今やテレビよりも視聴者が多いとされている、YouTube。
ここ近年、配信者も視聴者も爆発的に増え、今ではさまざまなジャンルのYouTuberが、日々動画を配信しています。
今回お話を伺った美容師のフカウラシュウタさんも、YouTuberの1人。
フカウラさんは実店舗を持たないフリーランスの美容師として活躍する傍ら、ヘアスタイルや美容といった切り口の動画を発信する人気YouTuberです。
「広告収入で稼ぐだけがYouTubeの活用法だけではない」と語る、フカウラさん。今回はそんなフカウラさんのキャリアとともに、超有料級の活用法について伺いました。
フカウラシュウタさん
美容師
幼少期を長崎県の五島列島で過ごす。
専門学校入学とともに上京し、卒業後は都内のサロンへ就職する。
約5カ月間サロンに勤務した後、独立。
現在はフリーランスの美容師として、都内のシェアサロンで働く傍ら、主にメンズ向けのヘアスタイル・美容などを解説するYouTubeチャンネルを運営する。
髪型のセットやワックスの使い方など、論理的で分かりやすい解説が人気を博し、チャンネル開設わずか1年で4万人超の登録者数を誇る。
今の美容師には、スキルだけでない「別の強み」が必要だ――。就労人口50万人の美容師業界をどう生き抜く?
――現在フリーランス美容師として活躍されているフカウラさん。まずは美容師になろうと思った経緯からお聞かせください。
美容師を志した理由は、大きく2つあります。
1つは、中学高校時代の校則が厳しかったこと。
僕は長崎県の五島列島の生まれなのですが、小さい街の中学校に通っていたこともあり、校則がめちゃくちゃ厳しかったんです。
「男子は全員、坊主!」みたいな。
――……すごい校則ですね(苦笑)。
流石に「全員坊主」の校則は、僕が中学2年の時に改正されたのですが、それでも「前髪は目にかかってはいけない」など、比較的厳しいもので。
僕は小学校高学年くらいから、美容とかおしゃれに興味があったので、その校則がかなり苦痛だったんですよね……。
多感な時期に、本当はもっとおしゃれを楽しみたかった。その時の反動が、少なからず今の仕事へ繋がっているんだと思います。
――もう1つの理由は?
髪型や服装が自由な環境で、かつ自分の好きなことを仕事にしたかったからです。
スーツなど会社によって決められた服装ではなく、自分の好きな服装やヘアスタイルで仕事ができる環境。それでいて自分の「好きなこと」を仕事にする、となると……自然と、美容やファッションの方向へ進んでいきました。
そこで「高校を出たら、東京の美容専門学校へ入ろう」と思うようになったんです。
――地元の長崎や、九州なら福岡で美容師になるという選択肢もある中、なぜ東京に?
やっぱり美容やファッションは、東京が最先端だと思うんですよね。
僕が学生だった当時、今ほどではないですがYouTubeで美容に関する情報を発信されていた美容師さんがいらっしゃって。その方々も、青山や表参道に勤めていました。
美容師として流行やトレンドへの感性やセンスを磨くなら、やっぱり東京に行こうと。それで東京の美容専門学校を卒業して、表参道のサロンへ就職しました。
そのサロンを5カ月弱で退社して、フリーランスとして独立したんです。
――会社員生活わずか半年弱で独立ということは、かなり早いのではないでしょうか?
そうですね。通常のサロンだと、3から5年のアシスタント期間を経て、ようやく1人前の美容師として認められます。
※アシスタント期間とは、普段は先輩美容師が接客しているお客さまのシャンプーや、パーマなど主にアシスタント業務をしつつ、開店前や閉店後に、カットやカラーの練習をさせてもらって、スキルを磨いていきます。
僕が入ったサロンではその仕組みがちょっと変則で、週2日はアシスタント業務を、残りの3日はサロン独自の「アカデミー」でみっちり練習を行うというものでした。
要するに、通常のサロンとは異なり「短期集中でスキルを身につけさせ、早い段階で1人前として店に送り出す」というやり方なんです。
僕も早く1人前になりたかったので、そのサロンへ就職したのですが……。結果的に5カ月足らずで退職を選択しました。
――なぜでしょう?
