多様化してきた働き方。特定の企業に属さずに活動するフリーランスになる人も増えてきています。フリーランスになるためにはどのような仕事を選ぶべきでしょうか?
本記事では、フリーランスになる前に知っておきたいポイントやメリット・デメリットをまとめてお伝えしていきます。
フリーランスとは
「フリーランスになるためにはどうすればよいか」を理解する前に、まずは「フリーランスが、そもそもどのような働き方の人を指すのか」を理解していきましょう。
フリーランスとは働き方の1つで、企業など特定の組織に属さずに個人で仕事を請け負う人のことを指します。請け負った仕事に対して技術やノウハウ、それらを使ってつくった成果物などを提供し、それに見合った報酬を得ます。
経験、スキル、特技などを活かすフリーランスですが、さまざまな分野で活躍している方が増えています。誰であっても、個人で企業などの発注元と契約を締結して仕事を請け負っていればフリーランスといえます。
フリーランスになるには仕事を請け負うだけではなく、仕事獲得のための営業から納品までを自分一人で行わなくてはいけません。そのほか経理処理などバックオフィス系の業務も自分で行う必要があることを理解しておきましょう。「面倒だ」と思う方もいるかもしれませんが、その一方で自分のやりたい仕事が選べたり、仕事の内容に応じた収入が得られたりします。
個人事業主との違い
フリーランスも個人事業主も、どちらも個人で仕事をしていることには変わりありません。しかし、この2つは定義が少し異なります。フリーランスは、企業などの特定の組織に属さず個人で仕事を請け負う“働き方”を意味します。
それに対して個人事業主とは、働き方を指すのではなく“税務上の区分”です。個人事業主になるためには、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)を提出し、個人で事業を継続して営む必要があります。個人事業主であっても、個人で仕事を請け負って活動している人はフリーランスとなります。
「No.6109 事業者が事業として行うものとは」(国税庁)
フリーランスになるメリット
つづいて、フリーランスとして働くメリットを4つ紹介します。
メリット1.収入アップが期待できる
フリーランスは、仕事をすればその分の報酬が受け取れます。そのため、成果次第では会社員の平均給料よりも多くの収入を手に入れられる可能性も十分あります。
さらにスキルが高かったり、知識が豊富だったりすると、より高額で案件を受注でき、収入アップが期待できます。
メリット2.税金の負担を軽減できる
個人事業主としてフリーランスになるには、開業届を税務署に提出しなくてはいけません。開業届を提出すると、青色申告による特別控除があるので税負担の軽減が可能です。いくつか条件がありますが、上手く活用することで最大65万円の税控除が受けられます。詳しくは後ほど説明します。
また、フリーランスは、打ち合わせに関する飲食代や交通費などを経費として計上できます。そのためにも領収書などは必ず手元に保管しておきましょう。
メリット3.定年退職や退職の概念がない
フリーランスになると、定年退職など退職の概念がありません。会社員の場合は、現場を離れるなど、一定の年齢で定年退職をしなくてはいけなくなります。しかし、フリーランスであれば仕事ができる限り働き続けられるので、自分で仕事を辞めるタイミングが決められます。
メリット4.働く場所や時間を自分で決められる
企業のプロジェクトに参加するなどの例外はあるものの、基本的に働く場所や時間は自分で決められるということはメリットとなるでしょう。会社員であれば通勤に費やしていた時間を育児や介護といったプライベートにあてることもできるので、ワークライフバランスを実現できます。
フリーランスになるデメリット
フリーランスになることのメリットがある反面、当然ながらデメリットもあることをしっかり理解しておきましょう。フリーランスになるデメリットで、代表的なものを3つ紹介します。
デメリット1.収入が安定しない
仕事の裁量に応じて報酬を得られるのはフリーランスのメリットであり、デメリットでもあります。
安定した収入を得るフリーランスとなるには、安定して定期的に仕事を得なくてはいけません。月ごとの仕事量にばらつきがあると、収入が上がったり下がったりしてしまい、とても安定して稼げるフリーランスとはいえないでしょう。また、そもそも仕事を得るためには、自身で営業活動をする必要もあります。専門的なスキル以外にも、コミュニケーション能力や人脈が必要となることは事前に理解しておきましょう。会社員のうちに足りないスキルを洗い出して、トレーニングしておくと安心です。
