「好き」を仕事にする。
耳にするようになり久しいフレーズですが、これは感情論だけではなく、独立するなら自分を「好き」を仕事にした方がいい合理的な理由がある。
――そう語るのは、今回お話を伺った門馬みゆきさん。
門馬さんは、会社員時代にバイヤー(※)として経験を積み、2014年に独立。現在は女性向けオーダーメイドのアパレルサロン「レーヴドラヴィ」を運営する傍ら、ファッション業界で独立・起業を考えている人向けのファッション起業講座も運営しています。
今回はそんな20年以上ファッション業界に身を置く門馬さんのキャリアとともに、「好き」を仕事にするべき、合理的な理由について伺いました。
※バイヤーとは、自社店舗に並べるための商品の買い付け、オリジナル商品のディレクション、デザイナーに商品作成を指示する仕事のこと。商品の在庫や予算の管理などを行う。
門馬みゆきさん
レーヴドラヴィ 代表
短大卒業後、カナダ留学を経てアパレル業界で11年間バイヤーとして従事。
2014年に独立し、オーダーメイドのアパレルサロン「レーヴドラヴィ」を開業する。
現在はサロンを運営する傍ら、現在はファッション業界で独立・起業を考えている人に向けた、ファッション起業講座も運営する。
仕事と子育ての両立。門馬さんが独立した理由
――門馬さんの現在のお仕事について教えてください。

「レーヴドラヴィ」という女性向けオーダーメイドのアパレルサロンを運営しています。
ウェディングドレスのデザインや製造、販売、レンタル業などを扱っており、その他ウェディング関連以外でも、女性向けの衣料全般を取り扱っています。
そしてもう1つ、2020年のコロナ禍以降からはファッション起業講座の事業も立ち上げました。こちらはファッションを基軸に、独立・起業をしたいと考えている人に向けた、オンライン講座です。
というのも私はかつて、会社員として10年以上バイヤーの仕事をしてきました。
ファッション業界全体の構造や、ビジネスの流れを俯瞰して見る立場でもあった経験を活かして、独立・起業を考えている人がどんな事業を立ち上げたいのか、どこで勝負がしたいのかなどをヒヤリングし、サポートしています。
――門馬さんが独立するまでの経緯を聞かせてください。

短大を卒業した後、洋服の販売の仕事を経て、カナダへ留学。帰国後は再びアパレル業界に就職し、バイヤーやMDといった仕事に従事してきました。
主に商品の生産の管理や、デザイナーへのディレクション、予算の管理、ディストリビューション(顧客への流通)といった、商品販売における総責任者のようなポジションです。
仕事はとても好きだったのですが、バイヤー職というのは出張も多く、とても多忙な日々を送っていました。結婚してこどもも作りたかったのですが、仕事が忙し過ぎて、そんな時間はとても割いていられないような毎日だったんです。
そんな中、結婚をしたタイミングでちょうど父が他界してしまい、土地を相続することになったんです。
そこで土地を持っているだけではもったいないので、家を建てようということになり、そして家を建てるなら、1階を事務所にできるんじゃないかと思ったんです。
こうして子育てと仕事を両立するために、2014年に会社を退職して独立。「レーヴドラヴィ」を立ち上げました。
「自分のできること、したいこと」から独立を考える
――バイヤーとしての仕事から、なぜ女性向けオーダーメイドのアパレルサロンを立ち上げようと思ったのでしょうか?

理由はさまざまですが、1番の理由は、私はファッションの仕事が大好きだからです。
前職まで私が経験してきたバイヤーという仕事は、デザイナーやパタンナー、製造工場など、ファッション業界におけるあらゆる工程の人と一緒に仕事をします。
会社員時代に培った関係値を活かしつつ、自分にできること、自分のしたいことを考えた結果、今のようなスタイルに落ち着いたんです。
――自分にできること、したいこと、ですか?

