独立・起業をする上で必要な、ビジネスプラン。
どういった仕事内容で、どういった客層にどういったサービスを提供するのか。需要と供給のバランスを考え、勝算があるかを検討することは、成功するためにとても必要なことです。
しかし、時に人生はデータ通りに上手くいかないことも多々あるでしょう。
今回お話を伺ったのは、ゲームデベロッパーのikuhiko satoさん。
satoさんの手掛ける最新作「LAMUNATION!」は、世界最大のPCゲームプラットフォーム「Steam」のランキングにランクインされるほど人気を博しています。
今回はそんなsatoさんがゲーム制作に情熱を注ぐ理由、そして日本だけでなく世界に挑戦する理由について伺いました。
ikuhiko satoさん
ゲームデベロッパー・デザイナー
幼い頃からゲームをプレイし、ゲームデベロッパーを志す。
ゲームの専門学校に通いながら、19歳にして初めてPCゲームを作る。
最新作である「LAMUNATION! -international-」は、9000万人以上のユーザー数を誇る、世界最大のPCゲームダウンロード販売プラットフォーム「Steam」(スチーム)において、全世界ランキング74位を記録する。
「Steam」の全世界ランキングにランクイン! satoさんが人気作「LAMUNATION!」をリリースするまで
―現在に至るまでの経緯を教えてください。ゲームデベロッパーとして活躍されているsatoさんですが、いつ頃からゲームがお好きだったのでしょうか?
小学生の頃からですね。最初は1ユーザーとしてゲームを楽しんでいたのですが、中学生の時に出合った「CLANNAD」というゲームをプレイしてから、ゲームを作る側の人間になりたいと思いました。
その後ゲームの専門学校に進学し、ゲーム開発に関するノウハウを勉強しました。
―デビュー作はいつ頃発表されたのですか?
19歳の時に初めてPCゲームを作って、現在までに6本のゲームを制作しています。
専門学校を卒業後は、アルバイトをしながら、ゲームに関するデザインの仕事を受けていましたね。人が作ったゲームのオープニング映像を作ったり、モーショングラフィックスを作ったり。
それと並行して自分のゲームも作っていました。
―2016年に「LAMUNATION!」を日本で発表し、その後、英語・中国語に対応した「LAMUNATION! -international-」をゲームプラットフォーム「Steam」で配信され、同作が人気を博していますが、ここに至るまでの流れを教えてください。
「LAMUNATION!」をリリースしたのは2016年なんですが、実はその直後に就職して会社員生活を送っていたんです。自動車関係の会社でデザイナーをしていました。
その時に「LAMUNATION!」を海外で販売する権利を売って欲しいというお話をいただきまして。結局その話は流れてしまったんですが、ちょうどその頃出合ったゲームの翻訳会社からオファーをいただきまして。
日本のみで配信していた「LAMUNATION!」を英語・中国語に対応して「LAMUNATION! -international-」として配信したんです。
これが徐々に人気を博すようになり、全世界で9000万人のユーザーがいる「Steam」で世界ランキング74位を記録しました。
自分の作品を世界中のユーザーに楽しんでもらうために。ゲームを作るものとしての責任と覚悟
―現在のお仕事について教えてください。
デベロッパーとして、ゲームの開発をしています。具体的には、ゲームのシナリオを考えたりUIやパッケージ、映像などを作っています。また作品がどうしたらいろんな人にプレイしてもらえるかを考える、プロデューサーの役割も担っています。
ゲームの業界においてデベロッパーとは、ゲーム制作における「開発者」を指します。反対に制作されたゲームを売る人をパブリッシャーと呼びます。
僕のケースで言えば、僕をデベロッパー、翻訳会社がパブリッシャーというわけですね。
―ゲームの制作から販売まで、様々な役割があるのですね。勤めていた会社はお辞めになったのでしょうか?
はい。少しずつですが「LAMUNATION!」が売れるようになってから、会社を退職しました。そこからは新作のゲーム制作と、既にリリースされている「LAMUNATION!」の海外輸出に力を入れています。
―聞きづらい質問ですが、実際のところゲームの制作はもうかるのでしょうか?
生活するために最低限のお金は稼いでいますが、ゲームの制作とプロデュースに全振りしているので、収入は減りましたね。今は会社を退職しているので、固定の収入もありません。
とはいえ「LAMUNATION!」が人気の兆しを見せている中、ゲームを作るものとして、これは引けないなと。
―そこまでゲームの制作に情熱を捧げる理由はなんですか?
やっぱりゲームが好きなのと、海外のコンテンツが好きだからですね。
「グランド・セフト・オート」シリーズなど海外のゲームだったり、ハリウッド映画だったり。自分が好きなものがどうしても海外寄りというか、そっちの志向なんですよ。
だからこそ自分が作った作品も日本はもちろん、海外のユーザーにも楽しんでほしいんです。究極的にはもうかる、もうからない、ではないと思っていて。
―自分が好きなものだからこそ、挑戦したいと思うわけですね。
そうですね。たしかに安全を取って挑戦しないというのも1つの選択だと思いますが、後から「ああしておけば良かった」と後悔したくないというか。
「Steam」で人気を博している、日本の会社が作ったある作品が、シリーズ累計200万部以上を売っています。
日本発のゲームが「Steam」という市場において、それだけ売っている前例がある。だから自分も作品を真摯に作り続けていけば、いつかそれを評価してくれるユーザーが出てくるんじゃないかと。
もちろんその作品にしろ、そこまで売るのには想像を絶する苦労があってのことだと思っていて。自分の作品を世界中のユーザーに楽しんでもらうために、今できる手段は全て惜しみなく取るようにしています。
エビデンスと統計で成功するなら、誰もが成功している。目標を達成するために必要なこと
―satoさんの今後の展望を教えてください。
「LAMUNATION!」以降、まだ新作を出せていないので、今年中にはなんとかリリースしたいですね。
最新作「キラキラモンスターズ」
ゲームのデベロッパーとしては、この「キラキラモンスターズ」をどこまで大きくさせられるかが課題だと思っています。
「LAMUNATION!」では、世界ランク74位まで行きましたが、まだ上に73も強いゲームがある。だからこそこの「キラキラモンスターズ」ではもっと上を目指したい。
できればアニメやメディアミックスも狙っていきたいですね。
―最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
僕がいるゲームというジャンルに限らず、あらゆる業界で独立・起業をするなら市場について調べたり、傾向と対策を練ったりすると思うんです。
もちろんそうしたデータから自分なりの勝ち筋、勝算を見出すことも大事ですが、リスクのない独立・起業、ないしは転職、ひいてはリスクのない「選択」なんて存在しないと思っています。
誰もが「無理だよ」と言ったことで勝つこともあれば、どれだけ勝算があってもコケることもある。
エビデンスと統計だけで成功するなら、誰もが成功します。でもそうじゃないのが人生です。
じゃあどうしたら成功するのか。それは自分のやっていること、やってきたことを信じ抜いて行動することだと思うんです。
自分を安心させる材料としてデータを参考にしつつ勝ち筋を見つけ、後はそれを愚直に信じ抜くこと。
もしそれで致命傷を負うようなことになっても、理想を持って愚直に頑張っている人って誰かがちゃんと見ていて、助けてくれたりするもの。
「LAMUNATION!」は、僕にとってまさにそうでした。みんなに「売れない」と言われていたけど、なんとか少しずつでもユーザーに届いている。だからこそ誠意を持って次の作品をもっと多くの人に届けていきたいですね。
取材・文・撮影=内藤 祐介