皆さんは自分の仕事と、どう向き合っていますか?
「正解」が存在しない中、何を基準に、何を大切に仕事を進めるのか、常に自問自答を繰り返さなければなりません。
今回お話を伺ったのは、作曲・編曲家のアサノハヤトさん。
アサノさんは人気PS4ソフト『BLUE REFLECTION』の劇中音楽を始め、数多くのゲームやアニメなどの楽曲を手がけてきました。
そんなアサノさんは満を持して独立したことで、現在は作曲・編曲だけにとどまらずライブや配信、SNSなど活動の幅も広がっています。
今回はアサノさんのキャリアの変遷とともに、独立の理由についてを伺いました。その理由は『BLUE REFLECTION』がヒットした理由とも繋がります。
一体なぜ、アサノさんは独立したのでしょうか。
アサノハヤトさん
作曲・編曲家
4歳から鍵盤を始め、高校3年生の時に「ジュニアエレクトーンフェスティバル2008」で金賞を受賞。
株式会社ガスト(現:コーエーテクモゲームス)へ入社し、アトリエシリーズの音楽、効果音などを担当。コーエーテクモゲームスへ合併した後も引き続き担当し、4年間ガストのサウンドを手掛ける。
2017年3月31日付でコーエーテクモゲームスを退社し、フリーランスの作曲・編曲家となる。
代表作にゲーム、アニメ『エスカ&ロジーのアトリエ 〜黄昏の空の錬金術士〜』劇中音楽、主題歌、『BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣』劇中音楽など。
入学金100万円を機材に投資!? アサノさんが作曲家の道に進むまで
―現在フリーランスの作曲・編曲家として活躍されている、アサノさん。現在に至るまでの経緯を教えてください。
音楽を始めたのは4歳くらいのころだったと思います。家庭の方針で、両親が僕と兄に音楽の教育に力を入れてくれて。幼稚園の頃から僕は、電子オルガンを習っていました。
当時僕に電子オルガンを教えてくれていた幼稚園の先生がとても好きだったので、先生の存在がモチベーションとなり、メキメキと腕を上げていきました(笑)。
小学校に上がってからは、電子オルガンで県、関東、全国大会でも結果を残せるようになり、住んでいた地域の楽器店にスポンサーとなっていただきました。
―小さい頃から、実力者だったのですね…!
いえいえ。その後は中学・高校と電子オルガンを続けつつドラムなど他の楽器も始めたりしながら、それ以外にもバンド活動のサポートなどもやるようになりました。
そこで出会ったのが、現在作曲家として活躍する佐伯高志さんでした。
(※佐伯高志さん…作曲家・編曲家。20代の頃から作曲活動を始め、アイドルや声優などの楽曲を多数制作。アサノさんの楽曲ではミックス等も担当)
―佐伯さんといえば『ラブライブ!』シリーズや、声優の新田恵海さんや大橋彩香さんなどの楽曲を手がける作曲家ですが、やはりその出会いが、アサノさんのその後の音楽人生に大きな影響を与えたのでしょうか?
そうですね、大きかったですね。
高校卒業後の進路は、作曲家の道に進もうかと考えていたんです。卒業後はフリーランスの作曲家になるために、親が大学進学のために用意してくれた100万円を握りしめ、高志さんと秋葉原へと向かい、DTMに必要な機材に充てました。
―なかなか勇気のある決断ですよね…。
今振り返ると「若さってすごいな」って思います(笑)。
そんな感じで、高校卒業後はバイトをしながら、曲を書いては高志さんに聞いてもらったり知人の音楽関係の仕事を手伝ったりしていました。
僕と高志さんはとにかくゲームが好きなので、曲を作っているかゲームをしているかバイトしているかの毎日でしたね(笑)。
そんな生活が2年ほど続いてから、前職の株式会社ガスト(現:コーエーテクモゲームス、以下ガスト)に入ることになったんです。
どうしたらユーザーに喜んでもらえるか。代表作『BLUE REFLECTION』を支えた、作品作りへの姿勢
―なぜガストへの入社を決めたんですか?
最初はインスト曲(ボーカルの入っていない楽曲)を書きたかったんです。
それととにかくゲームが好きだったので、、だったら、ゲーム制作会社なんじゃないかなと。そんな折、ガストの「イリスのアトリエ グランファンタズム」というゲームで遊び、感銘を受けガストを受けることにしました。
面接でいったんは落とされてしまったものの、その後すぐに「人が足りないから、バイトとして来て欲しい」と頼まれて。
最初は3カ月の契約だったのですが、せっかく来たからには「何か爪痕を残したいな」と思い、頼まれた仕事はできる限り良いクオリティで仕上げようと取り組みました。
そんな姿勢が伝わったのか、当時の上長から「会社に残って欲しい」と頼まれ、それからはどんどん任される仕事が多くなっていきました。
―入社してからのお仕事はいかがでしたか?
最初の大きな仕事は『エスカ&ロジーのアトリエ 〜黄昏の空の錬金術士〜』というゲームのサウンド制作でした。その後この作品はアニメ化するのですが、その主題歌の社内コンペが行われ、採用していただきました。
この時の経験は大きかったですね。
―具体的にどんなことを得られたのでしょう?