毎月、一定の収入が欲しい方や営業活動に不安のある方は、フリーランスには向いていないかもしれません。
デメリット2.公的年金の受給額が減少する
フリーランスになると厚生年金に加入できません。国民年金だけになります。そのため、会社勤めの長い人と比較すると公的年金の受領額が減ってしまうため、将来のための貯蓄は、公的年金以外にも自身で用意しておかなくてはいけません。
デメリット3.確定申告に手間が取られる
フリーランスになると、毎月の帳簿記入や、確定申告も自力で行わなければいけません。会社員の場合、担当の部署の人が年末調整をまとめて行ってくれます。しかし、フリーランスの場合には時間を作り、自力で事務作業をしなくてはいけないことを理解しておきましょう。
確定申告は難しい印象がありますが、フリーランスになるには必要なことなので、会計ソフトなどの導入を検討してみるのもいいでしょう。また、こまめに帳簿に記入するなど、普段から意識的に取り組む習慣をつけるようにしましょう。
フリーランスになるために必要な準備
退職すれば、自動的にフリーランスになれるわけではありません。
フリーランスとして仕事をするためには、開業届や保険の切り替えなどが必要です。事前に知っておくことで、書類や届け出の準備がスムーズにできるようになります。フリーランスとしてよいスタートが切れるように、しっかり確認していきましょう。
仕事を探しておく
フリーランスとして独立するにも、仕事がなければ収入も得られず、生活ができません。
仕事探しにはいくつか方法がありますが、実績が少ないうちはクラウドソーシングを活用するとよいでしょう。「初心者歓迎」の案件も多く存在するため、未経験からのスタートであっても着実に案件を積み重ねれば、しっかりとした実績になるはずです。
ただし、「単価が低い案件が多い」「手数料がかかる」などのデメリットもあります。自信がついてきたらSNSで営業活動をする、知り合いができたら仕事を紹介してもらうなど、単価アップに繫げるための営業活動をしていくとよいのではないでしょうか。
また、フリーランスになってから仕事探しを始めるのではなく、会社員をしながら副業で仕事を始めておくのがおすすめです。スキルや経験を身に付け、副業だけで生活できる程度の収入が得られるようになっていれば、独立してから生活に苦労することも少ないでしょう。
開業届と青色申告承認申請書の提出
フリーランスになったら、開業届の提出が必要です。
開業届とは、フリーランスとして事業を始めたことを所轄の税務署に報告する書類で、提出が義務付けられています。開業届は事業を開始してから、1ヵ月以内に提出しなければいけません。
正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」という名称で、難しく感じるかもしれませんが記入箇所も少なく、簡単に作成できます。様式は国税庁の公式ホームページから、すぐにダウンロードできるため期日中に提出できるよう、事前に準備しておきましょう。
また、開業届と一緒に「青色申告承認申請書」を提出することをおすすめします。提出期限は、1月15日までに新たに事業を開始した場合はその年の3月15日までに、1月16日以降に開始した場合は2ヵ月以内です。
青色申告を利用することで、最大65万円の特別控除を受けられるようになります。節税対策になるため、少しでも税金を抑えたい場合は忘れずに提出しましょう。
なお、マイナンバーカードを持っていて、インターネット環境があれば、「e-tax」で開業届・青色申告承認申請書ともにオンラインで提出できます。スマートフォンでの読み取りが可能なため、「書式のダウンロードや印刷が面倒」「すぐに提出したい」という場合は、e-taxを活用するとよいでしょう。
※リンクの遷移先はPDFファイルです。ダウンロードに大量の通信費がかかる可能性があります
「e-Taxの開始(変更等)届出書作成・提出コーナーについて」(国税庁)
健康保険・年金の切り替え手続き
退職後にフリーランスになる場合は、会社の健康保険から国民健康保険に切り替えなければいけません。健康保険は退職日の翌日から使えなくなります。また、厚生年金から国民年金への切り替え手続きも必要です。
国民健康保険、国民年金ともに退職の翌日から「14日以内」の申請が必要なため、退職後は計画的に申請を行うようにしましょう。届け出が遅れてしまった場合、国民健康保険は被保険者の資格を得た日から最大2年間を遡って保険料を納めなくてはいけません。
国民年金も、未納分は納める必要がありますが、支払いがどうしても難しい場合は「保険料免除制度・納付猶予制度」が用意されているため検討してみるといいでしょう。
より詳しく知りたい方は、管轄の税務署や年金事務所の相談窓口へ足を運んでみましょう。
