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成功の鍵は“メタゲーム”にあった?「転用力」の可能性をパフォーマー・謳歌さんに聞く

成功の鍵は“メタゲーム”にあった?「転用力」の可能性をパフォーマー・謳歌さんに聞く

「メタゲーム」という言葉を、皆さんは知っていますか?

メタゲームとは、主にカードゲームの世界で使われる言葉。大会で使用されるカードやデッキの流行を読み、自分がどんなカードで試合に臨むべきなのか――。

そうした試合外での駆け引き・読み合いを「メタゲーム」と呼びます。

今回お話を伺ったのは、日本はもちろん22もの国を渡り歩き、ステージを経験してきたパフォーマーの謳歌さん。

カードゲームにも精通する謳歌さんは、この「メタゲーム」の考え方をパフォーマンスにも応用したそうです。

今回は謳歌さんのキャリアを振り返るとともに、今の自分を築いたという「転用力」の重要性と可能性について、語っていただきました。

<プロフィール>
謳歌さん
パフォーマー

脳をゆさぶる視覚効果を作り出す、プロパフォーマー。
世界22カ国から招待を受け、出演を経験。

視覚芸術「リングアーツ」の振り付けを作成。
そのパフォーマンスをYouTubeに投稿したところ国内外のメディアで話題になり、合計500万再生を突破。

クラウドファンディングで230万円を集め、世界のエンターテイメントを集めた舞台「TrueAct」をプロデュースする。

近年では動画SNS「TikTok」にも力を入れており、アカウント立ち上げわずか2年で46万人のフォロワーを獲得する。

「自分のパフォーマンスを仕事にしたい」――。謳歌さんが独立を決めた理由

――パフォーマーとして活躍されている謳歌さん。そもそもの話なのですが、パフォーマーとはどのようなご職業なのでしょう?

謳歌さん
パフォーマーとは文字通り、ステージでパフォーマンスをする人のこと。

簡単に言うなら「ジャグリングやパントマイムをはじめ、さまざまな演目でお客さんを楽しませる人」と表現すると、想像しやすいのではないでしょうか。

「マジシャンとはどう違うの?」とよく聞かれるのですが、パフォーマーはマジック(手品)をするわけではありません。

イメージを掴んでいただくにはまず、動画を見ていただくとスムーズかもしれないですね。

――リングやディアボロ(回転させるタイプのコマ、中国ゴマとも)といった、さまざまな道具を駆使してパフォーマンスを行うんですね。こうした技術はこどもの頃から培ったのでしょうか?

謳歌さん
そうですね。

僕は昔からゲームが大好きで、テレビゲームやカードゲームに夢中になっていました。

小学生の時は『ぷよぷよ』(※1)の全国大会に出場したり、中学時代は『マジック・ザ・ギャザリング』(※2、以下『MTG』)の大会にも出場しました。

ただそうしたゲームは、学校に持ち込んでプレイすることができません。そこで学校でも遊べる遊びとして始めたのが、お手玉だったんです。

野球のボールを借りて回したり、放課後は「ハイパーヨーヨー」(※3)で遊んだり。

当時は「誰かに見せるため」というよりも「自分が楽しむため」の遊びとして、技を練習していたんです。

そんな中、転機が訪れたのは中学生の時。

たまたまクラスメイトの前でジャグリングを披露する機会がありました。友達に「ジャグリングできるんでしょ? やってみてよ」的な、軽いノリで頼まれて。

正直気乗りしなかったのですが、いざやってみると、これまでの人生で起きたことのないような大きな歓声が上がったんです。

その時初めて「パフォーマンスを人に見せることの楽しさ」に気がつきました。

※1……コンパイルが開発、徳間書店インターメディアから発売されたパズルゲーム。現在は株式会社セガから販売されている。
※2……アメリカのウィザーズ・オブ・ザ・コースト社が開発、販売するトレーディングカードゲーム。
※3……株式会社バンダイから発売された競技用ヨーヨー。

――以来、プロパフォーマーになるために技術を磨いてきたのでしょうか?

