【この記事でわかること】
・個人事業主とフリーランスの違い
・個人事業主として開業するメリット/デメリット
・会社員・個人事業主・法人それぞれの特徴と向いている人物像
個人事業主のメリットとして、開業や税務申告が簡単、税率が低いなどがあげられます。本記事では法人設立や会社員として働くことと比べた個人事業主のメリット・デメリットを解説します。会社員、個人事業主、法人、どのような人にどの働き方が向いているのかも紹介します。
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個人事業主とフリーランスの違い
フリーランスは基本的に個人事業主であり、両者の間に根本的な違いはありません。ただ、個人事業主は法律上の区分であるのに対し、フリーランスは働き方を指す言葉です。
そのため、24年3月時点においては、個人事業主には法律上の定義がありますが、フリーランスにはありません。
フリーランスは働き方を指す言葉
フリーランスとは、特定の企業や団体に所属せず、個人で仕事を請け負って生計を立てる働き方です。
語源は中世ヨーロッパの傭兵に由来します。当時は傭兵団に所属せず、自由に契約を結んで戦いに参加し、報酬を得る傭兵がいました。このような傭兵団の兵士のことを”自由な槍(freelance)”と呼んでいたことから、フリーランスという言葉が生まれたといわれています。
ちなみにソードやハンマーなどではなく、槍を意味する”ランス”なのは、当時は傭兵としての契約時に槍の本数を戦闘単位としてカウントしていたためです。
個人事業主は法律上の区分
フリーランスは働き方を指す言葉である一方、個人事業主は法律上の区分です。個人事業主とは、法人を設立せずに事業を営む個人のことです。
個人事業主のメリット
個人事業主は法人よりも簡単に開業でき、会社員よりも収入を増やしやすいです。その理由を、個人事業主の5つのメリットと併せて紹介します。
【個人事業主のメリット】
・法人よりも手続きが簡単
・会社員よりも収入を増やしやすい
・青色申告特別控除が受けられる
・経費計上ができる
・年収が低いうちは税負担が軽い
法人よりも手続きが簡単
個人事業主の1つ目のメリットは、法人よりも手続きが簡単なことです。
個人事業主は法人を設立するよりも手続きが簡単で、税務署に開業届を提出するだけで開業できます。その一方、法人を設立するには定款の作成や登記、役員の任命などのさまざまな手続きが必要です。
税務申告も個人事業主の方が簡単です。法人の場合は税理士に依頼するか、経理の専門家を雇用することが多いのに対し、個人事業主にはフリーの会計ソフトで確定申告を済ませる人もたくさんいます。
会社員よりも収入を増やしやすい
個人事業主の2つ目のメリットは、会社員よりも収入を増やしやすいことです。
一般的に、会社員の昇給は年1回の昇給試験や、定期的な人事考課によって行われます。昇給までに時間がかかり、すぐに収入を増やすことは難しいでしょう。
その一方で、個人事業主は売り上げアップが収入アップに直結します。スキルや経験を磨いてより多くの仕事を受注したり、単価を上げたりすることで、比較的スピーディに収入を増やしていけるでしょう。
また、ライターやデザイナーのようなフリーランス系の職種の場合、作業スピードも収入に直結します。仕事にかかる時間が半分になれば倍の仕事をこなせるようになり、収入も2倍になります。
もちろんこれは理屈上の話で、このとおりになるとは限りません。しかし、会社員は仕事にかかる時間が短くなっても、すぐに昇給に結びつくことは珍しいです。個人事業主の方が収入を増やしやすいのはたしかでしょう。
青色申告特別控除が受けられる
個人事業主の3つ目のメリットは、青色申告特別控除が受けられることです。
青色申告特別控除とは、青色申告で確定申告をすると受けられる控除のことです。一定の要件を満たすことで、最大65万円を所得金額から差し引けます。
控除を受けるためには”所得税の青色申告承認申請書”を提出し、複式簿記による帳簿の記帳が必要です。白色申告に比べると手間がかかりますが、節税効果は大きいです。
経費計上ができる
個人事業主の4つ目のメリットは、経費計上ができることです。
経費とは事業に必要な支出のことで、個人事業主は事業に必要な支出を経費にできます。経費を計上することで、課税対象となる所得金額を減らし、節税ができます。
経費として計上できる主な費用は、次のとおりです。
・物品の購入費
・サービスの利用費
・事業所の賃料
・交通費
・通信費
・接待費
・消耗品費 など
フリーのライターやデザイナーなど自宅で仕事をする個人事業主の場合、家事按分を利用できます。
これは家賃や水道光熱費などのうち、事業で使っている分と私用の分を按分し、事業利用分を経費にできる仕組みです。たとえば自宅のスペースの3割を事務所として使っているなら、家賃の3割を経費にできます。
なお、経費として計上できるかどうかは、その費用が事業に関連していることが証明できなければいけません。そのため、領収書やレシートなどの証明書は保管しておきましょう。
年収が低いうちは税負担が軽い
個人事業主の5つ目のメリットは、税負担が軽いことです。
個人事業主の税負担は年収によって異なります。年収が低いうちは、所得税や住民税の税率が低いため、税負担が軽くなります。
所得税の税率は、年収から経費を差し引いた課税所得金額に応じた、5~45%の累進課税です。年収が低いほど税率も低くなります。
個人事業主のデメリット
