女性のキャリアを考える上で、欠かすことができない「ライフイベントとの向き合い方」。
結婚、出産、育児。
キャリアだけでなく人生全体の大きなターニングポイントとどう向き合っていくのかは、十人十色と言えるでしょう。
今回お話を伺ったのは、みみのさん。みみのさんは、歯科衛生士として働いている傍ら、シェアキッチン・喫茶7716(きっさ・なないろ)の店主も務められています。
今から1年前に開業した喫茶7716。当初はカフェとして運営していましたが、あるきっかけからシェアキッチンとしてリニューアルすることとなりました。
今回は、そもそも歯科衛生士のみみのさんがなぜ喫茶7716を開業したのか。そしてカフェからシェアキッチンに移行した理由を伺いました。
みみのさん
歯科衛生士/喫茶7716店主
高校生の時に歯科助手のアルバイトを経験し、専門学校を卒業後、歯科衛生士の免許を取得。その後、歯科衛生士として現在まで歯科医院に勤務する。
勤務地近くの喫茶店の店主が諸事情で閉店することを聞き、開業を決意。
歯科衛生士として働きながら、2019年5月に喫茶7716をオープンする。妊娠が発覚後、同年11月からはシェアキッチンとして運営を始める。
今のまま歯科衛生士として変わらない生活を送るか、それとも―? みみのさんが喫茶7716を開業するまで
―現在、歯科衛生士として勤務されながらシェアキッチン・喫茶7716を経営されているみみのさん。まずは歯科衛生士として働くきっかけからお聞かせください。
高校生の時から歯科助手のアルバイトをしていました。
そこの歯科医院の院長に勧められたことがきっかけで、歯科衛生士の資格の勉強を始めました。
歯科衛生士専門学校を卒業後、歯科衛生士免許を取得。新卒から働いて今年で6年になります。
―現在は退職されているのでしょうか?
はい。出産を控えているので、この春に退職しました。
患者さんの生活に直接寄り添えること、そして患者さんから直接感謝の言葉をいただける、とてもやりがいのある仕事なので、産後も復帰したいですね。
―そんなみみのさんがなぜ、喫茶7716を開業することになったのでしょうか?
きっかけは職場の近くにあった喫茶店(現在の喫茶7716)の店主が、お店を辞めるという話を聞いたことですね。
というのも前職時代、歯科衛生士としてその喫茶店の近くに住んでいる高齢者のご自宅に在宅訪問をしてたんです。
その経験から地域活動に興味を持つようになっていって。その後、介護施設内の喫茶店でボランティアもしていたんです。
このあたりは団地が多く、高齢者の方も多くいらっしゃるのですが、駅からちょっと距離があるので飲食店が少なくて。
そんな中、数少ない飲食店である喫茶店がなくなってしまうと聞いて「地域の人が気軽に立ち寄れる温かみのある喫茶店を維持できないか」と考え始めたんです。
―地域貢献活動の観点からも、誰かが喫茶店を引き継ぐ必要があったと。とはいえ歯科衛生士というお仕事をされながらの開業です。迷いはなかったのでしょうか?
そうですね。最初はいろいろと考えていましたし、いろんな人に相談もしました。
でも「1年後、今のまま歯科衛生士として変わらない生活を送るか、喫茶店を開業している自分でありたいか」を考えた時に、やっぱり新しい挑戦をしている自分でありたいなと。
そして今から約1年前の、2019年5月15日に開業しました。
喫茶店からシェアキッチンへ。自分のライフスタイルに合わせてお店の形態を変える
―喫茶7716という店名、とてもユニークですね。なぜこの店名にしようと思ったのでしょうか?
店の前に黒目川が流れていて、陽の光が入る場所だったので、温かみのある名前がいいなと思ってそう名付けました。
実は「カフェひだまり」という名前も思いついていたのですが、ネットで検索したらたくさん同名のお店が出てきてしまって(笑)。
喫茶7716は調べても出てこなかったので、こちらを採用しました。
―こうして2019年5月に開業されて、最初はカフェとして経営されていたのですよね?
はい。5月に開業して、7カ月くらいは普通のカフェとして営業していました。
なのでオープン前の仕込みから接客、クローズ後の締め作業がメインの業務でした。スタッフは雇わず全て私1人で行っていたのでなかなか苦労しましたね。
―カフェからシェアキッチンへと形態を変えたそうですが、何があったのでしょうか?
去年の11月に妊娠が発覚したことが、1つ大きなターニングポイントとなりました。
カフェ運営に関わる全ての業務を1人でこなすことが想像以上に大変だなと感じ始めていて、そんな時の妊娠発覚だったので「これはもう何か方法を考えなければ」と。
他にも個人店ということもあり、チェーン店と違って入りづらいことや、どうすればもっと地域の人に気軽に使っていただけるのかといった課題も感じていました。
―その課題に対する答えがシェアキッチンだった、と。
はい。シェアキッチンというのはシェア(共同)で使う飲食店のこと。
私は自分のお店を開きたいと思っている人向けに「週1回以上、月単位」の契約で、お店を貸し出しています。
例えば月曜日はAさんがうどん屋さん、火曜日はBさんが喫茶店、といった具合ですね。
今年の1月からシェアキッチンとして本格的に運営をスタートし始めました。
―曜日替わりで店主をされる方も、この近所の人が多いんですか?
そうですね。
やはり自分でお店を持つとなると、資金面をはじめ様々なハードルがあります。ですがシェアキッチンという形で週1回からなら、気軽に始められます。
かつ週1回なのでフルタイムの自営業よりも肉体的にも精神的にもストレスの少ない形で営業を続けられる。
また、曜日替わりで人もコンセプトも異なりますから、今まではなかなか喫茶7716に来られなかった方も来てくださるようになって。
自分のライフスタイルに合わせて、店の形態をシェアキッチンに変えて良かったなと思います。
アドバイスは、あくまで第三者からの意見に過ぎない
―みみのさんの今後の展望を聞かせてください。
産後の生活がどのようになるかが、今は想像がつかないのですが…。理想は歯科衛生士の仕事とシェアキッチンに復帰できたらと思っています。
また夫と共同でレモネードの通信販売の事業をスタートしました。こちらの事業も拡大していきたいです。
…そんな感じでやりたいことはいろいろあるのですが(笑)。子育てと仕事を両立できるようにしていきたいですね。
―最後に読者の方へメッセージをいただけますでしょうか?
この1年間、喫茶7716を運営して思ったのは、アドバイスはあくまで第三者からの意見に過ぎないということです。
開業前って様々なことが不安で、誰かからの助言に頼りたくなってしまったり、ついあれこれとアドバイスを求めてしまいがちですが、結局最後は自分の決断が全て。
あなたにとっていいアドバイスも忠告も、実際に行動してみないと何にもなりません。
あとは何でも自分1人で背負い込みすぎない、ということでしょうか。
また私はお店の運営を通じて、自分が何が得意で何が不得意かを見極めることができました。
もし独立開業を考えるのであれば、自分の得意なところを活かし、苦手なところは他の人の助けを借りる仕組みが作れると良いと思います。
取材・文・撮影=内藤 祐介