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半導体メーカーからジャム工房へージャムで館山の未来を作る、礒部克さんのこだわり

半導体メーカーからジャム工房へージャムで館山の未来を作る、礒部克さんのこだわり

千葉県・館山市。自然が広がるのどかなこの街に、1軒のジャム工房を営むのが礒部克さん。元々半導体製造会社に勤務していた礒部さんは、工場の閉鎖に伴い、ご自分が勤めていた環境を追われてしまいます。

そこで礒部さんが新しい職として選んだのが、なんとこのジャム工房。なぜジャム工房を選んだのか、開業までの道のり、そしてこれからについて礒部さんにお伺いしてきました。

突然の工場の閉鎖ー仕事がなくなっても館山に残った理由とは?

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―まず、この工房を立ち上げた経緯をお聞かせください。

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―礒部克(以下、礒部)
私は元々半導体製造会社に勤めていたのですが、工場が閉鎖することになりました。約1000名の同僚は新しい職を探すため、家族と一緒にこの館山市から出て行ってしまったんです。その理由は、仕事がないから。この土地には農業や漁業、介護しか仕事がないんです。

都会のようにたくさん仕事があるわけではないし、新たなビジネスに取り組む雰囲気もなければ、当然起業をするような流れでもない。でも私は、この館山から離れたくなかった。なぜなら、館山にはダイヤの原石がたくさん転がっていると思っていたからです。

―ダイヤの原石とは、なんでしょうか?

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―礒部
ある農業関係の友人から、形の悪い野菜や完熟した果物を大量に廃棄しているという話を聞きました。いずれも、味はおいしいのに世に出して売ることができない。

そんな理由から野菜や果物が捨てられる現状を見て、私は不思議に思いました。「なぜ、ダイヤの原石が落ちているのに誰も拾おうとしないのだろう?」と。

館山には、そうしたムダになってしまっている野菜や果物を活用するための加工場がありませんでした。市の担当者さんとそんな話をしていたら「補助金を100万円まで出せるから、礒部さんが加工場をやりませんか?」と誘っていただいたんです。「誰もやらないなら、やってみようかな」と思って引き受けました。

―「やってみようかな」とは、なかなか軽やかなお返事ですね(笑)。全く未経験のジャム作りに不安は感じなかったのですか?

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―礒部
もともと私は技術者なので、なんでも徹底的に取り組み、極めていけば、見つけてくれる人がいるという考え方を持っています。前職の半導体も、徹底的に研究して突き詰めて、そして気がついたら日本で1番、世界で1番になっていることもありました。

ですので今回のジャムに関しても、極めて突き詰めていけばきっとなんとかなる!と思っていました。技術者としてやってきた方法論を、ジャム作りにも当てはめてみたんです。

自分の舌を信じ、その素材に適した製法を独自で考える―ジャム製法へのこだわり

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―その後は事業計画など、起業をするための準備段階になると思いますが。

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―礒部
はい。「廃棄されている野菜や果物を使って、ジャムを作って売る」という構図からどのように工房を立ち上げるかを考えていきました。

まず、フランチャイズか自営かを考えました。フランチャイズとしてどこかの企業の傘下に入った方が、いろいろとノウハウもある上、資金や物資の調達も楽は楽だったのですが、私は自営を選びました。

―それはなぜでしょうか?

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―礒部
やはり館山で作っている野菜や果物に自信がありましたし、味のレベルも高いと思ったんです。なら、どこかの傘下に入るよりも、ジャムを独自のブランド力を持つ方向に持って行きたいなと考えました。

原材料の味がいいことはもちろん、ジャムに何かしらの付加価値をつけたくて。その分値段もそれなりにしてしまうのですが、商品として付加価値の高いものを作ることがブランド力を持つためのポイントだと思っていました。

―付加価値を生み出すために、どんなことをされたのですか?

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―礒部
まず、ジャムの作り方について徹底的に勉強しました。いろいろな公開レシピを見たり、市販のジャムを徹底的に調べ尽くしました。

酸度や糖度や粘度……、人気のあるジャムにどんな特徴があるのかを調べあげたんですが、一般的に使われているやり方が正しいとは限らないことに気が付きました。そして、結局は「自分の舌を信じて、素材の味を1番おいしくなる製法にしていくしかない」という結論に至りました。

そこで厨房を「実験室」にして、数ヶ月かけてそれぞれの素材に合った香りや色を出すノウハウを見出しました。酸化すると色が変わったりするので、うまく火力を調整したり、酸化を防ぐための方法を考えてみたり。

さらに、化学を専攻していた妻が、摘果した青いマンゴーの渋みを溶解する方法を編み出してくれたことで、今まで摘果した果物も有効的に活用することができるようになりました。

地元への想いが、周囲のサポートを呼んだ!―ジャムから始まる、館山のこれから

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―こうした努力もあって、ブランド化への道は着々と進んでいるように感じます。開業にあたっての資金繰りはどうされたのでしょうか?

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―礒部
最初に計算した段階では総額2,000万円だと割り出しました。しかし、実際に動き出してみると、なんと3,000万円はかかる計算になってしまって。2,500万円まではカバーできたのですが、どうしても残りの500万円が足りなかったんです。

残りの資金を捻出するために最初、政府系の金融機関に申し込みに行ったんです。でも断られてしまって。その後地元の銀行にお話を持って行ったら500万円融資してもらいました。「館山をもっと盛り上げるためなら!」と、地元の銀行の方が力を貸してくれたんです。

―苦難を乗り越えなんとか開業。その後の滑り出しはいかがでしたか?

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―礒部
最初の滑り出しは上々でした。開業直前に地方紙の新聞記者の方に記事にしていただいて。そのおかげか開業日は、店からあふれるくらいにお客様がつめかけてくださいました。

しかしその後は徐々に落ち着いてきて。当初から黒字化までにはおよそ3年かかる計算だったので、織り込み済みではあったのですが。

さらにその後、テレビ出演などもさせていただきました。番組のファンの方がご来店されたりして、売り上げが2倍になるなど、順調に利益を伸ばすことができています。

―では、現在の売り上げは店舗での売り上げがメインなのでしょうか?

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―磯部
店舗や通販での売り上げに加えて、OEM(他社ブランドの製品を受託して製品を製作すること)として近隣のホテルやレストランのオリジナル商品を受託しています。主にこの2本の柱で利益を得ています。

―礒部さんのフルーツ工房では、市役所の人や奥さんの副業、地元の銀行の融資や新聞、テレビの出演など、周囲のサポートがとても多いなと感じました。何か秘訣はあるんですか?

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―礒部
やはり、人と人とのつながりだと思います。私が抱いている思いが、いろいろな人を動かしてくれているのではないかと思います。先にも話しましたが、この土地には素晴らしいダイヤの原石がたくさん転がっているんです。それを誰も拾わず、誰も磨こうとしなかった。

現にこの工房では50種類もの果物や野菜を使ったジャムを生産しています。それだけの素材が取れるのに、生産者も行政も、全然それをアピールしようとしていなかった。

私は、そんなダイヤの原石を磨いていきたいんです。そうした意識が周りに広まって、同じように感じていた人や共感してくれた人が自然と手を貸してくれたのだと思います。

最近では市が本腰を入れて、果物をシンボルにしようと取り組み始めていて、市内の「道の駅」に加工場をつくる構想を進めています。いずれはここに工場を作りたいと考えています。いい素材が豊富に取れる「館山ジャム」のブランド化によって、館山のこれからを作っていきたいと考えています。

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