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自分しかやらないことを!360日×10年つくりたてを一軒一軒に届け続ける、パン屋さんの話

2016年10月20日

朝6時前、まだ辺りが暗い中一軒一軒のドアノブにつくりたてのパンが届けられます。

朝食用パンのデリバリー専門店「ぱん工場 寛」の店主・田中朋広さんは、パンづくりを全て1人でこなすと、できあがったパンを自転車で届けて回ります。雨の日も雪の日も360日、年末年始以外ほぼ休みなく走り続けること10年。

お客さまに心のこもったおいしいパンを直接届けたいという田中さんの情熱は、パンと一緒にほのかな温もりも届け続けてきました。

大手企業を退職してパンづくりに取り組んだ田中さんが独立起業に当たり、考えたのは「自分にしかできないこと」。その結果、導き出した答えが「注文生産」と「デリバリー」を組み合わせた画期的なパン屋でした。その発想の原点はどこにあるのでしょうか。詳しくお話をうかがってきました。

<田中朋広さんプロフィール>
1967年生まれ、「ぱん工場 寛」店主。大学で化学を専攻し、卒業後、大手電機メーカーにシステム設計者として入社。27歳で退職し、都内のパン屋2軒で修業。川崎の薬局勤務を経て、2006年、都立大学駅近くに「ぱん工場 寛」を開店。国産の原料にこだわったパンの注文生産、夜中から早朝にかけてのデリバリーで、信頼と人気を集める。
http://home.p00.itscom.net/pankouba/index.html

“パン”ではなく、“ぱん”。店名に込めた、ささやかな思い

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◆電機メーカーを辞めて一念発起。パン屋の開業に至るまでの道のりをお聞かせください。

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―田中朋広さん(以下、田中)
大学卒業後、大手電機メーカーに入社し、システム設計の仕事をしていました。入社後の配属先は新規事業をやっている部署で、現場を担当していましたが、10年くらいすれば管理職になるのが予想できたんです。

でも自分はずっと現場で仕事をし続けたかった。その頃、地元の両親にいろいろと事情があったのもあり退職を決めました。

退職を決め、何かお店を開こうと思った時にパン屋を選びました。たとえばイタリアンなどはセンス必要ですが、パン屋なら体力勝負でできるだろうと当時は思ったのです。

それで退職後、沼袋と新宿の2軒のパン屋で計5年間、修行しました。

◆それから独立したわけですね。

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―田中
いえ、一度職を離れ、家内の実家が切り盛りしていた薬局で事務を手伝っていました。パンづくりの現場からは離れてしまいましたが、もともと経営・マネジメントには興味があったので。

それで薬局に5年間勤めた後、パン屋での修行経験を活かしてようやく開業に踏み切りました。

◆ビルの2階という目立たない立地。この場所を選んだ理由は何でしょう。

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―田中
自宅が近いことからこの近辺(都立大学)で探していたところ、タイミングよく今の物件が見つかりました。ビルの2階ですが、もともと店頭販売にはこだわらないつもりだったので、大通りに面している必要はない。釜だけでも4〜500kg、重機の重さが1トン近いので、その点は大丈夫かといろいろと確認が必要でしたが、最終的に大家さんの了承も得られたのでここに決めました。

また、当時、ビル内にはスナックもあって、ママさんがパンを買ってお客さんにおみやげとして持たせてくれたんです。おかげさまでそこから口コミで評判が広がったりして、とても助かりましたね。

◆お店のネーミングを、あえてひらがなにしたのは?

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―田中
“パン"よりも、“ぱん"のほうが親しみを感じませんか(笑)。カタカナだときつい気がするし、”ぱん”の見た目も合わせ、「やさしさ」や「やわらかみ」を表現したかったからです。店名からも、そうしたぬくもりを伝えられればと思っています。

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田中さんの作る”ぱん”たち

「勝負できるもの」「自分しかやらないこと」を大切にすることが成功の要因

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◆独立する際に、とくに意識した点はありますか?

