2つの仕事をかけ合わせる、複業。
今回お話を伺ったイラストレーター・かぶあや子さんは、福岡・中洲で「ホビー ダイニング ジオン」の店長も務めている。
イラストとダイニングバーの店長。一見すると関係なさそうな2つの仕事だが、実は思わぬ相互作用があるのだと、かぶさんは語る。
今回はかぶさんのキャリアとともに、2つの仕事をかけ合わせて生まれる、新たな価値についてお話を伺った。
かぶあや子さん
イラストレーター/「ホビー ダイニング ジオン」店長
小さい頃から絵を描いて過ごす。
専門学校を経てゲーム関連の会社に就職し、その後イラストレーターとして独立。
博多区中州にあるプラモデルやゲーム・アニメなどが好きな人に向けたダイニングバー「ホビー ダイニング ジオン」の店長兼デザイナーも務めている。
“イラストレーター”と“ダイニングバーの店長”をかけ持つ、異色のキャリア?
――福岡県は中洲にあるホビー ダイニング ジオン(以下、ジオン)の店長と、イラストレーターを兼業する、かぶさん。珍しい職歴ですが、現在に至るまでの経緯を教えていただけますでしょうか?
まずイラストレーターになるまでの経緯から、お話します。
絵は幼稚園の頃から好きで、物心つく前からずっと描いていました。絵については、親も認めてくれていたんです。
高校進学の時に「声優になりたい」と、親に言ったら「あなたは絵しか描けないんだから、違う道に行くな」と、言われたくらいで(笑)。
その後、デザイン課のある高校を経て、九州デザイナー学院のイラストレーション学科へ入学。
在学中にLINE Fukuoka株式会社のインターンシップに参加し、卒業後はそのまま入社することになりました。
――会社ではどのような仕事を?
主にゲーム制作におけるディレクション業務や、SNSの運用、マーケティングなど幅広く経験させていただきました。
その後転職し、ゲーム会社をもう1社経験して、現在に至ります。
――ではイラストレーターと会社員を兼業されていたんですね。
そうですね。イラストも描きながら会社員生活を送っていました。
経済的により安定した生活を送るためという理由もありましたが、今後イラストレーターとして活動していく上で、発注する側(会社側)も経験しておきたいなと思っていたんです。
だから会社員時代は、イラストレーターさんに発注したり、オーダーや修正を依頼したりといった業務もしていました。今とは逆の仕事ですね。
↑かぶさんのイラスト
――そうした経緯を経て、イラストレーターとして独立されたと。一方でジオンの店長もされているそうですが、そもそもジオンとはどのようなお店なのですか?
端的に言えば、お酒や料理を楽しめるダイニングバーです。
ただ、普通のダイニングバーと異なるのは、店全体がサブカルチャーをコンセプトにしているということ。
アニメや特撮、プラモデルといったサブカルチャーが好きなお客さまへ向けた店になっているんです。
働き方だけを見れば、会社員時代と変わらずにイラストレーターと兼業で、ここジオンでも働いていることになるんですが……。
私の中では、会社員時代の仕事とジオンでの仕事は、大きく意義が異なるんです。
イラストと飲食店、2つを繋ぐキーワードは「サブカルチャー」? かぶさんに聞く複業の流儀
――その理由を伺う前に、ここで現在のお仕事について、改めて整理させてください。
まず、フリーランスイラストレーターとして活動しています。
企業さんから発注をいただいて、イラストを制作したり。それ以外にもアーティストとして自分の作品も作っています。原画やTシャツといったグッズも販売しています。
そしてもう1つは、ジオンの店長として働いています。
お客さまの接客から提供するメニューの調理、スタッフのシフト調整、給与の管理などなど……業務内容は普通の飲食店の店長と、あまり変わりありませんね(笑)。
――なぜ会社員時代の仕事と、ジオンでの仕事の意義が異なるのでしょう?
イラストレーターとダイニングバー店長。
たしかに、ぱっと見はそれぞれ接点のなさそうな仕事ですが、そこにジオンの「サブカルチャー」というコンセプトが掛け合わさると、途端に意味を持ち始めます。
店中がサブカルチャーに埋め尽くされているジオンには、やはりサブカルチャーが好き、もしくは仕事にしているというお客さまも多くいらっしゃいます。
元を辿れば、私自身も普通にお客さんとして、この店に足を運んでいましたから(笑)。
そうした背景もあり、ジオンのお客さまからイラストやデザインの仕事をお願いされることも多いんですよ。
こういったケースは、会社員時代にはあまりありませんでしたね。
区別していたわけではないですが、やはり会社は会社の仕事、個人は個人の仕事という線引きのようなものがあったのかもしれません。
――ジオンの仕事が、イラストの仕事にも繋がってくるということですね。
そしてその逆も然り、です。
実はジオンのメニュー表やポスター、スタッフの名刺のデザインなどは、私が制作をしているんですよ。イラストの仕事をしているからこそ、普通の店長さんじゃなかなか手が出しづらい領域もカバーできたり。
↑かぶさんが制作したジオンのポスター
そして何より私は、ジオンという店が大好きなんです。
会社員時代、このお店に来ることがとても楽しかったんです。店長として働いている今もその気持ちは変わっていません。ジオンは私にとって大切な居場所なんですよね。
――2つ(以上)の仕事をされることを、複業と言うそうですが、かぶさんにとってはまさに2つの仕事が相互に作用する、理想的な関係ですね。
そうですね、有機的につながっている感じがします。
1つの仕事に絞ることなく、自由度高く働けるのがフリーランスの魅力ですし、今は会社員でも複業をされている方が増えていると聞きます。
複業によって、収入を増やすことももちろん大切ですが、それ以上に新たな発見があったり、2つの仕事をしているからこその、思わぬ価値を発揮できるかもしれません。
そこが複業の魅力だと思います!
自分の好きなものや楽しめるものに、日頃からアンテナを張っておく
――今後の目標はありますか?
イラストやジオンの仕事の他に、私はアーティスト(一次創作者)としても活動しています。
私の作ったオリジナルキャラクターに「山田さん」と「すずなちゃん」という2人がいるのですが、その子たちを有名にさせたいですね。
今年の8月、ジオンのオーナーでもある財津朋晴さんが中心となって、プラモデルの展示会を福岡市美術館で開催します。
私の作品も展示がされるので、まずはその展示会に向けて準備を頑張っていきたいなと。
いずれはルーブル美術館に展示されるような、たくさんの人に愛していただける作品を作っていきたいと思っています。
開業=ゴールじゃない。中洲サブカルバー経営・財津朋晴さんに聞く、愛される店の作り方
――これから独立する方へアドバイスをお願いします。
私はイラストしかできないので、イラストレーターさん向けになってしまうかもしれませんが……。
イラストレーターを目指している人っていっぱいいると思うんですけど「イラストが上手いだけ」では、独立して食べていくのは難しいと思います。
いくらイラストが上手くても、知ってもらえなかったら意味がありません。だから時には名刺を作って配ったり、顔を覚えていただけるように地道に営業活動をすることも大切です。
営業が決して得意というわけではないのですが、私にとってジオンは、自然と営業ができる場所にもなっていきました。
心地のよい居場所でありながら、同時に活動の拠点でもある、不思議な場所です。
私がジオンを見つけられたのは、偶然もありますが、日頃から自分の好きなものや楽しめるもの、感性が合うものに、自然とアンテナを張れていたからなんじゃないかなと。
自分が輝ける場所を、自分で見つける。それが独立への第一歩なんじゃないかなと思います!
取材・撮影=内藤 祐介