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今の仕事は幸せと言えるか?「ムカチのカチカ」を通して、甲斐昂成さんが叶える2つの本質

今の仕事は幸せと言えるか?「ムカチのカチカ」を通して、甲斐昂成さんが叶える2つの本質

働く人の幸福度は「経済力」と「精神性」の両立によって担保される――。

そう語るのは、今回お話を伺った甲斐昂成さん。

甲斐さんは、神奈川県二宮町で魚料理を中心とした料理店「Kai’s Kitchen」を営む料理人。そんなKai’s Kitchenの最大の特徴は、“未利用魚”と呼ばれる魚を使った料理を振る舞うこと。

未利用魚とは、本当は美味しいのにもかかわらず「数がまとまらない、旬じゃない、普段見慣れない」といった理由から、あまり市場に出回らないマイナーな魚。

「ムカチのカチカ」(無価値の価値化)をテーマに、そんな魚たちへスポットライトを当てる甲斐さん。

今回は甲斐さんのキャリアとともに、なぜ未利用魚を使った料理を振る舞うのかを伺いました。

そこには、甲斐さんならではの仕事に対する本質的な考え方がありました。

<プロフィール>
甲斐昂成さん
Kai’s Kitchen店主

熊本の大学で金属工学を学ぶ。
大学院には進学せず、大手飲食チェーンに就職し、そのタイミングで上京。
就職後は、新規店舗の立ち上げに携わりながらも自身も厨房に立つなど、ビジネスパーソンとしても料理人としても基礎を積み上げていく。

入社して3年で独立を決意。以降は、鮮魚店の販売員やケータリング、料理教室などさまざまな角度から「魚」を扱う仕事をする。
2019年9月に、Kai’s Kitchenを神奈川県二宮町にオープン。

「ムカチのカチカ」をテーマに「数がまとまらない、旬じゃない、普段見慣れない」といった理由から、あまり市場に出回らないマイナーな魚(未利用魚)を、美味しく調理して提供している。

“知られていない魚”は、本当に無価値? 甲斐さんがKai’s Kitchenを開業するまで

――まずはKai’s Kitchenを開業するまでの経緯から教えてください。大学では金属工学を学んでいたそうですが、そもそもなぜそこから飲食業界に就職をしたのでしょう?

甲斐さん
僕、とっても食いしん坊なんですよ(笑)。昔から美味しいものを食べることが好きで、大学時代も飲食店でアルバイトをしてました。

それに独立には昔からずっと興味があったんです。

――なぜ独立に興味があったのですか?

甲斐さん
僕のおじが自営業で、自動車整備の仕事をしていたのですが、その影響ですね。

よく夏休みになると、おじが僕を、お客さんのところへ連れ回していたんです(笑)。

そんな感じで、小さい頃から「雇われない生き方」を目の当たりにしていたというか……。「雇われずに自分で仕事を作るって、楽しそうだな」って思っていたんです。

普通、僕が大学で専攻していたような学問ですと、大学院まで進学してそのまま素材メーカーで開発の仕事に就く、といったキャリアに進む人が多いんですよ。

しかし開発を仕事にするなら、やっぱりちゃんとした設備のある会社にいないと、いろいろ難しい。

独立に興味があるからといって、ゼロから素材メーカーを作ることはなかなか想像できなくて。

だから大学での勉強はそれはそれとして、仕事は別で探そうと。それで飲食業に就職したんです。

――就職後はどのような仕事を?

甲斐さん
大手の飲食チェーンで、新規店舗の立ち上げに参加したり、厨房に立ったり……。居酒屋に関連する必要な仕事は大体経験させてもらいました。

会社には3年在籍していて、2年目から魚を扱うお店を担当していたのですが、その頃から“未利用魚”を仕入れるようになったんです。

――未利用魚?

甲斐さん
未利用魚とは「数がまとまらない、旬じゃない、普段見慣れない」といった理由から市場に出回らず、あまり知られていないマイナーな魚のこと。

そういった魚は水揚げされても、ほとんど値段がつかず、あまり使わないことがほとんどなんです。

甲斐さん
でも食べてみると、実はめちゃくちゃ美味しいんですよ。実際、僕が担当していた店ではお客さんから好評をいただいていて。

「知られてないから」といって、美味しい魚を使わないなんて、めちゃくちゃもったいないじゃないですか。この着想が今のKai’s Kitchenの原型となったんです。

未利用魚の可能性に気づいてからは、主に終業後の時間を使って、仕入れては魚を捌いて調理して、と試行錯誤していましたね。

その仕事は経済力と精神性が担保できているか?「ムカチのカチカ」を通して、Kai’s Kitchenが叶える2つの本質

――勤められた会社を3年で退職後、すぐにKai’s Kitchenを開業したわけではないんですよね?

甲斐さん
はい。以降はフリーランスとしていろんな仕事をしていました。

ケータリングや出張料理、料理教室といった、料理のスキルを使った仕事もしましたし、鮮魚店の販売員として働いてみたり。

その中で週2回、カフェを間借りしてお店をやったこともありました。今のKai’s Kitchenのプロトタイプです。

そんな感じで独立してからしばらくは、料理や「魚」を使って、いろんな角度から仕事をしてみたんです。

――そして現在のKai’s Kitchenにつながっていくと。Kai’s Kitchenでは、昼と夜でコンセプトを変えて営業しているそうですね。

甲斐さん
はい。昼は「二宮 漁師のおかず食堂」というコンセプトで、二宮の漁場で獲れた美味しい魚を提供しています。

これは二宮だけに限った話でもないのですが「地元の美味しい魚をその場所で食べられる」ことって、結構珍しいんですよね。

現に二宮も、めちゃくちゃ美味しい魚が獲れるのにも関わらず、その魚を出しているお店はほとんどなくて……。

甲斐さん
だから昼では、漁師の方が普段食べているような、本当に美味しい魚を選りすぐって提供しています。

ちなみに漁師さんが普段食べている魚を知るためには、実際に漁師さんと一緒に漁に出ないと分からないじゃないですか。

ということで、ここ数カ月は僕も漁師さんに混じって漁に出ているんですよ(笑)。

――お店を運営するだけでなく、自ら漁にも出ていらしてるんですね! 夜はどのようなコンセプトで営業されているのでしょう?