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―田中
「勝負できるものを持つ」ということですね。独立して成功するには「自分しかやらないこと」を探すことが重要だと思います。

たとえそれが尖っていたり突拍子のないことでも、世の中のニーズに合っていれば成功するでしょう。いわば早く始めた者勝ちということです。

◆田中さんの場合、それが「注文を受けてつくる」ことと、それを「お届けする」という今のお店のスタイルだったわけですね。

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―田中
そうです。注文を受けたぶんだけを夜中に焼き上げて朝までに届ける。これは前例がないやり方でした。勝負どころは「お届けすること」。

お客さんからすれば重視しているのは「味」。つくりたてのデリバリーをするのはそのほうがおいしいからであり、それが自分のお店の個性でもあり最も重要な強みでもあると考えています。

◆注文制にしたのはなぜでしょう?

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―田中
きっかけは、パン屋で修業中に経営や会計にも触れる機会があり、その時、毎日生じるロスを目の当たりにしたことにあります。どれだけつくれば売れるか、いくらデータ化しても、ずれが生じて無駄がなくなることはなかったのです。

それを見て、パン屋はなぜ注文に基づく生産をしないのかと考えました。注文制なら、生産側としてもベースは確保されますし、確実にお客さんが見込めて、経営的なロスが少なく、価格転嫁もせずにすみます。

◆経営面でのメリットが大きいわけですね。

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―田中
それだけではありません。注文制だとつくる側は流れ作業でなく、より「一つ一つ、おいしくつくろう」という意識も生まれます。お客さんの顔を思い浮かべながらつくればパンは絶対においしくなる。

そうして一つ一つ丁寧に心を込めてパンをつくり続けていればお客さんにも喜んでもらえます。注文制にすることは、経営的にもお客さんにとってもメリットがあるのです。

これまでの10年間と今後。時代に流されず、シンプルな味を大切にしていきたい

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◆競争の激しいパン屋業界で10年続けられた理由は何でしょう。

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―田中
開業した当時、このお店のある都立大学駅周辺では、パン屋は続かないというジンクスがありました。その中でこれまで10年間続けてこられたのは、ひと言でいえばうちが「変わっている」パン屋だからだと思います。

具体的にいうと、1つは先ほど説明した「注文制」と「デリバリー」を組み合わせたサービスの独自性。そしてもう1点はパンの味わいです。うちの”ぱん”は、バターを使っていないので、日持ちもしないのですが、味付けがシンプルで素朴なんです。

ほかの味を邪魔しないため、自分でトッピングやバターなどバリエーションを楽しんでもらえます。つまり、飽きることがない。だから、これまで10年間もの長い間、愛され続けてもらえているのだと思います。

◆最後に今後の展開をお聞かせください。

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―田中
小さなお子さんにもうちの”ぱん”の味を試してみてほしいと思っています。

というのも、うちの”ぱん”はバターもですが、保存料や着色料なども入っていません。北海道産の小麦粉と世界遺産・白神山地で発見された白神酵母をふんだんに使っているので、素朴な”ぱん”本来の味わいと嚙みごたえがあるんです。

食育という意味でも、マーガリンがたくさん入った給食のパンに慣れる前に、”ぱん”本来の味わいを知ってもらいたいのです。だから、まだ小学校に入る前の幼稚園か保育園くらいの子に、こういうシンプルな”ぱん”もあることを知ってほしいと思っています。

編集後記

360日を10年間、雨の日も風の日も毎朝”ぱん”を届けて、温かいうちに食べてもらいたい。”ぱん”づくりは余分なものを使わず、本来の味を楽しんでもらいたい―。

経営手法、商品、そして心構えまで、田中さんは常にものごとをシンプルに考える方だと感じました。

そのどこまでもシンプルな願いをひたすら追い続けてきたから、10年もの長い間、お店を続けることができたのだと思います。これからの「ぱん工場 寛」の発展が楽しみです。

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