独立・起業の理由。それは人によってさまざまです。
お金を稼ぎたい。自己実現をしたい。もっと自由な働き方がしたい……。
独立・起業に求めるものは、千差万別です。
今回お話を伺ったのは、漫画家/イラストレーターのタソさん。
会社員として働く傍ら、SNSに漫画を投稿し始めたタソさんは、2020年に独立。
現在はInstagramで6万人以上のフォロワーを獲得し、SNSの他、書籍、Web漫画などといった媒体でも漫画やイラストを執筆。子育てをしながらも多くの依頼を受けています。
今回はそんなタソさんのキャリアとともに、仕事と子育てを両立するための、1つの手段としての「独立」の可能性について語っていただきました。
タソさん
漫画家/イラストレーター
高校卒業後、会社員と並行してアイドル活動を開始。
以降二足のわらじを続けつつ、5年ほどの活動期間を経てアイドル活動を引退。
IT企業に転職後、多忙な毎日を過ごしながらも会社員生活の傍ら、Instagramに漫画を投稿するようになる。
2020年4月、漫画家/イラストレーターとして独立。
仕事と子育てを両立するために。タソさんが漫画家として独立した理由
――現在、漫画家/イラストレーターとして活躍されているタソさん。まずは現在の活動内容、事業について教えていただけますか?

漫画とイラストを描いています。
主にPR漫画や書籍の挿絵、Webメディアでの連載、企業のインナーブランディング(※)用の漫画も描いています。
その他、ブログやInstagramを始めとするSNSでも作品を投稿しています。
※自社の企業理念やブランド価値を、社内向けに浸透させる活動のこと
――独立する前から漫画やイラストに携わる仕事をされていたのですか?

独立する前は副業として、漫画やイラストの仕事をしていましたが、それ以前は全く関係ない仕事をしていました。
高校を卒業してすぐ、印刷会社に就職。その傍らで、友人に誘われ地下アイドルの活動をすることになりまして。
5年ほど会社員とアイドル活動を並行する二足のわらじを履く生活が続きました。

漫画やイラストに興味を持ったのは、その後のこと。IT関連のベンチャー企業に転職して、アイドル活動を終えてからですね。
当時はかなり多忙な日々を送っていました。平日は働き詰めで疲れ果てていたので、休日はずっと寝ているだけ、みたいな生活で……(笑)。
「このままじゃいけない」「何か趣味でも始めたいな」と思い始めた時に目に留まったのが、当時Instagramで流行っていた恋愛漫画の投稿でした。
絵を描くことは元々好きではあったのですが、仕事にしたいと思っていたわけでもなく。初めは趣味のつもりで漫画を描き始めたんです。
その後ありがたいことに、フォロワーさんが増えていくとともに、たくさんの人に私の漫画を読んでいただく機会も増えていきました。
気がつくと「漫画やイラストを描いてほしい」という依頼を、いただくようになりました。そして出産のタイミングを機に、独立することに決めました。2020年の春のことでした。
――兼業ではなく、独立を選んだ理由はなんでしょうか?

フリーランスの方が、子育てと仕事を両立しやすいと思ったからです。
仕事は好きなのですが、当時の会社の仕事が多忙だったこともあり、会社の仕事をしながら漫画やイラストを描いて、加えて子育てとなると……流石に時間と体力的に厳しいだろうなと。
どうしたものかと考えていた頃には、ありがたいことに独立をしても暮らしていけるほどには、漫画家/イラストレーターとしてお仕事をいただいていたんです。
そこで思い切って、独立を決めました。
仕事も子育ても総取りしたいなら、独立・起業は有力な選択肢の1つ
――独立して3年ほど経ちますが、いかがですか?

フリーランスになって良かったなと思います。
独立前に想定していた通り、子育てと仕事のバランスを、完全に自分の裁量で決めて、両立できるようになったのは、私にとって大きな魅力でした。
もちろん自分で全てを決定しなければならないという、会社員時代とは違った意味での大変さもありますけど(笑)。
また、これは私の仕事ならではの話ですが……。
私は主にPR漫画や書籍の挿絵など、クライアントさんからご依頼をいただいて、漫画やイラストを作る「商業作家」(※)として活動しています。
前職までの職種では、クライアントさんと向き合ってお仕事をするという機会はあまり多くなかったので、とても新鮮ですし楽しいですね。
※タソさんの場合、商業作家の活動に加え、SNSなど自分から発信する作品も数多くある
――一般に「漫画家」と聞くと、どうしても雑誌等で自分の連載作品を描いている、というイメージが強いのですが……。タソさんの場合は、PR漫画などを描かれている場合が多いために、クライアントワークの機会が必然的に多くなっている、ということでしょうか?

