起業をする理由は人によって様々です。
個人事業主よりも社会的な「信用」があるから。税金対策がしやすいから。従業員を雇って事業を大きくしたいから―。
今回お話を伺ったのは、サウンドクリエイターのchocck(チョック)さん。
chocckさんは現在フリーランスのサウンドクリエイターとして活躍し、作曲はもちろんVTuber・保崎メンマのプロデュースなども行っています。
そんな多彩なchocckさんですが、今年、株式会社ミライトオンの取締役に就任されました。今回はchocckさんのキャリアとともに、独立を経て起業に至った経緯を伺いました。
chocck(チョック)さん
サウンドクリエイター/VTuberディレクター
株式会社ミライトオン取締役COO
高校時代に音楽ゲーム「pop'n music」と出合い、サウンドクリエイターの道を意識し始め、独学で作曲を始める。
大学卒業後、サウンドクリエイターとして企業に就職。BGMや効果音、楽曲の制作などに携わる。
2018年4月に独立。フリーのサウンドクリエイターとしての活動をスタートさせる。2020年3月、株式会社ミライトオン取締役に就任。
倍率数百倍? 独学で作曲を学び、新卒でサウンドクリエイターの道へ
―現在作曲家として活躍されているchocckさん。現在に至るまでの経緯を聞かせてください。音楽にはいつごろから興味を持たれていたのでしょう?
幼少期から親の影響でABBAやThe Beatles、B'zなどを聞いていました。中でもゲームに熱中していたので、ゲーム音楽が特別に好きだった覚えがあります。
音楽を明確に仕事にしたいと思うようになったのは、高校生の時。
友人にゲームセンターに連れられて始めた「pop’n music」という音楽ゲームがきっかけです。様々なジャンルの音楽がプレイできてとても楽しかったんです。
その時に自分の中で「いろいろなジャンルの楽曲を作りたい」と思うようになり、サウンドクリエイターの道を意識するようになりました。
―そこからどのようにキャリアを積んでいったのでしょうか?
高校2年の終わり頃から独学で作曲を勉強し始めました。DTM(デスクトップミュージック。PC上で作曲を行うこと)やギターもその時から触り始めたのですが、それまで全く音楽について学んでこなかったんで、知識もなければ演奏スキルもなく悪戦苦闘しましたね。
その後、大学で情報工学を専攻。プログラミングやデータ分析などを学ぶ傍ら、部活でビッグバンド・ジャズを学びました。その間も自分でいろいろ曲を作っていて。
そして大学を卒業するとともにサウンドクリエイターとして企業に就職しました。
―作曲経験があるとはいえ、新卒で音楽制作会社に入社するのはなかなか大変だったのではないかと思うのですが…?
そうですね。サウンドクリエイターとして働きたいとは思いつつも、そもそも新規採用の枠自体がかなり少なかったので苦労しました。うわさによると倍率は数百倍だという話もあったり。
心配させたくなくて、親にも話していなかったくらいなので(笑)。
それでもやっぱり諦めきれずいくつかの会社を受けて、ようやく内定を勝ち取ることができたんです。
入社後は社内のサウンドクリエイターとして、BGMや効果音、楽曲の制作等から歌・ボイス収録のオペレーションなど、幅広い業務を行っていました。
―その後、独立をされたんですよね?
はい。会社に入社してから3年で退職を決意しました。
会社で経験を積んでいく中で、様々な媒体に楽曲提供などをしていきたいなと思うようになっていったことが主な要因です。
またVTuberを通じて、自分のオリジナル作品を出していきたいという思いが強くなってきたということも要因としてあげられますね。
自分1人でやってきたからこそ、会社として仕事をすることの良さに気がついた
―現在のお仕事の内容について教えてください。
サウンドクリエイターとしては楽曲提供やBGM、SE(Sound Effectの略。インストロメンタル、効果音等)の作曲、歌・音声収録、エンジニアリングなど「音」にまつわることならだいたいなんでも携わっていますね。
サウンド以外のことならVTuberの運営やプロデュース、動画制作進行や収録ディレクションといった業務も行っています。
他にも、音を使うお笑い芸人のネタの音出しなどもしています。
特にVTuberに関することなら、使用する音楽や音声はもちろん、企画の制作からプロデュースまで業務内容は多岐に渡ります。
―そもそもVTuberとはなんでしょう?
