国民の納税義務を果たすために、欠かせない手続きである確定申告。
個人事業主はもちろん、会社員でも払いすぎた税金がある場合は確定申告をする必要があります。
しかし、学校では税金について詳しく教わらないため、社会に出てから「確定申告って何をすればいいの?」と疑問を抱く人は多いのではないでしょうか。
今回お話を伺ったのは、税理士の大河内薫さん。
大河内さんは税理士業のかたわら、執筆業や講演活動、SNSやYouTubeの活用による発信活動を行うなど、幅広い分野で活躍されています。
こうした活動によって、より多くの人に身の回りの税金についてを知ってもらいたいと話す大河内さん。
今回は、税理士になるまでの経緯や、さまざまな活動を通じて実現したい未来について伺いました。
大河内薫(おおこうち・かおる)さん
税理士/株式会社ArtBiz代表取締役・ArtBiz税理士事務所代表税理士
2006年に日本大学芸術学部を卒業し、派遣社員として働く。
その後、税理士法人に転職し、働きながら税理士の資格取得を目指すと、2011年に税理士試験に合格。日本で稀な芸術学部出身の税理士となる。
2016年に株式会社ArtBiz、翌年にArtBiz税理士事務所を設立。
クリエイターや芸術・芸能系のクライアントに特化・支援し、税理士業以外にも、ウェブメディアや書籍の執筆業、セミナーや大学の授業での講演活動など多方面で活躍。
また、Twitterやブログ、YouTubeなどでお金にまつわる専門知識の情報を発信している。
◎大河内薫さんTwitter
https://twitter.com/k_art_u
◎大河内薫さんブログ
https://bafs-style.biz/
◎大河内薫さんYouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCs7rJz4WvRVd0-PbXKiBi2Q?sub_confirmation=1
有名人になりたかった男が、税理士の資格取得を目指した意外な理由
ー「スーツを着ない税理士」として税理士業のかたわら、講演や執筆活動など多方面で活躍されている大河内薫さん。現在に至るまでの経緯をお聞かせください。
僕は物心ついた頃から目立ちたがり屋な性格で、「有名になりたい」という気持ちを持ちながら育ちました。
サッカーをやっていた小学生時代は「Jリーガーとして有名になりたい」と思いながらボールを蹴り、バンドを始めた高校時代は「音楽で売れて騒がれたい」という夢を抱きながら活動したりと、とにかく周りからキャーキャー言われたかったんです(笑)。
高校卒業後は芸能人になることを目指して日本大学芸術学部に進学し、お芝居を学ぶために演劇学科を選びました。
ですが、4年間お芝居の経験を積んではみたものの「何か違うな」と自分の中でしっくりこない感じがあったんです。
それで一旦、芸能人への道は諦め、大学卒業後はアルバイト生活を経て派遣社員として保険会社で働きながら、今後のことを模索していきました。
そしてある時にふと「難しい資格を取れば稼げるのではないか」と思い立った僕は、代表的な国家資格である弁護士・司法書士・公認会計士・税理士の4つを候補に挙げ、このうちのどれかに挑戦しようと決めたんです。
ー難関な国家資格の取得を「ふと思い立つ」ことがすごいですね…(笑)。どのようにしてその中から税理士を決められたのですか?
僕の場合、仕事をしないと生活していけなかったので「働きながらでも目指せる資格」にマトを絞りました。
それが、4つの中では税理士だけだったので、この資格の取得を目指すことにしたわけです。他の3つの資格だと、勉強に専念しないと取れそうになかったので。
仕事の内容で決めたわけではないので、正直、税理士という職業のことについてよく知りませんでした。
今思えば、めちゃくちゃ安易な考えで選んでたなと思います(笑)。
勉強を始めてからは、派遣社員から大手の税理士法人に転職し、社員として働きながら資格の取得を目指しました。
これはよく誤解されるのですが、税理士法人や事務所って、資格がなくても入れるんです。
税理士の独占業務(税務署に提出する書類を作成する代理代行業務や、税務相談の受付業務など)を自分の責任のもとですることはできませんが、それ以外の仕事は行うことができるので。
ーそうなんですね。その後は無事に資格を取得することはできたのでしょうか?
おかげさまで、資格取得に平均で9年はかかると言われている中、4年で合格することができました。
ただやはり、この4年間は地獄でしたね…(笑)。
税理士は“最難関国家資格”の1つと位置付けされていますから、死ぬ気で頑張って勉強すれば受かる、なんて簡単に言えるほど甘くはない。
その中で、大学生には勉強の量は勝てませんが「会社員の中では日本一勉強してやろう」と意気込んで机に向かったんです。
実際に仕事以外のプライベートの時間は全て勉強に捧げました。
今思い出しても本当につらかったですが、本気で資格取得に向き合い続けたからこそ、4年で税理士になることができたのだと思います。
ーたった4年での合格なんて、相当の覚悟と努力がなければ成し遂げられないですもんね。実際に税理士になられてからはどうされたのですか?
すぐに独立・起業をしたい気持ちはあったのですが、その前にあえて個人事業主向けの小規模経営に強い税理士法人に転職したんです。
というのも、僕は日本では稀な「芸術学部出身の税理士」という肩書きを持っているんですね。なので、クリエイターやデザイナーといった個人事業主の間で「大河内薫はクリエイターの気持ちを少しは分かってくれる税理士なのではないか」という話もあるようで…。
会社を設立したら、必然的に法人よりも個人のお客の割合が多くなるだろうな、と予想したんです。
だから個人やスタートアップ企業の税務を学ぶために、2年間そういった顧客を専門としている税理士法人で経験を積んだというわけです。
そしてその経験を経て退職し、33歳となる2016年に株式会社ArtBizを設立。翌年にはArtBiz税理士事務所を開業し、経営者・開業税理士としてのキャリアを歩み始めました。
税金について教えることを“義務教育化”する。税理士・大河内薫が、SNSの発信活動を通じて実現したい未来
ー独立・起業をされてからは具体的にどのようなお仕事をされているのですか?
