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服を通して、人の思いをいまにつなげる。ビンテージ専門店『3(san)洋装店』が生まれた経緯

2020年10月22日

服を通して、人の思いをいまにつなげる。ビンテージ専門店『3(san)洋装店』が生まれた経緯

静岡市のビルの一角に店を構える『3(san)洋装店(さんようそうてん)』。やわらかい日差しが差し込む店内に足を踏み入れると、そこには大量のコートやシャツが陳列されています。ひとつひとつの服はどことなく温かみがあり、一着ワードローブに迎えてみたくなる佇まいです。

店主の三枝学さんに話を聞くと、これらの服は約100年前につくられたビンテージの服だといいます。主にヨーロッパから仕入れたもので、自ら修繕して販売しているそうです。

三枝さんはもともと静岡市の出身。学校を卒業した後は東京のセレクトショップで働いていたようで、結婚と育児をきっかけにUターンしてきました。彼はなぜビンテージ服の専門店を開こうと思ったのでしょうか。その経緯を伺ってみました。

<プロフィール>
三枝学さん
文化服装学院を卒業後、東京のアパレル企業に就職。六本木ヒルズや自由が丘のセレクトショップに配属され、店舗管理や仕入れ、販売、商品企画に携わる。

その後、渋谷区にブランド専門の修理、お直し専門店の立ち上げメンバーとして携わり、主にメンズフォーマル&カジュアルを担当。

アパレルメーカーに勤務しながら、2012年に銀座テーラーが運営する日本テーラー技術学院を卒業。2014年、 Sarut Hiro代表 廣川輝雄氏の元でフルオーダーの製図、フィッティング、テーラリング技術を学ぶ。

2017年に退社し、静岡市に移住。

服は「文化」と気づいてから、この世界にのめり込んでいった

--とても素敵なお店ですね。今日は三枝さんが開業するまでの経緯を聞かせてください。最初に聞きたいのは服について。なぜ服飾に興味を持ったのでしょう?

三枝さん
きっかけは軽率で、モテたかったんです(笑)。多くの人が通る道だと思うんですけど、中高生の僕は「こんな人になってみたい」と理想の自分を思い描いていました。その姿に近づくために服を買い始めたんです。

けれどもいろんなお店に足を運び、店員さんに話を聞くうちに服は「文化」だと気づいた。人の数だけ服があって、そこには生活や物語があります。それからはカルチャーとして服を楽しむようになりました。

--とても熱中されていたんですね。進学先は服飾の学校だったのでしょうか?

三枝さん
それが一度は大学に通っていたんです。実家が教員一家なので、「当然進学するよね」という雰囲気で。僕も大学生活に憧れがあったので、とりあえず経営学部に通いました。一度本気で勉強しましたが興味を持てず、「大学に居続けても無駄だ」と感じたんです。

同じ勉強なら好きなことを学びたい。そこで両親に、服飾専門学校の『文化服飾学院』に通いたいと打ち明けました。反対はされましたが意見を押し通したら、無事に通えることになったんです。

入学後はカリキュラムだけでなく独学で色々なことを学びましたね。服飾は人体学に近いと感じたのもこの時です。人はそれぞれ骨格が違うので、服だけを見ていてはいけない。着る人の体型や価値観を伴って、はじめて調和するものだと思っています。

卒業後はアパレル業界へ。二足のわらじでテーラーの学校にも通った

--卒業後はどのような進路を辿ったのでしょうか?

三枝さん
当時はバイヤーになりたかったので、アパレル業界に進みました。当然、店舗のことも知らなくてはいけないので、六本木ヒルズのセレクトショップに配属されることになったんです。入社後は販売や店舗運営をしながら、テーラーの学校にも通っていました。

--すごく勉強熱心だったんですね。

三枝さん
当時は手に職をつけたいと思っていて。きっかけは入社して2年目に起きたリーマン・ショックです。不況の影響で六本木ヒルズのオフィスフロアに入居していた企業が一気に撤退したんですよ。

その時、「いま僕は大きな企業にいて仕事を任されているけれど、会社が潰れたら何もできないんじゃないか。会社がなくなっても残る自分の力ってなんだろう?」と考えました。

1人でも仕事ができる技術があれば、たとえ会社が潰れても生きていけます。学校に通ったのは、成長している実感を得続けるためだったんです。

--会社員と学校の二重生活は大変ではなかったですか?