拘束時間がとても長かったからです。
だいたい12時間から14時間くらい会社にいたので、会社から帰ってきたら寝て、起きてまたすぐ会社へ。そして土日は疲れて爆睡、といった日々が続いてしまって……。
スキルを身につける時間はもちろん大切ですが、前提として、ある程度の睡眠時間を確保しなければ昼間の集中力が持ちません。
加えて美容師の就労人口は50万人以上。それだけライバルのいる中、自分が生き残っていくためにはスキルはもちろん、それ以外の「別の強み」を身につけなければと、常々考えていて。
その「強み」を身につけるためにも、今の環境ではどうしても時間が足りない……。だから独立を決意したんです。
「広告収入で稼ぎたい」から、始めたわけじゃない。フカウラシュウタ流・YouTube活用戦略
――“美容師でフリーランス”と聞くと、「美容院を開業」することを想像してしまったのですが、フカウラさんはそうではないですよね?
はい。フリーランスの美容師向けのシェアサロンに登録しており、場所はそちらを借りて、業務を行っています。
だから「自分で美容院を開業して」というスタイルの独立ではないですね。
――やはりそれは開業資金的な問題が?
それもそうですね。美容院はコンビニの店舗数の約5倍(令和元年の美容院の店舗数は約25万件超)もあります。
その上、店を構えるとなると、どんなに安くても1000万円以上の開業資金が必要になります。ましては僕はキャリアが長いわけでもなければ、特別有名なわけでもありません。
競合が数多くいる中で、それだけの大金を投じるのはあまり現実的ではないなと。
それに美容師として満足なパフォーマンスを出して働ける「健康寿命」には、限りがあります。
何か、美容師以外の別のことがやりたくなった時に、フットワーク軽く挑戦できるようにしておくためにも、今はシェアサロンを活用する方が、自分に合っているなと思ったんです。
もちろん自分のお店を持つことへの憧れもありますし、1つの土地に腰を据えることの安定感が必要ないわけではありません。
……ある意味「持ち家」か「賃貸」かの論争に近いところがあるかもしれませんね。
――現段階での最適解がシェアサロンを活用したスタイルだったと。しかし実店舗を持たないままの開業ですと、主に集客に大きな課題が残りそうですが……?
そこは僕もかなり考えました。
開業したての頃は「フリーランスの美容師とマッチングできるサービス」を活用して集客をしていたんですが、それだとどうしても「安さ」で周りと差別化をするしかありません。
その中でちゃんと生計を立てていくためには、とにかく数をこなして仕事をするしかなくなってしまいます。
そこで集客媒体についていろいろ試行錯誤した結果、挑戦したのがYouTubeだったんです。
そして今ではほぼ全てのお客さまが、僕のYouTubeを見て来店してくださるようになりました。
――なぜ集客媒体としてYouTubeに注目したのでしょう?
いろんな理由がありますが、端的に言うと「フカウラシュウタという人間」を1番効果的に知っていただきやすいから、でしょうか。
薄利多売ではなく、単価を比較的確保した上でフリーランスとして食べていくには、僕という人間のことを知ってもらうことが大切です。
実はYouTubeともう1つ、Instagramにも力を入れようと思っていた時期がありました。
ですが、Instagramは写真が強みの媒体。ヘアスタイルの「写真」にファンがついたとしても、その奥にいる「人」にファンがつきづらいなと。
その点、YouTubeは動画を通して、発信する「人」にファンがつきやすい……。そこに気づいてからはとにかくYouTubeへ力を入れました。
――YouTubeを立ち上げるにあたって、何か意識されたことはありますか?
