「僕なんかで大丈夫ですかね?」と、照れくさそうに笑いながらこちらの質問に真剣に、そして謙虚に受け答えしてくれる、前田公輝さん。
人懐っこさを感じさせる少年のような笑顔を見せる一方、芝居では影のあるクールな役柄がよく似合う。
前編では、幼いころから仕事をされてきたゆえのかっ藤と仕事と学業の両立について語っていただいた。
後編では、話題のドラマや映画の数々に出演され役者として覚醒されたお話や、1月23日より主演される舞台「天才てれびくん the STAGE~てれび戦士REBORN~」についてお伺いするとともに、プライドの捨て方やリーダーとボスの違いについてもお聞きしました。
前田公輝さん
俳優
1997年ホリプロ・インプルーブメント・アカデミーに第1期生として入所し、6歳で芸能界デビュー
2003年から2005年までNHK教育テレビ『天才てれびくんMAX』でてれび戦士として3年間出演。
2007年ホリプロに所属。
2008年映画『ひぐらしのなく頃に』で、前原圭一役に抜てきされ、初主演を果たす。その後さまざまな役を重ね、
1月10日公開の映画『カイジ ファイナルゲーム』に高瀬強士役で出演中のほか、
1月23日からは、主演舞台「天才てれびくん the STAGE~てれび戦士REBORN~」が上演される。
熱意がいきすぎてもいけない。裸の王様ではダメ。共存することが大切
-何かオーディションでのエピソードはありますか?

役者は2次元を3次元にすることも必要です。以前、映画『20世紀少年』のカンナ役のオーディションで、平愛梨さんが腰まであった長い髪をばっさりと切り、風貌から「カンナ」になりきって臨んだ結果、3000人の中から選ばれたという話が話題になりましたよね? 役者の間でも格好いいなってうわさになっていたんです。
それ実は、僕も経験があって。
-役になりきってオーディションを受けたと?

はい。『ガキ☆ロック』のオーディションでした。浅草を舞台にした義理人情あふれるストーリーなんですが、僕、プライベートで神輿を担ぐんです。
だから、たまたま主人公と似た感じの法被を持っていて。
原作では「ロック座」という文字があったから、それもビニールテープで貼って加工して(笑)。原作と同じ格好でオーディションに行ったんです。
今思えば「オーディションなんだから芝居で勝負しろ!」って話なんですけどね(笑)。
-結果はどうだったのですか?

受かったけど主役じゃなかった。やっぱ、マネはダメですね。そこから発想されたものならいいんですけど。
原作に寄せていったことで「気合いはすごいよね」と熱意をかってくれる人と、「そういうことじゃないんだよ」って思う人と、審査は賛否に分かれたそうなんです。
でも芝居をちゃんと評価してくれる人がいて、主人公の幼馴染みの「マコト」役をいただくことができました。
-熱意あふれるアピールも大切ですが、やはり「芝居」なのですね(笑)。

一世一代というかオーディションも120%でいつもやっていたんですが、熱意が行き過ぎてもダメだし、やっぱり実力が大事で、両方が共存してはじめてうまくいくんだと思います。
なりきり衣装でオーディションに行かせてくれる事務所の包容力もすごいありがたかったですけど。
信頼できる役者仲間がいるから…。それが僕のモチベーション
-すべてのオーディションに受かるわけじゃなく、気持ちが沈むこともあると思うのですが、モチベーションはどのように保っているのでしょうか?

家族以外だと、役者友だちの窪田正孝くんと、太一くん(早乙女太一さん)と、阿須加(工藤阿須加さん)とは凄まじく仲が良いんです(笑)。
もう家族みたいで、むかつくぐらい本当にいいやつなんです。それに、みんなとにかく芝居が“やばい”んです。
-切磋琢磨する、ライバルということでしょうか?

切磋琢磨はもう超えている感じですね。もちろん負けたくないって気持ちもあるんですけど、それ以上にみんなの成功とか世の中に出ていることもすごく嬉しいんです。
それくらいみんないいやつなんです。彼らの魅力に魅せられすぎて、僕自身が彼らのファンなんですよね。
-目をキラキラさせながら、友だちのことを語られますね。本当に好きであり尊敬しているという気持ちが伝わってきます。

あこがれている先輩は誰ですかって聞かれると、まさくん(窪田正孝さん)って答えています。もともと大ファンでまさくんは本当に別格で、出演している作品は、すべて見ています。しかも犬顔で目がクリッとした感じの顔も、好みのタイプなんです(笑)。
僕のほうが年下なんですが、タメ口でいいよって言ってくれたり。目線を合わせてくれるんですよ、格好よすぎてむかつくんです(笑)。もう人間が格好いい、男らしくて。
実は、「アルジャーノンに花束を」の現場の待機中に、まさくんに告白しているんですよ。河川敷で川を見ながら「話したいことがあるんですけど・・・、僕クボタさん大好きなんです」 って(笑)。
-そんな信頼できる友だちがいてくれるから、今の「前田公輝」があると。

小さいころから芸能の仕事をやってきたので、友だち関係でも裏切りとかなんやかんやあったんですが、いま仲のいい8人くらのグループがあって、彼らのおかげでモヤモヤが全部解消したんです。
「気を遣いすぎ」とか「そんなんでキライになるわけないじゃん」って、さらっと言ってくれて。もっと自由に生きようって思えたんです。
「キライを明確にしたら好きが見えてきた」。最近、これがモットーですね。
…なんか最近名言気質があって、家族に「でたね、公輝語録」とか言われるんですよ。ちょいちょい出しちゃうんですよね。こういう感じのワードが(笑)。
ベースは「前田公輝」であること。今までは“役者”前田公輝だった
-映画『HiGH&LOW THE WORST』の轟洋介役が絶大な人気でしたが、どのような役がしっくりくるなど、ありますか?

