会社員として働きながら、世界一周。
会社勤めの方からすれば、「そんなことできるわけない」と、思ってしまっても不思議ではありません。
ですが、今回お話を伺った広告代理店で働く東松寛文さんは、2016年に趣味でもある海外旅行を週末ごとに実施するという方法を取り、3カ月で世界一周を達成されました。
現在もその生活を実践し「リーマントラベラー」として、会社勤めと海外旅行を両立しています。
東松さんはなぜ、忙しい中でも頻繁に海外旅行を続けているのでしょうか。
その真意に迫ると同時に、同じ会社員の方々に向けて、働きながらやりたいことを見つける方法、仕事と好きなことを両立するコツについて、お聞きしました。
「今の仕事は辞めたくない。でも何か違うことに挑戦してみたい」。そう考えている会社員の方、必見です!
東松寛文さん
会社員/リーマントラベラー
1987年岐阜県生まれ。平日は激務の広告代理店に勤務するかたわら、週末に世界中を旅しているサラリーマン。オンラインサロン「リーマントラベル研究所」の所長も務める。
旅に目覚めた社会人3年目以降、6年間で42か国90都市に渡航(2018年5月現在)。TOEICは575点につき、海外ではもっぱらボディーランゲージ。
2016年10月〜12月は、毎週末海外旅行をし、3か月で5大陸18か国を制覇。「働きながら世界一周」を達成。同年、『地球の歩き方』から「旅のプロ8人」に選出される。
現在もサラリーマンをしながら、TVや雑誌など多数のメディアにも出演。CLASSY.など連載も多数。また、年間50回以上の講演も行う。
6月には「サラリーマン2.0 週末だけで世界一周」(河出書房新社)を刊行予定。
知らない世界をもっと知りたい! 会社で働きながら、週末で海外へ行くようになった理由
ー働きながら週末に世界旅行をするリーマントラベラーとして活動されている東松さん。現在の生活スタイルに至った経緯を教えてください。

大学卒業後、大手の広告代理店に就職しました。
そして入社後に待っていたのは、仕事に追われるとても忙しい毎日でした。
と言っても、その働き方に疑問を持っていたわけでもなく、それなりに会社員生活を楽しんではいましたが(笑)。
ーそれでは、週末に旅行へ出かける余裕なんて、なかったんじゃないですか?

全くありませんでしたね。
社会人2年目までは毎日、終電ギリギリまで働いて、電車を逃したらタクシーで帰るような多忙な日々を送っていたので。
ーでは、旅をするようになったきっかけは何だったのでしょう。

転機が訪れたのは、社会人3年目、2012年のゴールデンウィークでした。
僕は、NBA(アメリカのプロバスケットボールリーグ)を見るのが好きなんですが、その年に偶然、NBAのプレーオフのチケットを手に入れることができました。
これまであまり休みを取ってこなかったので少しためらったりもしたんですが、せっかくのチャンスだと思い、休暇を申請してアメリカへ渡りました。
ーNBAはどうでしたか?

とてもおもしろかったです。
でもNBAの試合以上に、この旅で大きな2つの気づきを得られました。
1つ目は、現地の大人たちが人生を思い切り楽しんでいるように見えたこと。
平日にも関わらず、ビーチでは大人たちがサーフィンをしたり、サイクリングをしてたり、スケボーしていたり。
NBAの試合を観に行った時も、平日なのに多くのファンが早い時間から応援しているんです。
僕にはその光景が衝撃的でした。
これまで会社員という生き方しか知らなかった僕にとって平日は、仕事に全てを捧げるものだと思っていましたから。
2つ目は、海外に不慣れな僕でも、1人で十分に海外旅行を楽しめたことです。
実は僕、英語が全然話せないんです。それでもジェスチャーや片言の英単語を使って、なんとか過ごすことができました。
アメリカにいたのは丸5日間だったんですけど、こんな短期間でも楽しくアメリカで旅をすることができた。
それで「たとえ短い休みでも、英語が話せなくても、旅行ってできるんだ」ということに気づいたんです。
と同時に、自分の中から「知らない世界をもっと見てみたい」という好奇心が湧き出てきて、もっと海外を旅行してみようと思うようになりました。
ーそれから頻繁に海外へ行くようになったんですね。

