会社員として働いている方の中には、「いつか脱サラしてフリーランスとして働いていきたい」と考えている方もいるかもしれません。フリーランスは、「会社に縛られずに、自分の裁量で仕事の仕方や働き方を選択できる」「会社員生活のストレスからも解放されてもっと収入を増やすことができるかもしれない」など、夢のある働き方ではないでしょうか。
しかし、いざ脱サラするとなると、「失敗してしまうのではないか」と不安になることがあるかもしれません。
実際に脱サラしてフリーランスに転向する場合、どのような準備が必要なのでしょうか。本記事で詳しく解説していきます。
会社員とフリーランスでは契約内容が異なる
フリーランスとは、特定の企業や団体、組織などに専従しない業務委託になります。社会的に独立した個人事業主を意味します。
会社員は、雇用主(企業)と労働者(従業員)との間によって結ばれる「雇用契約」によって働いています。雇用契約が結ばれている場合、雇用主は労働者を社会保険(健康保険や厚生年金保険)や労災保険に加入させ、その保険料の一部を負担します。労働者が支払う保険料は給料から天引きします。
フリーランスの場合は雇用契約ではなく、「業務委託契約」によって仕事をすることになります。その場合、会社員のように労働者として雇用主から守ってもらえる立場ではなくなります。国民健康保険や国民年金にも自分で加入し、決められた保険料を決められた期日までに自分で支払います。
脱サラしてフリーランスになる際には、これまでの雇用契約ではなく業務委託契約になる点や、国民健康保険や国民年金なども自らが管理する点についてしっかり認識しておきましょう。
「知って役立つ労働法~働くときに必要な基礎知識~」(厚生労働省)
フリーランスで重要なのは「仕事を作り出すこと、取ってくること」
雇用主と雇用契約が結ばれている会社員の場合、会社や組織の目標に応じて業務内容が決まっており、周囲と協力しながら仕事を遂行します。もし仮に成果を上げられずに業績が悪化しても、給料を得ることができます。
しかし、フリーランスの場合、営業をして自分で仕事を獲得しなければ売り上げになりません。脱サラする前の会社員時代に培った人脈で仕事の依頼が来るかもしれませんが、それだけに頼っていては事業を成長させるのは難しいでしょう。
フリーランスになって、どのような事業を行うかはそれぞれですが、すべての事業において仕事の案件を獲得することは重要となります。
業種にもよりますが、ある程度の営業力やビジネスコミュニケーションのスキルが必要となることが多いです。
つまり「人と会う、人と話すのが苦手」という場合、フリーランスへ転向した後に苦労する可能性が高いです。フリーランスとして独立する前に、どうやって仕事の案件を獲得していくか、ある程度の見通しがたってから行うとよいでしょう。また営業ノウハウを学び、ビジネス上でのコミュニケーションスキルを磨いておくことをおすすめします。
脱サラ後に始める事業の決め方
脱サラしてフリーランスへの転向を検討する場合、次の2つが検討理由となることが多いでしょう。
・やりたい仕事が今の会社員生活ではできない
・今の仕事、勤務先での仕事が嫌だ
何かやりたい仕事がある場合、やりたい仕事については特に迷う必要がないでしょう。また「単純に現状の仕事が嫌で辞めたいから」というネガティブな理由で脱サラする場合には、フリーランスになると、それが本当に解決するのか、生活できるほど稼ぐことができるのかなどは慎重に考えたいところです。
フリーランスになる場合は、下記の3つの観点から事業内容を選んでいくことをおすすめします。
・できること=これまでの経験やスキルが活かせること
・やりたいこと=自分が好きなこと
・求められていること=取引先や社会の需要があること
会社員時代に培ったこれまでの経験やスキルを軸にして、そこから自分がこの先も長く続けたいと思える好きな仕事であるか見極めます。さらに継続して案件を受注できるように、社会から求められている事業であるかも考えましょう。
例えば、インターネット広告の運用を会社員時代に行っていた方が、フリーランスとなる場合を想定します。自分で過去の経歴やスキルをもとに営業をかけて、企業と業務委託契約をして個人で仕事を請け負います。その際に自分が好きな業界の会社へ営業をかけて新規開拓をしていくことで、会社員時代では選べなかったような、好きな商品やサービスに関わる仕事ができる可能性が高まります。またインターネット広告の運用だけではなく、クライアントのWebサイト制作のディレクションもまとめて業務を委託してもらうなど、ニーズに合わせてサービス内容を調整していくことで、さらなる売り上げアップが期待できるでしょう。
このように自分のスキル、好きなこと、求められていることをかけあわせて、フリーランスの事業内容を決めていくのがおすすめです。
経理や税金の基礎知識も必要
フリーランスとして独立する際には、個人事業の売り上げや経費、利益などの管理も自分で行わなければなりません。これまで会社の給料から天引きされていた所得税や住民税も、個人事業主として稼いだ所得に応じて自ら納税します。
個人事業を開業すると、「給与所得」ではなく「事業所得」を得ることになります。毎年2月から3月に行われる確定申告の際に、前年の事業の売り上げや経費の内訳を自分で申告しなければならないのです。フリーランスの場合、最大で65万円までの控除が受けられる青色申告が基本です。
必ずしも税理士に頼む必要はありません。会計ソフトなどを活用すると自分で会計処理や確定申告の準備が行えます。確定申告の際に慌てないように、フリーランスの会計管理については知識をつけておきましょう。
事業を始める際には開業届を提出する
フリーランスとして事業を始める際には、会社を登記するわけでないので税務署に「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」(開業届)を提出すれば簡単に開業の手続きが行えます。提出にあたり手数料なども必要なく、税務署に持ち込むか郵送、e-Taxからオンライン申請するだけです。事業を始めてから、1ヵ月以内に提出するようにしましょう。
脱サラ前に用意しておきたい開業資金
フリーランスの開業資金としては、どれくらいの金額を用意しておけばよいのでしょうか。
最も重要なのは、今後の生活資金、年金や健康保険の保険料、税金の確保です。特に税金は前年の所得によって納税額も変わるので、給与所得の多い方は特に注意が必要です。
次に、事業で必要な器材やインターネット環境などを整えます。また商品を扱う事業であれば、それらを仕入れる資金や保管にかかる倉庫費用などがかかります。
事業がすぐに黒字化するとは限りません。予定していた案件がなくなってしまう可能性もあります。生活資金は、余裕をもって半年以上を用意することをおすすめします。
自宅を拠点にすることで開業資金を抑える
事業内容にもよりますが、自宅を事務所として利用することで開業資金を抑えることが可能です。
オフィスや物件を借りるとなると、家賃だけでなく敷金や礼金、保証金や仲介手数料などがかかりますが、自宅であればそれらの費用がかかりません。また賃貸物件の場合は自宅であっても、居住エリアと事務所エリアを家事按分して、家賃の一部を経費に計上できます。
事業が成長して自宅の事務所が手狭になってきたら、そのときにオフィスを借りればいいので、まずは自宅を拠点として事業の赤字リスクを抑えながら開業することをおすすめします。
まとめ
今回は会社員として働く方が「脱サラ」してフリーランスとなる際に、知っておくと役立つ準備について紹介しました。
これまでの雇用契約から業務委託契約になること、税金や保険、年金の支払いは自分で行うことを理解し、事業内容も、それぞれの経験やスキルを活かしながら選択していきましょう。
脱サラで失敗する理由の多くは、資金繰りの悪化です。それらを避けるためにも、開業資金は抑えつつ、売り上げと利益を継続して残せるような事業計画を考えていきましょう。
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<文/北川美智子>