どんな音楽を届ければ、ユーザーさんたちが喜んでくれるのか。
また、ゲームのBGMはあくまでゲームに寄り添う形でないといけません。目立ちすぎず目立たなすぎず、そのシーンやキャラクターの心情をより一層演出し、遊んでもらう人に届ける1つの手段として音楽がある、という考え方は入社してから芽生えました。
今まではとにかく時間的な制約が厳しく、目の前の仕事に取り組むことに夢中だったのですが「ゲームにおける音楽が担うべき役割」をもう一度考えるきっかけとなりました。
―それが代表作『BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣』(以下、BLUE REFLECTION)の音楽制作に繋がってくるんですね。
はい。『BLUE REFLECTION』は人気イラストレーターの岸田メルさんが、原案、キャラクターデザイン、作品監修をしており、僕もサウンドディレクターとして参加させていただきました。
(※岸田メル氏…イラストレーター。ガストの人気シリーズ『アトリエシリーズ』などのキャラクターデザインを担当する。近年は俳優としても活動)
それまでのアトリエシリーズや他の仕事で築いてきた経験から、音楽的なアプローチで作品が盛り上がるようコミットさせていただきました。
制作期間中、岸田さんとはとにかくたくさん話し合いました。意見がぶつかることもしばしばありましたね(笑)。
お互いにとことん話し合い、高めあった結果生まれたのが『BLUE REFLECTION』なので、本当に良い仕事ができたと思っています。
そしてこの作品はもちろん、岸田さんのスタンスや考え方は、自分のキャリアを考える上でも大きな転機となりました。
よりユーザーと近い距離で仕事をするために。岸田メルさんから学んだこと
―具体的に岸田さんのどういったところに影響を受けたのでしょう?
岸田さんはイラストレーターとしてだけでなく、様々な領域で活躍されているんですよ。近年ではテレビやラジオでも大人気な方で。
もちろん岸田さんの描かれる素敵なイラストやいろいろなアウトプットがあっての人気だと思いますが、SNSが発達した現代では、作り手とユーザーの距離がより近くなり「個人が好かれる時代」になっているんだなと、岸田さんを見ていて強くそう感じたんです。
実は『BLUE REFLECTION』の前から、ゆくゆくは自分も独立するということについて、漠然と考えていて。
なんというか、もっとよりユーザーに近い距離で何かがしたいなと思ったんですよね。
自分の手がけた曲を聴いてくれた人がどんな想いで聞いてくれたのか。その人の胸に刺さったのか、刺さらなかったのか。ユーザーはどんなことを僕に求めてくれているのか。
ユーザーと距離が近くなることで、リアル感も生まれるし、自分にとってより良いアウトプットに繋がるんじゃないかと考えていました。
そんな矢先に岸田さんと出会ったので、少なからず岸田さんには影響を受けましたね。
―『BLUE REFLECTION』という大作をリリースし、満を持してガストから独立したわけですが、その後はどういった活動をされているのでしょう?
作曲や編曲、鍵盤演奏などの仕事をいただき活動しています。
その他にもインディーズのゲームが好きなので、そういったゲームの曲も書いています。いい意味でミニマムな規模ですし、また効果音含め全体のサウンドのご相談もいただけるので、自由度が高くとても楽しい仕事ですね。
またありがたいことに、前職のガストからも仕事をいただいてます。最近は作曲・編曲だけでなくライブパフォーマンスをする機会も増えていきました。
まじで今日来てくれた人も来れないけど応援してた人たちも、ありがとう。
ほんっっっと~~~に楽しかったです!
しかも、自分の作った曲の生歌も聴けるとか幸せすぎか?2度おいしいゾ?
アーティストの方々もバンドさんもスタッフさんも皆素晴らしすぎ!お疲れ様した!文字数ピッタ?#ガストライブ pic.twitter.com/47GbO1wlcH— アサノハヤト / Hayato Asano (@hayamana55) 2018年11月24日
https://hayatasano.hatenablog.com/entry/2018/11/29/003136
SNSも積極的に活用するようになり、作品やライブでの反響がリアルタイムで聞くことができるようになりました。
その都度良かった点、次に生かしたい点などが見えてくるので、自分を次のスタイルへより投影しやすくなっていますね。
まだまだ模索中ですが、独立してから一層ユーザーと近い距離で仕事ができているなと思いますし、会社員時代ではできなかったこともできて、これまでにない自分の成長を実感できています。
自分の周りにいてくれる人への感謝を忘れない。独立する上で必要なこと
―アサノさんの今後の展望を教えてください。
今まで通り曲作りやゲームのサウンド制作に軸足を置きつつ、よりいろんなところに出ていきたいですね。
ライブや配信なども積極的に行っていきたいですし、他にもいろいろと活動を増やしていけたらいいなと思います。
―最後に読者へアドバイスをいただけますか?
独立して改めて思ったのは、人間関係はとにかく大切にすべきだ、ということですね。
今回お話に挙げさせていただいた高志さん、岸田さん、前職のガストには今でも何かしらお仕事であったり、関わりがあったりします。
独立してから新たに仕事をいただけるようになった関係もありますが、独立する前からお世話になっている人に、今もお世話になっていることも多いです。
これは僕だけでなく、世の中の独立を志す大半の方は、皆さんそうなのではないでしょうか。
仕事に限ったことではありませんが、自分のことを大切にしてくれる人に対して、それ以上に自分がその人のことを大切にするべきだと思っています。
間違っても恩を仇で返すようなまねはしない。仕事とはいっても結局は人間関係があってのものなので、誠実に大切に生きることが結果的に、仕事にも繋がってくるのではないかと思います。
周りにいてくれる人への感謝を忘れず、誠実にお付き合いできていれば、きっと独立もうまくいくのではないでしょうか。
取材・文・撮影=内藤 祐介