自分が課題を解決するヒントは、意外なところにあったりするものです。
今回お話を伺ったのは、美容師／ヘアメイクアップアーティストのTommyさん。
Tommyさんはヘアスタイリング、メイク以外にも、レッスン業や美容家としても活躍され、2021年にはエステサロンも開業されました。
そんなTommyさんの原点を作ったのは、なんと新宿二丁目だと言います。
LGBTの方が多くいるこの街で、若き日のTommyさんは、自分の仕事のスタイルを確立させました。今回はそんなTommyさんの、キャリアと原点を伺いました。
Tommyさん
美容師／ヘアメイクアップアーティスト／美容講師／美容家
本名、富永武尊さん。
専門学校を経て20歳の時から、原宿のサロンで働き始める。
24歳の時に、タレントの広海・深海さんと知り合ったことをきっかけに、LGBTの人との交流機会が増える。
28歳の時に独立し、フリーランスの美容師／ヘアメイクアップアーティストとして活動を開始。
現在は「peace omotesando（ピース オモテサンドウ）を拠点に、美容師の傍らレッスン業、美容家としても活動。
2021年には美尻・くびれ専門のエステサロン「尻とくびれを。」をオープンする。
美しくなる手段は無限大！ Tommyさんが、さまざまな事業を起こすまで
――美容師、ヘアメイクアップアーティストを始め、さまざまな活動をされているTommyさん。まずは美容師として、独立するまでの流れから教えていただけますか？
美容師という職業に興味を持ったのは、中学生のころですね。
おしゃれに興味を持ち始め、自分でスタイリングをしようと思っていたのですが……。私の後頭部が断崖絶壁すぎて、思ったようなシルエットにできなかったんですよ。
そんな時に出会った美容師さんが、私の髪型を上手に整えてくれたんです。それで美容師という職業に興味を持ち、美容専門学校に進学。卒業後は原宿のサロンに就職したんです。
――どれくらいの期間、会社員として美容師をされていたのですか？
大体8年くらいですね。
その間、25歳くらいの時に吉祥寺の店に異動になり、メイクの勉強をするようになりました。
会社を辞める頃には、美容師としてヘアスタイリングはもちろん、メイクやファッションなどにも精通し、さまざまなアプローチでお客さまに「美」を提案できるようになっていきました。
――そして独立されたと。
はい。今から7年前に独立して、現在は美容師、ヘアメイクアップアーティストとして活動しています。
その傍らでメイクレッスン業や、美容家としての発信活動も行っています。また2021年の秋に活動拠点であるサロン「peace omotesando」の隣に、サロン「尻とくびれと。」を開業しました。
――なぜそこまで、活動の幅を広げているのでしょうか？
純粋に「お客さまが美しくなるための選択肢」を、ご提案していきたいからです。
私は「この世にブスな人はいない。」をモットーに、活動しています。
「髪」や「お化粧」だけに留まることなく、私にもっといろんな知識やスキルがあれば、さらに多角的なご提案をすることができます。
もちろんそれを押し付けるわけではありませんが、「美しくなりたい」と願うお客さまに対して、私ができることは可能な限りご提案したいんです。
接客に大切なことは全て、新宿二丁目で学んだ？
――そんなTommyさんの原点はなんでしょう？
美容師として就職して3年ほど経った時のことです。
タレントの広海・深海さん（※）と知り合うことになり、お2人との出会いがきっかけで、LGBTの方とお会いする機会が増えていきました。
新宿二丁目にもよく顔を出すようになっていったのですが、働いている皆さんの接客の凄さに感銘を受けたんです。
※双子タレント、司会者、YouTuber。兄の広海さんは実業家でもあり、弟の深海さんはスタイリストとしても活動している。共にゲイであることを公表している。
――と、言いますと？
当時の私は、見た目的にも内面的にも、非常に男っぽかったんです。クレーター肌で化粧水とかもまともにしたことがなく、「ザ・男！」みたいな（笑）。
その気質が仕事のスタイルにも出ていて、悪く言えば、非常にガサツだったんですよね。
そんな時に出会ったのが、新宿二丁目の世界でした。
皆さんは非常に細やかな気遣いをされるんです。にも関わらずお客さまにそれを感じさせることなく、あくまでお客さまにとっての居心地の良さと、笑いを大切にされていて。
