30歳。
そう聞いて、アナタはどんなイメージを持ちますか?
ビジネスのシーンでは、仕事もある程度できるようになり、まさにこれから働き盛りの年齢と捉えられるかもしれませんが、スポーツの世界ではこの年齢の意味合いが全く異なります。
スポーツのジャンルにもよりますが、およそどの競技でも1番いい時期だと言われているのが10代後半〜20代前半にかけて。
20代後半から引退していく選手が増え、30歳で現役の選手だともうベテランだと言われています。
今回お話を伺ったのは、日本フットサルリーグ(以下、Fリーグ)のペスカドーラ町田に所属している滝田学選手(31歳・写真左)と中井健介選手(28歳・写真右)。
彼らはプロのフットサル選手として活躍する傍ら、日本のフットサルシーンを盛り上げるためのプロジェクト『FTW』(FUTTHEWORLD)を立ち上げています。
若い選手が台頭してくる中、現役として活躍し続けることは決して簡単ではありません。それでも彼らはなぜ、プロジェクトを立ち上げたのか。
プロ選手として、そして事業を並行していく中で味わった苦悩、そして成功体験―。それを乗り越えた先に見た、最強のモチベーションの保ち方について、話を聞きました。
滝田学選手(写真左):Fリーグ・ASVペスカドーラ町田所属(2007~現在)
1986年7月26日生まれ 東京都出身
2009年より現在まで、長きに渡りフットサル日本代表の中心として活躍しており、フットサルを普及させるべく、多岐にわたる活動をしてきた日本のフットサル界を代表する選手の一人。
2012年のAFCアジアフットサル選手権(開催地/UAE)では優勝を経験。フットサル日本代表のキャプテンとして臨んだ2014年の同選手権(開催地/ベトナム)でもチームを優勝に導いている。
なお、Fリーグの2015シーズン途中に史上16人目となる通算200試合出場を達成した。
<プロフィール>
中井健介選手(写真右):Fリーグ・ASVペスカドーラ町田所属(2013~現在)
1989年7月4日生まれ 兵庫県出身
2013年にはFリーグU−23選抜に選出。2016年の全日本フットサル選手権では全試合スターティングメンバーで出場し、チームの日本一に貢献した。2017年からは背番号『10』を背負い、持ち前の高い持久力と一瞬のスピードを武器に、町田のエースとしてチームを牽引する。
また、子供の頃からの夢である実家の農家を盛り上げたいという思いから、「フットサル×農業」をテーマに活動を開始。全国に向けて甘酒を中心にお米や野菜等のウェブショップを手掛けている。その他に自身の試合会場でも甘酒や実家の芋を使って焼き芋を販売中。
スポーツ選手であるからこそできるより良いものをたくさんの人に届けたい。アスリートやスポーツをする全ての人のために、自然なもので栄養価の高いものを集めたウェブショップを作ろうと計画している。
今後は品数を増やしていき、アスリートにとっての食事のあり方を提案していけるウェブショップ制作を目指す。
中井農園甘酒ウェブショップ:https://nakaifarmamazake.stores.jp/
フットサルを「するスポーツ」から「見るスポーツ」にするために。 「フットサル×何か」で認知度を広める
ーお2人は、現役のフットサル選手として活躍しながら様々な活動をされていますが、現在に至るまでの経緯を教えてください。
僕の実家は農園を営んでいます。
農園では地元を中心に商売をしていたのですが、いつの頃からか僕は「地元だけでなく、もっとうちの作物を広めたい」と、幼心に思うようになりました。
しかし僕は小さい頃からサッカー選手になることが夢だったので、大人になってサッカーをやりながら農園を継ぐことは難しいのかなと思っていたんです。
それでも何かしらの形で実家の農園を手伝いたい、という思いを持ち続けていました。
そして大学卒業後、僕はプロのフットサル選手になりました。
プロとしてフィールドで活躍していくことはもちろんですが、実家の農園に対しても何かできることはないかと考えていました。
そして思いついたのが、所属している『ペスカドーラ町田』の試合会場で試合終了後に焼き芋を販売したり、「NAKAI FARM」というサイトを立ち上げて実家で取れたお米を使用した甘酒を販売したりと、実家の作物を、自分のネットワークを使って販売することだったんです。
ー「フットサル×農業」というのは新しいですね。滝田選手はいかがですか?
