独立・起業に必要なものとは、何でしょうか。
高い営業力、そして高い技術力。
特に一芸に秀でてその道で活躍するために、独立・起業を選択される方。その方々にとって「誰にも負けない自分の腕・技術力」はずっと追求するべき課題なのかもしれません。
今回お話を伺ったのは、エステティシャンの三谷麗奈さん。
三谷さんは世界各国の代表とその技術力を競う、技能五輪国際大会に日本代表として出場し世界2位にランクイン。国際的なエステ資格・CIDESCO認定資格を取得後、現在は自身のエステサロン「R-BlooM」を開業されています。
まさにエステティシャンとして名実ともに実力を兼ね備えた三谷さんですが、自身のサロンでは技術以上に大切にしているものがあるそうです。
一体、何を大切にしているのでしょうか?
三谷麗奈さん
エステティシャン
高校時代にエステティシャンを志す。専門学校を卒業し、数々のエステ資格を取得。
技能五輪世界大会に日本代表として出場。日本で初めてビューティーセラピー職種で世界2位を獲得。国際的なエステ資格・CIDESCO認定資格を取得する。
その後、就職を経験し、2018年4月、横浜・関内にエステサロン「R-BlooM」を開業する。
出産・育児をしつつも、現場に立っていたい。三谷さんが独立を選んだ理由
―現在に至るまでの経緯を教えてください。いつ頃からエステティシャンを志したのでしょう?

高校の進路選択の時からですね。昔から人と関わる仕事がしたいなとぼんやり考えていて。
それに加えてもともと美容やメイクに興味があったこと、そして私自身が生まれつきのアレルギーが多かったこと。
この3つを考えた時に自分の中で出た答えがエステティシャンでした。
―アレルギー、といいますと?

人によって、生き物や食べ物、花粉やハウスダストなどでアレルギー反応を起こすことってありますよね。
私は昔から、人よりも免疫機能が敏感でアレルギー反応を起こしやすい体質だったんです。だからこそ人の身体について深く勉強したいと思うようになって。
当時、医者からはエステティシャンを目指すのは辞めたほうが良いと忠告されていました。でもどうせ諦めるなら一通りやってみてからでも遅くないと思って。それでエステの道を選びました。
―高校卒業後はどうされたのでしょう?

専門学校に進学しました。エステには国家資格がないので、自分に付加価値をつけるためにも挑戦したいなと。そこで国際的なエステ資格・CIDESCO認定資格を受験できる学校を選んで進学したんです。
専門学校を卒業し、技能五輪国際大会(※)に出場。その大会で世界2位を獲得した後に就職しました。
※技能五輪国際大会…正式には国際技能競技大会(WorldSkills Competition)。参加各国における職業訓練の振興と青年技能者の国際交流、親善を図るために開催される。競技職種の中に美容/理容が含まれている。
―エステティシャンとして、実務はもちろん技能五輪国際大会を通して確実にスキルアップを果たしていったのですね。その頃から独立は考えていたのでしょうか?

いえ。実は私の親が自営業を営んでおりまして、こどもの頃から「1つのことを続けて仕事をするのってすごいな」と思いつつも、一方で安定も大事だなと。
だから自分は自営業ではなく、会社員としてエステティシャンをやろうと思っていたんです。
しかし実際に会社員としてエステの世界で働いてみると、なかなか厳しい現実があって。
―どういうことでしょうか?

仕事はもちろん大切なのですが、それ以上に「結婚すること」そして「こどもを産んで育てること」は私にとってとても大切にしたいことでした。
しかしエステは基本的に立ち仕事が多く、身体への負荷が他の職種と比べても高いと言えます。
出産・育児をしながら、自分のペースでゆっくりとお仕事がしたい。
そう考えた時に自分の中で出てきたのが、独立という選択だったんです。
技術「だけ」では上手くいかない? お客さまゼロからのスタート
―実際に独立してみて、もうすぐ丸2年と伺いました。2年間、このサロンを続けてみていかがでしたか?