まずYouTubeで情報発信をされている美容師さんの動画をとにかくたくさん見て、研究を重ねました。
どういう動画が人気なのか。視聴者が求めるニーズは何か。その中でどうしたら他のチャンネルと差別化ができるか……などは徹底して考えましたね。
その上で僕がYouTubeの動画を作る上で心掛けていることを、2つ挙げてみます。
まず1つ目は、YouTubeだからといって“キャラ”を作るのではなく、自分の良さを活かした動画を作ること。
動画をたくさん見る中で気がついたのは、YouTubeをされている美容師さんは、比較的テンションが高い方が多くいらっしゃる、ということでした。
だからこそ僕は、逆に落ち着いたトーンで動画を撮ることにしました。テンション感はもちろん、背景や服装も比較的落ち着いていて、シンプルなものにしようと。
元来僕は大人しいの性格……というより根暗なので、無理に明るいキャラを作って演じるのではなく、自分の性格ほぼそのままで動画を作ることが、自然と他の方との差別化になるんじゃないかと思ったんです。
そしてもう1つは「再現性の高い情報」を分かりやすく、かつ論理的に伝えること。
具体的な話ですが、動画の下調べを進める中で分かっていったのが「センターパート」(おでこの中心で髪を分ける、メンズの人気髪型の1つ)や「パーマ」の需要があるということでした。
最初の頃は、特にその2つのテーマを中心に、とにかく分かりやすく解説しました。
――そう言われてみるとフカウラさんの動画は、たしかにその法則に従って作られている気がします。
ポイントなのは、僕は「YouTuberになって広告収入で生活したい!」と思って、YouTubeを始めたわけではなく、あくまで「美容師としての活動の延長」としてYouTubeを始めたということです。
有益な情報を発信して、動画を通してまず僕という人間を知ってもらう。
そして僕という人間に親しみを感じていただいたり「このセットをそのまま実践したいから、この人に髪切ってもらいたい」と思っていただけたら、サロンの予約へ繋げる、という流れを作りたかったんです。
そのためにも分かりやすく質の高いコンテンツを数多く作っていけば、自ずと見てくださる方が増えていくだろうと。特にチャンネル立ち上げ初期の頃は、その点を意識しましたね。
おかげさまでチャンネル開始から1年で、4万人超の方に登録いただけて。今ではほぼ全てのお客さまがYouTubeを経てサロンへ来店してくださるようになりました。
「美容師だから、美容業をやらなきゃいけない」というわけではなく、何をやってもいいんだな、と。
――フカウラさんの今後の展望を教えてください。
自分の「お店」を持ってみたいですね。ここでいう「お店」とは、必ずしも美容院に限ったものではありません。
もちろん美容業は大好きな仕事ですけど、それだけじゃない何か別の事業にも挑戦したいなと思うようになってきたんです。
――なぜでしょう?
フリーランスになって考え方が変わっていった、というか……。今までよりも物事を少し広い視点で見ることができるようになっていったんです。
フリーランスになって、YouTubeを始めてみて「美容師だから、美容業をやらなきゃいけない」というわけではなく、本当は何やってもいいんだな、と気がついて。
もちろん美容師として軸足は置いておきつつも、美容師としてだけじゃない、自分の新しい可能性に目を向けていきたいなと。
その一環として「店舗経営」に興味が湧いてきたんです。まだ具体的にどんなお店にするかは全然決まっていないので、これからゆっくり考えてみたいですね。
――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
僕は独立を経て「なんとかなるだろう精神」と「なんとかする力」の2つが、独立・起業には必要だなと改めて思いました。
やはり独立・起業は「挑戦」の一種ですから、プレッシャーがかからない、といったら嘘になります。
だから、まずは「なんとかなるだろう精神」で、楽観的に心の平穏を保つことが大切。そしてその心の平穏を保つためには、自分を安心させるだけの準備や備えを作る力、すなわち「なんとかする力」を持ち合わせている必要があって。
……まぁ元も子もない言い方になってしまいますが、最初は「なんとかなるだろう精神」で準備を進めて、いざ走り出したら、あとはどうにかする(笑)。
人間「なんとかせざるを得ない状況」になれば、たいていのことはそれなりになんとかしてしまいます。
だから独立・起業に「迷っている時間」ほど、もったいないものはないなと思います。
挑戦してみたい気持ちがわずかにでもあるなら、そのために必要な準備や分析を少しずつでもいいから、進めてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。
取材・文・撮影=内藤 祐介