税金や会計などお金にまつわる話をする上で、切っても切り離せないのが「領収書」の重要性。
税金の金額や会社の費用を計算する上で、またその使った金額を証明する書類として非常に重要なのですが、皆さんは使い方を正しく理解していますか?
独立・起業の「お金」に関する悩みを、税理士の齋藤雄史先生に解説していただく「税理士が教えるお金と起業」シリーズ。
今回は「領収書と税務上の必要経費」をテーマに、事例を交えながら齋藤先生に詳しく解説していただきました。
既に会社の経営をされている方はもちろん、これから独立・起業を考えている会社員の方も、必見の内容です。
得意先との接待「2次会でクラブ」は、経費になる…?
税理士の齋藤先生によると、接待や飲食費などの場面で登場する「交際費等」に関する質問というのは、クライアントから最も頻繁に受ける質問の1つだそうです。
例えばこんな場面、皆さんにもありませんか?
Q.得意先との接待で、2次会にクラブを利用したのですが、経費で落とすことは出来るのでしょうか?
さて今回は「交際費」、なかでも接待の場面の経費に関するこの質問に対して、齋藤先生に回答・解説していただきました。齋藤先生の回答は以下の通りです。
A.ケース・バイ・ケースですが、3つのパターンが考えられます。
①そもそも会社の経費として認められない。
②「会社の経費」としては認められるが、「税金上の経費」として認められない。
③会社の経費としても、税金上の経費としても認められる。
会社上の「経費」と税金上の「経費」は必ずしも同じではない!
「会社の経費」と「税金上の経費」という言葉が出てきましたね。
両方とも「経費」ですが、意味はまったく異なります。会社上で使用する「経費」と税金上で使用する「経費」について、違いを知っておくととても便利ですよ。
【図内のワンポイント用語解説】
似たような名称ですが、それぞれ範囲・対象が異なるのはお分かりいただけましたでしょうか。
会社の「経費」が1番広い概念で、その中に税金の「経費」や「損金」が含まれるという関係です。
したがって会社の「費用」としてはOKでも、税金上の費用と言われる「損金」としては認められないものもありますよ、ということになりますね。これを「損金不算入」といいます。
飲食を伴う交際費には一定の範囲、税金面で配慮されている! ただし用法・用量は正しく守ってね!
「会社の経費と税金上の経費は同じではない」ということがわかったところで、今回の質問にあてはめていきましょう。
今回の支出は、得意先と飲食を主とする接待のため、「飲食交際費」に該当します。常識的な範疇であれば、会社の経費として認められる可能性は高いと言えます。
それでは税金上はどのように処理するのでしょうか。法人税法では、交際費にあたる経費は原則認められていません。したがって「会社の経費だけど、税金上の経費ではない」ということです。
ただし、交際費については特例が設けられています。この特例は「消費の拡大を通じた経済の活性化」を目的に作られました。
景気が下降気味になると、会社は出来る限り出費を抑えようとします。次に「どこから出費を抑えていくか」を考えると、候補に挙がるのは「接待・飲食費」、いわゆる交際費がターゲットにされやすい傾向にあります。
皆さんも給料日前で、あまりお金を使いたくないと思ったときに、まず真っ先に浮かぶのは飲み会という方も多いと思います。似たような心理が会社や社会全体的に発生します。
それでは消費が沈んでしまい、経済が悪循環になっていきます。そこで国は「もっと会社も経済の活性化のためにお金を使ってください。全部とは言いませんが、その分税金上の「経費」として認めます!」という特例を作りました。
交際費の特例制度には、2つの方法が設けられています。
①年間800万円までは交際費として損金にしてOK
②交際費のうち、飲食だけは50%損金にしてOK
資本金が1億円以下の場合は、①もしくは②をどちらか選択して適用。資本金が1億円超の場合は②のみ適用することができます。
経費として計上できるもの
上記のような例の他に、何を経費として計上できるのでしょうか。ここでは、個人事業主なら知っておきたい、経費として計上できる項目の一例を紹介します。
【個人事業主が経費として計上できる項目(一例)】
・自宅の家賃(自宅を事務所として使っている範囲)
・引越し費用(事務所として使っている割合に応じ、敷金は除く)
・仕事のスキルアップのためにセミナー費用
・仕事関連の書籍
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領収書はもらうだけではダメ! 会社の経費として認められないパターンはどういう場合?