謳歌さん
いえ、最初はプロになる気はなかったんですよ。僕はもともと目立つことが好きではなかったので。

一方で、昔からオタク気質なところがあり、『ぷよぷよ』や『MTG』も大会に出場して腕を競うくらいには「何かを極めること」が好きでした。

当然ジャグリングも例に漏れず、中学時代の経験以降も、自分の中でどんどん技を極めていって。

高校時代にジャグリングの全国大会に出場したのですが、初出場にして準優勝を経験し大学時代には別の大会で優勝することができました。

結果が順位という形で目に見え始め、そして就職活動を経て自分の本当にやりたいことを真剣に考えた時に「自分のパフォーマンスを仕事にしたい」という思いが生まれてきたんです。

そんな心境の変化があり、大学卒業後は就職をせずに、パフォーマーとして独立することを決意しました。

TikTokフォロワー46万人! コロナ禍で変わった新たな“ステージ”

――大会で結果を残していたとはいえ、就職をせずにそのままパフォーマーとして独立するのは、なかなか険しい道だったかと思います。どのようにやりくりされていたのでしょう?

謳歌さん
おっしゃる通りで、仕事の依頼が一気にやってきても、それが毎月あるかどうかは分からないような状況でした。

そこでとりあえず安定した収入を確保するために、ショーが見られるバーに勤めて、店員兼パフォーマーとして働くことにしたんです。

とはいえ夜型の生活で睡眠不足が続き、体を壊してしまって。

以降はバーに出演もしつつ、地域の行事やストリートパフォーマンスに力を入れ、地道にキャリアと経験を積んでいきました。

そして転機となったのは、2011年頃。まだ今ほど活発ではなかったYouTubeで、自分のパフォーマンスの動画を上げ、それがバズったことで生活がガラッと変わりました。

YouTubeというと、今では動画の再生数を増やして広告収入を稼ぐことがメジャーでありますが、僕の場合は人気になった動画を通して、出演依頼をいただくことが増えたんです。

パフォーマンスは非言語ですから、動画を世界中の方に視聴していただけて、海外からのオファーも多数いただけるようになりました。

そして日本はもちろん、世界22カ国に招待されパフォーマンスをさせていただくことになったんです。

――現在はどのような活動を?

謳歌さん
新型コロナウイルスの影響で、パフォーマーとしてステージに立つ機会はかなり減ってしまいました。

ですので現在はパフォーマンスを軸にした、2つの取り組み中心に活動しています。

1つ目はオンラインストアの運営。

パフォーマンスで使用する道具というと市販品もあるにはあるのですが、僕は自分で使う道具は自分で作っていて。

それを「販売して欲しい」という要望があり、オンラインストアを立ち上げました。

大人の男性から女性、こどもでも使えるよう、それぞれの身体や指のサイズに調整したものを販売しています。

謳歌さん
2つ目は動画の制作ですね。YouTubeもそうなのですが、最近はTikTokに力を入れています。

というのもコロナ禍になる前に、あるSNSの活用が上手いある友人(※)から「謳歌さんはTikTokと絶対相性がいいと思うからぜひやってみて欲しい」と強く勧められて。

そこで始めてみたところ、アカウントを立ち上げて2年で46万フォロワーを獲得。現在はおかげさまで収益化もできています。

最初は収益化なんて全然考えていなかったのですが、今ではTikTokを通じて初めて僕を知ってくれた、という方も多くいらっしゃるくらいで。

そして訪れたコロナ禍により、図らずも自分の活動の拠点が、オフラインからオンラインへとシフトせざるを得なくなりました。

オフラインのショーとはもちろん全く勝手が異なりますが、同じ動画コンテンツでも、YouTubeとTikTokでは全くアプローチは異なります。

それぞれの媒体(ステージ)別に、もっとも“刺さる”ための効果的な方法を模索しながら、日々パフォーマンスに磨きをかけています。

※プロ奢ラレイヤーさん
https://twitter.com/taichinakaj?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

成功の鍵は“メタゲーム”の考え方にあり? 謳歌さんに聞く、転用力の重要性

――TikTokにおいて、わずか2年で46万人のフォロワーを獲得。何か秘訣はあったりするのでしょうか?

謳歌さん
これは今回のTikTokに限ったことではないのですが、僕は「あるスキルを別の形で転用する」ことが得意なんです。

あえて言うなら「転用力」でしょうか。転用の持つ可能性に気がついてからは、僕は何度もその力に救われてきました。

最初に転用の力を取り入れたのは、高校生の時。先ほどお話した、ジャグリングの日本大会で2位を獲得した時のことでした。

当時の僕はジャグリングの経験がそこまであったわけでもなく、当然大会常連だったと言うわけでもありません。

そんな僕が高順位を獲得できたのは、それまで培ってきたカードゲーム『MTG』で学んだ「メタゲーム」の概念を取り入れたからなんです。

――「メタゲーム」ですか? あまりカードゲームに馴染みのない方には聞き慣れない言葉です。

謳歌さん
カードゲームには、いわゆる「流行り」というものが存在します。

Aという強いデッキ(山札)が、数多くのプレーヤーたち(プレーヤー全体を指して「環境」とも言います)の中で流行れば、自然と「デッキAの弱点となりうるデッキB」が流行っていきます。

