資本主義経済を基盤とする、現代社会。
個人や企業が利潤を追求し、様々な財やサービスを生み出す。まるで弱肉強食と言わんばかりに、淘汰されていく世界です。
そんな競争原理の価値観が支配する世界からの脱却を考え、始まったのが「ヒッピー文化」だと言われています。
今回お話を伺ったのは、鯉谷ヨシヒロさん。鯉谷さんは、23歳からヒッピーとして世界各地を転々としているそうです。
なぜ鯉谷さんはヒッピーになったのか。どうやって生活をして、普段どんなことをしているのかを、伺いました。
鯉谷ヨシヒロさん
ヒッピー/株式会社REVorg代表
大学を卒業後、23歳からヒッピーとして世界中で旅を始める。
現在はヒッピーとして世界中を旅しつつも、「株式会社REVorg」の代表として、Coビレッジに住む体験を扱うサービス『NuMundo』の運営、及び世界的なイベント「コズミックコンバージェンス」の立ち上げを行っている。
ヒッピー(英: Hippie)は、伝統・制度などの既成の価値観に縛られた人間生活を否定することを信条とし、また、文明以前の自然で野生生活への回帰を提唱する人々の総称。
出典:Wikipediaより
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%83%E3%83%94%E3%83%BC
常識とは、18歳までに身につけた「偏見」である―。鯉谷ヨシヒロさんが、23歳でヒッピーになったワケ
ー鯉谷さんがヒッピーになった理由を教えてください。
きっかけは、大学生の時でした。
大学3年生になると僕の周りにいた友人はみんな「ミュージシャンになりたい」とか「絵かきになりたい」とか、それぞれの夢を語っていた割に、就活の時期になったら、スーツを着て面接を受けに行っていて。
それがどうしても嫌だったんですよね。自分のやりたいことを我慢できなかった、というか。
そんなことを考えていた時に、ロバート・ハリスという作家が書いた『エグザイルス』という本に出合いました。
『エグザイルス』には、世界中を放浪した著者の、まるでフィクションのような体験談が描かれていました。
その内容に衝撃を受け、彼のように様々な世界を見てみたいと、思うようになったんです。そして、大学を卒業したら旅に出ることを決意しました。
ーいわゆる、バックパッカーとして旅に出る、ということでしょうか?
よく間違えられるんですが、ヒッピーとバックパッカーはその性質が全く異なります。
バックパッカーは、いろんな世界を見たいと思って旅に出て、その後は自国に帰ってくる。すなわち「行って帰ってくる」人のことを指します。
そういう人たちはお金を貯めて海外へ行って、安宿に泊まって観光地などを周ります。
それに対してヒッピーとは、「行きっぱなし、旅に出っぱなし」なんです。旅に目的を求めるのではなく、旅そのものが日常であり、人生なんです。
だからお金も基本的には必要ない。安宿に泊まるのではなく、現地の人と仲良くなってその人の家に泊めてもらう。
ーなるほど。ヒッピーになる方は、鯉谷さんのようにどなたかに憧れて、ヒッピーになられるのでしょうか?
人によりけりですが、「資本主義経済による競争社会に疲れて、ヒッピーになった」という人が多いですね。
日本でもそうですが、僕たちは小さい頃から「競争に勝つ」ように教育されてきました。
今でもまだ根強く残っている、こどもの受験競争。どこの大学に入って、どんな企業に入るか…。
この競争社会で生き残っていくためには、他者よりも優位に立つためにひたすら努力し続けなければなりません。
ーそういった世界に辟易した人たちが、競争ではなく自由を求めて、ヒッピーになると。
そういうことですね。
「常識とは、18歳までに身に付けた偏見のコレクションである」と、アインシュタインも言っている通り、これはあくまで「資本主義経済の中での」価値観でしかありません。
そんな多様な価値観に触れるために、大学を卒業して旅に出たんです。
競争が苦手な人が、無理にその価値観に染まる必要はない
ーヒッピーとは、普段どのように生活しているのですか?
先程もお話した通り、世界中を旅しながら生活しています。
行く先々の現地の人の宿に泊めてもらったり、同じヒッピー同士で助け合ったりしています。
ヒッピーには、まるでFacebookのような口コミのコミュニティがあるんです。世界中の、数百万人という数のヒッピーは「全員仲間であり、家族である」という共通認識があります。
いわば、1つの宗教・思想に近いかもしれません。
ーなぜ、そういった共通認識があるのでしょうか?
それは、彼らが「資本主義経済から逃れて、生きていくための1つの術」として、「全員仲間であり、家族である」という思想を40年以上前に確立し、それが今まで脈々と受け継がれているからです。
普段は都会で働いている方からすると、少し想像するのが難しいかもしれませんが、この日本にも「全員仲間であり、家族である」という価値観に近いものもあります。
ー日本にも、ですか?
はい。それは都会ではなく、田舎にあります。「おすそ分け」という言葉がある通り、よく田舎に住んでるおじいちゃんやおばあちゃんが、野菜や食べ物をくれたりとかしますよね?
