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「悲しみ」や「苦しみ」を支えるプロフェッショナル育成に挑む 社会起業家からのメッセージ

「悲しみ」や「苦しみ」を支えるプロフェッショナル育成に挑む 社会起業家からのメッセージ

株式会社ジーエスアイ/東京都中央区
代表取締役

橋爪謙一郎さん(51歳)

1967年、北海道生まれ。「ぴあ株式会社」に新卒入社した後、94年、渡米してピッツバーグ葬儀科大学に留学。その後、ジョン・F・ケネディ大学大学院でホリスティックヘルス教育学修士課程を修了。受けた専門教育と実務経験を生かし、2004年に「ジーエスアイ」を設立。エンバーミング事業とともに、死別体験者を支える人材を育成する「グリーフサポートセミナー」を展開、日本のエンバーミング、グリーフサポートを牽引する。18年、「グリーフサポート研究所」を設立し、セレブラントを養成する新しい取り組みを始めた。

エンバーミングという言葉をご存じだろうか。遺体を衛生的に修復保全することで長期保存を可能にする技術である。まだ日本で知られていなかった90年代半ば、葬祭業を営む父親に勧められて、エンバーマーになるべく渡米した橋爪謙一郎は、本場の技術と、その根底にあるグリーフ(悲嘆)サポートを学び、実務も重ねた。帰国後は、「本物を知った人間の責任」として、エンバーミングとグリーフサポートを日本に普及させる第一人者として走り続けている。
「人が人にやさしくなれる社会をつくる」を理念に掲げ、ジーエスアイを設立したのは2004年。エンバーミング事業を皮切りに、グリーフサポートを伝える教育・コンサルティング事業を開始し、その活動は確実な広がりを見せてきた。同社が創設した認定資格、遺族支援のプロフェッショナル「グリーフサポートバディ」は105名(18年11月現在)となり、全国各地で活躍している。 
時代を追うビジネスではなく、橋爪が挑戦しているのは“本質の普及”。グリーフサポートの本質を理解する同志を増やし、日本人が本来持っているやさしさを復活させ、多くの人が幸福感を持てるような社会をつくることだ。

グリーフに苦しむ人々を支える一大ネットワークづくり。
それが「人が人にやさしくなれる社会」を実現する

━ 会社設立の動機、経緯は?

帰国後はセレモニーの専門学校の立ち上げや、日本遺体衛生保全協会のスーパーバイザーとしてエンバーマー育成に携わっていたのですが、起業することは決めていました。というのは、エンバーミングとグリーフサポートを両軸とする事業展開をしたかったから。社会にとってすごく重要なはずなのに日本には先例がなく、ならば自分で始めようと思ったのです。

本来、エンバーミングは遺族の悲しみを癒すためのきっかけを与える手段の一つで、表層的な技術ではありません。病気やケガで失われた「その人らしい姿」を可能な限り修復保全するには、遺族の心に深く寄り添う姿勢、心理的な視点を備えていないと無理なんです。そういうことをちゃんと伝えることが、早い時期に本場のアメリカで学んできた僕の役割だと。

━ 本質を理解する仲間づくりを第一義にしていらっしゃる。

新モデルの葬祭業としてチェーン展開でもすれば、もっと潤っていたでしょうが(笑)。数値的な話をすると、起業した頃、年間死亡者数は約100万人で、周囲に影響を受ける人が10倍、20倍いるとすれば大変な数になるでしょう。市場は大きく、多くの人を支援しようと思ったら、自社のことだけを考えている場合じゃない。志を同じくする仲間や葬儀会社などを増やすことが大切なのです。 

なので、立ち上げ期にこだわったのは“ビジネス”として成立させること。この種の取り組みは、ボランティアベースにすると、どうしても参加者のモチベーションを拠りどころにせざるを得ないし、寄付金や補助金頼みになっては継続が難しいですから。利用者に喜ばれ、サービスを提供する側もスキルや収益アップにつながる、そんなWin-Winのビジネス構築に尽力してきたつもりです。

━ それでコンサルティングや人材教育も始められたのですね。

会社を設立した5年後からです。グリーフサポートをある種のはやりではなく、深いところで捉えてくれる人たちへの情報発信は腐心しましたが、グリーフサポートセミナーを始めてからは受講生のクチコミで広がっていきました。

カリキュラムはオリジナルで、最終コースで「バディ」認定を取るのはけっこう大変なんですよ。論文執筆もあり、最短でも9カ月ほどかかりますが、だからこそ意識の高い“軸”となる人材が育っていると思います。葬儀会社だけでなく、お寺の住職とかカウンセラー、あるいは終末期医療に携わる看護師など、皆さん現場で活躍されています。さまざまな職業の人たちが学ぶのは意義のあること。死別をはじめとするグリーフに苦しむ人が孤立しないよう、失いつつある日本の「支え合う仕組み」を再構築するのに、インフラはとても重要なカギになりますから。

━ 創業15年目に入り、また新しい取り組みを始められたとか。

「グリーフサポート研究所」を新たに設立し、フルオーダーメードの葬儀式を担う専門家「セレブラント」の養成を始めました。日本では聞き慣れない職業名ですが、葬儀や結婚式などといった儀式をデザイン、運営するプロで、欧米ではすごく増えています。葬儀をはじめ、昨今は儀式が簡素化される傾向にあって、本来の意味も見失われているでしょう。七五三しかり、成人式しかり。宗教の有無に関わらず、「その人らしさ」や世に感謝する気持ちを大切にする儀式は、次代に残すべきだと思うんですよ。そのためにも、まずは葬儀式を入口に、人生の節目、節目で次へシフトする、新しい人生を生きていくためのお手伝いができる場や人材を増やしていきたい。当面の10年は、そこに向けて走ろうと考えているところです。

取材・文/内田丘子 撮影/刑部友康 
アントレ2019.冬号 THE INNOVATION【志こそが人を熱くする】より

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