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開業=ゴールじゃない。中洲サブカルバー経営・財津朋晴さんに聞く、愛される店の作り方

開業=ゴールじゃない。中洲サブカルバー経営・財津朋晴さんに聞く、愛される店の作り方

70%。

これは開業した飲食店の、3年以内の廃業率を表した数字です。さらに10年後には95%もの飲食店が廃業しているとも言われています。

夢を持って独立・開業をしても、事業を継続できるのは全体のうちのほんのわずか。その中で生き残っていくためには、言うまでもなく顧客に愛される店を作っていく必要があります。

今回お話を伺ったのは、財津朋晴さん。

福岡県は博多区中洲に2店舗の飲食店を経営する財津さん。うち「ホビー ダイニング ジオン」は今年で7年目を迎え、コロナ禍の厳しい中にも関わらず昨年には「アニソン&サブカルバー ファティマ」を開業しました。

しかし飲食業界未経験のまま始まった財津さんの経営人生は、決して楽なものではなかったと言います。

キーワードは“コンセプト”、そして“サブカルチャー”。

今回はそんな財津さんの開業エピソードとともに、顧客に愛される店を作るために心がけていることを伺いました。

<プロフィール>
財津朋晴さん
ホビー ダイニング ジオン/アニソン&サブカルバー ファティマ店主

大分県出身。
水道管工事などを行う建設業を営む実家に生まれる。
専門学校時代に飲食店の開業を決意し、卒業した後は実家に就職。その後開業資金を貯めるべく独立し約10年間、美容関連やサプリメントを専門とした事業に取り組む。

2015年8月に福岡県は中洲に、ホビー ダイニング ジオンをオープン(当時はゴハン ダイニング ジオン)。
試行錯誤の末、店を軌道に乗せた後、2021年2月にアニソン&サブカルバー ファティマをオープン。現在はこの2店舗の経営を務めている。

「本気で店、出したいと思ってる?」 先輩に言われた痛烈な一言

――まずは財津さんのお仕事について教えてください。

財津さん
福岡県の博多区中洲で、「ホビー ダイニング ジオン」(以下、ジオン)、「アニソン&サブカルバー ファティマ(以下、ファティマ)」という2店舗の飲食店を、経営しています。

それぞれ、ジオンは主にプラモデルやゲーム・アニメなどが好きな方へ向けたダイニングバーとして。ファティマはアニソンを歌えるカラオケバーとして運営しています。

いずれもサブカルチャー色を全面に出した店づくりを行っています。

――いつ頃から飲食店を開業しようと思い始めたのでしょう?

財津さん
学生時代の頃からですね。

高校卒業後に地元・大分から上京して、専門学校で音響の勉強をしていまして。学校に通いながらライブハウスや、ライブパフォーマンスができるバーでアルバイトをしていたんです。

その時に「地元の大分にはこういう、音楽ができる店や若者向けのバーがないよな」と気がついて。

いつしか「自分の店を持ちたい」と思うようになっていったんです。

――では専門学校卒業後は飲食業に?

財津さん
いえ。実はその後2015年にジオンを開業するまで、実は一度も飲食業界で働いたことはなくて。飲食業界未経験のまま、店を開業したんです。

自分の店を開業するためにまず考えたのは「開業資金をどうやって捻出するか?」ということでした。

卒業後、そのまま東京の会社に就職することも考えたのですが、東京は家賃をはじめ、いろいろコストがかかってしまいます。

そこで建設業を営む大分の実家に帰って、実家で働きながらお金を貯めることにしました。

――それで独立を?

財津さん
そのつもりだったんですが……(苦笑)。

まず東京の初任給と大分の初任給で、大きな違いがありました。

もちろん実家でしたし、東京ほど暮らすのにコストはかからなかったのですが、かといって開業資金を貯められるほど、稼げてもいなくて。

財津さん
そんな時、同じ高校の先輩と飲みに行くことがありました。その先輩は九州で最大手の超一流企業に就職したものの会社を辞めて独立した、僕の周りでもちょっと異色のキャリアを持った人で。

その先輩から「実際に店を出すのにどれくらいお金がかかるのか、ちゃんと調べた?」「今の貯金のペースで、いったい何年後に店出せるの?」と、非常に現実的かつ、的確なアドバイスをいただいたんです。

「このままじゃいつまで経っても店を出せない!」と、そう一念発起をして、会社を辞めて独立。その先輩に誘われる形で、美容関連やサプリメントの個人輸入業を始めました。

そうして約10年ほど費やして資金を作って、ようやく2015年にジオンを開業したんですが……飲食業未経験での独立は、そう甘くありませんでしたね。

開業=ゴールじゃない。前途多難な未経験開業、そして見つけた“サブカルチャー”という突破口

――具体的にどのようなことが大変でしたか?

財津さん
全部です(笑)!

まずオープンしてすぐは友人や知人が、いわゆる“ご祝儀”的に店を使ってくれていたのですが、1カ月もすればその波も落ち着きます。

その後すぐ、料理を担当してくれるはずだったメンバーが、突然やめることになりました。客足は遠のき、料理を作る人はいなくなり……。

その他にも、ここではお伝えしきれないようなエラーや失敗、トラブルの連続だったんです。

――トラブルの原因は、やはり飲食業に対する経験不足なのでしょうか?

財津さん
それもありますが、最大の原因は僕の中で、どこか飲食店を「開業することがゴール」になっていたからじゃないかなと思います。

「こんな感じの雰囲気で、あんな店を作りたい〜」といった青写真は、開業前からもちろんずっと描いていました。

でも、もっと現実的に「自分の店の強みはなんなのか」「どんな人をターゲットに、どんなサービスを提供する店にしたいのか」が、自分の中できちんと見えていなかったんですよね。

財津さん
例えば、博多の中洲において「料理が美味しい店」って、めちゃくちゃあるんですよ。高級な料理店はもちろん、屋台に代表されるように安くても美味しいお店はたくさんある。

そんな中“料理の味”だけで勝負したら、絶対に勝ち目がないなと。元々僕は、料理が得意でお店を始めたわけではありませんから。

――では財津さんは、ジオンのどこに“強み”を見出したのでしょう?

