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身近な外出から国内・海外旅行まで。高齢者の「出かけたい」を支援 社会起業家からのメッセージ

生ボイス

株式会社エス・ピー・アイ(あ・える倶楽部)/東京都渋谷区
代表取締役

篠塚恭一さん(55歳)

1961年、千葉県生まれ。大手旅行会社の添乗員を経て、旅行専門の人材派遣会社に勤務、“人づくり”を担ってきた。91年、「エス・ピー・アイ」設立。98年、高齢者とその旅を支える人々が集う場として「あ・える倶楽部」を立ち上げ、介護旅行サービスを本格化。2006年には、広くトラベルヘルパーを育成することを目的に「日本トラベルヘルパー協会」を設立し、多くのプロを輩出している。教育、医療研究機関との連携も進んでおり、その活動は大きな広がりを見せている。

添乗員の育成、派遣を主事業とするエス・ピー・アイを設立したのは1991年。篠塚恭一が29歳の時である。当時、急速に進み始めた高齢化に伴い、旅行業界でもシニア市場の拡大が進んだが、その実、高齢者や健康に不安を抱える人に対するサービスは“空白”だった。高齢になったがために、体が不自由になったがために、旅のひとつもできないというのは
「おかしい」――強い疑問を抱いた篠塚は、90年代半ばより、旅を喜びとする全ての高齢者を支援する「介護旅行」事業をスタートさせた。以来20年以上、文字どおりパイオニアとして走り続けている。
担い手は、トラベルヘルパー(外出支援専門員)たち。介護技術と旅の業務知識を備えた介護旅行のプロで、国内・海外旅行はもちろん、買い物や食事などといった日常の外出支援も行う。この資格制度を設け、人材育成に努めてきた篠塚は、10年前に「日本トラベルヘルパー協会」を設立、広く一般に向けた講座や実地研修を通じて、プロの養成に力を注いでいる。ここから誕生したトラベルヘルパーは800名を超えた。これまで重ねてきた“種まき”が、「ようやく芽を出し始めた」と、篠塚は今、未来への手応えを感じている。

全ての高齢者が持つ欲求や夢を、かなえられるようなインフラづくり。
それが、「真に豊かな社会」の幕開けとなる

━介護旅行を始めたのは?

高齢者が「温泉に行きたい」「思い出の地を訪れたい」と思っていても、その受け皿がなかったんですよ。事業を始めた20年ほど前は、70歳以上ともなれば、海外旅行をするのに健康診断書が必要な時代でしたし、杖はダメ、車椅子はダメと、どの旅行会社も高齢者や、いわんや要介護者向けの旅行サービスには消極的でした。

業界がシニア市場の拡大、生涯顧客の獲得を謳う一方で、そういった現実があり、ものすごく矛盾を感じたわけです。長く働いて、この国を守ってきた人たちが、たまたま介助が必要になったからといって、例えば、故郷の墓参りもできないなんて話はおかしいでしょう。「当たり前のことを当たり前にする」、私としては普通のことをやってきたつもりなんです。

━現在、利用者の平均年齢は80歳を超えているとか。

82歳で、要介護度の平均は3・5です。
この20年間、2年に1歳ずつ平均寿命が伸びてきたわけでしょう、顧客年齢層も上がってきました。長生きできる高齢者が増えたことは豊かな国になった証ではあるけれど、でも、その豊かさが幸せに結びついているのだろうか…ずっと考えてきました。

我々にできるのは、介護旅行を通じて、その方に生きる自信、幸福感のようなものを届けることだと。

実際、外出をあきらめていた方が、旅でも何でも、目標を見つけて出かけると、驚くほど変わります。表情の少ない寝たきりの人が笑ったり、意欲的に食事をするようになったり。外出や人との交流がQOL(人生の質)向上のきっかけになるのは確かで、そういう現場をたくさん見てきました。そして、それがトラベルヘルパーたちの大きなやりがいになっていることも、また確かです。

━ トラベルヘルパーの養成にも注力されています。

最初は、うちの職業訓練として始めたのですが、介護人材の教育事業として公開しようと、日本トラベルヘルパー協会を設立したんです。我々の活動に共感する介護士や医療従事者個人が、多く集まってくれたなか、最近では、行政、観光関係者などの参加も増えています。

あるいは、去年から出てきた介護保険外サービスの動きを受けて、新しいビジネスとして取り入れようと、法人単位で参加するケースとか。もとよりトラベルヘルパーの仕事は保険外サービスなので、制度の縛りがありません。従来の硬直的なサービス枠を超えて、介護人材が職能を高め、職域を広げていく機会につながれば、それはうれしい話です。

━ 今春、福祉の専門学校にもトラベルヘルパーの学科が新設され、動きが大きくなりそうですね。

これからは、保険外サービスという新しい医療や介護のかたちが当たり前になって、いい仕事をすれば、収入もちゃんと得られるような社会になるよと、ようやく若い人たちに言えるようになってきた。うちだけでなく、いろんなアクティビティが出てきて、業界は活性化されるでしょう。今、ターニングポイントを迎えていると思いますね。

でもまぁ、自由契約の世界で、いいサービスを提供すればお客さまが喜び、会社も社員も収益が上がるというのは、ごく当たり前の話で、「やっとここまで」というのが正直なところです。
本当の意味で動くのは、まだまだこれからですよ。全ての高齢者が持つ欲求や夢をかなえられるような、多様な生活感を持てるような、豊かな社会に向けてのインフラづくりを「できるまで」やっていこうと。「これぞ、究極の介護旅行」というのも企画したいし(笑)。

本来飽きっぽい私がここまで続いているのは、しんどくても、やっぱりこの仕事が面白いから。

取材・文/内田丘子 撮影/刑部友康

※本記事は取材当時の情報を基にしており、団体名、サービス名、法令等が現在と異なる可能性があります。しかし、取材時の想いや状況を正確に伝えるため、内容をそのまま掲載しています。ご了承ください。

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