原動力。
いい時ばかりではない独立・起業をする上で、原動力は自分の心の拠り所となる、大切なモチベーションです。
今回お話を伺ったのは、高田勝太さん。
高田さんが立ち上げた英語コーチング事業「90 English」では、全員がTOEICスコア900点以上の英語力を持つ日本人がコーチをするという、他のサービスにはない独自性を持っています。
そんな「90 English」を立ち上げた背景には、高田さんの原動力となる「コンプレックス」という存在がありました。
今回は高田さんの起業の経緯から、事業の戦略に至るまで語っていただきました。
高田勝太さん
90株式会社代表取締役
アラブ首長国連邦 ドバイで生まれる。その後4歳の時に日本に帰国。
大学卒業後はスポーツメーカーに就職。
1年で退職し、英語コーチング事業「90 English」をスタート。2021年3月に法人化。
「英語で人生を変える、英語のコーチングサービス」をコンセプトに、コーチ全員が「TOEICスコア900点以上の日本人」という他にない独自性のある英語コーチングサービスを展開し、受講生が英語学習を習慣化できるよう指導を行う。
「ドバイ出身なのに英語が話せないの?」起業の経緯は、自らのコンプレックスだった
――英語コーチング事業「90 English」を展開する高田さん。まずは事業の立ち上げの経緯を伺わせてください。
英語の事業を立ち上げようと思い立ったのは、僕の原体験が大きいですね。
僕はアラブ首長国連邦のドバイで生まれたのですが、4歳で帰国してしまったので、英語が話せなかったんです。
だから小さい頃「ドバイで生まれた」という話をすると「ドバイで生まれたのになんで英語が話せないの?」と周りの友達からイジられることもあったりして(笑)。
加えて、姉は10歳まで現地のインターナショナルスクールに通っていましたから、家族の中で唯一、僕だけが英語を話せなかったんですよ。
――なるほど……。それから英語を猛勉強されたと?
そうですね。高校2年生の時に猛勉強をして、英語の偏差値を28から68に上げました。
ちなみに、成績を上げるまでにかかった時間は約3カ月(90日)でした。「3カ月、90日あれば人は変われる」という経験から、社名を「90株式会社」に、事業名を「90 English」にしたんです。
偏差値が上がったことで英語へのコンプレックスを解消したかと思いきや……今度は大学時代、カナダへ留学した時に「英会話のできなさ」を痛感することになりました。
――いわゆる「受験英語」と「英会話」は、全く別物と言いますよね。
まさにその通りです。
この「英会話」をある程度のレベルにするまでに、正直かなり苦労しました。
いろいろな英語コーチングレッスンを受けてみたり、時間もお金もそれなりにかけてみたのですが、上手くいくパターンとそうでないパターンがあったりして。
この時に培った経験やノウハウ、最低限やった方がいいことや、逆にやらなくてもいいことを洗い出し、英会話力が伸びるメソッドをオリジナルカリキュラムとしてまとめたのが「90 English」なんです。
そして2019年に会社を退職し、独立。最初は個人事業主として「90 English」を立ち上げ、2021年3月に法人化しました。
ビデオは使わず通話のみのレッスンで、コーチは全員日本人?「90 English」の戦略
――改めて「90 English」の事業について教えてください。
端的に言えば、英語のコーチング事業です。
「英語で人生を変える、英語のコーチングサービス」をコンセプトに、1年後までに外国人とスムーズに会話ができるようになることを、受講生の共通のゴールとしています。
コーチングは完全オンラインで、テレビ通話ではなくLINEアプリの通話でのみ行います。
1回30分の通話レッスンを週3回、コーチは全て、高いレベルで英語を話すことのできる日本人です。
――「通話のみ」のオンラインレッスン、そしてコーチは全て日本人など、他の英語コーチング事業にはない特徴ばかりですね。1つずつ詳しく聞かせていただけますか?