現在は会社設立や経営支援といった事業のほか、Webメディアや書籍の執筆業、セミナーや大学の授業での講演活動などを行っています。
また、独立・起業をすると同時に、Twitterやブログを使った情報発信も積極的に行うようになりました。加えて今年の2月からはYouTubeのチャンネルも開設しています。
理由としては、これまでお金についての専門知識をSNS等を活用して発信している人が誰もいなかったからです。
というか、これは自分がすごいわけでも何でもないのですが、こうした発信活動って僕にしかできないんですよ。
ーなぜでしょう?
税理士法人だと「情報を発信するにもリスクが伴う」からです。
例えば、20人の社員を抱えている税理士法人の代表が、SNSで専門知識を発信していたとします。
その中で投稿した情報が間違っていたり、過度に発信しすぎてしまうことで税務署に目をつけられ、「正しく申告されていないんじゃないか」と疑われてクライアントのもとに税務調査が一斉に入ってしまう。
そういうことが起きる可能性も、なきにしもあらずじゃないですか。
それに在籍している20人の社員やその家族のことを考えれば、やはり税理士法人はSNSによる情報発信のリスクは取れないわけです。
でも僕みたいな個人でやっている税理士ならば、社員を抱えていないのでリスクを取ることができる。
税理士って日本に約78,000人いるんですけど、積極的に発信活動をしている、もしくはできるのはおそらく一握り。ないしは僕くらいしかいないかもしれない。
だからこそ、税務などの専門知識をネット上で発信していくことは「僕がやるべきだ」と感じたんです。
もし情報に誤りがあれば、「すみませんでした」と謝ればいいだけですしね(笑)。
ー確かに、SNSの活用が欠かせない時代において、専門家の発信活動というのはとても意義のあることのように思えます。実際にSNSやYouTubeで情報を発信されて、反響はいかがですか?
とても好意的な意見をいただいております。
「無料でお金にまつわる有益な情報を発信してくれてありがとうございます」だったり、「私のこどもにも見せますね」といった嬉しいコメントもいただいてまして。
やはり皆さんのお話を聞いていると、これまで税金や確定申告に対して「ハードルが高い」と敬遠しがちだったのではないかと思います。
ですが僕は、それを日常生活に落とし込んで分かりやすく説明することを心がけているので、多くの方から気軽に見ていただけているのではないでしょうか。
そして最終的には、税金について教えることを“義務教育化”していきたい。
というのも、税金は僕たちの日常において切っても切れないもののはずなのに、学校や社会から教わらないから、税金の知識が足りない人が多いというのは、ある種当然の結果と言えます。
それはさすがにおかしいと、僕はずっと思っていて…。
なので情報発信はもちろん、他の講演や執筆業を含めた全ての活動を通じて、税金のことを学べる授業を作ってもらえるよう国に働きかけたいですね。
それが僕の「生涯を通してやるべきこと」だと思いますから。
「想いを行動に移せる人」が報われる時代へ。独立・起業へのチャレンジが、より良い未来につながる
ー実際に「税を納めるのは国民の義務」ですから、学校で税金について学ぶ機会を増やすことは、こどもたちの未来を助けることにつながりますね。では、それを踏まえて今後の展望をお聞かせください。
やはり、世の中を動かすために影響力をもっと高めていきたいですね。
もともと目立ちたがり屋だから「有名になりたい」という気持ちは変わらず持ってはいますが、前述した通り、税金に関する授業を義務教育に盛り込むためには「絶大な影響力」を手に入れる方が目的の達成の近道になります。
何故なら、そうすることによって最終目標である租税教育を日本に施し、マネーリテラシー(お金の知識があり、それをうまく活用する能力)を高めることにつながっていくからです。
実際に言葉にしてみると、めちゃくちゃ壮大な夢ですね(笑)。
でも、それは僕がやるべきことだと思いますし、税理士という資格を持っている自分だからこそやる意義がある。
いずれ、「税理士といえば大河内薫」と日本国民から認識されるようになれば、夢の実現は一気に近づくでしょう。
まだまだ遠い未来かもしれませんが「弁護士といえば?」と聞かれてテレビで活躍している人たちの名前がパッと出てくるみたいに、税理士のトップのポジションを掴みにいきたいと思います。
ー最後に、新たな道に進もうとしている読者へ、メッセージをお願いします。
これからは、チャレンジした方がいい時代になってくるので、やりたいことがあればどんどん実行に移すべきだと思います。
というのも今年の5月、日本経済団体連合会(経団連)の会長やトヨタ自動車の社長が相次いで「日本における終身雇用制度の継続が難しい」との認識を示しました。
これはつまり、独立・起業の夢にチャレンジをする人こそ評価される時代に突入した、ということになります。
挑戦することによって周りの評価や信頼が上がり、収入だって上がるでしょう。
だから今、独立・起業を考えている方は、ぜひ1歩前に足を踏み出してほしい。
もし不安要素があるならば、その道の先人はたくさんいますから、どんなことでもいいから学んで、それを実践して、ダメなら改善して、そして再び挑戦していく。
今後はそういう「想いを行動に移せる人」こそが報われる時代に変わっていくはずです。
僕も引き続き周りに負けないよう前に進み続けるので、大きな夢を抱いている人は、これから一緒に頑張っていきましょう。
(取材・文=佐藤主祥 https://twitter.com/kazu_vks)