業界・業種未経験での、独立・起業。
一般に年齢を重ねれば重ねるほど、キャリア的に未経験の業界・業種に飛び込むのは、ハードルが高いと考えてしまいがちです。
今回お話を伺ったのは、イラストレーター/マンガ家として活躍されているふるりさん。
ふるりさんは医療従事者としてキャリアをスタートし、紆余曲折の末に、イラストレーター/マンガ家として独立。38歳、未経験での独立となりました。
それまでイラストやマンガ関連のキャリアがなかった分、苦労もあったそうですが、未経験だったからこそ良かったこともあると語ります。
未経験の業界・業種への転職や独立・起業を考えている人は必見の内容です!
ふるりさん
イラストレーター/マンガ家
大学を卒業して、医療従事者として就職。
その後、結婚を機に退職。カフェでのアルバイトや就労を支援する事業を営む会社での勤務経験を経て、出産を機に専業主婦となる。
あるきっかけでイラストに興味を持ち、38歳の時に独立。
現在はイラストレーター/マンガ家として活動中。
38歳、未経験での独立。ふるりさんがイラストレーター/マンガ家になるまで
――まずはふるりさんの現在のお仕事について、教えてください。

フリーランスのイラストレーター/マンガ家として、お仕事をしています。
主にWeb媒体での作品のマンガの連載や作画や、小説の挿画を始めとするイラストも描いています。
――フリーランスとして活動される前は、やはりイラストやマンガに関するお仕事をされていたのでしょうか?

いえ。実は前職までは、全くイラストやマンガに関係ない仕事をしていたんです。
大学を卒業して、神奈川県で医療従事者として就職。結婚を機に、山口県へ引っ越してカフェでアルバイトをしていました。
その後、再び医療従事者として就労を支援する事業を営む会社で就職し、出産を機に退職。以降は専業主婦として生活していたんです。
――たしかに、イラストやマンガとは全く違う業界ですね。なぜ絵を描くお仕事をされるようになったのでしょうか?

きっかけは、子育てをしながら専業主婦をしていた時に、スマートフォン用のソーシャルゲームアプリのイラストを見た時のことでした。
そのゲームに出てくるイラストが、とても素敵で目を奪われてしまったんです。
絵に関していえば、私は中学高校と美術部に在籍しており、元々絵を描くことは好きだったんです。ですが「絵を描くこと」を仕事にするなんて全く思わなかったですし、仕事にできるとも思っていませんでした。
というのも、私が中高生だった頃の「絵で食べていく手段」といえば、それこそマンガ家か、画家か、美術の教員になるか、といった選択肢しかなく……。
それが現代では、こんな素敵なイラストを描くというお仕事があるんだなと知りました。そして私も挑戦してみたいと思うようになり、イラストレーター/マンガ家として独立しました。38歳の時のことでした。
重要なのは「経験がある/ない」ではなく、仕事への向き合い方
――38歳、しかも未経験での独立となると、仕事を受けるまでもかなり大変だったのではないかと邪推してしまうのですが……?

そうですね、最初の頃はそれなりに苦労しました。
独立といっても専業主婦をしながらの活動だったので、生活そのものが立ち行かなくなるというわけではなかったですが、当然未経験でのスタートですから、最初から仕事があるわけでもなく。
まずはとにかくイラストやマンガについて学んで練習をすること、そしてポートフォリオ(※1)をより充実させるために、日々ひたすら作品を描き続けていました。
ちょうどコロナ禍でイラストやマンガの描き方などを、オンラインでも学べる環境が増えていった時期でもありました。
オンラインで絵の描き方を学びつつ、とにかく自分で作品を作り続ける。インプットとアウトプットのサイクルをひたすら繰り返していたんです。
そして転機となったのは、note(※2)で描いた『晩酌日和』という作品でした。それを見てくださった方から「マンガを描いてほしい」「イラストを描いてほしい」と依頼をいただけるようになったんです。
https://note.com/fururi8/n/ncf3f6292ccef?magazine_key=mad4e050bd446
※1……イラストレーターやマンガ家などのクリエイターにとっての作品集。携わってきたプロジェクトや制作物の実績のまとめ
※2……クリエイターが文章やマンガなどを投稿できるメディアプラットフォーム
――30代となると、今までのキャリアや経験を活かしてお仕事をされる方が多い中で、全くの未経験で新しい業界・業種にチャレンジすることは、そう簡単なことではないかと思いますが……?

たしかにその通りだと思います。
ですが私の場合、チャレンジに対する不安よりも「絵を描くこと」に対して、純粋に楽しむ気持ちの方が強かった気がしますね。
今もそうですが、とにかく絵に関しては学ぶことしかなかったので、まるで生まれたばかりの「赤ちゃん」になったつもりで、スポンジのようにどんどん吸収していきました(笑)。
今思えば、38歳からそんな全く経験のない状態で仕事を始めたからこそ、変なプライドが邪魔せず、吸収できたのかもしれません。
これと言って経歴もありませんでしたし、自分に対する期待値も当然ありませんでしたから。
いい意味で「できなくて仕方ない」ですから、分からない・できないことは、何でも「教えてください!」「やってみます!」の精神で(笑)。
もちろん、お仕事を任せていただいた以上「できなかったです」では済まされないので、責任感は強く持って、今の自分にできる全力を出して、お仕事をさせていただきました。
――そういったふるりさんの姿勢が、お客さまにも伝わったのではないでしょうか?

そうだと嬉しいですね!
実際お仕事をご一緒させていただく方も、私の作品だけに限らず、私のキャリアや姿勢を、総合的に評価してお仕事をご依頼くださるケースもいくつかありました。
もちろん仕事の内容にもよるとは思いますが「経験があるか/ないか」ではなく、一生懸命さだったり、仕事の姿勢や向き合い方で仕事をいただけることもあるんだなと、改めて痛感したんです。
でもそれはあくまで、私のアウトプットへの評価ではなく、人としての期待値でしかありません。
期待をしていただいたからには「任せて良かった」と思っていただけるよう、これからも精進していきたいですね。
年齢は関係ない。新しい仕事も独立も「赤ちゃん」になれれば、いつからでも始められる。
↑連載中のWebマンガ
https://chanto.jp.net/articles/-/1000086
――ふるりさんの今後の展望を教えてください。

今はマンガのお仕事の比率が高いので、今後はイラストのお仕事もどんどん増やしていきたいですね。
そして私はピクサーが大好きなので、いつかピクサーと一緒にお仕事できるような、そんな作家になれるよう、これからも頑張っていきたいと思います!
――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

どんな業界・業種で独立・起業をされるかは人それぞれとは思いつつ、たとえ未経験だったとしても、その業界・業種に「飛び込んでみたい」「やってみたい」という気持ちが何よりも大切なことだと思います。
「現実を見なきゃ」とか「やったことないし」とか「お金が……」といった言葉は、正直足枷でしかありません。
最初から大きく始めるのではなく、まずは自分の手の届きそうな範囲、無理のなさそうな範囲からやれることを見つけてやっていく。これしかないと思います。
そして新しい業界・業種に入る時は、年齢関係なく、誰でも初心者であり「赤ちゃん」です。
変にプライドを誇示するのではなく、なんでもスポンジのように吸収する「赤ちゃん」になれる人が、結局成長スピードが早いんじゃないかなと思います。
独立・起業を考えている人は、ぜひ「赤ちゃん」になるところから始めてみてください!
取材・文=内藤 祐介
提供画像=ふるりさん