フリーランスになるのに向いている職種3つ
フリーランスになるには、個人で仕事を請け負わなくてはいけません。しかし、個人で仕事を請け負うといってもどのような職業があるのかは、「フリーランスになってみないと分からない!」と感じている方も少なくないでしょう。
フリーランスになるにはどのような職種があるのか、向いているのはどのような仕事なのか、代表的な3つの職種を紹介していきます。
1.ライター
フリーランスになるのに向いている1つ目の職種はライターです。Webサイトに掲載する記事、メールマガジン、コラム、ECサイトで扱う商品説明などの文章作成がライターの主な仕事になります。パソコン1台とインターネット接続環境が整っていれば作業可能なので、時間や場所にとらわれずライフスタイルに合わせて働くことが可能です。
クラウドソーシングでもライターの需要は高いため、ライターとして登録をしておけば、さまざまなジャンルの中から自分に合っている案件が選べるでしょう。
ライターになるための資格は特に必要ありませんが、フリーランスになるには最低限のライティングスキルは必要です。また、SEO、Webマーケティングの知識や何か専門分野の知識があると、単価の高い案件を獲得しやすくなります。実績があると仕事の幅も広がり、期待もしてもらえるので、会社員のうちから副業として実践しておくのもよいでしょう。
2.ITエンジニア
フリーランスに向いている2つ目の職種は、ITエンジニアです。ITエンジニアとは、Webサイト、アプリ、システム設計、システム構築、運用保守などをクライアントの要望に添って行う仕事です。
ITエンジニアには、システム構築や実装を担当する「システムエンジニア」、効率よいプログラムを作成する「プログラマー」、ネットワークの構築や運営・保守を担当する「ネットワークエンジニア」などが含まれます。
ITエンジニアとしてフリーランスになるには企業のプロジェクトの一部に参加するケースもあれば、コンサルティング業務で幅広く業務を担当するなど、さまざまなケースがあります。実際に設計や実装を行ったり、提案したりするには多くのスキルが求められます。最先端の技術を吸収したい人、常に自分の技術を高める努力ができる人におすすめです。
3.Webデザイナー
Webデザイナーもフリーランスになるのに向いている職種です。
Webサイトの構成、デザイン、HTMLのコーディングなどをクライアントの意向に沿って行います。クライアントの希望するデザインに仕上げるのはもちろん、アクセス数を伸ばすためのサイト設計や提案をします。
Webデザイナーとしてフリーランスになるためには、IllustratorやPhotoshop、HTMLやCSS、JavaScriptなどのスキルがないと難しいでしょう。
また、生業にしている人が増えてきているからこそ、自分の得意な分野をアピールする必要があります。そのためにも、実績が分かるような自分のデザイン集といったポートフォリオなどを用意しておくとよいでしょう。
フリーランスになる前に知っておきたい税金や社会保険
会社員時代は会社が天引きしてくれていた税金や保険も、フリーランスになると手続きや支払いをすべて自分で行う必要があります。
どのような種類の税金や保険があるのか、金額はどのくらいになるのか事前に確認しておきましょう。
所得税
所得税とは、稼いだお金に対してかかる税金です。1年間で得た収入から経費や控除を引いた金額(課税所得)に、決められた税率を適用して算出されます。
課税所得(収入-経費や控除)が高くなるほど課される税金も高くなりますが、控除額も大きくなります。所得金額に対する税率と控除額は以下のとおりです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
194.9万円まで | 5% | 0円 |
195万円以上329.9万円まで | 10% | 9万7,500円 |
330万円以上694.9万円まで | 20% | 42万7,500円 |
695万円以上899.9万円まで | 23% | 63万6,000円 |
900万円以上1,799.9万円まで | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円以上3,999.9万円まで | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
会社員の場合は、毎月の給与から所得税を納税していますが、フリーランスの場合は毎年決められた期限までに一括納付します。今年であれば納付期限は令和5年3月15日まで、振替納税の場合、の確定申告分(第3期分)の振替日は令和5年4月24日まででした。
