皆さんは、自分の仕事に求められているものを考えたことはありますか?
忙しい毎日を過ごしていると、クライアントや上長から求められていることだけで手一杯になってしまいがちですよね。
今回お話を伺ったのは、プロゲーマーのTemaさん。
Temaさんは人気パズルゲーム「ぷよぷよ」のプロライセンスを取得しています。
プロゲーマーと聞くと「大会で勝って賞金を稼ぐ」という印象が強いですが、Temaさんは大会で勝つことだけでない“あること”も自分にとって大切な仕事だと語ります。
その“あること”とは、一体何でしょうか。
Temaさん
プロゲーマー
幼少期からパズルゲーム「ぷよぷよ」をプレイし経験を重ね、大学時代には早稲田大学のサークル「ぷよぷよ戦術技術開発研究所」に所属。
大学院への進学を経て一度就職するが、その後2016年のセガフェスにて3位となり、女性では日本初の「ぷよぷよ」プロライセンスを取得。プロゲーマーとなる。
2017年、ラスベガスで開催されたEvolutionのサイドトーナメント「AnimEVO」にて
「ぷよぷよテトリス」ダブルス優勝、シングルス7位の実績を残す。
「ぷよぷよ」シリーズを得意としているが、ゲームはジャンル問わずやり込んでいる。
就職を経てプロゲーマーへ。日本初の女性パズルプロゲーマー・Temaさんのキャリア
―現在に至るまでの経緯を教えてください。ゲームを始めたのはいくつくらいからだったのでしょうか?

「ぷよぷよ」は5歳からプレイしていました。
小さい頃からゲームはいろいろやっていたんですが、そんなに数を買ってもらえていたわけではなかったので、シナリオを進めておしまい、というゲームよりはどちらかというと対戦系のゲームをやっていましたね。
中学高校時代は様々な部活を経験していたのですが、その片手間で「ぷよぷよ」を中心にゲームはずっとやっていました。
大学に進学してからは早稲田大学のインカレサークル「ぷよぷよ戦術技術開発研究所」(通称、戦技研)に入りました。
―「ぷよぷよ」のプロゲーマーを志したのはいつ頃からだったのでしょうか?

もっと後ですね。大学を出てからは大学院に進学して、その後は普通に就職していたんです。
転機が訪れたのは就職してからですね。当時私はゲームをすっぱりやめていたのですが、その時期にeスポーツが流行りだして。
そんな中、TOKYO MXの「eスポーツ MAX」という番組が主催で「ぷよぷよ女王決定戦!」が開かれました。しかし、当時会社員として働いていた私には声がかからず。
後で関係者に聞いたら「Temaさんは引退したと聞いていたから声をかけなかった」と言われたんですが、なんだかそれがとても悔しくて(笑)。
―それで現役に復帰したのですね。

はい。
しかしブランクがあったので、復帰戦では惨敗してしまったんです。それで火がついて現役として復帰するために、本腰を入れて練習を再開。
その後行われた「eスポーツ MAX」主催の大会でベスト8、そして2016年に開催された「セガ公式 ぷよぷよ最強プレイヤー決定戦」では、3位に入賞しました。
―プロライセンスを取得したのはその大会がきっかけだったんですか?

ぷよぷよがプロライセンス対象となったのが2018年春で、私もそのタイミングでプロライセンスをいただきました。時期は少し経っていますが、当時の実績も関係していると思います。
また、この大会より前から、他ジャンルのゲームでは既にプロ選手が活躍していたり、スポンサーがついたりして、eスポーツというものがどんどん大きくなっていました。
「ぷよぷよ」でも賞金付きの大会が開催されるようになって、これはもう「チャンスだな」と。そこで前の職場を退職し、プロゲーマー1本でやっていこうと決め、現在に至ります。
勝つだけがプロゲーマーの仕事ではない。「ぷよぷよ」をもっと普及させることも大切な仕事
―少し聞きづらいですが、プロゲーマーの方はどこから収入を得るのでしょうか?

