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ビルドからリュウソウジャーへ。パイロット監督に必要な、0から1を生み出す力【後編】

ビルドからリュウソウジャーへ。パイロット監督に必要な、0から1を生み出す力【後編】

0から1を生み出す。

クリエイターにとってはもちろん、独立・起業を考えている人にとっても必須の力です。

前回に引き続き、今回も映像監督・演出家の上堀内佳寿也さんにお話を伺いました。

上堀内さんは「平成仮面ライダーシリーズ」においてわずか30歳で監督となり、2019年3月17日にスタートした『騎士竜戦隊リュウソウジャー』(テレビ朝日系 毎週日曜午前9:30~10:00放送)では、パイロット監督(※)を務められています。

※パイロット監督とは、主に特撮番組において、1〜2話を担当する監督のこと。その番組の方向性やカラーを位置づける、監督陣の中でも極めて重要な役割をするメイン監督を指す。

後編ではいよいよ、『仮面ライダーエグゼイド』や『仮面ライダービルド』といった、上堀内さんが監督を務めた代表的な作品について伺っていくとともに、3月17日にスタートした『騎士竜戦隊リュウソウジャー』への意気込みについてお話しいただきました。

過去の作品とは決定的に違うという『騎士竜戦隊リュウソウジャー』。その作品の監督を務める上で大切にしたいことは、一体何でしょうか。

<プロフィール>
上堀内佳寿也さん
映像監督・演出家

1986年生まれ、鹿児島県出身。

地元・鹿児島県のテレビ局のアシスタントとして活動後、上京。仮面ライダーシリーズへは、『劇場版 さらば仮面ライダー電王 ファイナル・カウントダウン』(2008年)より助監督として参加。

東映Vシネマ『ゴーストRE:BIRTH 仮面ライダースペクター』(2017年)で長編作品の監督デビューを果たす。

テレビシリーズでは『仮面ライダーエグゼイド』(2016年)で監督デビュー。『仮面ライダービルド』(2017年)ではローテーション監督として活躍する。

『仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL ビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー』(2017年)、『劇場版 仮面ライダービルド Be The One』(2018年)と劇場版の監督を務めた後、2019年3月17日より放送のスーパー戦隊シリーズ『騎士竜戦隊リュウソウジャー』のパイロット監督を担当する。

とにかく爪痕を残したかったんです。―あの「時計」と「電球」演出を生んだ、上堀内監督の“性癖”?

―前編では、上堀内監督が映像制作に携わることになった経緯から、監督・助監督のお仕事についてを伺いました。後編ではいよいよ監督を務められた作品について伺っていきたいと思います。テレビシリーズで初の監督を務められたのは『仮面ライダーエグゼイド』(以下、エグゼイド)の第31、32話でした。

上堀内さん
そうですね。

31話は主人公で研修医の宝生永夢と、ゲームクリエイターの檀黎斗が「命」に対する価値観の違いから対立しつつも共闘する回、32話は『エグゼイド』におけるラスボス「仮面ライダークロノス」(以下、クロノス)が初登場する回です。

作品のテーマである“医療”と“ゲーム”を象徴する2人の対立と共闘、そしてラスボスの登場と、いずれも作品の根幹に関わる重要な話を、テレビシリーズ初の監督回で担当することになるとは思っていませんでしたね。

この回を僕に任せてくださった『エグゼイド』のチーフプロデューサーの大森敬仁さんも、なかなか冒険されるなと(笑)。

―(笑)。しかしその期待に応えるかのような、素晴らしい映像でした。特に「クロノス」のポーズ(周囲の時の流れを止める特殊能力)や、時計を使った演出は「上堀内時計」とあだ名されるほど話題となりました。


※画像はイメージです

上堀内さん
あの時は「とにかく爪痕を残さないと」という思いで挑みました。

ラスボス初登場回を、僕みたいな新人に任せてくれるわけですから、もうがんばらないわけにはいかないじゃないですか(笑)。

自分が監督を務めるなら、期待してくださっているプロデューサーや日頃お世話になっているスタッフ達、そして何より視聴者の皆さんにとって印象に残る回にしたいなと。

―続く『仮面ライダービルド』(以下、ビルド)の21話「ハザードは止まらない」でも、主人公が強化アイテムに適応できず、暴走した挙げ句、敵を消滅させてしまうというシリアスな内容の回を担当されています。暗い倉庫の中「電球」がぶらぶらと揺れて暴走する、という演出は強烈過ぎて、世のこども達にトラウマを与えたのではないかと思うのですが…。


※画像はイメージです

上堀内さん
あの回は、強化アイテムが初登場する話であるとともに、作品の大きなテーマである「戦争」に深く密接する話でもあるんですよね。

強化アイテムに潜む「自我を失う」というリスクと、仮面ライダーの「兵器」としての側面を効果的に描くためにはどうしたらいいかを考えて、ああいった演出に至りました。

こう振り返ると、自分の「性癖」も全開にするくらい、どちらも全身全霊で挑んでいますね(笑)。

―性癖、というと?

