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患者と家族に寄り添い、「意思決定」や「重症児保育」を支援する 社会起業家からのメッセージ

楽患ナース株式会社/東京都足立区
代表取締役

岩本 貴さん(46歳)

1971年、東京都生まれ。アクセンチュアに在籍していた2001年、患者への情報提供を主目的とする「楽患ねっと」(翌年NPO法人化)を立ち上げる。07年に「楽患ナース」を設立し、追って「在宅看取り」ができることを特徴とする訪問看護事業を本格化。その活動のなかで在宅の重症児の存在を知り、「楽患チャイルド」「楽患ニーニョ」という保育園を開設した。「重症児に人生の喜びを」をコンセプトに、看護師のほか理学療法士、保育士などの専門職によるケアが行われている。

岩本貴の前職はITコンサルタント。大学院で専攻したニューラルコンピューティングを生かし、総合コンサルティング企業・アクセンチュアでシステム構築などに従事していた岩本が、舵を切ったのは30歳の時だ。
皮切りは、有志らとともに、適切な医療を求めている患者やその家族への情報提供を目的とした「楽患ねっと」の立ち上げである。まだ各種患者会のホームページもなかったような時代、持ち前のITリテラシーを駆使したその活動は、患者同士の情報交換の促進などに大きく貢献してきた。そして2007年には、看護師資格を持つ医療コーディネーターによる「患者が納得のいく病院や治療を選択できる支援」を事業化するために、「楽患ナース」を設立した。
 事業展開するなか、“現場のプレーヤー”として在宅患者向けの訪問看護にも進出し、さらに現在では、重症児のための保育園「楽患チャイルド」なども運営する。その進化、多角化は、ともすれば社会から置き去りにされかねないニーズに対して、正面から応えようとしてきた結果にほかならない。患者や家族の声に耳を傾け、本来あるべき患者本位の医療実現に向けて、走り続けているのである。

地域に潜む医療課題をすくい上げ、
患者の悩みや困り事を解きほぐす。
それが、「あるべき医療」探求への道筋になる

━ 畑違いの医療分野で起業された理由から教えてください。

 入口は、当時付き合っていた妻の私的な勉強会に誘われたこと。彼女は大学病院の看護師をしていたんですけど、“患者ファースト”になっていない医療現場をどう変えるか、というのが大きなテーマでした。参加してみると、患者さんとか研究者とかいろんな人がいて、みなさんいいアイデアを持っている。「これはITでかたちにできる」とピンときました。

 例えば同じ病気を患う人たちで組織される患者会は、当時「知る人ぞ知る」存在で、多くの人は連絡先さえ分からなかったのです。そこでまずは、地域と病名を入力すれば、会の所在が一目瞭然のホームページを作成しました。希少疾病などの場合は、会自体がないこともあります。なので、メーリングリストを作成し、仲間を募りましょうと。「自分と同じ病気の人と話せるとは思わなかった」という声が返ってきた時には、大きな手応えを感じましてね、どんどん引き込まれていったのです。

━ 「楽患ナース」の事業は?

 端的に言えば、患者さんの意思決定を支援するサービスです。治療を受ける病院にしろ、治療方法にしろ、患者さんは概して「本当にこの選択でいいのだろうか」と迷うものです。不安もある。そこには何らかの原因があるはずなのですが、本人が気づいていないことも多い。そこをじっくり聞き出し、解決に向けた中立的な助言をするのが看護師資格を持つ医療コーディネーターの役割です。この看護師というのがミソで、医療現場を知るプロであるのと同時に、相手の心のひだまで迫ることができるんですね。このサービスは患者さんから対価をいただくことになるので、「楽患ナース」は株式会社にしています。

 一方、「楽患ねっと」に関しては、その後、世の中のネット環境が整備されたこともあって、患者会の紹介を柱とする活動は、一定の役割を終えたとして閉じました。

━ そうすると、今のメーンは?

 重症児のための保育園の運営です。2カ所あって、それぞれ定員5名でスタートしています。経緯をお話しすると、まず、「楽患ナース」の事業を進めるうちに分かったのは、在宅医療を望む人が多いということ。しかし現場には、それをケアできる人材が不足している。だったら「相談に乗るだけではなくプレーヤーもやろう」と、看護師さんを集めて訪問看護を始めたんですね。で、現場に入ってみると、高齢者だけでなく、生まれつき気管切開しているとか、胃ろうだとかの重症児が増えている現実を目の当たりにしたのです。加えて、ケアする家族はろくに睡眠も取れていないという現実も。ならば、昼間だけでも預かる保育園をやろうじゃないかと。

 当初は、親御さんの負担軽減を目的に始めたわけですが、やってみたら、こども自身の成長、発達にすごく寄与していることが実感できたんですよ。体の動きが良くなったとか、笑顔が増えたとか。家にこもるのでなく、多くの人や自然と触れ合えることがプラスに作用しているのでしょう。

━ あらためて、起業して良かったですか?

 初めは、有志の思いやアイデアをかたちにするべく、事業を“仕組み化”することに頭がいっぱいで、周りから「ビジネス臭が…」と煙たがられるようなこともありました(笑)。でも、患者さんも含めて、交流する人たちからたくさんのことを教えてもらい、助けてもらって、私自身も成長できたと感じています。これからも、患者さんの声に寄り添ってケアの体制を充実させながら、社会に対して、私たちの経験や知見を発信していきたいですね。

取材・文/南山武志 撮影/刑部友康 構成/内田丘子

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