「教育訓練給付制度」について、ご存じでしょうか?
今の仕事のキャリアアップに繋がる資格や講座、あるいは未経験の業界や業種へのキャリアチェンジに繋がる資格や講座の受講料の何割かを、国から補助してもらえる制度です。
今回はそんな教育訓練給付制度について、やさしいお金の専門家・横川楓さんに解説していただきました!
転職はもちろん、専門スキルや資格を取得して独立・起業を考える方は必見です!
横川楓さん
やさしいお金の専門家・金融教育活動家
一般社団法人日本金融教育推進協会 代表理事
明治大学法学部卒、その後同大学院へ進学。
24歳で経営学修士(MBA)を取得。
実家は会計事務所を経営。
同年代の友人たちのお金に対する意識と、将来の資産形成、所得格差、年金問題、増税など、これからの日本を担う世代に振りかかるさまざまなお金の問題との乖離に疑問を持ち、お金の知識の啓蒙活動を開始。
ファイナンシャルプランナー(AFP)や、SDGs検定、マネーマネジメント検定等の資格を取得し、2022年1月に一般社団法人日本金融教育推進協会を設立。
同法人の代表理事を務める。
横川さんのインタビュー記事はこちらから!
「収入=給与」に縛られない。経済評論家・横川楓さんに聞く、独立・起業に必要な2つの条件
庵(いおり)
イラストレーター
都内に住む27歳のフリーランスイラストレーター。
学生時代から絵を描くことが好きで、数年前から副業としてイラストレーターの仕事を受けるようになった。
近年は副業での収入が本業の稼ぎより多くなったことから、独立を決意する。
最大受講料の70%が返ってくる? 教育訓練給付制度の概要を解説!

横川先生! 前回は失業保険について伺いましたが、雇用保険にはまだまだ魅力的な制度があるんですよね?

そうだね。雇用保険の中で特に活用している人が多く、人気なのは教育訓練給付制度。
これは働く人の能力開発やキャリア形成を支援するために、厚生労働省が打ち出している制度のこと。
認可された教育訓練を修了、あるいは終了見込みとなると、受講料の一部が支給されるんだ。

要するに、国から受講料を補助してもらいながら、勉強できるという制度なんですね! 会社員のうちにもっと活用しておけばよかったです……(涙)。

これから転職、あるいは独立・起業を考えている会社員の方にとっては、キャリアアップにとても役に立つ制度だと思うんだ。
じゃあここからは具体的な制度の概要について、解説していくよ!
どんな人が活用できる?

まずは活用できる人についてなんだけど、これは前回の失業保険の話と同様に、雇用保険を支払っている人(雇用保険の被保険者)だけ。
つまり会社員のみで、個人事業主やフリーランスの人は対象外となってしまうから、注意が必要だよ。
ちなみに雇用保険に加入して1年以上の人なら基本的には活用できるんだけど、一度制度を活用すると、次に使うことができるのは3年先になってしまうからその点は要注意。

どのタイミングで、どの講座を受講するかを決めることが重要なんですね。

教育訓練給付制度を活用できる資格・講座は、ライトなものからかなり腰を据えて勉強しないと難しいものまで、かなりたくさんあるんだ。
だから、この辺りは自分の目的に合わせて、少し慎重に選んだ方がいいかもしれないね。

実際、どんな講座があって、どれくらいの給付を受けられるんですか?

資格・講座の種類はかなり多岐にわたるよ。まずはこの図を見てみて。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kyouiku.html

こうして見ると、本当にたくさんの講座があるんですね!

講座の種類は多種多様だけど、厚生労働省ではこれらをレベルに応じて、3つのカテゴリーに分類しているよ。
①専門実践教育訓練

まずは「専門実践教育訓練」というカテゴリー。これは中長期的なスパンでキャリアを形成するために必要な訓練講座のこと。

つまり、3つの中で一番時間とお金がかかるカテゴリーということでしょうか?

そうだね。一番時間とお金がかかる分、受講費用の50%(年間上限40万円まで)が訓練受講中6カ月ごとに支給されるんだ。
そして資格取得した後、訓練修了後1年以内に雇用保険の被保険者として雇用された場合、さらに受講費用の20%(年間上限16万円)が追加で支給。
加えて別途要件を満たせば、教育訓練支援給付金が支給されることもあるよ。
②特定一般教育訓練

次は、労働者の再就職や早期のキャリア形成などを目的とした「特定一般教育訓練」。
これは受講費用の40%(上限20万円)が訓練修了後に支給されるよ。
③一般教育訓練

最後は雇用の安定や就職の促進を目的とした「一般教育訓練」。
これは受講費用の20%(上限10万円)が訓練修了後に支給されるんだ。

基本的には資格や訓練の難易度などによって、支給額の割合が違うというだけで、仕組みは同じなんですね!
https://www.mhlw.go.jp/content/000992567.pdf
キャリアアップにもキャリアチェンジにも活用できるのが、教育訓練給付制度のメリット!

受講できる講座がたくさんあるのでどれを選ぶか迷ってしまいますね! 横川さん的おすすめの講座とかはありますか?

基本的には自分の興味のある分野や、勉強したいことに活用するのが一番だけど、私が身近で聞く限りはMBA(経営学修士)を始めとする大学院の進学あたりが人気かな。
講座にもよるけど、大学院は最初に紹介した「専門実践教育訓練」に該当するケースが多いから支給される金額も多くなるよ。
まぁその分、自分で支払う金額も多くなってしまうし、一朝一夕で取得できるものでもないけど。
あとは中小企業診断士といった資格系、プログラミングなどの手に職をつけるスキルアップ講座も人気みたいだね。

この制度って、これまでキャリアで全く経験してこなかった分野にも活用できるんですよね?

その通り!
それがこの制度のいいところだと思うよ。
例えば、普通の一般企業に勤める方が、これまで全く経験してこなかった看護師や介護士の資格のための講座を受けても、条件を満たせば給付金をもらえる。
もちろん今の仕事の「キャリアアップ」に活用してもいいし、全く違う仕事にチャレンジするための「キャリアチェンジ」にも使えるんだ!

キャリアチェンジにも使えるなら、何か手に職をつけたり、資格を取って独立・起業を考える人も使いやすそうですね! 逆にこの制度を活用する上で注意するべきところはありますか?

これはさっきも話したけど、一度受講すると最低3年間制度を活用できなくなるから、その点は注意が必要だよ。
あとは、受講料は全部自費で先に支払わなければならないんだ。あくまで受講修了後に、受講料の何割かが返ってくる、という流れだからその点は忘れずに。
そしてもう一つ。講座の受講を中断した場合は、給付対象外になってしまうんだ。
多くの人は会社員としての仕事と両立しながら、勉強することになると思うから、注意してね。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kyouiku.html

多額の受講料を支払ったのに給付金がもらえなかったらショックですよね……。他にはありますか?

そもそも論だけど、自分が受ける資格や講座が、教育訓練給付制度に対応しているかどうかをちゃんと自分で調べておくのは忘れないようにしよう。
「あとでお金が返ってくる」と思っていたのに、実は対象の講座じゃなかった、なんてことにならないよう、厚生労働省のサイトなどでしっかり下調べをしておこう。
制度をうまく活用して、キャリアアップにもキャリアチェンジにも、役立ててみてね。

横川先生、今回もありがとうございました!
構成・文・撮影=内藤 祐介
イラスト=ram