独立・起業における成功の定義とは、なんでしょう。
常に安定した売り上げを立てること。誰かの役に立つ仕事をすること。独立・起業をする際に決めた目的を初志貫徹すること。
その答えは、人の数だけ定義が存在するのではないでしょうか。
今回お話を伺ったのは、梅北要さん。梅北さんはプロバスケットボールの試合を始めとするMC業をされている傍ら、ドッグカフェ「Munch's」を経営しています。
そんな梅北さんが、地元名古屋から東京に来た理由。それは音楽で成功するため――。
今回は梅北さんのキャリアについて振り返るとともに、独立・起業における成功とは何かを伺いました。
理想の自分と現実の自分に、ギャップを感じている人は必見です。
梅北要さん
ミュージシャン・MC・ドッグカフェ「Munch's」店主
1997年、25歳の時に地元名古屋で組んだロックバンドでメジャー・デビュー。
1999年にバンドを脱退し、単身上京。
放送作家の鈴木おさむ氏からオファーを受け、深夜番組などに出演するようになり、それを契機にタレント業や役者、MC業といった仕事をスタートさせる。
2005年にスタートした日本プロバスケットボールリーグにおいて、東京アパッチでMCを担当。言葉と音楽の力で、チームに貢献する。
現在はアースフレンズ東京ZでMC業を務める。その傍ら、梅ヶ丘にドッグカフェ「Munch's」を経営している。
ある時はミュージシャン、ある時はMC業、そしてまたある時はドッグカフェの店主? 梅北さんのキャリアを振り返る
―ミュージシャンやMC、そしてドッグカフェと様々な領域で活躍されている梅北さん。現在に至るまでの経緯を教えてください。
いろいろなことをしているので、どこから話せばよいのやら…という感じですが(笑)。
もともと若い頃はプロのミュージシャンをしていました。今も音楽は続けているのですが、昔はそれこそ地元名古屋でメジャー・デビューも経験して。
その2年後、僕はバンドを脱退して単身上京しました。やはり東京という大きな場所で音楽をやってみたくて。
―上京後は深夜番組などに出演されていたのですよね?
ええ。放送作家の鈴木おさむさんと知り合って、僕を面白がってくれて番組に出させてもらったんです。当時はミクスチャーロックバンドのボーカルとして、ラップなどをやっていたので、彼の番組でラップを披露したり(笑)。
それでその番組を見ていた米米CLUBの石井竜也さんから「仕事をしないか」と誘っていただいて。そこからダンスや芝居もやるようになって、徐々に音楽からタレント業のような仕事にシフトしていったんです。
―結局、その後はタレント業ではなくプロバスケットボールチームのMCを中心に活動されていくわけですが…。
そうですね、ありがたいことにいろいろとお仕事をいただいてがんばっていたんですが、僕はあんまり芸能界という場所が合わないなあと思い始めてしまって。
というのも、僕のプロフィールを見ていただければお分かりになるかと思いますが、僕は興味の幅がとても広いんです。特に音楽はもちろん、ファッションだったりスポーツだったり。
音楽なら音楽だけ、タレント業ならタレント業だけ、という縛りではなく、もっといろいろなことに挑戦したいなと。そんなことを考えていた時に、日本でプロバスケットボールリーグが発足しました。
もともとそれまでの仕事で、イベントの司会やMCをしていたことがあったのですが、このプロリーグの開幕とともに、東京アパッチというプロチームからお誘いをいただいて、MCをやらせていただくことになりました。
それが2005年の出来事です。
人生は「All is my select」。音楽をライフワークとして続ける理由
―そもそも、プロバスケットボールのMCとは、どのようなお仕事なのでしょうか?
プロリーグなので、オーディエンスがプロ選手同士の試合を見に来ているのはもちろん、一方で会場全体を盛り上げるパフォーマンスも、プロの試合の中で重要な役割を担っています。
試合前のオープニングセレモニーに始まり、クォーターとクォーターの間の応援合戦やチアリーディングなど、オーディエンスに試合をより楽しんでもらうための様々なイベントがあるんですよ。そのあたりはプロ野球やプロ格闘技の試合などと少し近いかもしれません。
僕はMCとしてはもちろんですが、音楽にも詳しいので試合中の音楽まわりやパフォーマンスまわりのディレクション、進行など幅広く携わっています。
現在はアースフレンズ東京Zというチームからオファーをいただいて、MCを担当しています。
―あまりにも様々なお仕事をされているので、一度整理させてください(笑)。
わかりました(笑)。今の仕事はプロバスケットボールチームでMCをしています。その他、スポーツ関係でもイベントの司会などをしています。
あとは小田急線の梅ヶ丘という駅の近くで「Munch's」というドッグカフェを経営しています。
―ドッグカフェはなぜ経営することになったのでしょう?