はい。
ガッツリ休みを取るんじゃなくて、3連休を利用して行ったり、週末に有給休暇を1日プラスして2泊3日で行くようにして。
翌年の2013年には、年間8回ペースで海外へ行くようになり、働きながら週末に海外へ旅行するという、リーマントラベラーとしての生活が始まったんです。
労働時間を短縮しつつ、仕事の生産性を上げる。海外に行くために実践した働き方
ーリーマントラベラーとして活動するようになって、生活スタイルは変わりましたか?

劇的に変わりましたね。
例えば仕事の生産性。
週末に旅行するためには、遅くても金曜日の夜に空港に着いてないといけないんですよ。
となると、どうしてもその時間までに仕事を終わらせる必要があります。だから金曜日までの仕事の内容について、月曜日の朝から考えて、逆算して仕事を進めていくようにしたんです。
そうすることで、効率的にタスクを消化できるようになりました。
もちろん今までも仕事は全力でやっていましたが、残業をするのが当たり前の生活だったので、自分の中でどこか「残業して仕事を片付ければいいや」という気持ちがあったんです。
でも、やりたいことをやるためには残業時間は極力削らなければならない。
そう考えると、否が応でも仕事を効率良く短時間で終わらせようと努力するので、結果的に生産性を上げることに成功しました。
ー労働時間を短くしても、これまでと同等のパフォーマンスができたんですね。

その通りです。
さらに仕事で得た時間の使い方は、海外旅行でも活きているんです。
僕が海外に行く場合、1週間から1か月といった長期間ではなく、たった3日しか時間がありません。
なので、この3日間をフルに使って最大限旅を楽しめるように考えて行動するようになりました。
短い旅行を本気で楽しむことによって「情報のインプット力」が格段に高まり、現地でたくさんの気づきが得られるようになりました。
次第に「世界で得られたものをたくさんの人に伝えたい」と思うようになり、2016年からブログを始めたんです。
それから自分の海外旅行の情報とともに、現地で得られた気づきをWebを通じて発信するようになりました。
出典:リーマントラベラー〜働きながら世界一周〜より
http://www.ryman-traveler.com/

ブログを始めてから「もっと世界各国の人の生き方を知りたい、発信したい」という気持ちが芽生え、いつしか「世界一周したい!」と思うようになったんです。
世界一周するためには会社を辞めるか、長期休暇を取得して旅に出ると考えるのが普通です。
でも僕は会社を辞めるつもりはありませんでした。とはいえ長期休暇をいただくこともできなかったので、会社員の僕でもできて、且つやりやすい方法を考えたんです。
ーどうされたのですか?

僕でも世界を一周できるよう「世界一周」の定義を自分なりに少し変えてみました。
まず、そもそも世界一周の本質は「世界をぐるっと回ること」ではなく、「世界各国を見て周ること」だと思うんですよ。
ということは「A国に行って、いったん日本に帰ってきて、次はB国に行って、また日本に帰ってきて」のサイクルを繰り返せば世界一周ができたことになるんじゃないかと思ったんです。
ーつまり、日本にいる時間を、トランジット(航空機が目的地に行く途中、給油その他のために一時他国の空港に立ち寄ること)のように扱うということですね。

まさにそんな感じです。
そのやり方で2016年の10月から12月までの間、毎週末に海外へ行きました。
平日は会社員として働きながら、3か月で合計3大陸18か国を周って「働きながら世界一周」を達成することができたんです。
また、ブログをきっかけに多くのメディアに取り上げていただくようになったので、人生は一変しましたね。
ー普通に考えたら達成することができない世界一周を、会社員でありながらもできるやり方で挑戦されたんですね。ただ、実際にやるとなるととても大変だと思うのですが、不安はなかったのでしょうか?

