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自分の街をより住みやすくするために、織戸龍也さんが選んだ「起業」という手段

自分の街をより住みやすくするために、織戸龍也さんが選んだ「起業」という手段

独立・起業ならではの面白さは、自由度の高さにある。

そう語るのは今回お話を伺った、建築家・暮らし探求家の織戸龍也さん。

建築家としてキャリアをスタートさせた織戸さんは、あるきっかけを経てまちづくりに興味を持ち始めます。そしてまちづくりを実践するために起業という手段を選びました。

建物づくりからまちづくりへ。現在は建物や内装を作るだけでなく、リノベーションやコワーキングスペース、シェアキッチンの運営、さらにはビール醸造まで事業を広げています。

今回はそんな織戸さんのキャリアとともに、自己実現のための起業という選択肢の可能性について、伺いました。

<プロフィール>
織戸龍也さん
建築家・暮らし探求家
株式会社岩淵家守舎 代表取締役

1988年東京都足立区生まれ。
武蔵野美術大学卒業後、アトリエ系建築設計事務所へ入社。
建築家としてのキャリアをスタートさせる。

その後、2017年に独立。
建築家として建物や内装を作るだけでなく「まちづくり」にまつわるさまざまな事業を、東京都北区岩淵町を中心に展開している。

現在の手がけている事業は、DIY賃貸運営、長屋リノベーション、シェアキッチン、コワーキングスペース運営、クラフトビールブランド運営、コミュニティマネージャー、地域マルシェ運営、創業支援、観光産業プロモーションなど、活動の幅は非常に多岐に渡る。

建築家なのにビールも作る? 暮らし探求家・織戸龍也さんが起業するまで

――建築家でありながら、さまざまな事業を展開し、ビールブランドの運営まで手がけている織戸さん。まずは織戸さんが現在どのようなお仕事をされているのかから、簡単にお伺いできますか?

織戸さん
肩書きで言うとたくさんありすぎるので、難しいんですが……(笑)。

端的に言うと「建築家」「暮らし探求家」という職業をしています。

僕のキャリア自体は、建物を建てたり、内装を考えたりする仕事から始まったのですが、現在の仕事の領域は、建物だけに留まらず暮らしに関わることを全般です。

僕は東京都北区にある、岩淵町というまちに住んでいます。

岩淵町に住む人がもっと住みやすくなるように、空き家を改装したり、シェアキッチンやコワーキングスペースを作ったり、はたまたクラフトビールブランドを作ったりと、さまざまな取り組みをしています。

↑岩淵町オリジナルのビールの醸造、マルシェなどのイベント開催も手がけている。

――岩淵町を舞台に、住民の人が暮らしやすくなるような、まちづくりをしていると。なぜまちづくりに興味を持ったのか、お聞かせください。

織戸さん
社会人になってから、プライベートであるマンションへ引っ越しをしました。振り返ると、その時の自分の原体験が大きかったですね。

順を追って説明します。

大学で建築学を学び、都内の建築事務所で設計士の仕事に就きました。就職してからしばらくして、住人みんなが家族のように住む、不思議なマンションと出合ったんです。

――不思議なマンション、ですか?

織戸さん
不思議、といってもパッと見は普通のマンションなのですが、そこで行われていた取り組みがとてもユニークでした。

そのユニークの中心にいたのが、大家さんでした。

大家さんは、親御さんからマンションを引き継いだのですが、引き継いだ当時はなんと空室率の高いマンションだったんです。

大家さんはこの状況を打開すべく、マンションにもかかわらず、入居者と大家さんで相談して壁紙を選べるサービスを始めました。

――普通、賃貸マンションは現状回復が基本ですから、派手な改装は忌避されますよね。

織戸さん
ええ。でも大家さんはその真逆の取り組みをしたんです。

壁紙以外にも自由に改装可能にすることで、住人により部屋への愛着を持ってもらいたいと。

とはいえ「改装できる」と聞いても、果たしてどのレベルで改装できるのかなんて、実際に住んでみないと分からないですよね。

かくいう僕もそうだったのですが。

そんなニーズに応えるため、引っ越す前の内見時に、先に住んでいる人がどんな改装を施しているのか、実際に見せてもらえて、僕も大胆なセルフリノベーションを行い、シェアハウスの運営を始められました。