甲斐さん
夜は「ムカチのカチカ」をテーマに、主に未利用魚を使ったコースを提供しています。

先程もお話したように、本当は美味しいのに「数がまとまらない、旬じゃない、普段見慣れない」といった理由から、大切に扱われない魚たちが世の中にはたくさんあるんです。

とはいえ「“よく知らない魚”をいきなり買って調理する」のは、お客さんからすると少しハードルが高い……。

だからまずは一度、そんな未利用魚を使った料理をKai’s Kitchenで食べていただいて、その美味しさを知っていただきたいんです。

甲斐さん
「◯◯って魚なら、Kai’s Kitchenで食べられるらしいよ」「◯◯って魚、魚屋で安く売ってるらしいよ」なんていうクチコミが広がれば、街全体に食文化ができるんじゃないかと。

そんな風に未利用魚をもっと知ってもらって、ご家庭でも食べていただけたら嬉しいですね。

――「ムカチのカチカ」。さかのぼれば会社員時代から、甲斐さんは未利用魚の可能性に気づいていたとのことですが、そういった視点でビジネスを考えるようになったきっかけなどはあったりするのでしょうか?

甲斐さん
それもおじの影響ですね。

こどもの頃から「物事には表と裏、光と影がある。本質を見間違えるな」と、よくおじに言われていたんです。

そんなおじの背中を見て育ったので「本質とは何か」を、無意識に考えてしまうクセがついているところはありますね。

――「本質とは何か」を考え続けるクセ。詳しく聞かせていただけますか?

甲斐さん
仕事で例を挙げるなら、仕事に対する人の幸福度は「経済力」と「精神性」の両立によって成り立つと思うんです。

「経済力」は言うまでもなくお金を稼げるかどうか。そして「精神性」とは、仕事へのやりがいや意義を自分なりに感じられるか、ということです。

お金をたくさん稼げたとしても、仕事に意義を感じられない(もしくはどこか後ろめたいことがある)なら、本当の意味で幸せになることはできません。

逆に、仕事に大きな意義を感じていたとしても、それがちゃんとお金にならなければ、今度は生活ができなくなってしまう……。

その2点をいかに両立させるかが、仕事に対する満足度を高めるポイントだと思うんですよね。

今回の未利用魚を話に当てはめると、美味しい魚(けれど世間的に価値の見出されていない魚)を安く仕入れて、価値を加えてお客さんに提供している。

「安く買って、高く売る」という商売の基本を、忠実に守っています。

値段がつきにくい魚を仕入れることは漁業者にとってもいいことですし、食べたことがないのにとても美味しい魚をリーズナブルな値段で食べることができるんです。

未利用魚と呼ばれて陽の目を浴びない魚にスポットライトを当ててあげることで、漁師さんにとってもお店にとっても消費者にとってもプラスになるきっかけ作りを行っています。

そしてその仕事を通して、未利用魚の可能性をたくさんの人に知ってもらって、少しでも今のもったいない状態を変えていけたら。

もちろんこれだけが開業した動機ではないですが、僕にとってKai’s Kitchenの取り組みは「経済力」と「精神性」が2つとも担保できているんです。

「持続可能で儲かる漁業」で、漁師の職を「稼げる仕事」に!

――甲斐さんの今後の展望を聞かせてください。

甲斐さん
Kai’s Kitchenの運営をしつつ、ゆくゆくは網元(漁網や漁船を所有する経営者)や漁場そのものの経営に、手を広げていきたいですね。

いろんな漁師さんたちにお話を伺い、僕自身も漁へ出てみて分かったのは、漁師という仕事は残念ながらまだまだ「稼げる仕事」としてイメージが定着していないこと。

もちろん然るべき収入を得ている方もたくさんいらっしゃいますが、さまざまな事情や構造上の問題から、稼げないという方も多くいらっしゃるのが事実です。

だから僕が網元になることで、「持続可能で儲かる漁業」を仕組みから考えていきたいなと。

漁師のみなさんが魚を獲ってきてくださるから、僕らは家庭やお店で、美味しい魚を食べることができるんです。

感謝の気持ちを忘れずに、漁師さんがちゃんと稼いでいけるよう試行錯誤していきたいですね。

――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

甲斐さん
具体的な話をすると、飲食店で独立をするなら、とにかくお金と時間を使いましょう。

僕は独立前、ライバルとなるお店はもちろん、他ジャンルでも人気のお店にはとにかく出向いてお客さんとして実際に食べていました。味だけではなく、内装や接客、客層など、目についたところを自分なりに分析をしてみる。

消費者感覚でお金を使って、いつどんなタイミングで財布が緩むのかを考えました。そしてとにかくその店で美味しいとされる料理を食べて、舌を鍛える。

Kai’s Kitchenを出す前はめちゃくちゃ足を運びましたし、今でも時間がある時は必ずやっています。

そして自分の事業が、他と比べて稼げるのか、そして意義があるのかを自分なりに言語化してみる。そして他のいいところは上手く応用しながら、あとは膨大なプラクティスで自分の腕を磨いていく。

自分なりの自信が出てきた時、独立・起業はより強固なものになるのではないでしょうか。

取材・文・撮影=内藤 祐介

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