一括納付が難しい場合は、上記の期日までに金額の2分の1以上納付すれば令和5年5月31日まで延長することができるといった措置もありました。ただし、延納期間中は年0.9%の割合で利子税がかかってしまうため、できるだけ一括で納付できるようにした方がいいでしょう。
住民税
住民税は、居住する市町村に納める税金です。市町村民税と道府県民税を合わせて住民税とされており、フリーランスなどの事業所得者であれば4期(6月・8月・10月・1月)に分けて徴収される普通徴収が一般的です。
住民税は、所得に応じて金額が決まる「所得割」と、所得に関わらない定額となる「均等割」があります。所得割は10%、均等割は5,000円と標準税率で決まっていますが、超過課税で標準税率を超える地域もあります。ただし、地域で大きく差が出ることはほとんどありません。
東京都の場合
個人事業税
個人事業税は都道府県に納める税金で、1年間の事業所得が290万円を超えたら納める必要があります。
8月、11月の年2回に分けて納付するのが一般的です。業種によって税率は異なるため、居住の都道府県のホームページで確認しておきましょう。
東京都の場合
消費税
前々年の年間売上が1,000万円以下の事業者やフリーランスになりたての人であれば、免税事業者に該当するため消費税の納税義務はありません。
クライアントから支払われた報酬金の中に消費税が含まれていても、免税されているため納税する必要がないということです。
ただし、令和5年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まります。フリーランスなどの事業者で、年間売上が1,000万円以下でも課税事業者としての登録をして、消費税の申告が必要になります。
課税業者になることは義務ではありません。しかし、「課税事業者であるクライアント」が「免税事業者のままのフリーランス」に発注した場合、消費税を支払ってもその証明ができない状態になってしまいます。
その結果、「課税事業者であるクライアント」が「免税事業者のままのフリーランス」の分の消費税も負担しなければならなくなるのです。
消費税の支払いは、負担になるかもしれません。しかし、クライアントとお互いに気持ちよく仕事をできるようにするためにもインボイス登録を行い、消費税の申告を適切に行うようにしましょう。
「令和5年10月1日からインボイス制度が始まります」(国税庁)
※リンクの遷移先はPDFファイルです。ダウンロードに大量の通信費がかかる可能性があります
国民健康保険
会社員の場合は健康保険に加入しており、掛け金は会社との折半で、給料から天引きされているので自分で支払いを行う必要はありませんでした。まったく気に留めていなかった方もいるかもしれません。しかし、フリーランスは会社に所属しているわけではないため、全額負担、かつ自分で支払わなければなりません。
12ヵ月分(4月から翌3月)の保険料を10回に分けて、原則として口座振替または納付書で納付します。
国民健康保険料は前年度の所得金額に応じて決定されます。算定方式は、各市町村によって定められているため、お住まいの市町村の公式ホームページで確認するといいでしょう。
国民年金保険
会社員の場合は厚生年金に加入しており、健康保険と同様に会社との折半で給料から天引きされているため自分で支払う必要はありませんでした。しかし、フリーランスは個人事業主であるため、国民年金保険料を自分で納める必要があります。
国民年金保険料は令和5年度の場合16,520円で、4月初旬に1年度分の納付書が届きます。口座振替やクレジットカードでの支払いもできるため、希望する場合は手続きをするといいでしょう。
国民年金保険料の納付が経済的に厳しい場合は、「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」も設けられているため検討してみましょう。
フリーランスになるには覚悟が必要!
フリーランスという働き方は、自身の仕事はもちろん、バックオフィスの事務作業などまで自分で行わなくてはいけない業務がいくつもあります。さらに、毎月、安定して仕事をもらえるフリーランスになるには、スキルはもちろん、クライアントとの信頼関係の構築も重要です。
また、その業界の変化の波を最初に受けることになるのが、フリーランスでもあります。好調なときはよいですが、逆風のときは経費削減の対象にされ、仕事量が減ったり、単価を切り下げられたりすることは、会社員時代に見聞きしてきたことでしょう。
ときに「来月は収入が減るかも」と覚悟をしなければならないことがあるのを肝に銘じておきましょう。
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<文/北川美智子>