――既に住人の方の部屋を見る機会があれば、引っ越す前から自然と、住人同士で交流が生まれそうですね。

織戸さん
まさにそうなんです。そうした取り組みの全てが面白かったので、僕もマンションに入居してみることにしました。

そしてある時、ある住人の夫婦が飲食店の開業を検討していたことがあったんです。

それを聞いた大家さんが「(夫婦と織戸さんの住む)マンションの2階でオフィス使ってた部屋に空きが出たから、そこを飲食店に使ったら?」と提案があって。

結果、ご夫婦は空き部屋を使って飲食店を立ち上げ、さらに飲食店開業の話を聞いた他の住人が、スタッフとして働き始めるという出来事があったんです。

他にもコワーキングスペースや屋上のシェア畑など、住人の接点がたくさんありました。

――本来「住む」だけの役割だったマンションの中で「雇用」が生まれたと。

織戸さん
ええ。こうした出来事って、建物単位だけに留まらず、まち単位でもできるんじゃないかと。

そして会社員と並行しながら、リノベーションスクール(※)に参加することになり、その中で岩淵町の木造長屋群を再生する案件と出合ったんです。

それがきっかけで会社を退職し、まちづくりを営む会社、株式会社岩淵家守舎(以下、岩淵家守舎)を起業することになりました。

※空き家や空きビルを活用した、都市再生手法を学ぶための場。織戸さんはこのリノベーションスクールでの案件を通して、シェアスペース「コトイロ」をオープンさせた。

独立・起業という方法だからこそ、暮らしと仕事が密接に関わる生き方ができる

――岩淵町には元々ご縁があったのでしょうか?

織戸さん
いいえ、この「コトイロ」のプロジェクトで、初めて関わりを持ちました。

先ほどのマンションの話もそうですが、そこにどんな人が住んでいて、どんな営みが行われているのかを知るには、実際に自分が住んでみないと分かりません。

ということで「コトイロ」のプロジェクトを行うにあたり、実際に自分で住んでみることにしました。起業してから5年ほど経ちますが、現在も僕は岩淵町に住んでいます。

岩淵家守舎では、「コトイロ」から始まり、空き家・空きビルの活用やリノベーションや、コミュニティ作り、クラフトビールブランドなど、さまざまなアプローチで岩淵町のまちづくりに挑戦してきました。

――織戸さんのお話を聞いていると、いい意味で、仕事とプライベートの境目がないように感じます。

織戸さん
確かに、仕事で岩淵町のまちづくりをするようになり、そのために岩淵町に住んでしまっているので、その時点で境目はあまりないですね(笑)。

仕事とプライベートがちゃんと住み分けされている生き方も、それはそれでいいと思うのですが、僕の場合は「暮らしの中に仕事がある」「暮らしそのものが仕事になっている」状態が自分に合っていたんです。

――詳しく教えてください。

織戸さん
岩淵町というまちに住んでいて「ここにこんなお店(ないしはサービス)があったらいいのにな」と、自分が思ったり感じたことが、そのまま仕事に繋がるんですよ。

「こんなお店があったら」「こんなサービスがあったら」と思うなら、企画を考えて自分で手を動かすなり、人の力を頼るなりして、それを形にする。

僕だけではなく、このまちに住む人にとっても役に立つなら、仕事として成り立ちます。

岩淵家守舎のコンセプトにもあるのですが、「欲しい暮らしは作れる」と僕は思っていて。

暮らしと仕事が密接に関わっているからこそですね。

――織戸さんが、起業して良かったと思うことは何かありますか?

織戸さん
ここまで自由度高く、事業や活動をできるのは独立・起業ならではの良さだなと思います。

会社員として働いていると、どうしても自分よりも会社の利益を優先しなければならない瞬間がありますよね。

でも独立・起業なら誰の許可も必要なく、自分の興味があることを、いくらでも仕事にできます。

建築家として、建物を作ったり内装を考える仕事ももちろん楽しいのですが、それだけじゃ「まちづくり」はできません。

肩書きや方法にとらわれず、自分のやりたいことに挑戦できる独立・起業という手段は、僕にとって合っていたなと思います。

その上で、必要な仕組みなどはまちの人や行政と相談し連携しながら進めることで信用が生まれました。

「共感」は人生を、より豊かにする

――織戸さんのこれからの展望を教えてください。

織戸さん
個人的な話になりますが、僕も妻も東京生まれ東京育ちなので、東京以外の場所にあまり縁がありません。

だからこれからは、岩淵町で培ったまちづくりの経験も活かして、他の土地にも拠点を作っていきたいなと。

実はその第一弾として、栃木県の日光に拠点を持ちました。岩淵町、日光以外にもこれから拠点をたくさん作っていきたいですね。

――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

織戸さん
独立・起業に限ったことではないですが、自分にとって「共感」できるものがあると、人生が豊かになると思います。

「共感」とは人にでも、仕事や事業にでも、土地柄にでも構いません。

僕の場合はマンションでの一件から、まちづくりに興味を持ち、そこで出合った岩淵町の歴史や人に共感し、実際に住んでみてより好きになりました。

今では、仕事も暮らしも、全て岩淵町を中心に回っています。

「共感」とは、それほど人生にとって影響を与えるもの。皆さんにとっての「共感」の先に、素敵な独立・起業があるんじゃないでしょうか。

取材・文・撮影=内藤 祐介

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