三枝さん
大変だと感じたことはなかったですね。仕事では仕入れで様々な服を見るのが楽しかったし、学校で仕立ての技術を学ぶ時には驚きや発見がありました。

僕は服以外に趣味がないんです。会社でも一番服に詳しい人でいたかったから、休みの日は色んな服屋に出かけていました。青山の高級店から下北沢の古着屋まで、ジャンルを問わず歩き回って、ステッチの幅やパターンはミリ単位で確認していましたね。だから休日に家にいたことはほとんどありません。しょうもない服を見るのも楽しいんですよ。「この縫製だから、この価格に抑えられるんだな」と考えたり。

--服オタクだったんですね(笑)。

三枝さん
そうですね(笑)。アイドルや漫画じゃなく、僕の場合はたまたま服だった。テーラーの学校で仕立ての技術を学んでいましたけど、その道で独立しようとは思っていませんでしたし、趣味の一環だったと思います。

独立の予定はなかったけれど、結婚と育児を機にとりあえず会社を辞めた

--3洋装店では仕入れた服を修繕して販売していますよね。この技術はテーラーの学校で学んだものなのでしょうか?

三枝さん
学校と、あとは会社で学びました。僕が勤めていた会社は、洋服を生産から小売りまで一貫して行う規模の企業で、自社のオリジナルブランドも製作していました。

製作はしていたものの、アフターケアの部署がなかったため対応が必要だったんです。立ち上げの時に社内公募が出ていたので「面白そうかも」と思って応募してみたら、希望者は僕だけだったようで、ひとりで業務を担当することになりました。

当時は様々な服を直しましたね。教えてくれる先輩はいないので、一般的なカジュアルな服はもちろん、レザーやファーも手探りで修繕していた。テーラーの学校で学んだ技術を現場に落とし込んでいったら、最終的にはどんな服でも直せる技術が身についていました。

--場数を踏むことで身についた技術だったんですね。その後、なぜ独立することになったのでしょうか? そのまま会社に残り続ける選択肢もあったと思うのですが。

三枝さん
独立する予定は全くなかったんですが、結婚と育児がきっかけになりました。結婚してすぐにこどもが生まれて、妻と「どういう教育がしたい?」と話し合ったんです。

共通していたのは「森のようちえん」に通わせたいということ。これは自然体験活動を軸に保育してくれる施設で、全国にも施設はほとんどありません。でも、探してみたら偶然妻の実家の徒歩5分に自然保育をしてくれる施設がありました。

妻は僕と同じ静岡の出身です。東京では保育施設も入りづらいし、妻は働いて社会とつながっていたいと話していたので「とりあえず移住してみよう」と。2017年に会社を辞めて地元の静岡市にUターンしました。

「やりたい店は自分でつくるしかない」。手元のミシンを頼りにビンテージショップを開業

--移住の際は、はじめから店を立ち上げるつもりだったんですか?

三枝さん
当初は転職活動をしていたんですよ。地方にもアパレルの企業はたくさんありますし、地元でも働き先は見つかると思っていたんです。でも活動をしてみると、どの会社もしっくりこなかった。

「自分の働きたい場所は自分でつくるしかない」と思って、店の立ち上げを決めました。

--同じアパレルでも、セレクトショップや仕立屋など様々な業態がありますよね。なぜビンテージ服のセレクトショップを選んだのでしょう?

三枝さん
会社員時代からビンテージ服は好きだったんです。仕入れをしながらデザインのルーツを辿っていくと、必ず古い服に行き着くんですね。

実は、1970年から1980年代ですでに服のデザインは完成していて、デザイナーはそれを再編集しながら新作を発表しているんです。それに気づいてからはビンテージにどんどんのめり込んでいきました。

それに、自分は創作にあまり興味がないんです。会社員の時にオリジナルの服を作って販売したこともありますが、熱中できなかった。古い服には文化と歴史が内包されています。それを後世に残していけたら素敵だと思ったんです。

僕は「修繕士」を名乗っていますが、これは単に洋服を直すだけの仕事ではありません。手法や文化を受け継ぎ、人と服の縁を縫い合わせていく、そういう仕事だと思っています。



<キャプション:(上)1950年代のオーストリア製コート (下)1940年台のスウェーデン製ジャケット>

--開店準備はどのように進めていったのでしょうか?

三枝さん
物件が見つかるまでは大変でしたけど、僕の仕事はミシンがあればいいので、初期費用はさほどかかりませんでした。内装は自分で手がけ、ミシンはすでに持っていたので什器を買って諸々50万円ほど。あとは服の仕入れの代金だけです。

--費用を抑えて開店できたのですね。開業後はどのようにお仕事を進めているのでしょう?

