私たちの日常に深く密接する、音楽。
楽しい時、辛い時、嬉しい時、悲しい時。音楽はいつも私たちの身近にあり、励ましてくれる存在です。
その存在の大きさからいつしか「音楽を仕事に」と考えたことのある方も、多いのではないでしょうか。
今回お話を伺ったのは、ピアニストのnanahaさん。
nanahaさんは音大を卒業後、フリーランスのピアニストとして演奏活動を中心に活躍されています。
楽器としての競争率も高く、「演奏」だけで生活していくのが難しいと言われるピアニスト。
今年音大を卒業したばかりという“新卒ピアニスト”のnanahaさんが、どのようにピアノを仕事にしているのか。その秘密を伺いました。
nanahaさん
ピアニスト
株式会社SDM所属
5歳よりピアノを習う。
現在都内バレエ団にてバレエピアニストとして活動。クラシック、ポップス、アニメ曲など、生配信ライブやSNSを通して幅広く活動中。
高校時代よりサロンモデルとして活動し、2015年ミスキャンパスコレクションフレッシュキャンパスコンテストグランプリ受賞。同時期に友人とともに起業を経験。
2018年よりSHOWROOMやニコニコ生放送でピアノ配信を始める。J-POPや懐メロ、アニメソングなどの演奏をはじめ、リクエスト演奏もしている。
起業を手伝ったのは、ピアノの練習時間を捻出するため?
―フリーランスのピアニストとして活躍されているnanahaさんですが、ピアノはいつ頃から始められたのでしょう?
幼稚園の頃からですね。
小さい頃から内向的な性格だったので、友達と外でワイワイ遊ぶというよりは、家の中にいることが多いタイプでした。
だからピアノを弾いている時間は長かったですし、好きだったのでやっていて苦ではありませんでしたね。
そんな幼少期だったからか小学校の時から、合唱の時はいつもピアノ伴奏を任されていました(笑)。
―ピアノができる子あるあるですね(笑)。幼稚園以来、ずっとピアノは続けられていたのでしょうか?
中学受験をしたので、受験勉強中はピアノを弾く回数が減ってしまいました。特に直前2カ月はほぼ鍵盤に触ることができず…。
当時は受験のプレッシャーもありましたが、ピアノを弾けないストレスも同じかそれ以上に大きかったですね。
なんとか無事受験が終わってからは、あらためてピアノに向き合う時間を増やしましたし、ピアノを弾いて生きていきたいという意識が芽生えたきっかけとなりました。
―ピアノと距離ができたことで、自分の中でのピアノの存在の大きさを知ったのですね。大学は都内の音楽大学に進学されました。
はい。中学受験の時に勉強でピアノの時間を削られてしまった経験があったので、大学受験はいっそピアノで乗り越えられないかと思い、音楽大学を受験しました。
もちろん勉強も必要ですが、音楽大学なら実技としてピアノのスキルも考査に問われるので。
大学入学後はピアノを中心に、起業した友人と会社をゼロから立ち上げる手伝いをする、という経験を積みました。
―なぜでしょう?
できる限り、本業であるピアノの練習時間を確保したかったからです。
練習時間を確保するために、時間の自由がきかないアルバイトはなるべく避けたいなと思っていました。
とはいえ大学生なのでいろいろお金は必要になりますし、どうしようかと考えていた時に、仲の良い友人が起業をしたんです。
時間の融通がきいて、お金も稼げる。しかもアルバイトでは経験できないような事業の立ち上げを経験できたのは財産でしたね。
※nanahaさんが共同起業した会社についてはコチラから
変わることは「逃げ」ではない。21歳の起業家・案志優実が語る、正しい“失敗”の捉え方
何もないところから「お金を稼ぐ方法」を身につけることができた。事業立ち上げを経て、フリーランスのピアニストへ
―nanahaさんはその会社でどのようなことをされていたのでしょうか?
主に広報と人事を担当していました。
モデルの撮影会を企画して、モデルさんとカメラマンさんをマッチングさせる、という事業を当時やっていたのですが、そのためのPRをInstagramなどを活用して集客していたんです。(現在、この事業は売却済み)
また、大学生のインターンを採用するために人事として面接を多く行っていました。
他にも自分たちの事業をPRするために、テレビ局に資料を作ってプレゼンしたりと、営業のような業務もやっていました。起業したてで人もいなかったので、かなり幅広く担当していましたね。
今はフリーランスのピアニストとして活動していますが、この経験はとても活かされていますね。
―どういうことでしょう?
ゼロから立ち上げた事業で「お金を稼ぐ方法」を身につけ、実際に収入を得るという経験ができたからです。
SNSを使って宣伝し、集客して、仕事が生まれ、収入になる。もちろん会社の時と今では形は変わっていますが、このプロセスを上手くアレンジしつつ活かしています。
というのも「フリーランスのピアニスト」として活動し、生活できる人は決して多くないからです。
―そうなんですか?
はい。そもそもピアノは楽器の中でも競争率が激しいですし、演奏できる場所もニーズも限られている。ピアノの「演奏」だけで生活できるようになるには、なかなか厳しいのです。
私の周りの人も、フリーランスのピアニストとして活躍している人はほとんどいなくて、大学卒業後は大学院に進むか、音楽の教員になるか、音楽教室でピアノを教えるか。もしくはピアノと全く関係ない、一般企業へ就職する人も数多くいました。
とはいえせっかく小さい頃からずっと続けてきた大好きなピアノですし、私はどうにかピアノで生活できないかと考えたんです。
その答えのヒントになったのが、大学時代の起業を手伝った経験でした。
どれだけ素敵な演奏でも、聞いてもらえなかったら意味がない。1人でも多くの人に“癒やしのメロディ”を届けるために
―現在の活動について、教えてください。
自分の参加しているユニットのコンサートを中心に、ピアニストとして演奏活動をしています。
その集客のツールとして、SNSを積極的に使っています。
Instagram、Twitter、Facebookでの告知はもちろん、YouTubeやニコニコ生放送、SHOWROOMなどでピアノを弾いている様子を配信しています。
その他バレエ団のピアニストとしてバレエピアノを弾いたり、音楽教室で講師も務めています。
毎週月曜日には「新橋チアーズ」として、新橋で演奏をしています。そして、その様子のライブ配信も行っています。
http://www.s-d-m.jp/shinbashicheers/
―SNSを中心としたオンラインの活動と、実際に演奏を聞いていただくオフラインの活動を上手に組み合わせていますね。
音楽にはとても強い力があります。どれだけ素敵な演奏ができたとしても、誰も聞いてくれなかったら意味がありません。演奏を聞いてくれる人がいて、初めて価値が生まれます。
入り口はオンラインでもオフラインでも構いません。ピアノの演奏を聞いてくれた人にとって、癒やしになったとしたらとても嬉しいですね。
―最後に今後の展望を教えてください。
今の仕事を中心に、自分のできることをさらに増やしていきたいです。
最近は作曲も勉強しています。ピアノ曲やバレエ曲などを自分で制作して、演奏できるようになりたいですね。
後は、演奏活動を中心とする今のお仕事のクオリティをもっと高めたいです。
今回はSNSの話題を中心にお話してきましたが、そもそもピアニストとしての高いスキルを持っている前提のお話でもあります。
仮にどれだけたくさんの人に聞いていただけたとしても、そもそもピアニストとしてのスキルが足りなかったら本末転倒ですからね(笑)。
“聞いてくれた人が、癒やされる音楽”を奏でられるよう、これからも精進していきたいですね。
取材・文・撮影=内藤 祐介