バーチャルYouTuberの略で、YouTubeを主軸に活動する2D、3Dキャラクターのことです。活動内容はキャラクターによって大きく異なるのですが、僕は保崎メンマというキャラクターの運営・プロデュース・実制作を行っています。
また最近では企業様からVTuber関連の案件でご依頼をいただくようになりました。
高校生の時に大きく影響を受けた「pop’n music」の最新作「pop’n music peace」に、保崎メンマとしてオリジナル楽曲を提供させていただいたのは、嬉しかったですね。
主に歌作品関連の制作、企画動画やMVの制作進行・ディレクションなどを中心に行っています。
またVTuberのプロデューサーとして日本テレビ系バラエティ番組「マツコ会議」などに出演させていただきました。
―そうした個人でのお仕事もされながら、先日、株式会社ミライトオンの役員を務められることになったと伺いました。
はい。株式会社ミライトオンの代表の荒木とは、とあるVTuberの制作現場で一緒に仕事をしたことがきっかけで親交が始まりました。
荒木自身も映像や作曲をはじめ、VTuberに関する様々な仕事をしており、意気投合。荒木がもともと持っていた会社を、僕ともう1人のエンジニアと3人で、再スタートする流れになりました。
―作曲活動なら個人でもできそうですが、なぜ会社というスタイルを取ろうと思ったのでしょう?
個人として作曲活動を続けていきたいのですが、それと同時に会社だからできることにも興味が湧いてきたんです。
今までは全ての工程を1人で完結してきましたが、経験を重ねるうちにいろいろなプロを巻き込んで行った方がいい仕事もたくさんあることに気がついて。
例えば曲を作ったりアレンジしたりといった部分は僕がやるけれど、演奏に関してはその楽器のプロにおまかせしたり、映像に関しては映像のプロにおまかせしたり。
このタイミングで会社を立ち上げようと思った理由は、そういった他の領域のプロと一緒に仕事をしやすくするため、という側面もありますね。
―個人や会社での仕事を通して、どのような世界観を創出したいのでしょうか?
僕は「音楽が好きな人をもっと世の中に増やしたい」という野望をずっと抱いています。
多くの人にとって、音楽を「ただ流れているもの」から「もっと聞きたい」と思えるようにしたい。つまり、受け身ではなく能動で音楽を聞く人をもっと増やしたいんです。
そういった体験をしていただくには、あっと驚くような音体験が重要だと思っています。
VTuberでのオリジナリティのある楽曲配信はもちろん、サウンドインスタレーション(※)やインパクトのある音楽をもっと世の中に届けて、音での驚きを与えたいです。
※サウンドインスタレーション…ある空間の中で音を使って表現する芸術。
自分だけの力で何かを成し遂げることは、そうそうない
―chocckさんの今後の展望についてお聞かせください。
VTuber・保崎メンマのオリジナル動画を今後も出していくことはもちろん、リアルライブや海外イベントなどを積極的にやっていきたいですね。
作曲家としてもミライトオンの人間としても、あっと驚くオリジナリティあふれる作品を世に出していきたいです。
社名である「ミライトオン」。これは「未来のトーン(音)」「ト音記号(楽譜におけるもっともスタンダードな記号)」「ライトオン(英語でドンピシャリの意)」のトリプルミーニングになっています。
まさに世の中にとっての「ミライトオン」になれるような仕事をしていきたいですね。
―最後に、読者の方へメッセージをお願い致します。
力強いメッセージを届けられるほど立派ではないですが、強いて言うなら周囲の人への感謝を忘れないことでしょうか。
独立を考えている方は特に、仕事は組織ではなく自分1人でやっていくもの、とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし本当の意味で自分の力だけで、何かを成し遂げるなんてことはそうそうないと思います。
仮に自分1人で仕事をしていたとしても、必ずその仕事を依頼していただいた相手がいるはずです。それに生活する上では、周りの家族だったり友人だったりもいるはずで。
僕自身、そういった人たちがいてくれたからこそ、なんとかやってくることができました。
周りへの感謝を忘れず、1つ1つの仕事を大切にこれからもがんばっていきたいです。
取材・文・撮影=内藤 祐介