例えば、お客さまに冷房の風が当たっていて、ちょっと寒そうにしていたとします。普通、それに気づいたなら「寒くないですか？ 冷房の温度上げましょうか？」と聞いてしまいますよね。
確かにそれ自体は悪い提案ではないんですけど、お客さまに「あ、大丈夫ですよ！」と逆に気を遣わせてしまうことにもなりかねません。本当は少し寒いなと思っていても、我慢されてしまう方って、結構いらっしゃいますよね？
でも二丁目の皆さんは違います。お客さまが座っていた場所に「ちょっとどいてよ〜！」と、あえて自分が間に入っていって、お客さまに風が当たらないようにされていたんですよね。
――空気を壊さないように笑いを交えながら、実は相手のことをものすごく気遣っていらしたと。
今のはあくまで例え話なんですけど、そういう気遣いって接客業をする上で、とても大切なことじゃないですか。
単にカットやパーマ、カラーが上手くできさえすれば「いい美容師」なのかというと、決してそうではないと、私は思っています。
お客さまの緊張がほぐれるような雰囲気を作ったり、居心地がいいと思える環境を作ることが大切です。
そしてもう1つ、二丁目の皆さんから衝撃を受けたことがありました。
「あんたブスね！」の衝撃？ 言葉の裏にあった、愛の提案
――衝撃？
時には、お客さまに対して「あんたブスね！」といったことを平気でおっしゃるんです。そんな攻撃的な言葉って、普通言うことないじゃないですか（笑）。
でもその衝撃的な言葉の裏には、必ず愛があるんです。
「あんたブスね！」をもう少し翻訳すると「あんたにはこんな魅力的なところがあるのに、それを活かさないなんて勿体無い。だから『あんたはブス』なんだ」ということなんです。
つまり、その人の魅力を十分知った上での、愛のある指摘だったんですよね。これが当時の私には衝撃的でした。
――なぜでしょう？
当時の私は、どこかお客さまの要望に「ただ答えるだけの人」だったからです。
お客さまのオーダー通りに仕事を行えば、クレームになることはありません。ですがそれだけでは、数多くいる美容師たちと差別化することは難しいですよね。
だから試しに「◯◯で◯◯だから、このスタイリングが似合うと思う」と論理立てた上で、愛を持って提案をしてみたんです。
もちろん「ブスね！」なんて失礼なことは言っていませんが（笑）。
すると意外と受け入れてくださる方が増え、それと同時に私のことを指名して選んでくださる方が増えていったんです。
――新宿二丁目の皆さんの気遣い、そしてお客さまの期待を上回る提案力が、今のTommyさんを作っていったんですね。
かなり影響を受けましたね。
それまではガサツだった私は、広海・深海さんや皆さんとの出会いを経て、美容にも相当気を遣うようになりましたし、何より感覚がかなり女性的になっていきました。
職業柄的にも女性と接することが多い中で、女性に近い感覚を養うというのは非常に大切なことだと思います。
自分を成長させるヒントは、思わぬところにあるもの
――今後の目標などあれば教えてください。
これまでのキャリアから「見えるところの美しさ」についてはお任せあれです（笑）。
なので、これからは「見えないところの美しさ」に力を入れていきたいですね。後ろ姿や身体の中の美しさ、いわゆるバックビューティー、インナービューティーといった領域に挑戦したいです。
そのアプローチの1つとして、2021年に美尻とくびれ専門のエステサロン「尻とくびれと。」をオープンしました。
これからも美しくなるための手段を、たくさん提案していきたいですね。
――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
事業を作るというのであれば、自分が好きなこと、もしくは得意なことを選んだ方が、より頑張れるんじゃないかなと思います。
独立・起業は会社員時代よりもより、生活と仕事の境界が曖昧になってしまいますから、やっていて楽しいと思えるようなことじゃないと続かないですよね。
そして、思わぬところに自分を成長させるヒントがあるものです。私もそのヒントが、まさか新宿二丁目にあるとは思いませんでしたから（笑）。
興味のあるところには積極的に出向いてみる。それが大切なことなのかもしれませんね。
取材・文・撮影＝内藤 祐介
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