計士、地域の公的機関や金融機関からの支援も必要になります。経営者を志すのであれば、こうした身近なエキスパートとの関係を深めることも大切になるでしょう。
(参照:事業承継税制特集/国税庁)
(参照:平成29年度補正予算「事業承継補助金(後継者承継支援型〜経営者交代タイプ〜)」の公募を開始します/中小企業庁)
目次
- 1.会社の経理を始めるために
- 2.法人の決算に必要なものまとめ
- 3.貸借対照表で会社の資産状況を把握しよう
- 4.損益計算書で会社の利益を把握しよう
- 5.法人のための税申告・納付まとめ
- 6.法人にかかる税金は9種類もある
- 7.税金を滞納したら、どんな罰則がある?
- 8.法人のための節約のコツ
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