そうですね。たしかにあまり馴染みのない方だと、少しイメージしづらいかもしれません(笑)。
例えば、企業漫画を例に挙げるなら、クライアントである企業さんがどういう思いや理念を大切にしているかなどを、しっかりとヒヤリングしながら描かせていただくよう、心がけています。
漫画は、思いを人に分かりやすく伝える上で、とても効果的なツールです。
ただ漫画やイラストにすればいいというわけではなく、思いを汲みつつ読み手に適切に伝えられるよう、試行錯誤して一緒に作っていく過程が楽しいんですよね。
――加えてタソさんのSNSでは、エッセイ漫画も人気を博していると伺いました。

エッセイ漫画は、主にInstagramで更新を続けています。
漫画を描くという仕事をする上での、最初のきっかけになったのがInstagramでした。私の原点のようなものかもしれません。
エッセイというスタイル故に、ネタ探しは結構大変ですね(笑)。
夫との出会いの話から始まって、今は子育てしているので日々の暮らしの中で起こっていることをメモして漫画に起こしています。
――さまざまな企業さんや媒体での連載、そして自分のSNSの更新と、かなりご多忙で大変ではないでしょうか……?

そうですね……私は、ちょっとワーカホリックの気があるのかもしれません(笑)。
というのも会社員の頃から仕事自体は嫌いではなく、むしろ仕事をやり始めると止まらなくなってしまうというか……今はさらに自分のやりたいことを仕事をしているので、尚更ですね。
「子育てはしっかりと行いたい。でも可能な限り、仕事にも打ち込みたい……」。そんな自分の欲求を実現できているのも、今の働き方が私にマッチしているからだと思います。
――子育ても仕事も、どちらにも向き合いたいからこそ、独立という選択肢を選んで良かった、と。独立の動機は人によってさまざまですが、ここにタソさんらしさを感じます。

やっぱり会社に属している以上は、上長への確認や各所への調整など、私だけではどうにもならないような瞬間ってありますからね。
仕事に打ち込みたくても、産休育休を経て時短勤務などになってしまうと、希望のポジションに就けなかったり。
逆にフルタイムで働いて残業もして仕事ばかりになってしまうと、今度は子育ての時間を上手く確保できなかったり……。
もちろん職種や仕事の内容にもよりますが、可能な限りどっちも総取りしたいのであれば、私のように独立・起業をしてしまうというのは、1つの有力な選択肢になりうるかもしれませんね。
独立・起業に必要なのは、自分の土台とやり切る覚悟
――タソさんのこれからの展望を教えてください。

エッセイ漫画を出版したいですね。これはInstagramでエッセイ漫画を投稿し始めてからの夢でもあります。
育児を経験したり、子育てをしているお母さんたちと話してみて思うのは「母親って実はすごく孤独なんだな」ということ。
0〜1歳までのこどもを持つお母さんって、どうしても自分と赤ちゃんだけの生活になってしまいがちで、家庭以外との関わりが少なくなってしまいます。
そんなお母さんたちに私の漫画を見ていただいて、少しでも共感してもらえたりクスッと笑ってもらえたらなと。SNSだけではなく、書籍として出版することでもっとたくさんのお母さんに読んでいただきたいですね。
――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

独立・起業に必要なのは、まずは自分のできる範囲から小さく始めることでしょうか。
お話してきたとおり、私も独立するきっかけとなったのは、Instagramでの漫画の投稿でした。そこからコツコツとお仕事をいただくようになり、独立をしました。要するに、自分の土台をしっかりと固めて準備をしてから、独立をしたんですよね。
ちゃんと土台を固めて、その仕事への覚悟を決める。もし独立・起業に興味があるなら、事業はもちろん、心の準備も併せて念入りにしておくことをおすすめします。
取材・文=内藤 祐介
画像提供=タソさん