今振り返ると独立したての時は正直、考えが甘かったなと思います。今でもそうですが、私は「技術者であって経営者ではないな」と痛感します。
専門学校時代から「とにかくエステの腕を磨かなくちゃ」と、技術力は培ってきたつもりでした。
もちろん独立してエステで食べていくには高い技術力は必要不可欠です。ですが、それと同じくらいに集客も大切なことだったと、独立してすぐ気付かされました。
―集客で頭を抱えていたと?

はい。最初の頃はそれこそ、ホームページを作っただけ。それを見てもらえなかったら意味がないのに、そこまでちゃんとできていなくて。
以前勤めていたサロンからお客さんを連れてこなかったので、最初は本当にお客さまゼロからのスタートでした。
お客さまにとってみれば、路面店でもないですしフラっと立ち寄りづらい。そんな中で1人ずつお客さまを増やしていくのは、本当に大変でした。
キャッシュが回らなくなる不安も感じていましたね(笑)。
―その状況をどう、乗り切ったのでしょう?

私が技能五輪国際大会で世界2位を取っていたという経歴から、たまに雑誌に掲載させていただいたり、エステの技能実演をさせていただいたり。
人気バラエティ番組の「ナカイの窓(日本テレビ)」に呼んでいただいたことで、少しずつですがみなさまに知っていただく機会がありまして。
そこからコツコツとリピーターのお客さまを増やしていきました。
―しかし、メディア露出の影響はずっと続くわけではありません。そこから、きちんとリピートにつなげているのは、三谷さんの施術や接客の力があってこそではないですか?

そうだと嬉しいですね。
1つ心がけていることは「なぜお客さまが来店してくださるか?」を、常に考えるようにしています。
エステサロンを開いている以上、プロとして高い技術の施術を行うことは当然として、そのお客さまが何を求めて来店してくださっているのか。お客さまとコミュニケーションを取りながら自分の中で自問自答しています。

プロの施術を受けるために来ているという方や、プロのアドバイスを受けるために来てくださる方もいらっしゃいます。
その一方でお客さまの中には、施術はもちろんお話が好きで来てくださる方や、このお店をどこか心の拠り所として捉えてくださっている方もいらっしゃる。
つまり人によって、このお店の役割は少しずつ違ってくるのです。
そのお客さまにとっての自分の役割は何かと考え、常に感謝の気持ちを忘れずにこれからもお客さまをお迎えしたいですね。
自分に合った選択から、独立・起業を考える
―三谷さんの今後の展望を教えてください。

現在の店舗「R-BlooM」は一生お客さまと寄り添える小さいサロンを作りたいという想いでスタートしたので、これからもお客さまを大切に営業していきたいと思っています。
一方で、別事業として人を雇ってエステサロンを立ち上げることができたら…と考えています。
技術者としてはもちろん、経営者としてもステップアップしていきたいですね。
―最後に、読者へのメッセージをいただけますか?

ものの始め方って、みんな最初は分からないと思うんです。
独立・起業にしても、転職にしても。
様々な準備ややらなければならないことを考えるとつい「今はまだタイミングじゃない」と思ってしまいがちですが、そうしている間にタイミングって知らず知らずのうちに逃してしまっている。
だからこそまず小さくてもいいから、トライしてみることが大切だと思います。
働き方が多様になりつつある今、本業と別にもう1つくらい収入の柱となるものがあってもいいんじゃないかなあと。
少しずつ始めて、もし軌道に乗るようならゆくゆくはそれを本業にしてもいいし、上手くいかなかったらいかなかったで、また別の事業を小さく始めればいい。
私も出産と育児という軸から考えて、今の働き方を選択しました。
今の生活から考えるのも良し。「これをやってみたい」「もっとこうしたい」という自分の思いから働き方を選択するのも良し。その人に合った選択ができるととても素敵だと思います。
取材・文・撮影=内藤 祐介