僕、役を作っていないんです。だから全部しっくりくる。
役のために“作ってた”時期もあるんですが、(自分にとっての)真実で生きてたら、真実に近いものが役として生まれることに気づいたんです。
もともと嘘をついている人が「役」という嘘を重ねると、さらに嘘になる。そうすると、役もキャラクターもほぼ生きない。
嘘をつかずにまっすぐ生きていたら、そこに何か足してもそれはほぼ真実になるから、作らなくていいんじゃないかと。芝居って、それまでの経験や性格もそのまま出ますからね。
もちろん、役ならではの立ち振る舞いとか知識とかプラスアルファのエッセンスを取り入れることはあるけど、心の中のものを作らなくなったんです。
それも、気づくきっかけは家族やともだちの存在が大きいですね。
-今月から主演舞台「天才てれびくん the STAGE~てれび戦士REBORN~」が始まりますが、どのようなお気持ちでしょうか?

僕、てれび戦士の前田公輝役なんです。 おもしろいですよね、自分で自分を演じるんですから。こんなアプローチの仕方があるんだなと。
僕はここで芸能活動の基礎を学んだといっても過言ではないんで、帰ってきたというかホームな感じで緊張はないですね。
でも主演を務めさせていただく以上、僕が1番『天才てれびくん』を考えていないといけないと思っています。
『天才てれびくん』を経ていまも芸能活動をしている人、していない人両方に認めてもらわないといけない。そういう舞台にしたいと思っています。
また『天才てれびくん』を知らない人にも、面白い番組があるんだよというPRになればいいなと。『天才てれびくん』への感謝の気持ちが強くって、恩返しというか、その気持ちがちょっとでも芝居に反映できればいいなと思っています。
-いろいろな思いや経験を重ねたからこそ、いまの“前田公輝”があると思います。今後はどのようにお考えでしょうか?

僕、12年間お芝居にすごく魅力を感じていたんですが、最近、気づいたことは役者の仕事って待ちの姿勢だなって。
映画や舞台を観たり、スキルを上げる行動はできるんですが、結果的にイチから何か作っていないんですよね。それにウズウズしちゃって…、イチから作れることを発信したいと強く思うようになってきたんです。
役者をしてたからこそ、役者に固執していた部分もあると思います。
10代のころは本質が出ると思うんです。その10代で認められたことが僕に1番あっているんじゃないかなと。芝居は好きだけど、芝居だけじゃないかもと思い始めています。
-活動の範囲を広げたいとお考えなんですね。

はい。最近絵を描いたり、服を作ってみたりとか、音楽をやろうと思ったり、歌詞を書いたり…、エンタメって芝居以外にも、いろんなことがあるから別に役者1本である必要はないかと。
やれるうちに、動けるだけ動けるうちに、楽しいことをやっていって、結果それがすべて仕事につながるんじゃないかと。それが芸能界の醍醐味かなと思っています。
それが監督かもしれないし、脚本かもしれない。でも承認欲求もあるので、アカデミー賞をとりたい(笑)。
本当になんでも仕事につながるので、なんでもやろうという気持ちが強くって、これがどんどん広がっていって、無意識のうちに芝居の引き出しにつながっていくはずだって。
待っているだけがいやなので、先々の自分は、イチから何かを生み出す僕になっていればいいなと思っています。
今は「楽しくやろう」がモットーになっていますね。
年をとればとるほど、プライドはいらない。好きなら好きと告白していい。
-読者へ向けてメッセージをお願いいたします。

いまって、クラウドファンディングをはじめ、支援や補助などがありますよね?
お金がないからといってやりたいことができない時代じゃない。刺激を求めて、自分の1番興味があること、やっていて苦じゃないものを追求してもいい時代だと。だからこそ、いろんなことをやっていいと思うんです。
僕の父親も起業してましたけど、そのころはまだそういう時代じゃなかった。いわゆるトップに立つ「ボス」だったと思います。
いまは人を引っ張っていく「リーダー」の時代。世の中の流れにのる、そこだけ分かっていればうまくいくんじゃないかと。
-先入観を持たず、もっと思ったままストレートに生きてよいと。

芝居でも2.5次元の役者さんは、見せ方にすごく長けているんです。
映像だとカメラが役者に寄ってきてくれるから見せられているけど、舞台はそうはいかない。プロに聞くのが近道なんです。だから、後輩からもアドバイスをもらいたいです。
教えてもらうことは格好悪くないです。そういう意味でプライドはいらないかもしれないですね。
10代のプライドはカッコよく見えるかもしれないけど、20代後半になってからはいらない。年をとればとるほど、すべてにおいてプライドは必要ないなって、最近すごく感じています。
好きなら好きと告白していい。そういうことだと思います。
最近は自分に正直に、全部「本当に」生きているから、喜怒哀楽が素直に出ちゃって感動して涙することが多いんです。直線的に感情が研ぎ澄まされているんですよね。
広く浅く100発撃つんなら、1発を確実に決めたほうがいい。僕はそう思います。
本日から公開の映画『カイジ ファイナルゲーム』 に高瀬強士役で出演中。
1月23日から、主演舞台「天才てれびくん the STAGE~てれび戦士REBORN~」が上演。
ヘアメイク:天野誠吾
衣装:私物