僕の場合は、フットサルの魅力をもっと多くの人に知ってもらいたい、という思いがあって多方面で活動を始めました。
現在、日本におけるフットサルの競技人口は約300万人ほどいるのですが、僕らが参入しているフットサルのプロリーグ「Fリーグ」の観客動員数はそれほど伸びていません。
つまり、日本においてのフットサルは自らがプレイヤーとして競技を行う、「するスポーツ」であることは広く認知されていますが、プロ選手の試合を観戦する「見るスポーツ」としてはあまり浸透していないんです。
ーたしかに、プロのフットサルの試合を「見る」機会は、あまり多くないかもしれません。
そうなんです。海外に比べて日本はまだ、フットサルを「するスポーツ」の側面でしか見られていないんです。
ではどうしたら「見るスポーツ」としての側面をもっと充実させられるか。
まずフットサル自体の認知度の向上が必要不可欠な上に、実際にプロのプレーを生で見る楽しさを伝える必要があるなと考えました。
そんな僕の考えを周りにいる人たちに発信してみたところ「手伝わせて欲しい」と、賛同してくれる人が何人か出てきてくれて、そうして集まってくれた人たちの中に、服の知識が豊富な人やイベント業に精通している人がいたんです。
なのでまずは手始めに、アパレルやイベントを通じてフットサルを盛り上げてみようと思いました。
そこで中井と一緒に始めたのがこの『FTW』というプロジェクトなんです。
ーなるほど。『FTW』では具体的にどういった活動をされているのですか?
メインはアパレルやイベントの事業を展開しています。
アパレルでは、フットサルをする時に使えるものはもちろん、普段使いしても遜色ないスタイリッシュなラインナップを用意しています。
出典:FTWより
https://futtheworld.stores.jp/
イベント事業では、フットサルの大会といった経験者向けのプログラムはもちろん、フットサルの経験がない人も気軽に参加ができて、フットサルに興味が持てるイベントを企画しています。
最近だと、ビリヤードとサッカーを掛け合わせた新感覚スポーツ「ビリッカー」の企画プロデュースを新宿の高島屋さんと一緒にやらせていただきました。
また、中井の実家の農園にもご協力いただいて、中井の家で取れた米もフットサルの大会やイベントの景品にさせてもらっています。これがまた大人気なんですよ(笑)。
このように『FTW』では多角的な面から、フットサルを盛り上げるための活動をしています。
二兎追うものは一兎をも得ず? 中途半端にならないために必要な「自分の限界」と上手に付き合うスキル
ーお2人はプロのフットサル選手として活動していく傍ら、他の事業も並行して行なっている、いわゆるパラレルキャリアを実践しているわけですが、実際にやってみてどうですか?
正直あんまりパラレルキャリアであることを意識したことはないですね(笑)。
僕の場合は、フットサルの練習をいつも通りこなして、空いた時間に農業や『FTW』の活動を入れているだけなので「キャリア」だと意識していたわけではありません。
ただプロのフットサル選手としてフットサルを盛り上げたい、そして農家のせがれとして実家の農園を盛り上げたい、という気持ちでここまで走ってきました。
ー自分がやりたいことを突き詰めていったら、自然と今のキャリアの形になっているわけですね。滝田さんはパラレルキャリアについてどうお考えですか?
僕の話の前に、まず他の人の話になってしまうのですが、僕らと同じように現役でプレーしながら他の仕事をしている選手って多いんですよ。
でも、どちらかを疎かにしてしまって、もう片方も上手くいかない。そういう仕事のバランスが取れない選手ってたまにいるんですよね。
僕自身、そのどっちつかずの状態になって悩んでいた時期があったんです。
ー複数の仕事をしている人にとって、仕事のバランスをどう取るのかという問題は、ずっとついて回る問題ですよね。滝田さんはその問題をどう乗り越えたのでしょうか?