ひょんな事から梅ヶ丘という街と出会い、僕の苗字が梅北なので「あっ、じゃあ梅ヶ丘の北口で梅北がやってるカフェ!」って運命的だし面白いなぁ…なんて(笑)。
今年15歳を迎える「マンチ」という飼い犬と一緒にいられる場所を作れないかなと。
そこでドッグカフェを開くことにしたんです。
ドッグカフェの名の通り、店内は犬がリードをしなくても自由にいられる場所になっています。また、モニターもありますしアコースティックでならライブもできる環境があるので、時にスポーツバーとして、時にライブもできる場所として活用しています。
―犬と音楽とスポーツという、梅北さんにとって重要な要素が組み込まれたお店なのですね。
ええ。今は音楽はいわば「ライフワーク」として続けているんですが、「Munch's」であれば月1回は必ず歌う機会を創出できる。これは結構大きいですね。
現状では違うことで稼いでいますが、やはり20代で「音楽をしに東京に出てきた」わけですから(笑)。
―かつて稼ぐための仕事だった音楽が「ライフワーク」になったことに対して、何か心境の変化はありましたか?
まぁ少なからずいろいろ考えた時期はありましたね。「音楽で売れる」ために、名古屋から東京に出てきて。
でもいろいろ仕事をしていく中で、結果的に世の中から求めていたのは「しゃべり」だった。
もちろんMC業をする上でも音楽のスキルは必要なんですが、自分が思い描いていた理想とは少し違う。
そのギャップみたいなのは感じていましたね。
―そのギャップとはどう折り合いをつけたのですか?
ある時、ふと「これも俺なんだな」と気づくことができたんです。音楽でビッグスターになれなくても、しゃべることでお金を稼いで、そして定期的に音楽をする場所がある。
それってとても幸せなことなんじゃないかなと。気持ちが楽になりました。
そこからはお金を稼ぐ仕事だろうがそうじゃなかろうが、より楽しむことができるようになったんです。
「All is my select」、「全て自分が選んだこと」という言葉が僕の座右の銘です。
多少理想と違ったとしても、なんだかんだ自分が「あ、やってみたいな」という方向には進んでこられた。それが「しゃべり」という仕事であれ、ドッグカフェという仕事であれ、音楽であれ。
これまで自分が歩いてきた道を否定するのではなく、認めた上でどうなっていきたいかを考えるようになれると楽になるんじゃないかなと思います。
応援してくれる仲間にちゃんと胸を張れる仕事をがんばっているなら、それは成功だ
―これからの展望を聞かせてください。
やってみたいことはいろいろありますね。ドッグカフェで言えばあと2年で銀行から受けた融資を完済できるので、そうしたら2号店を地元名古屋に作りたいんです。
4年前に父親を亡くして、実家を引き払ってしまったので、なかなか帰省する機会がなくて。
だからこそ「Munch's」の2号店を名古屋に作りたいなと思っています。
―読者の方へメッセージをお願いします。
僕がこの間、久々に名古屋に帰った時に感じたのが「仲間の存在の大きさ」だったんです。
思えば20代の時に単身上京した時も「お前なら東京でもやれるよ」と、送り出してくれて。そして僕が帰った時には今でも温かく迎え入れてくれる。
そういう自分の背中を押してくれる仲間を見つけることが、独立・起業にとっても大切なことなんじゃないかなと思います。
仮に今、思い描いている姿に、将来的にならなかったとしても、仲間にちゃんと胸を張れる仕事ができているなら、それは成功と言っていいんじゃないかと。
応援してくれる仲間の存在は、自分にとってかけがえのない財産です。彼らと会った時に、笑顔で再会できるような自分でいられるように僕もがんばりたいと思います。
取材・文・撮影=内藤 祐介