正直、めちゃくちゃ不安でした(笑)。
「会社員が毎週末、海外に行って世界一周の旅に出る」
これって、一般的な生活スタイルとはかけ離れた生き方だと思うんです。
いわゆる「普通の人生」を送ってきた私にとって、これは我ながら、かなりぶっ飛んだ挑戦だなと思っていました(笑)。
ー人と違うことをやるのって勇気がいりますよね。では、どのようにして不安を解消されたのですか?

世界一周を決めたのが2016年の1月10日だったのですが、不安だったので、翌日の1月11日から31日までの20日間で友人、知人など120人に相談したんですよ。
「この世界一周って企画、どう思う?」みたいな。
そしたら、120人中9割の人が応援してくれたんです。
もちろん完全に不安を解消することはできませんでしたが、みんなの応援に後押しされて、世界一周へ踏み切ることができました。
会社員で世界一周したことで、ありがたいことにブログやSNSなどを通して、たくさんの会社員の方に賛同と応援のメッセージをいただきました。
こういう周りからの応援が、今でもリーマントラベラー生活をがんばれる要因の1つでもありますね。
「会社」という土台をフル活用して、自分らしい生き方を見つける
ー東松さんのように会社員として仕事をがんばりながら、もう1つ、違う軸で仕事をしたいと考えていたり、好きなことをしたい人ってたくさんいらっしゃると思います。最後に、そういった方に何かメッセージをいただけますか?

僕はなんだかんだ言って、日本において「会社員」という身分は最強だと思っています。
何故なら、会社員を続けていれば安定して給料がもらえるので、自分のやりたいことに投資できるお金を確保できるからです。
それに加えて、会社で働いていればある一定の社会的な信頼も得られます。
まずは会社員という立場を最大限に活用し、働き方をカスタマイズして、そこから自分のすきなことを極めていくというスタイルをおすすめします。
自分の達成したいことや夢と、会社員の両立が、どうしても難しいのであれば、その時に起業や独立という手段を検討してみればよいのではないかと思います。
ーありがとうございます。逆に、好きなこと・やりたいことをこれから探していこうとしている方に対して、会社で働きながら、やりたいことを見つけるにはどうすればいいでしょう?

まずはいろいろと行動するのが大切だと思うのですが、ポイントは自分が「忙しいのにわざわざやっていること」の中にあると思います。
そこに、その人ならではの強みが隠されているはずなんです。
なんせ仕事で忙しいのにも関わらず、わざわざやっているんですから(笑)。
仕事が忙しいのに本だけはスキマ時間を見つけては欠かさず読んでいる、好きなアーティストのライブだけは必ず出向くようにしている、どんなに帰ってくるのが遅くても筋トレだけは欠かさない、などなど。
きっと人によってさまざまだと思いますが、そこに何かヒントが隠されていると思います。
ー会社員という土台があるからこそ、その「わざわざ」を見つけるチャンスが広がり、他のことにチャレンジできますよね。

そうですね。
会社を辞めてから挑戦して、万が一失敗してしまったら、そのあと取り返しがつかなくなる可能性もあります。
でも会社員なら、やってみてダメだったら引き返すことができるので、いろんなことに何度でも挑戦できる。
その挑戦する打席数を増やすことで「わざわざ」が見つかる確率を上げることができます。
自分にとっての「わざわざ」を見つけられたら、会社でいただくお給料を、どんどんそのやりたいことに投資していくことをおすすめします。
僕は週末という時間とお金をフルに使うことで、世界一周を達成しました。そして人生を変えることができた。
まずは会社を軸にいろいろなことに挑戦して、好きなことを見つけ、それにお金と時間を投資する。
それができれば、自然と独立という選択も出てくるでしょうし、もちろん会社員を続けることもできる。
誰も真似出来ない、自分らしい生き方が、きっと見つかるはずです。
(取材・文=佐藤主祥 https://twitter.com/kazu_vks)