個人事業主のデメリットを、法人を設立する場合や会社員として働き続ける場合と比較して紹介します。
【個人事業主のデメリット】
・信用度が低い
・融資を受けづらい
・採用活動で不利になりやすい
・社会保障が弱い
・年収が高くなると税負担が重くなる
信用度が低い
個人事業主の1つ目のデメリットは、信用度が低いことです。
個人事業主は、法人と比べて事業規模が小さいことが多いため、経営基盤が不安定であると見なされやすいです。法人と比べて経営情報が開示されていないため、金融機関にとって信用判断が難しく、倒産リスクが高いと考える人も少なくありません。
個人事業主は信用を高める努力をすることが大切です。事業計画書をしっかり作成する、取引先や顧客との関係を良好に維持するなど、信用向上のための工夫をしましょう。
融資を受けづらい
個人事業主の2つ目のデメリットは、融資を受けづらいことです。
法人に比べて信用度が低いため、金融機関の審査に通らなかったり、融資額が少なくなったりする可能性があります。
個人事業主と会社員では、会社員の方がローンを組んだりクレジットカードを作ったりしやすいといわれています。ローンを組んだりクレジットカードを作ったりする予定があるなら、会社員のうちにしておいた方がいいかもしれません。
また、説得力のある事業計画書を作ること、毎年安定した売り上げを上げて返済能力があることを証明するなどの努力をすることで、事業用・私用の融資を受けやすくなります。
採用活動で不利になりやすい
個人事業主の3つ目のデメリットは、採用活動で不利になりやすいことです。
個人事業主は法人と比べ、採用活動で不利になりやすいといわれています。法人と比べて社会保険や福利厚生などの待遇が劣ることが多く、求職者にとっての魅力が薄いためです。
勤務時間や休日などの条件を明確にする、社会保険や福利厚生などの待遇を充実させるなど、求職者にとって安心できる環境を整えましょう。複数の求人媒体に掲載したり、人材紹介会社に依頼したりするのも効果的です。
社会保障が弱い
個人事業主の4つ目のデメリットは、社会保障が弱いことです。
個人事業主は雇用保険や社会保険に加入できないため、働けなくなったときの保障が手薄になりやすいです。国民年金の保険料は全額自己負担である上、厚生年金がなく国民年金のみになるため、老後への不安も大きいでしょう。
国民年金基金やiDeCoを活用した資産形成など、社会保障の不足分を自ら補う必要があります。
年収が高くなると税負担が重くなる
個人事業主の5つ目のデメリットは、年収が高くなると税負担が重くなることです。
個人事業主の税率は年収によって異なります。年収が低いうちは税負担が軽いですが、年収が高くなると税率も高くなり、負担も重くなります。
たとえば、年収が800万円の個人事業主の所得税は23%です。その一方、法人は年収の800万円以下の部分にかかる法人税は15%、年収800万円超の部分にかかる法人税率は一律23.2%となります。
会社員・個人事業主・法人、結局どれがいいの?
個人事業主、法人、会社員にはそれぞれメリット・デメリットがあります。自分に合った働き方、開業方法を選択するために、それぞれの特徴を理解することが大切です。
どの働き方・開業方法がどのような人におすすめなのかを紹介します。
会社員がおすすめの人
会社員のメリットは安定した収入と福利厚生が得られることです。スキルや経験を磨く機会が多く、組織の中で働くことで、チームワークや協調性を身につけることもできます。
給与が安定していること、雇用契約を結ぶことなどから、リスクを抑えたい人にもおすすめです。
【会社員がおすすめの人】
・安定した収入と福利厚生を求める人
・スキルや経験を磨きたい人
・組織の中で働きたい人
・リスクを抑えたい人 など
個人事業主がおすすめの人
個人事業主のメリットは自由な働き方ができることです。自分のスキルや能力を活かして、大きな収入を得ることもできます。リスクを取ってチャレンジしたい人、自分らしさを追及したい人におすすめです。
【個人事業主がおすすめの人】
・自分の専門分野で活躍したい人
・自分のビジネスを立ち上げたい人
・ビジネスをスモールスタートしたい人
・副業や兼業で収入を増やしたい人 など
法人がおすすめの人
個人事業主には自由な働き方ができる、手続きが簡単などのメリットがありますが、収入や福利厚生が不安定になるなどのデメリットもあります。年収が800万円を超えると、所得税の税率が高くなるため、法人化によって税負担を軽減できることが多いです。
法人には大きな事業を展開したり、信用力を活かした採用活動や資金調達をしたりできるメリットがあります。
【法人がおすすめの人】
・大きな事業を展開したい人
・多くの人材を雇用したい人
・多額の資金調達をしたい人
・年収800万円を超えた個人事業主 など
年収800万円を超えたら、個人事業主から法人化を考えよう
個人事業主は年収が800万円を超えると所得税率が23%となり、以降、最大45%まで引き上げられます。そのため、法人化によって税負担を軽減できることも多いです。
法人は設立や運営に手間と費用がかかりますが、節税効果や資金調達のしやすさなど、メリットも多いです。年収が800万円を超えたら、法人化を検討することをおすすめします。
個人事業主にはメリットもあればデメリットもあります。どのような働き方をしたいかを改めて見つめ直し、自分に合っているのか、メリットの方が多いと思えるかで決断するようにしましょう。
<文/赤塚元基>