先程の回答で触れた「会社の経費として認められない」パターンとはいったいどのような場合なのでしょうか。
個々の会社ごとに規定・規則を設けている場合もありますので、あくまで一般的に広く知られている抑えておくべきポイントを整理しておきましょう。
領収書の受領は必須! このためにお金を払ったという証明書です!
まずは当たり前ですが、領収書を受領しなければ、会社の経費として認められない可能性があります。
領収書は、会社の会計の上でも、税金の計算でも非常に重要な書類であり、会社員の皆さんは経理の方から「領収書!領収書!」と何度もしつこく言われた経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
会計を進めていく上で、支出があった場合に「なぜ? どのような理由で? 何のために?」という根拠をもとに記録をつけていきます。
そのときに何の証拠もなく、口頭だけで「得意先の◯◯さんと打ち合わせのために使いました」と言っても、説得力がありません。必ず証拠が必要になります。領収書はその証拠の役割を果たすというわけです。
ただ領収書をもらうだけでは意味がない! 領収書に必要な記載事項とは?
実は、法人税や所得税においては、明確に規定されているわけではありません。
しかし交際費のうち飲食に関わるものについては、一定の金額以下の場合は交際費から外していいよ(いわゆる会議費)という決まりがあります。その決まりの中で、「こういう記載がないと認めませんよ!」という要件が定められています。その要件が以下になります。
このほか、但し書きや宛名が無ければ「誰が、何のために払ったの?」という証拠にならないため、確実に記載してもらいましょう。
一般的な領収書であればほとんどの要件を満たすのですが、「参加した得意先、関係者の氏名、関係性」については自分で記載するしかありません。
会社によっては規定のフォーマットを用意しているところもありますが、その場で、または次の日までに忘れないように裏に書いておくことをおすすめします。あとから「これ、どの接待で使ったっけ?」とならないようにしましょう。
社内のみは別! 社外の交際費と社内の交際費を明確に分けなければならない理由とは?
先程の質問と同様に、質問をいただいたり誤解されている方が多いのが「社内で使用した交際費」についてです。
ここでは2つのことについて、理解をしておくことが必要です。
①税金上の飲食交際費には、社内交際費は含まれない。
②参加している人が、社内の一部か全員かで処理が変わる。
飲食交際費に関係する特例について解説を行いましたが、この飲食交際費についてはあくまで得意先などの社外に向けて行っているものに限られます。
いわゆる会議費と呼ばれる、1人あたり税抜き5,000円以下の飲食費という中にも、社内の飲食交際費は含めてはいけないことになっています。
すなわち、社内交際費は会社の経費であっても、税金の計算上は経費として認められないので分類する必要があるのです。
そして、もう一つのポイントである「一部参加」か「全員参加」かについてです。
従業員全員を対象としている場合には「会社の福利厚生のために使用した費用」という考え方ができるため、会計上は福利厚生費として処理を行います。したがって交際費からは除外できるのです。
しかし、例えば「◯◯部の打ち上げ会」などの一部の方しか参加しない場合には、社内交際費として分類されます。
この2つのポイントを抑えずに進めてしまうと、本来支払うべき税金を払っていませんよね? ということにもなりかねないので、注意が必要ですね。
経費として計上する際に証拠書類として有用なもの
支出を証明するために必要な証拠書類として、領収書の他にレシートや会計明細や、クレジットカードの利用伝票も有用です。
クレジットカード会社が発行する利用明細書は、領収書の代わりにはならないため、注意してください。
ただし、企業によっては原則「領収書」と記載されたもののみ経費として精算する、という独自のルールを設けている場合もありますので、詳しくは経理担当者に確認することをおすすめします。
たかが領収書、されど領収書。税金との関係性、ストーリーを知るともっと面白くなる!
今回は「領収書と税務上の必要経費」にスポットを当てながら解説していきました。
特に領収書については「大事なのは分かっているけれど、どうして?」と感じている方も多く、その重要性が伝わりきれていないケースがほとんどだそうです。
税金の勉強には抵抗がある、という方にも「税金の意識」を持ってもらい、領収書の重要性のみならず、会計そのものの重要性を理解するきっかけになればと思います。
文=菊地 啓哉
編集=内藤 祐介
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