三枝さん
定休日は月曜と火曜で、それ以外の日は朝7時に店に行き、そこから開店時間の13時30分まで店で売る服の修繕を行います。店に並ぶ商品は手を加えて販売しているんです。

ほつれを直したり、汚れを取ったり、ほかにも現代のスタイルに合わせてシルエットも直します。たとえば昔の服のなかには肩が張っているものがありますよね。そのままだとコーディネートしづらいので、分解して肩パットを外し、現代的な肩の傾斜や幅に作り直します。

そのほかに、うちはECもやっているので商品の撮影やサイトの更新も業務の一環です。ちなみに服の修繕も行っていますが、これは店舗持ち込み限定で行っています。

--これは他店に負けない、と胸を張れる自慢の商品はありますか?

三枝さん
白地の服に力を入れています。というのも、長年の試行錯誤のなかで、漂白剤を使わず古い生地を傷めることなく、ほぼ全ての汚れやシミを取る方法を編み出すことができたんです。

古着を扱うバイヤーは汚れが際立つ白い服の仕入れを避けたがるのですが、独自の手法のおかげでバイヤーに見向きもされない埋もれた洋服を蘇らせることができる。これだけ多くの白い服を扱っているビンテージショップは全国でも珍しいと思います。

会社員時代から10倍忙しくなった。けれど、辛いと思ったことはない

--話は変わりますが、この仕事のやりがいや面白さって何でしょう? 

三枝さん
使われなくなり、眠っていた服を現代に蘇らせることです。この仕事は、時代や場所を超え、人と人、人と服の縁を縫い合わせることができます。

それと服マニアなので、様々な服を見られることが面白いですね。ビンテージを仕入れていると時おり珍品が出てくるんですよ。

富豪があつらえたものなのか、芯地や細かい装飾など、いまの常識では考えられない豪華な素材が使われていて、修繕すると様々な発見があります。昔は今に比べて娯楽も少なかったので、道楽にかける情熱もすごかったのでしょうね。

--逆に辛いことはありましたか?

三枝さん
辛いことはないですね。会社員時代に比べて10倍は忙しいけれど、「楽しそうだ」と思えることしかやらないと決めているので。

もちろんお客さんのリクエストには答えますが、それ以外の仕事、たとえば取材対応や講演の仕事など、やりたくないものは断っています。

服の楽しみ方を伝え、愛着を抱いてもらいたい

--最後の質問です。三枝さんが今後やりたいことを教えてください。

三枝さん
せっかく地方に来たので、業界の働き方に一石を投じたいですね。正直に言えば、服飾業をするなら東京にいる方が楽なんです。あそこは業界の中心です。ただ決して、労働時間や労働環境が良いとは言えません。

働き方は無数にあるし、今は個人がメディアになれる時代です。「東京じゃなきゃできない」と考えている人もいますが、頭を柔らかくして思い込みを減らしていけば違う働き方が見つかると思います。

うちは週休2日で、13:30〜18:00を営業時間にしています。けれど、しっかりマネタイズできている。将来的には閉店時間をどんどん短くしていきたいですね。その分やりたい仕事をどんどん入れていこうと思っています。

--やりたい仕事とは何ですか?

三枝さん
お客さん同士をつなげて、服を多角的に楽しんでいきたいと思っています。ECやYouTubeを活用しているからか、3洋装店のお客さんは半分以上が県外のお客さんなんです。リニューアルの際も、全国からお客さんが足を運んでくれました。

大人が洋服で真剣に遊ぶための環境作りをトコトン進めたいです。現在もYouTubeで洋服オタクの為のラジオを配信していますが、これからやっていきたいのは洋服の社交倶楽部です。

参加者が一緒にごはんをつくりながら服のことを語り合ったり、映画のなかの服を研究したり。お互いに服にまつわる文化を教えあってもいいし、僕が動画をつくって伝えてもいい。全国のお客さんと「洋服」という共通言語の中で、真剣に楽しみ、ともに遊びたいと思ってます。

服の楽しみ方を知った人は、手元の一着を大切に着てくれるはず。僕は時代を超えて受け継がれる服を増やしていきたいんです。

古いものには人の思いや痕跡が宿っています。ものが溢れる時代に、あえて過去と現在をつなぐ三枝さんの仕事はとても素敵なものだと感じました。

彼は『3(san)洋装店』を運営するかたわら、YouTubeで洋服への偏愛を語っています。三枝さんの豊富な知識を垣間見ることができるので、こちらもぜひご覧くだだい。

3洋装店
住所:〒420-0025 静岡県静岡市葵区金座町47−1 金座ビル 2F
​電話:054-689-5444
営業時間 12:30 〜18:30<定休日 月曜日 火曜日(予約制)>
※修理のご依頼は店舗持ち込みのみ

3(san)洋装店 YouTubeチャンネル

取材・文=鈴木 雅矩

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