まずは今の本業である、プロのフットサル選手として活躍すること。それが僕が出した結論でした。
そもそも『FTW』の活動は「フットサルを広める」ためにやっていることなので、まずは自分がフットサルのプレイヤーとして突き抜ける必要があるな、と感じたんです。
そこで2足のわらじのバランスを取るための試行錯誤を一旦止めて、プレイヤーとして限界を超えるために、練習量をかなり増やしてみました。
ー両方取るために、まずはプレイヤーとして突き抜ける。実際にフットサル1本に没頭した結果、何か変わったことはありましたか?
特に変わったな、と思うところは自分の身体の状態ですね。
一般的に、30歳を超えるとスポーツ選手としては比較的高齢な部類に入ります。僕自身30歳を超えてから、若い時と比べてだんだん体が動かなくなってきたな、と思うことが増えました。
しかし、もう一度自分の限界までフットサルと深く向き合ってみると、不思議と身体もついていけるようになるんですよ。
「俺、30過ぎても意外とイケるじゃん!」って思えるようになるというか(笑)。練習に没頭したからこそ、自分の身体と上手に付き合っていく方法がだんだん分かってくるんですよ。
そして感覚が分かってきた頃に自ずと、選手として試合で結果も残せるようになりました。
ー多くのスポーツ選手が年齢で引退を考える中、自分の身体との付き合い方を理解していくことは並大抵のことではないですよね。フットサルが突き抜けた結果『FTW』はどうなりましたか?
そこからは結構順調でしたね。やはり選手として活躍できていると心持ちやモチベーションが違います。
だからこそ、『FTW』の活動も今まで以上に充実してきています。
ーこの体験は、滝田さんにとっての大きな人生のターニングポイントでもありながら、スポーツ選手をはじめパラレルキャリアを実践する人にとっても、とても大きなヒントになるお話だと思います。
1つのことをとことん突き詰めてみる。
回り道のように思えるかもしれないですが、自分の限界ラインを知ることで得られることって多いと思います。
自分の限界値が見えれば、無理がない程度に上手くバランス調整ができるようになりますし、限界まで追い込めば自ずと自分のキャパというものが広がっていきます。
ある程度のところまでいったら、今度は広がったキャパを使って別のことをしてみる。そしてまた行き詰まったら1つのことで限界までやってみる。
その繰り返しが人間を大きくしていくのではないでしょうか。もちろんこれはスポーツだけではなく、どんな分野でも共通して言えることだと思いますね。
何歳からでも、自分がやりたいと思うことをやればいい。最強のモチベーションの保ち方
ー最後に滝田さんや中井さんと同じように、スポーツ選手として活躍しながら別の領域でも活動している方に向けて、アドバイスをお願いします。
当たり前かもしれませんが、自分がやりたいことや好きなことをとことん突き詰めていくことが、何より大切だと思います。
僕自身、フットサルも農業も『FTW』の活動も、自分にとってはどちらも大切ですし、今後もずっと続けていきたいと思っています。
あんまり難しいことを考えずに、ただひたすら好きなことを突き詰める。
もちろん、それ故にいろいろと悩んだり立ち止まったりすることもありますが、自分の好きなことならモチベーションも感じやすいですし、熱中できると思うんです。
ー好きなことを仕事にできるというのは素敵なことですね。滝田さんはいかがですか?
はい。僕は目的をハッキリさせることが大切だと思います。
僕は、まず自分がプロのフットサル選手として大きくなって、ゆくゆくは日本のフットサル界を盛り上げていきたいと考えています。
そういう目的意識がハッキリしているので、たとえスケジュール管理や体力的に多少無理がかかっても「やってやろう」という気になる。
中井の言う「好きなことを突き詰める」って、つまりそういうものだと思うんです。
自分でやっていて誇れるものであったり、意義を感じることができれば、きっと何でもやれちゃう。
そこに年齢とかって関係ないんです。何歳からでも、自分がやりたいと真剣に思えば挑戦できるし、本当に好きならモチベーションも自然と湧いてくる。
だからこそ、まずは好きなことを見つけて進むなり、目的をハッキリさせることが重要なんです。そして難しく考えずに、自分が心の底からやりたいと思えるものに挑戦してみてください。
(取材・文=佐藤主祥 https://twitter.com/kazu_vks)