通話のみにしている理由はいくつかあります。
ZOOMなどのオンラインビデオ通話ですと、部屋を片付けたり、女性ならメイクをしなければならなかったりと、英語学習以外の余計なところに時間や工数を受講生に強いてしまうことにもなります。
そして最大の理由はビデオ通話だからこそ、どうしても「表情」で自分の考えていることがニュアンスで伝わってしまうんですよね。
多くの日本人が、本当の意味で英会話力が上達しない理由は、ここにあると思っていて。
言語の違いはあれど、人同士のコミュニケーションであることには変わりありません。だから良くも悪くも、表情やジェスチャーで意図が伝わってしまいます。
そうすると本質的には英語が話せていないのにもかかわらず、相手に自分の言いたいことが伝わってしまうので「話せた気」になってしまうんですよね。
例えば観光など、最低限意図が伝わればそれでOK、という場面ではそれでもいいでしょう。
ですがビジネスの場や交渉、プレゼンといった英語で自分の考えを伝え、また相手の考えていることを明確に理解しなければならない場面で、その英語力ではかなり致命的です。
――だから通話のみという形にして、表情やジェスチャーによる「ごまかし」ができない環境を作っているんですね。
そしてコーチ全員を日本人にしているのも大きな特徴です。
コーチは全員、TOEICでスコア900点以上を獲得するほどの英語力を有しています。
僕は、特に初級〜中級クラスの日本人は「トップクラスの英語力を持つ日本人」に、英会話を習うべきだと考えています。
その理由はコーチ自身が元々、今の受講生と同じ立場だった(母国語が日本語であり、勉強の末に英会話力を身につけていった)からです。
――英語が母国語の外国人コーチではなく、あくまで日本語が母国語である、というのが大切なんですね。
はい。外国語を学ぶ上で、コーチと受講生の母国語の違いは、非常に大きな影響を与えます。
日本人同士だからこそ、つまずくポイントや何に悩んでいるかがピンポイントで分かることが多いんですよ。だからこそ最短で英語力を伸ばしていけます。
「90 English」では、こうした英語学習に苦労した僕の経験を踏まえつつ、他にはないさまざまな取り組みを導入しています。
違和感やコンプレックスこそ、起業の強い原動力になる
――高田さんのこれからの展望を教えてください。
「人が挑戦するために必要なインフラ」を作っていきたいなと思っています。
受講生が目指したい姿に最短距離で近づけられるよう、お手伝いするのが今の「90 English」の事業です。いわば「英語版パーソナルトレーニング」といってもいいかもしれません。
「今まで英語が話せなかったのに、話せるようになった」というのは、目に見えて分かりやすい変化です。
今はこの事業に注力しつつ、ゆくゆくは英語以外にも何かに挑戦する人を応援できるような、そういう事業を展開できたらいいですね。
――最後に読者の方へメッセージをお願いします。
ここまでお話ししてきた経緯があるからか、知り合いづてに独立・起業の相談をいただく機会も少なくありませんでした。
その度に「独立・起業したいならすぐにやった方がいい」とアドバイスをしてきたのですが……最近心境の変化がありました。
正直全ての人には、起業はおすすめできないなと。
大袈裟に見えるかもしれませんが、事業と共に心中する覚悟や、眠れない夜を過ごす覚悟がないと、事業をやっていくことはできません。それくらいプレッシャーのかかるものだなと、改めて最近再認識しました。
全てのエネルギーをかけてもいいと思える事業と出合えた時が、独立・起業のタイミングなのかもしれませんね。
――全てのエネルギーをかけてもいいと思える事業……。そんな事業のヒントはどこに眠っていると思いますか?
大前提として、この問題にはいろんな考え方があると思います。
ですが僕の場合は「違和感」や「コンプレックス」だった気がします。
友達にイジられてこどもながらに悔しかったこと。家族の中で唯一英語が話せなかったこと。英語の偏差値を上げても現地で全然コミュニケーションができなかったこと。英会話ができるようになるまで苦労したこと……。
起業をする上でこれまでの自分のことを顧みた時に、真っ先に浮かんだのが、そういった負の感情というか、自分の中のコンプレックスだったんですよね。それが間違いなく強力な原動力になっていきました。
ちなみに、もちろん独立・起業をする上で、市場調査や競合分析なども行いました。
でも「他社がこうしているから、こうした方が儲かる」ということ以上に、僕は事業を通して、自分と同じコンプレックスを抱えている人の助けになりたいという気持ちの方が強くて。
独立・起業のモチベーションは人によってさまざまだとは思いますが、まずは自分にとっての原動力となり得るようなものを探してみるところから、始めてみてはいかがでしょうか?
取材・文・撮影=内藤 祐介