財津さん
大雑把に言えば、「サブカルチャー」ですね。

ある時、中洲でアニソンバーを経営している方が、店に来てくれたことがありました。今でこそアニソンバーやコンカフェ(※)は、この中洲でもかなり増えたのですが、当時はまだそんなに数がなく。

「サブカルチャーの文脈を取り入れてお店を経営する」というスタイルとの出合いは、方向性を完全に見失っていた僕にとって、まさに目から鱗でした。

いかんせんそれまでのジオンは、良くも悪くもどこにでもある「普通のご飯屋さん」だったので。

※コンセプトカフェの略。メイドカフェなどに代表される、特定のテーマを取り入れた飲食店のこと。女性(店によっては男性)キャストが接客を担当する。飲食ができる他に、キャストとチェキ撮影ができるなど、店のコンセプトに沿ったユニークなサービスが数多く存在する。

――店にとって中核になり得るコンセプトが、ようやく見えてきたと。

財津さん
僕自身、昔からアニメやプラモデルが大好きなんですよ。加えて一度ハマるとのめり込んでしまう、オタク気質なところがあって。

ただそれまでは、自分の中の「オタク的要素」を仕事としてではなく、あくまでも「趣味的なもの」としてしか捉えていませんでした。

だからこんな形で仕事と趣味を融合できるだなんて、思ってもいなかったんです。

――まさにジオンにとって、大きな変革を迎えた瞬間だったんですね。

財津さん
「ジオンをサブカルチャーの文脈を取り入れた店に、もう一度作り変えよう」。

そう決めてからは、日夜アニソンバーやコンカフェについて徹底的に研究し、自分が見てこなかったジャンルのアニメや流行りのコンテンツもめちゃくちゃ見ました。

そして同時に、アニメやコスプレが好きな女性キャストの求人もスタート。

店の名前も「ゴハン ダイニング ジオン」から現在の「ホビー ダイニング ジオン」へと変更して、再スタートを切ったんです。

――その反響はいかがでしたか?

財津さん
お客さんの層が次第に変わっていきました。アニメや特撮、プラモデルなどサブカルチャーが好きなお客さんが増えていって。

お店という場所を活用して、プラモデルをお客さんと一緒に作ったり、作ったプラモデルを福岡市美術館に飾らせていただく機会にも恵まれました。

今は新型コロナウイルスの影響であまり実現できてはいませんが、飲食店という枠組みを越えたイベントも着実に増えていっています。

そうしてジオンをある程度軌道に乗せた後、2021年2月に2店舗目にあたる、ファティマをオープンしました。

まず経営者である自分が、1番店作りを楽しむこと。愛される店を作るために

――財津さんの今後の展望を教えてください。

財津さん
まずはジオン、ファティマに次ぐ、新たなお店を開業したいですね。

新しいお店もサブカルチャーの文脈を大切にしながらも、ジオンやファティマとはまた違ったコンセプトでオープンできたらなと。

加えて新たなイベントごとにも挑戦してみたいですね。

美術館でのプラモデル展示もまたやりたいですし、アニメやサブカルチャーをテーマにしたフェスのようなイベントを、福岡で開催できたらなと。

福岡って、東京でいう秋葉原や池袋、中野のようなサブカルチャーの街がないんですよ。

僕はこどもの頃からアニメやプラモデルが大好きで、大人になった今現在も、この“サブカルチャー”によって生かしてもらっている。

だからこそ今度は、この福岡でサブカルチャーを盛り上げられるようになりたいなと。

後世に渡ってずっと続く「お祭り」のようなイベントや文化を、作っていけたらとても素敵ですね。

↑ファティマの店内。アニソン&サブカルバーをコンセプトに、アニメや特撮といったサブカルチャーの関連グッズなどが、所狭しと並んでいる。

――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

財津さん
先ほどお話した経緯があってお店を開業したからか、「お店を出したい」「独立したい」という悩み相談をよく受けます。

かくいう僕も「お店を出したい願望」をずっと抱いてきたんですが、かつて先輩に言われた通り「実際にお店を作るとして、いくら必要なのか」を、パッと答えられる人はそう多くありません。

まずはその点を人に聞いてみるなり、ネットで検索するなりして、よく調べてみるといいと思います。

そして独立・開業した方へ。僕は今もなお模索中ですが、店を継続していくには「改善改良」の一言に尽きます。

待っているだけじゃ、お客さんはやってきてくれません。

月並みな言い方かもしれませんが「今なぜ上手くいっているのか/なぜ上手くいっていないのか」を、常に分析してその都度、改善改良を続けていく。

そして最後にもう1つ、自分のお店作りをする上で、僕が最も大切にしていることをお伝えさせてください。

――なんでしょう?

財津さん
「僕がお客さんになって、この店に来店した時、最高に楽しめるか?」という視点を忘れないことです。

サブカルチャーの文脈を取り入れて、店作りをしようと思った最大の理由。それは、僕自身がそのコンセプトにワクワクしたからなんです。

まず経営者の僕が、自分の店を1番面白がって、1番愛してあげられているか。そしてその熱量が、お客さんや他のスタッフにもきっと伝わると信じて。

さまざまな人から愛していただける店を作っていくために、これからも僕が1番楽しんでお店を作っていきたいと思います。

取材・文・撮影=内藤 祐介

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