自分の可能性を広げる。
可能性の広げ方は至ってシンプルで、自分にとって挑戦したことのない、新しいものにチャレンジするということ。
しかし毎日が新しいことだらけだったこどもの頃とは異なり、大人になるにつれ毎日に“慣れ”が生じてしまいます。
そしていつしか、チャレンジから遠かった日常を送るようになってしまった――。そんな人も少なくないのではないでしょうか?
前回に引き続きお話を伺ったのは、芸人のエハラマサヒロさん。
前編ではお笑い芸人としての20年のキャリアについてお話を伺いましたが、今回はそんなエハラさんの知られざる仕事観について伺いました。
お笑い芸人からミュージカル、YouTube。そして近年では小学校のPTA会長もされていたというエハラさん。
エハラさんがなぜそこまで新しいことにチャレンジをするのか。その根底にあるものとは、一体何でしょうか。
エハラマサヒロさん
お笑い芸人
大阪府出身。
2009年に「R-1ぐらんぷり」で初出場にして準優勝。
現在は芸人としてはもちろん、ミュージカル役者、2018年にはアイドルグループ・吉本坂46としてデビューするなど、その活動は多岐にわたる。
プライベートでは4児の父でもあり、2019年にYouTubeチャンネル「エハラ家のチャンネル」を開設。自身はもちろん妻や4人のこどもとの楽しい日常を配信中。
ピンだからこそ、自分ではなく他者のために仕事をする。“個人事業主的・芸人”・エハラマサヒロの流儀
――R-1準優勝以降、芸人としてはもちろん、現在は役者やYouTuberなど、様々な領域で活躍するエハラさん。エハラさんがお仕事をする上で、大切にしていることは何ですか?
大切にしていること……。
一言で言うのは難しいですが、強いて挙げるなら「ピンで活動するからこそ、自分ではなく他者のために仕事をする」ことですかね。
ピン(≒個人)で活動する人って、良くも悪くも自分しかいません。
僕が今、仕事の幅を広く持てているのは、いい意味で相方がいないからやと思っています。
自分の行動をほぼ全部1人で決められる自由度の高さが、ピンの魅力です。
でもその自由度の高さを勘違いして、行き過ぎた野心・慢心を持ってしまうと、自分のことしか考えなくなってしまうんですよね。
――どういうことでしょう?
例えば僕がテレビに出た時、他の出演者のことを全く考えずに、自分が目立とうと出しゃばったら、すごいイヤなやつじゃないですか(笑)。
一緒に仕事をする仲間でもある所属事務所に対しても同じですね。
「自分は所属タレントなんだから、事務所は仕事を取ってきて当たり前」みたいなスタンスでいる芸人に、誰が仕事を取ってくるんやと。
僕のようなピン芸人は、いい結果も悪い結果も全て自分に返ってきます。
故につい自分のことばかりに目がいきがちになってしまいますけど、仕事とは本来、他人のためにするものだと思っていて。
――お笑い芸人だけでなく、個人事業主・フリーランスとして仕事をする上でも同じことが言えると思います。
そうかもしれませんね。僕も自分のことを、“個人事業主的・芸人”だと思っているところがあるので(笑)。
フリーランスってあくまで組織に属していないだけであって、仕事そのものは必ず人と関わっているもの。
逆に人との関わりを全く持たずに、仕事をしている人間なんていません。
1人で活動していたとしても、その根底には何かしらの形で支えてくれる人がいます。その人たちへの感謝を忘れちゃいけないと思うんですよ。
1人で活動するからこそ、ベクトルは自分ではなく、まず他者へ向ける。
芸人としての仕事ではもちろん、全ての活動において「エハラと一緒にいると楽しいな」「エハラと仕事するとおもろいな」と周りの人に思ってもらえるよう、心がけてますね。
肩の力を抜いて、毎日を楽しむ。夢や目標を“常に”持ち続けなくていい理由
――芸人としてだけでなく、様々な領域でチャレンジをし続けているエハラさん。そんなエハラさんがこれから挑戦したいことがあれば教えてください。
うーん……。
結論だけ先に話すと「今のところの大きなビジョンは、特にありません」ですね(笑)。
――ないんですか!?