バイヤーの仕事をする中で1番好きだったのは、商品を作る過程でした。
(といっても、バイヤーはその商品の価格を決めて、お客さんに届けるところまでが仕事だったので、ものづくりばかりをしていられるわけではなかったのですが)
でもせっかく独立をするなら、自分が好きな仕事に比重を置いた事業を行いたいなと。
それで女性向けオーダーメイドのアパレルサロンという、ものづくりに力を入れた事業を立ち上げようと思ったんです。
――近年は、ファッション起業講座にも力を入れられているそうですね。

はい。きっかけは2020年以降のコロナ禍でした。
オーダーメイドの品を扱っているということもあり、ウェディング関係が仕事の割合の多くを占めていたのですが、コロナ禍により結婚式が軒並み中止となり、お客様からの発注も少なくなっていきました。
一方、これはまたコロナ禍とは別軸の話なのですが、独立・起業を考える人が自分の身の回りで増えてきたんです。そしてそういった方の相談に乗る機会が次第に増えていきました。
「ファッション業界で独立」と一口に言っても、事業の内容は非常に多岐に渡ります。
洋服を売る仕事がしたいのか、私のようにものづくりがしたいのかは、人によってその答えは異なります。
ファッション起業講座では、20年以上この業界で仕事をしてきた私なりの知見や分析を踏まえて、ファッション業界未経験の方でも独立・起業ができるようサポートしています。
「お金だけ」を独立のモチベーションにしない。「好き」を仕事にする合理性
――独立・起業を考える上で大切なことはなんでしょうか?

独立・起業のモチベーションを収入だけにしないということでしょうか。
ファッション業界に限った話ではありませんが、独立・起業の動機って人によって異なりますよね。
「今以上に収入を増やしたい」というのも、もちろん十分立派な動機だと思うのですが、一方で「お金だけ」がモチベーションになってしまうと、正直しんどいんじゃないかなと、個人的には思っています。
――なぜでしょうか?

理由はシンプルで、事業を運営する以上、いつだって儲かるとは限らないからです。
「儲かるから」と思って始めた事業が、それこそ昨今のコロナ禍のようなさまざまな事情で「儲からなくなってしまう」なんてことは、十分にあり得ます。
繰り返しになりますが、もちろん収入というのは立派なモチベーションだと思いますし、事業を行っていく以上、今以上に収入を増やしたいと思うこと自体は自然なことだと思います。
ですが儲からない、しんどい時にでも諦めずに踏ん張るためには、モチベーションをお金だけにしてしまうと、どうしても限界があると思っていて。
ではどうしたら苦しい時でも事業を続けていくことができるのか。
私は結局「自分の事業を愛せるか、好きでいられるか」ということに尽きると思うんです。
私が独立をした時にこの仕事を選んだ理由は、ファッション業界での経験が長かったからという理由もありますが、それ以上にファッションや洋服、ものづくりが大好きだったからなんですよね。

「好きを仕事に」というキャッチフレーズを耳にするようになって久しいですが、「好きを仕事」にするメリットは、たとえ事業が苦しくなってしまった時でも、自分を奮い立たせる支えになってくれるところにあるんじゃないかと、私は思っています。
――最後に読者の方へメッセージをお願いします。

私自身もそうでしたし、私の周りの独立・起業をされた方を見ていて思うのは「マインドがスキルを凌駕する」ことは、往々にしてよくあるということですね。
独立したての頃は、まだ経験が少なく完璧でなかったとしても、その人のやる気や情熱が、物事を大きく動かす瞬間があるんです。時に、今の自分に見合わないような仕事が舞い込んでくることだってありますから。
そして必死に頑張っていればだんだんと実力が追いついてくる。でも「マインドがスキルを凌駕する」ためには、やっぱりやる気や情熱が必要不可欠だと思うんです。
そういった観点からも、私はやっぱり自分が興味を持てること、勝負できることで独立・起業をすることをおすすめしたいですね。
取材・文・インタビューカット撮影=内藤 祐介
提供画像=門馬みゆきさん