独立するからこそ、できることがある。
今の自分の仕事ではできないことをするために、独立・起業を考えている方も多いのではないでしょうか。
今回お話を伺った高辻紫苑さんもその1人。
高辻さんはデザイナーとして長年勤務した後に独立。ブランド「Sainey」を設立しました。
今回は高辻さんが独立に至るまで、そしてブランド「Sainey」に懸ける思いについて伺いました。高辻さんが独立をしてなし得たかったことは、一体何でしょうか。
高辻紫苑(たかつじ・しおん)さん
ハンドメイド作家、デザイナー
中学時代からデザイナーを志し、大学では被服関係を専攻。
就職し販売職を経験後、転職。デザイナーとしてのキャリアをスタートさせる。
アクセサリーやヘアアイテム、ノベルティ商品など数多くの商品のデザインを担当する。
2020年に独立。ブランド「Sainey」を立ち上げ、ハンドメイド作家として活動している。
100円から数十万円まで。「会社にいるから作れるもの」を作り続けた、10年のキャリア
——現在に至るまでの経緯を教えてください。デザイナーを志したのはいつ頃からだったのでしょう?
ものづくりは小さい頃から好きで、中学生くらいの時にはデザイナーに興味はありました。思い返せばその頃から自分のブランドを作りたいと思っていて。先日立ち上げたブランド「Sainey」の元の構想はありましたね。
その後、美術コースのある高校に進んで、大学は被服関係の専攻に進学したんです。
そして就職をしたんですが、最初は販売職として働き始めて。デザイナーとして働き始めたのは2社目からでした。
—— 小さい頃からの夢だったデザイナーというお仕事にようやく就けたのですね。その後はどのような仕事を?
最初はアクセサリーを専門的に作っている会社に入社して、商品のデザインからクライアントへの企画営業なども一貫して行っていました。
ピアスやイヤリング、ネックレスなどのデザインを考えて、アパレル会社さんに営業をかけて受注いただいてから生産して……といった具合ですね。
その後はデザイナーとして、いくつかの会社で10年以上キャリアを積んできました。
ある会社では企画営業だけではなくデザインを専業として、大手ブランドのヘアアイテムやバックチャームといったノベルティ、大手企業の記章を作ったり。
また別の会社では100円均一の商品や、300円均一のアクセサリーなどもデザインしました。下は100円から上は数十万円するものまで、かなり幅広い価格帯の商品を扱ってきましたね。
——それだけ幅広い商品のデザインをされてきた高辻さんですが、なぜ独立を検討したのでしょうか?
この10年で、価格帯だけでもこれだけ大きな振り幅がある商品を作ってきました。ある意味で「会社にいるから作れるもの」は一通り作ってしまったなと。
自分の中で達成感や満足感が生まれてきて。これからはより、自分の作りたいものに寄った商品を生み出していきたい。そんな風に考え始め独立に至りました。
個体差がある商品を“あえて”作りたかった。自分のブランドだからこそできること
——現在のお仕事について教えてください。
フリーランスのハンドメイド作家/デザイナーとして活動しています。メインの仕事は自分のブランド「Sainey」の商品の制作・販売です。
——ブランド名の「Sainey」とは、どういう意味でしょう?
漢字で書くと「彩寧」。アクセサリーは身につけるだけで元気になるし、日常に彩りを与えてくれます。
私は「Sainey」を使って、個人のハンドメイドだからこそできることを追求したいなと思っていて。
——と、言いますと?
先ほどお話しした通り、これまであらゆる価格帯の商品の制作に携わらせていただいて、ある種「会社でできるものづくり」はやり尽くした感があったんです。
これからフリーランスとして自分のブランドを作るなら「会社でできないものづくり」をしようと心がけました。
具体的には「個体差」がある商品を作ってみようと。商品を作る際、日本ほど検品を厳しく行う国はそうありません。
例えばアクセサリー。「石が1つ」という商品に、もし「石が2つ」あれば、それは検品の段階でエラー商品として扱われてしまう。
「その不規則性もデザインのうち」としてデザイナーが作ったとしても、販売する会社としては商品1つ1つの特性があまりに違うものは、どうしても売りづらいんです。
——たしかに「同じ商品を買ったのに、なんで石の数が違うの?」と、クレームが来てしまいますからね。
はい。
もちろん個体差をなくすことで「どこで買っても同じクオリティのものが安心して手に入る」というのは、消費者にとって大きなメリットです。
しかし裏を返せばそれは、商品そのものの個性が出にくい「画一化された商品」となってしまう側面も孕んでいる。
長く会社員の一デザイナーとして働く中で、そうした個体差のある商品を作ることに、あえてチャレンジしてみたくなったんです。
↑「Sainey」の商品では個体差も1つのデザインとして設計されている
——フリーランスで自分で作るブランドならではの発想ですね。そういった理念を持って作られた商品なら、お客さまにとってもきっと特別なものになります。
はい。たとえ同じ商品でも個性があり、画一的ではないもの。世界にたった1つだけのものを作りたい。
そうして作った商品は、きっと誰かにとって愛されるものになるんじゃないかと。ありそうでなかった、誰かに共感してもらえるような。自分らしいプロダクトを作っていきたいですね。
嫌な仕事はやらなくていい。でも“怖い”と感じる仕事なら、挑戦してみたい
——高辻さんの今後の展望を教えてください。
「Sainey」はまだ始まったばかりなので、もっとたくさんのアクセサリーを作って売っていきたいですね。
会社員時代から付き合いのある台湾と中国の工場と仕事がしたいなと。彼らはとてもクオリティの高い商品を作ってくれるので、自分のブランドでももっと商品が売れるようになったら一緒にものづくりをしていきたいです。
そしてたくさんの人に「Sainey」の商品を広めていければと思います。
——最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
実は私は、独立自体は結構成り行きというか、あんまり「独立するぞ!」という感じではありませんでした。
でも今から1年くらい前から、ぼんやりとですが独立を意識していたような気がします。
そういう意識の中でいると、友達とも自然と独立や起業の話をしていたり、出会う人も独立・起業の経験者だったりして。
今こうして振り返ると、自分とその周りの空気感がそういう感じだったからこそ、自然と独立という選択肢を選べたんじゃないかなと思います。
そして独立して仕事をする上で大切にしているのは「嫌なことはやらないけど、怖いと思うことはとりあえずやってみる」ということでしょうか。
嫌な仕事を無理にする必要はないと思いますが「怖いな」と思う仕事って、まだ自分が経験したことのない仕事だと思うんです。
「怖いな」って思う仕事はとりあえずやってみる。やってみて嫌ならばもうやらなければいいし、意外と悪くなければ自分の可能性がまた1つ広がる。
そういうチャレンジ精神が独立をする上で大切なんじゃないかと、私は思います。