例えば「YouTubeの登録者数これくらいにしたい」とか「年収これくらいにしたい」とかそういう細かいのはたくさんありますよ。
でもそれはあくまで“結果”であって、もっと大きなビジョンを達成する上で“ついてくるもの”なんです。
実は僕、この話でしばらく悩んでいたことがあって。
――詳しく教えてください。
ちょっと前まで、ある種の燃え尽き症候群になっていたんです。
僕は小学3年生の頃に芸人になりたいと思いました。そしてNSCを経て、その夢を叶えることができました。
芸人になった後は「東京に出て活躍したい」という新たな目標ができて、ドン底の時代もありましたが、それでもなんとかR-1を経て達成することができた。
その後「毎日違う仕事がしたい」と思ったら、幅広いジャンルの仕事を自分で取って来たり。「家族と過ごす時間がもっと欲しい」と思ったら、仕事のスタイルを変えてみたり。
がんばって目標を達成するたびに、新たな目標を見つけて軌道修正をしてきたんですが……。
自分の中から生まれる「じゃあ次は?」という問いに、次第に答えづらくなっていってしまったんです。
燃え尽き症候群というんですかね。
なんだか「今の自分には、昔みたいなビジョンがないなぁ……」と妙に焦燥を感じてしまって。
――目標のためにがんばり続けてきたからこそ、燃え尽きてしまったと。
「夢や目標に向かって、常にがんばっていないといけないのではないか」という、固定観念みたいなものが、ずっと自分の中でありましたから。
そんな話を、ある後輩芸人にしたことがあったんです。するとその後輩から「ビジョンなんていらないですよ」と言われて。
全ての人が、自分の人生を賭けて達成したいような夢や目標を“常に”持ち続けていたら、世の中は回らなくなってしまう、と。
それぞれがそれぞれのタイミングで、大なり小なり夢や目標を持つことはあるでしょう。
それを叶えるにせよ諦めるにせよ、みんな適度に折り合いをつけて生きているからこそ、この世界は回ってる。
ビジョンが見えないなら、少なくとも今は「そういうタイミングではない」ということなんだと言われて。
――昔のようなビジョンがない「今の自分」を受け入れられたと。
それに気がついた時に、胸がスッと楽になったんですよ。
それ以来、今の自分を受け入れて、気楽に楽しく生きることを大切にするようになりました。
すると不思議と「エハラさんって、とても楽しそうに生きてますよね!」と、自然に自分の周りに面白い人が集まってくるようになって。
だからもし今、大きな夢や目標が持てないことに苦しんでいる人がいるなら、無理して持たなくてええよ、と言いたいですね。
とにかく今、自分が楽しいと思えることをやって、肩の力を抜いて気楽に生きてみるのも1つの選択やと思います。
今後、もし「これは!」と思うものがあれば、その時またがんばればええし。
そんな感じで、僕も「何かおもろいことないかな〜」って、毎日ぼんやり探しています(笑)。
あえて失敗しそうな選択にチャレンジする? エハラ流・自分の可能性の広げ方
――新たな夢や目標を探すために、必要なことはなんだと思いますか?
それはもう、とにかく新しいことをやってみるしかないですね。僕自身も、常に新しいことを探していますし、チャレンジの数も少なくないと思います。
YouTubeもそうだし、吉本坂46や役者もそうだし。何年か前には娘の小学校のPTA会長もさせていただきましたから(笑)。
ポイントは、どれも「これは上手くいきそうにないな〜」とか「失敗しそうだな〜」と思うものを選ぶことですね。
――なぜあえて、失敗しそうなものを選んでチャレンジを?
失敗するって、めっちゃ大切なことやと思うんですよ。
成長する(上手くいく)ためには、考えないといけない。でも大して失敗もせず、いきなり上手くいっちゃったら、考えないじゃないですか。
これまでちょーっと上手くいったからって調子に乗ったところで、さらに大きな失敗をしてひどい目に遭うケース、今まで散々味わってきましたから(笑)。
だから失敗することはむしろ、運のいいことやと思っています。
失敗するからこそ考えるし、考えて行動することで自分の成長につながりますから。
――とはいえ失敗するのって、怖くないですか?
そりゃ昔は失敗するのは怖かったですよ!
でももうこればっかりは慣れていくしかないですね。
僕は「失敗とケガは似てる」と思っていて。どちらも痛みを伴うじゃないですか。
もちろん最初は痛いんですけど、人間は痛みが想像できると、ある程度耐えられたりするし最初よりも2回目の方が多分痛く感じないと思うんです。
それと一緒で、失敗の痛みにもだんだん慣れていきます。
「なんだ、案外こんなもんか」と思えたら、新しいことにも少しずつフットワークを軽くして飛び込んでいける。
そうこうしているうちに、たまに上手くいくことだってある。
「あれ? なんかようわからんけど上手くいった……!?」「失敗してもこんなもん。成功したらラッキー!」くらいに思えるようになれば、大抵のことはチャレンジできるんじゃないですかね。
――そしてそのチャレンジの先に、自分の夢や目標があると。
それもそうですし、チャレンジの向こう側には、まだ自分も知らない“可能性”が眠っていると思うんです。
YouTubeも上手くいくなんて全然思ってなかったですけど、こどもから「やってみたい!」と言われて「ほな、ちょっとやってみよか」くらいのノリで始めましたし。
ミュージカルもオファーを受けて「これは無理やろ」「舞台の上で大恥かくやろな」と思いながらやってみたら、案外なんとかなって。
そこから断続的にオファーをいただけるようになり、年に1回は舞台に出ています。
PTAだって「お笑い芸人のPTA会長なんて聞いたことないやん!」から始まりましたから(笑)。
その全部が今の僕を作ってくれたし、可能性や視野を広げてくれた。
一度チャレンジしてみて「合わないな」とか「やってみたけど無理そうやな」って思うものは、もちろんやめればいい。
でもチャレンジしてないうちから無理だと決めつけて、諦めるのは自分の可能性を狭めてしまうし、もったいないなぁと思います!
――最後に読者の皆さんにメッセージをいただけますか?
もし独立・起業に興味があるのなら、とにかく新しいことを始めてみてください。
もちろん「いきなり会社をやめる」なんてことをしなくても、小さい失敗なら今の時代たくさん経験できます。
「自分が何に向いているか」なんて、誰にも分かりません。
他人はもちろん、自分自身だってやってみなきゃ分からない。思ってもみなかったことで、自分の才能が開花することだってあるんです。
これは僕自身、とても心がけていることなのですが「新しいことを始める」だけでなく、「新しいことを“始め続けられる”」人でありたいなと。
チャレンジ精神を失わなければ、人は一生進化し続けていくと思っています。
独立・起業もチャレンジのうちの1つ。大きなチャレンジの根幹には、まず小さなチャレンジの積み重ねがある。
そう信じてこれからも楽しくがんばっていきたいですね。
取材・文・撮影=内藤 祐介