人によると思いますが、大きく4つに分けられると思います。
1つ目は大会の賞金、2つ目はイベント出演によるギャランティ、3つ目はストリーマー(配信者)としてYouTubeによる広告収入や配信サービスによる投げ銭、そして4つ目はスポンサー収入です。
選手によってこの比率は異なりますが、私の場合はスポンサーの「NETGEAR」さんや「YOUR POWER」さんから手厚いサポートをいただけていて。
日頃の生活にかかるお金はもちろん、地方遠征や大会に出場する時の旅費、交通費などは出していただいています。
―プロゲーマーというと「大会に勝って賞金を稼ぐ」というイメージがあったのですが、今はたくさんの収入の立て方が存在するんですね。

これは本当に人によりけりですね。
もちろん規模の大きい大会で優勝して「優勝賞金何千万円!」みたいな人もいれば、YouTuberよろしく動画をたくさん上げて広告収入で稼いでいる人もいるので。
私の場合は大会でたくさん勝って賞金を、というよりはスポンサーと地方イベントの割合が多いですね。
今日(取材収録日)も、イギリスの大会の遠征をして帰ってきたばかりで。また明日朝イチで島根に行きます(笑)。
―すさまじいスケジュールですね…! それだけ予定が詰まっていれば、大会に向けた練習時間を確保するのも大変そうですが…。

そこがジレンマなんですよね…。
もちろんプロである以上、大会で勝つことが大事なのは言うまでもありません。しかし私の場合は、賞金を稼ぐことだけが仕事ではない、とも思っています。
プロとして求められていることはそこだけではない、というか。
―どういうことでしょう?

私の場合は地方へイベントに呼んでいただくことが多いのですが、そもそもなぜ私のようなプロゲーマーが呼ばれるのか。
その理由は、おそらく地元のPRがしたいからなんですよね。
だから私としては、呼んでいただいていることに対して、プロゲーマーとして恩返しがしたいなと思っているんです。
イベントを盛り上げることそのものはもちろん、スケジュールに余裕がある時は、YouTubeやニコニコ動画を使って生配信しています。
「今どこどこに来ています〜」みたいな感じで、付近の商店街などを食べ歩きしながら周る、みたいな(笑)。
―つまり大会に勝つことだけが仕事なのではなく、地元をPRすることもプロゲーマーとしての大切な仕事ということですね。

そうですね。
数多くいるプロゲーマーの中で「1番強い人」が「1番賞金を稼いでいる」というのはおそらく正しいと思います。
しかし「1番強い人」が「1番人気があって、ストリーマーとして成功している」かどうかは、必ずしもイコールではないと思っています。
「ぷよぷよ」というゲームそのものをもっと普及させて、イベントなどで「ぷよぷよ」に興味を持ってもらうことも、プロとしての大切な仕事ですから。
とはいえ私も競技者なので、やっぱり大会で負けると悔しいですけど(笑)。
「覚悟」と「無責任」は違う。大切なのは自分の可能性を見極め、覚悟を決めること
―Temaさんのこれからの展望を教えてください。

ゲームから少し離れてまた戻ってきて、といろいろありましたが、「ぷよぷよ」で初めてプロライセンスが出た時にライセンスを取得したので、「ぷよぷよ」のプロとしてはずっと先駆者として第一線にいました。
これから「ぷよぷよ」が世界に広まっても、ずっと女性プロゲーマーの中で1番であり続けたいですね。
―読者の方へメッセージをお願いします。

最近、中高生でめちゃくちゃ上手な子が、ゲームに打ち込むために学校をやめてしまう、という話をよく聞きます。
「好きなことで稼ぐ」という言葉を聞くようになってから久しいですが、個人的にはちゃんと学校に行ったほうが良いと思っています。
なぜなら自分の可能性を早い段階で捨てる必要がないからです。
学業は自分にとっていろんな意味で保険になってくれるのもありますが、学歴、もしくは資格を持っていれば、プロゲーマーになった後もその人の個性になってくれます。
いろんな選択肢を持っていて、いろんな可能性があるのも分かった上で、その中で覚悟を持ってプロゲーマーという道を選ぶ、というのであれば問題はないと思います。
要するに「覚悟を持つ」のと「無責任」なのは違う、ということです。
独立・起業もきっと同じだと思います。
現状に対する「逃げ」の選択肢としての独立・起業なら辞めたほうが良いと思いますが、自分の中に明確な動機があって覚悟を持ってできるなら、挑戦するべきなのではないでしょうか。
取材・文・撮影=内藤 祐介