上堀内さん
小さい頃から「あの作品のあの部分ってすごいよね!」と、強く印象に残るシーンとか描写が好きだったんですよね。

もちろんそのシーンが、アクションなのか、はたまた人間同士の感情のぶつかり合いなのかは、作品によっても異なりますが。

せっかくこうした作品にとってのターニングポイント回を担当させていただけるのであれば、これはもう見た人にとって、強烈な印象を与える映像にしたいなと。

そういう意味での「性癖」です(笑)。

―その「性癖」がハマりすぎて、シリアス回といえば上堀内監督、という印象すらあります。

上堀内さん
でもこれって難しくて、どれだけ派手でかっこいい演出が思いついたとしても、作品のベースから逸脱してしまっては意味がないんですよね。

僕の場合、たまたまストーリーが大きく動いたり、強化アイテムが出たりする回を多く担当させてもらっているから目立つのかもしれませんが、作品には「ストーリーが大きく動かない回」も必ず存在します。いわゆる「日常回」のような話です。

ストーリーが大きく動かないと、画的な派手さはないんですが「なんかこの回おもしろかったね」と思わせる演出や魅せ方ってあるんですよね。

自分がもしそういった回や、はたまた特撮とは全く関係ない映像を撮るとしたら、どのように魅せていけばいいのかは、常に頭の片隅においています。

まだまだ勉強あるのみですね。

「ゼロ度の炎」の涙に、全てがつまっている。“上堀内ダイエット”とも称された、現場の雰囲気作り

―ここまでお話を聞いてきて、とても気さくで笑顔の絶えないインタビューをさせていただいていますが、現場でもこういった雰囲気で撮影することが多いんでしょうか?

上堀内さん
どうでしょうか?

その現場のテンションや撮るシーンにもよりますけど、僕は多分、仮面ライダーの監督陣の中で1番ふてぶてしい監督だと自覚しています(笑)。

―ふてぶてしいんですか?

上堀内さん
そうですね。

というのも、僕は監督の中でも1番若いんですよ。で、若い監督の僕がヘラヘラとした態度で現場に臨んでいたら、僕よりももっと若い役者やスタッフもどこか気がゆるんでしまうじゃないですか。

もちろん明るい雰囲気の現場であるに越したことはないんですが、現場がゆるくなってしまうのは許せないですね。

―上堀内監督の目の色が、今一瞬変わったのが印象的でした…。たしかに仕事をする上で、仲が良いのと馴れ合うのは違いますよね。

上堀内さん
僕らが作ってる作品、コンテンツって、人の心を動かす力があると思うんです。

人の心を動かすものを作ってる僕ら自身が、気持ちが入らない中途半端な態度でいたら、見てくれている人や応援してくれている人にめちゃくちゃ失礼じゃないですか?

嬉しいシーンや楽しいシーンを撮っている時に、楽しいテンションをしっかりと作って撮影に臨むことは重要ですが、泣き芝居のシーンや追い詰められるシーンを撮っているのにヘラヘラと笑い合っている人がいたら、年が上であろうが下であろうが、誰であろうと僕は必ず注意します。

―泣き芝居や追い詰められるシーンと言えば、やはり『ビルド』が印象的です。

上堀内さん
『ビルド』の時の僕は、特にシリアスな回を多く担当していたので、必然的に緊張感のある現場が多かったんじゃないかなと思います。

特に泣き芝居の多かった、石動美空役の高田夏帆さんからは「上堀内ダイエット」だと言われていましたから(笑)。

―「上堀内ダイエット」とは?

上堀内さん
僕の監督回を撮る度に、彼女が痩せたらしいんです。

単純にストーリー的に気持ちを入れて演技しなきゃいけない、というプレッシャーもあったのでしょうが、それに加えて僕の演技指導があり、ストレスがかかってしまったようで…。

それでも美空には感情を目一杯出してもらわなければなりませんし、中途半端な妥協はできませんでしたね。

―劇中、美空は特に涙を流すシーンが多かったですからね。1年間、まさに「泣き続けてきた」美空の集大成とも言えるのが、47話の「ゼロ度の炎」でした。

上堀内さん
美空のあの演技を見た時、本当に嬉しかったですね。

高田さんには負荷をかけてしまいましたが、1年間妥協せずにこだわってきて本当に良かったなと。

僕がこんなことを言うのはおこがましいかもしれませんが、やっぱり人が成長していく姿を見るのってとても嬉しくてやりがいを感じますし、なんというか胸がいっぱいになるんですよね。

近年の仮面ライダーシリーズはもはや、特撮ファンだけが見る番組ではなくなりました。

仮面ライダーシリーズを経て巣立っていった役者達は、視聴者のファンはもちろん、業界関係者や仮面ライダーファン以外の方からも「仮面ライダーを1年やってきた」という目で見られます。