デッキBによりデッキAが「環境」から駆逐されていけば、今度は「デッキBの弱点となりうるデッキC」が流行る。

しかしデッキCが流行れば、デッキCの弱点を取れるデッキAが再び流行り……といった具合で「環境」は、その時々に合わせて変わっていきます。

どんなデッキやカードにも弱点はあるので、カードゲームはいわば複雑な「じゃんけん」のようなもの。

いかにこの「環境」を読み、自分がどんなカード・デッキで勝負に挑むのか――。
メタゲームとは、そういった「ゲームの外側で行われる、流行の変動に応じた駆け引き」のことを指します。

僕は小さい頃から「MTG」に熱中していました。だから自然とメタゲームの考え方を、ジャグリングの大会にも応用できたんです。

「今、競っているトップパフォーマーたちが取り入れている演目は何なのか」。
「彼らと僕を比べた時に、審査員からより高い評価をいただくにはどうしたらいいのか」。

一高校生だった僕が、歴もスキルも上のパフォーマーたち相手に、ただ漫然と大会に臨むだけでは結果を出すことはできません。

大会でより自分が目立ち、ひいては良い成績をおさめるための手段として、メタゲームの考え方を取り入れた、というわけです。

――ジャグリングの大会でカードゲームのスキル(メタゲーム)を取り入れたように、他のことでも転用を取り入れてきたのでしょうか?

謳歌さん
そうですね。

パフォーマーとしてのステージングも、他のジャンルのものを参考にしています。

例えば先ほど「パフォーマーとマジシャンはどう違うのか」という話をしましたが、マジシャンの方たちは、お客さんの心理を動かすプロフェッショナル。

だから「どんな順番で見せるか」「何をやって、何をやらないか」をとても気を遣っています。そうした見せ方の工夫や入念な準備があるからこそ、観客は驚いたり感動したりするんです。

僕はマジシャンではありませんが、マジシャンの方たちが使うテクニックを勉強して、自分のステージに活かしていますよ。

YouTubeやTikTokも同じで、たくさんのチャンネル登録者やフォロワーを獲得している人を日夜研究し、自分のパフォーマンスや動画にどう活かすかを常に考えるようにしています。

TikTokでフォロワーが増えたのも、僕を誘ってくれたプロ奢ラレイヤーさんのSNS運用や戦略をかなり参考にさせていただきました。

自分が活動しているジャンルの良し悪しや物差しだけしか持っていないと、どうしても視野が狭くなってしまいますから。

「Aというジャンルのスキルを、Bという分野で活かすこと」。これはパフォーマンスやSNSに限らず、あらゆるビジネスにとっても必要なことなのではないでしょうか。

人生に無駄なものなんてない。「転用力」が明日の自分を作る!

――謳歌さんの今後の展望について聞かせてください。

謳歌さん
TikTokをはじめとする動画コンテンツは今後も続けていきますが、オフラインのイベント、ステージの活動にも再び力を入れていきたいですね。

クラウドファンディングを実施して資金を募り、2020年に開催予定だった主催イベント「TrueAct」が延期の末、先日(2021年2月)ようやく開催することができました。

ずっとショーの世界に生きてきた人間としては、やはり生のパフォーマンスを見ていただきたいなと。感染症対策を取りつつ、今後はオフラインでのパフォーマンスの機会を増やしていけたらと思います。

――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

謳歌さん
言葉にするとありきたりかもしれないですが、人生に無駄なものなんてないなと思います。

僕はもともと社会性がある人間ではないと、自分では思っています。

だからもし自分の人生の何かが間違っていたら、ずっと部屋に引きこもってゲームをしているような人になっていたかもしれません。

でもそんな自分の性格の良い面を見つけたり、好きで突き詰めていたものを「転用」することで、どうにかここまでがんばってくることができました。

100人いれば100通りの過去があります。どんな人にも、自分にしかない「転用」のポイントがきっとあるんじゃないでしょうか。

依然としてコロナ禍は続き、厳しい情勢が続いています。こんな時だからこそ自分の過去と向き合って、自分の持ち味を今の課題や、何か新しい挑戦「転用」できたら――。

あなただけの「転用」が、あなたの未来のヒントになってくれることを願っています。

取材・文・撮影=内藤 祐介

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