そこにお金は介在しません。コミュニティとは本来、お金のやり取りではなく、お互いを助け合っていくものなんです。
ヒッピーの世界でも、日々同じことが行われているんです。数百万人もの超巨大コミュニティの中で「全員が家族だ」という思想のもと、たとえ初めて会うヒッピーでも助け合います。
だから泊まる場所を手配する必要もなければ、ご飯も誰かが食べさせてくれる。その代わり、自分が何か手伝えることは率先して手伝い、助け合う。
ーその助け合いの精神は、全世界のヒッピーの共通認識なのでしょうか?
そもそも「全世界のヒッピー」という捉え方が間違っています(笑)。
ヒッピーに国境はありません。もちろん生まれ育った国はそれぞれですが、「今いる国が自分の国だ」という認識を持っています。いわゆるワールドシチズン(世界人の意)ですね。
四方を海で囲まれた島国だからか、日本では特に、国境の壁が高いですね。
僕は海外で、日本人のことを「人口の多い“少数民族”」だとよく説明しています。
これは人口は1億人以上いるにも関わらず、単一民族なので日本人は日本人とばかり一緒にいるし、日本語しか話さない。
ひいては価値観の種類が少ない、ということです。
ーそして、日本人は「資本主義経済」の考え方に囚われすぎである、と?
そう感じる場面は多いです。
もちろん資本主義経済の価値観が自分に合っている、という方もたくさんいらっしゃるでしょうし、資本主義経済の全てが悪いわけではありません。
しかし、競争が不得意である人が、無理にその価値観に染まる必要はないと思っています。
僕は長年のヒッピー生活で、世界には資本主義経済だけでない、もっと多様な価値観があることを知りました。
だからこそ今、僕はそんな価値観を広めるための活動を世界各国で行っているんです。
満員電車に揺られることだけが、人生ではない。ヒッピーでの体験から、立ち上げた事業
ー鯉谷さんの現在の活動について、教えてください。
ヒッピーとして世界各国を周る傍ら、「生きる本質をデザインする」をコンセプトに、「株式会社REVorg」(http://revorg.co/)という会社をやっています。
「資本主義経済で生きていくことだけが、人生ではない。あらゆる選択肢を知ってほしい」という想いで始めました。
ーどんなサービスを展開しているのでしょう?
「エコビレッジ」(住む人同士が支え合い、環境に負荷の少ない暮らしを追い求めるコミュニティ)や「パーマカルチャーセンター」(永続的な農業をもとに、人と自然が共生できる環境を作る場)にある生活共同体を「Coビレッジ」と呼びます。
その「Coビレッジ」を探して、実際に住む体験ができるプラットフォーム『NuMundo』(https://numundo.org/centers?lang=ja®ion=japan)を運営しています。
新しい生き方を実践しているコミュニティに、直接足を運ぶことができるサービスです。
いわば「エアビーアンドビー」(宿泊施設・民宿を貸し出す人向けのサービス)の、エコビレッジ版、みたいな感じです。
ー日本にいながらまるでヒッピーのような、資本主義経済から離れた暮らしを体験できる、ということですね。
はい。
その体験を通して「こんな暮らしをしても、生活していけるんだ」ということを、実際に肌で感じて欲しいんですよね。
満員電車に揺られて、分刻みのスケジュールで動くことだけが、人生ではない。
あらゆる選択肢を知った上で、自分に合った人生を送ってほしいなと思っています。
ー他には何かなされているのですか?
あとはイベントを立ち上げたりしています。
「コズミックコンバージェンス」といういわばフェスに近いものをグアテマラで開催しています。
しかし、ただのフェスではありません。
音楽・アート・ワークショップ・ヒーリング・ライブパフォーマンスなどを楽しむだけでなく、その後にマヤ族の儀式も体験できます。
主体団体は「REVorg」だけでなく、ビジネスの最先端、シリコンバレーのスタートアップたちなので、世界各国からハイセンスな人たちが集まります。
人数はおよそ数千人規模。かなりオルタナティブなイベントなので、参加した多くの人が衝撃を受けて涙も流している人も多いですね。
こちらのイベントの立ち上げ、および公式オーガナイザーとして、日本からの参加者を募っています。
ー最後に、鯉谷さんから「雇われない生き方」を実践してみたいという人に対して、アドバイスをいただけますか?
今いる環境ではないところに飛び出してみると、世界が広がります。
例えば『NuMundo』のようなサービスを利用して、知らない街のエコビレッジに泊まってみたり、思い切って長期休暇を取って海外へ行ってみるとか。
もちろん、全ての人がヒッピーになる必要はないとは思いますが(笑)、世界は「雇われる」か「雇われないか」という二者択一だけではありません。
何度もお伝えしている通り、あくまでそれは資本主義経済の中、都会の中の話でしかないんです。
だからこそ「どう生きるか」を軸に、転職でも独立でも、自分の思うようにもっと気軽にやってしまっていいと思っています。
「雇われない生き方」や「自由な生き方」を実践したいなら、まずは1歩外に出てみると、全く違った景色が見えてくるかもしれません。