これから役者達が世に出て、いろんな仕事をしていく中で「仮面ライダーに出てたんだよね? 何やってきたの?」なんて絶対言われたくないんです。

一監督としてこの仕事で彼らと関われるなら、役者としても、人としても成長して欲しいんです。

「ゼロ度の炎」の美空の涙は、僕にとっても高田さんにとっても、支えてくれた全ての人にとっても、1年間の集大成とも言うべきシーンになったのではないでしょうか。

0から1を作り出す。『騎士竜戦隊リュウソウジャー』のパイロット監督として、心がけていること

(C)2019 テレビ朝日・東映AG・東映

―『エグゼイド』、『ビルド』を経て、いよいよ3月17日から『騎士竜戦隊リュウソウジャー』(以下、リュウソウジャー)がスタートしました。パイロット監督として、参加することになった経緯を教えてください。

上堀内さん
東映の高橋一浩プロデューサーにお声掛けいただいたことがきっかけです。

とはいえ僕は仮面ライダーしか監督の経験がないので戦隊自体初めてですし、ましてやパイロットも務めたこともないので、もうめちゃくちゃ不安でした。

―1話2話は、1年間続く作品の方向性を決める上で、とても重要な指標になりますからね。

上堀内さん
それを経験値0で担当する不安たるや(笑)。

突然お声掛けいただいたこともあり、最初は「一度考えさせてください」と、返事を待ってもらったんです。

でも『ビルド』が終わって、そろそろ新しい領域に挑戦したい、と思っていた矢先の話でしたし、正直こんなありがたいことってないなと思いました。

今までは、他の人が作りあげてきた作品に参加させてもらってきましたが、本当に0の状態から作り上げたことはなかった。

不安はない、といえば嘘になりますが、僕が今できることに全力で取り組もうと決意し、『リュウソウジャー』のメガホンを取らせていただいたんです。

―1話2話の撮影を終えて、手応えはいかがでしょうか?

上堀内さん
とにかく現段階でできあがっている登場人物の魅力を、どれだけ丁寧に描けるかを考えて撮りました。

作品の全体像は、プロデューサーも一緒に考えてくれていますし、先のことはあえて聞かないようにしています。

僕がやらなければならないのは、0だったものを1にすること。


(C)2019 テレビ朝日・東映AG・東映

上堀内さん
『リュウソウジャー』にとっての1とは、何もないところから、登場人物や物語の持つ魅力を打ち出していくことです。

「パイロットだから」と変に気負う必要はなくて、あくまで僕は現在だけを見て、撮影に臨んでいます。

実際に僕は、今テレビで放送している内容の1、2歩程度先のことまでしか知りません。

いい意味で先のことを考えずに、目の前の撮影や編集を最高のものにしていく。それが積み重なった結果が『リュウソウジャー』の1年になると思うんです。

だからこそ、その時々で登場人物や物語が、最も魅力的に描けるよう尽力していきたいです。

「好かれること」だけが、信頼関係を勝ち取る方法ではない

―今後の展望を聞かせてください。

上堀内さん
まずは『リュウソウジャー』をしっかり走りきりたいです。

その後のことは考えていませんが、特撮以外のジャンルの監督も挑戦してみたいですね。特にホラーが気になります。

―ホラーといえば『ビルド』のハザードにもその要素を感じましたが…。なぜホラーなのでしょう?

上堀内さん
ホラーって、「間」を1つ間違うと全部壊れちゃうじゃないですか。

『ビルド』の時も「間」には相当気を遣いましたし。

そういう意味で、撮影も編集もめちゃくちゃ難しいでしょうし、絶対大変なのは分かっているんですけど、興味があるんです。

最終的に『リュウソウジャー』をやりたいと思えた理由と同じなんですが「撮ったことがないから、撮ってみたい」んですよね。

ホラーもやってみたいし、喜劇や動物モノ、ヒューマンドラマなど、撮ってみたいジャンルの作品はたくさんあるんです。

―前編で伺った上京の話といい、上堀内監督らしい、前のめりなお考えだと思います。最後に自分の「スタイル」を追い求める読者の方へ、アドバイスをいただけますか?

上堀内さん
やる前から諦めないことでしょうか。

前編の最後でも言いましたが、最初の1歩さえどこかで踏み出せれば、後はどうにかなったりするものです。

後は、仕事は人との信頼関係があるからこそ生まれていきます。

注意していただきたいのは八方美人的に「好かれること」だけが、信頼関係を生むのではありません。

時に意見が対立しても、ちゃんと自分が思っていることを正直に伝えることが、信頼関係を生むコツだと思います。

僕自身プロデューサーやスタッフ、役者に対して、良いことも悪いことも、思ったことは正直に伝えるようにしています。

良いものを作り上げていくために必要な議論は、たとえ相手から嫌われたとしても、きちんと伝えるべきです。

忌憚のない意見を表明できて、誠実に対応することが、仕事をしていく上でとても重要なことだと、僕は思っています。

取材・文・撮影=内藤 祐介

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